凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
~美海side~
遥のいる病院から、遥が退院するという情報を告げられたのは、遥が入院してから二週間が経った頃だった。本人は「やりすぎないようにする」なんて言いながらも、すごい勢いでリハビリに励んでたみたいだ。
・・・やっぱり遥はすごい。ふとそんなことを思う。
私には出来ないようなことばかり遥はやり遂げていく。それが時折遥を傷つけることだと伝えたけれどそうするのはきっと、遥自身に染みついた生き方なのだろう。それまで否定するつもりはない。
それに、私も早く元気な遥の姿を見たかったから。
そんなことを思いながら、時間は夜。眠れずに私は縁側に腰掛けて、足をぶらぶらとしていた。ぼんやりと浮かぶ月を見ながら、明日は何が起こるだろうと考えてみる。
すると、トントンと歩いてくる音が聞こえた。音が近づいてくる方角的に、私たちの部屋のほうだ。誰だろう。
振り向くと、バツの悪そうな顔でこっちに歩いてくる光がいた。元気がない、ってわけじゃないけど、何か考え込んでるような、そんな顔。
何に悩んでいるのかは、聞かなくても分かることだ。
「どしたの、光」
「・・・なんか、眠れなくてよ」
「そっか。話、聞こうか?」
「・・・わり、頼むわ」
光は素直に私の提案を飲んで、人1人分離れたところに腰掛けて天を仰いだ。私はただ、その口が開くのを待つ。
結局光が重々しく口を開いたのは、それから十秒くらい経った後のことだった。
「・・・お舟引き、だけどさ」
「うん」
「本当に意味、あんのかな」
あんまり見ることのない、後ろめたそうな、弱気な光の一言。本当はすぐにでも否定すべきなのだろうけれど、私は真正面からそれを受け止めてみる。
「なんかさ、俺、また一人で好き勝手やってるだけなんじゃないかって思っちまうんだよ。それに今回のお舟引きは、まなかに何かがあればいいと思って動いた俺のエゴだ。それにみんなを巻き込んでいいのか」
「・・・だったら、やめる?」
「そういうわけにも・・・いかないだろ」
痛いところを突かれたのか、光は口先を尖らせて小さい声で答える。結局、どうすればいいのかまでは分かってないってことなんだろう。
光がまなかさんを思ってる気持ちは、私も十分理解できる。だからこそ、今思い切り悩んで、四苦八苦しているのだろう。
本当に、自分が向けている愛が正しいのか。私が昔悩んでたことを、今光はすこしちがう形で辿っている。
だからこそ、私にだけ言える言葉があるはずだ。記憶の奥底にある大切なものを探って、思い出してみる。
「ね、光はさ」
「ああ」
「まなかさんのこと、好き、なんだよね」
「すっ・・・! ・・・なんだよ、急に」
「今更動揺したって、それはみんな知ってることだし。だから聞きたい、はっきりと。光自身の言葉で、光の気持ち」
それは、いつか私が言葉にするのに戸惑ったもの。言葉にして自分自身の恋心を認めるのが怖かった。
でも今は、ちゃんと声を大にして遥のことを好きと言える。それが実っても実らなくても、私はきっと後悔しない。そんな強さを今はもう知っている。
だから、光にも・・・。
光は少し照れているのか、顔を背けて、小さな言葉で繰り出した。
「・・・好き、だよ」
「聞こえないんだけど」
「好きに決まってるだろ! ・・・多分、物心ついた時から。危なっかしいあいつの姿ずっと見てきて、守りたいと思ってた。陸に上がってからは、より一層そう思ってる。それがどんな感情か、知りたくもなかったけど、多分好きって事なんだと思う」
「なんだ、ちゃんと言えるじゃん」
それでも、気持ちを言い切ったはずの光の目は晴れてなかった。ずっと曇り空の中で、答えを探している。
「でも、あいつの気がどこにあるか、俺にはそれが分からないんだよ。・・・陸に上がってすぐのあいつは、紡の野郎に一目ぼれしてたっつーかさ。なんか、違う何かを感じたんだよ。それが、すっげーもどかしくて、イライラしてさ」
「まなかさん自身に、それを聞いたわけじゃないんだよね?」
「ああ。・・・それに、前のお舟引きの時にあいつは何かを俺に伝えようとしてた。同じようにお舟引きすれば、それで思い出してくれるんじゃないかって、そう思ってる」
「じゃあ、お舟引きが正しいかどうかって悩んでるのは、それを聞くのが怖いからなんだ?」
「・・・そうだよ。悪いかよ」
光はそれを認めたようで、またバツの悪そうにそう答えた。
納得のいかない答えなら、知らない方がいい。そういうことを光は思ってるのだろう。
確かにそれはある種正しい一つの答えかもしれない。マイナスよりは0の方が数字としては上。痛い思いをしたくないならそういう選択だってあるだろう。
けれど、何も選ばないことが果たして0になるのか。答えはノーだと教えてくれたのは遥だった。何も選ばないことは、ゆくゆくはマイナスになりえると。
だから遥はずっと選び続けた。海の未来にしても、千夏ちゃんの記憶にしても、痛い思いをすると知っていながら選択を続けた。その強さとカッコよさは、今でも鮮明に焼き付いている。
だから光も、進まなきゃダメなんだよ。
「もしまなかさんが光のこと思ってても、光が目を反らしたんじゃ、誰も幸せにならないよ?」
「・・・分かってるよ」
「だからさ、正しい、とか正しくないとかそういうことじゃなくて・・・。自分の起こしたい未来を信じないとダメなんじゃないかな」
「起こしたい未来を信じる、か・・・」
「きっとそれは、みんなやってることだからさ」
私は、遥と一緒に歩く未来が欲しい。その未来を起こしたいと願っている。負けるだなんて、思いたくもない。
そして、それは恋路だけじゃない。みんなのこれからだって、よくなると信じてる。信じないと、ダメなんだ。
光は何か思うところがあったのか、握りこぶしを作っては開いて、ぼんやりと浮かぶ月の方にグッと伸ばした。
「そうだよな。ずっと俺は我儘なやつで、好き勝手生きてきて、そのたびに全部なんとかなると思ってきたんだ。だからまた、我儘な夢を信じてみる」
「うん。それがみんなの知る『先島光』だから」
「・・・あんがとよ、元気出た。・・・よっと!」
それから光は裸足のまま庭に降りて、腕をぶんぶんと振り回した。あれはやる気に満ち溢れている仕草。この様子なら何も心配することはないだろう。
・・・けど。
「光、その汚れた足どうするの?」
「・・・やべっ、何も考えてなかった」
「馬鹿でしょ・・・」
とりあえず衝動に駆られすぎなのは、ちょっと心配かも。
『今日の座談会コーナー』
アニメ本編では美海が光に気が合ったためなかなかギクシャクした関係が続いてましたが、それがない本作では、光と美海はいい距離で絡むことが出来る兄妹、って感じなんですよね。だからこそ描ける雰囲気もありますし、これがまたなかなかに楽しい。本編でもこれくらい爽やかなシーンとか描かれていたらなぁ・・・(アニメは激重ドロドロ定期)
といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)