凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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結構シーンに手を加えましたね。
そうは言っても中学生なので、もうちょっと感情豊かに。

それでは本編どうぞ。


第十五話 ゆりかごからの追放

~遥side~

 

 目の前の光景を、どう弁明することも出来なかった。

 現場目撃人が五人。見間違い、なんて嘘はつけないから。

 

 間違いなく、ジエンドである。

 はぁ・・・と吐いたため息は、多分誰の耳にも届いていない。それくらい、場は固まりかえっていた。

 

「なっ!?」

 

「わぁ・・・」

 

「キスした」

 

「キス・・・したね」

 

 皆、各々反応が違う。驚きの声を上げる光、言葉を失うまなか、冷静に事態の全てを述べる要、確認するちさき。そりゃもう色々。

 不意打ちのキスを食らって、至さんはふらふらとしながら車を運転する。あかりさんはそれを見送って、こちらに気づかないまま海へと帰った。

 

 ・・・というかあれ、事故するぞ。

 

 改めて皆の表情を確認する。一段と表情に出ていたのは光。怒りなのか驚きなのか照れなのか、その頬は真っ赤だ。

 

「あれって、あかりさんの彼氏なのかな?」

 

 すっとぼけたようなまなかの言葉。多分他意はない。

 それに怒るように光は声を上げた。

 

「何だよあの男!? あんなの、俺は聞いた覚えないぞ!!」

 

 そりゃ実の弟に彼氏報告なんてしないだろう。ましてやこんな賑やかなやつに話す方がどうかと思う。

 ・・・それに、事情が事情で話せないしな。

 

「何って言っても・・・、あかりさんにも好きな人が出来てたんだね」

 

「しかも地上の男だぁ!? 今までそんなそぶり、見せたことねえそあいつ!」

 

 照れ混じりの怒りがヒートアップする光。うっとりとするまなか。

 しかし、要とちさきは困ったような表情をしていた。その瞳に映るのは憂い、あるいは憐れみだろうか。

 

 二人はきっと、掟について知っている。確信に繋がったのはこの時だった。

 

 

「そういえばあかりさん、そろそろだもんね。多分、村から出ていくつもりじゃないかな?」

 

「はぁ!? そんなの絶対無理だ! 無理無理! 地上の男となんて絶対うまくいくわけねーだろ!! んで、うまくいかなくて絶対戻ってくんだ!」

 

 もちろん、掟なぞ微塵も知らない光はさらに怒りを加速させる。その論点ずれの怒りに、ちさきが言葉を添える。

 

「それは・・・無理なんじゃないかな?」

 

「そうだよひーくん! あかりさん、絶対いい奥さんになるし、振られるなんてないよ!」

 

 掟のことについて知らないのはまなかも同様で、これまた論点のずれた突っ込みを返す。

 

 ここで俺が言葉を発しても意味がない。俺は黙秘を貫くことを決めた。

 

 図らずとも、要が事の本質を端的に述べてくれた。

 

「いや、そうじゃないんだ。地上の人と結ばれるとね、海の人間は追放されちゃうんだ」

 

 これで俺一人が責められる構図はなくなるな。

 

 そんな自己中めいた考えの元、俺も口を開くことにした。

 

 ただ、その前に聞きなれないワードをまなかが聞き返す。

 

「追放って?」

 

「はぁ!? なんだよその物騒なワードは!」

 

「そのまんまの意味だ。光」

 

 とりあえず、会話に参加する足場は整えた。

 ・・・とはいえ、どうしたものか。

 

 考えているさなか、ちさきが上手い事具体例を挙げて述べてくれた。

 

「えっと・・・、例えば、駄菓子屋のお兄さんとか、果物屋さんの高原さんちのお姉さん、いるでしょ? あの人たち、地上に出たまま帰ってきてないでしょ?」

 

「たぶん、それは追放されたからだと思うよ」

 

 要が加わり、そして俺の番。

 ただ無機質に、とどめの一言を言い放った。

 

「ああ、追放で間違いないだろうな。・・・現に、俺の両親がそうなんだ」

 

「「「「は?(えっ?)」」」」

 

 俺たちの会話の中で、追放の話が出てきたとき、この話をしようと思っていた。

 多分、それは今なんだろう。

 もう、隠す必要はどこにもなかった。

 

「俺の両親はな、汐鹿生の掟が嫌になって陸に逃げていったんだよ。・・・もう、ずいぶんと前の話だけどな。んで、二人とも陸に上がってからは一度も海に戻ってくることなく・・・、そして、いなくなった」

 

「えっ・・・待って。遥の言う、いなくなったってまさか・・・」

 

 ちさきが青ざめた様子で俺を見てくる。どうやら、今の一文で俺の両親がすでに死んでいることを感じ取れたようだ。

 

 

「・・・ちさきが考えていることで間違いない。だから今、一人で暮らしてるんだよ」

 

「なら、お前が一時ウチに居候したのって、それが理由なのかよ・・・!?」

 

 光も理解できたようで、いつかの想い出を口にする。

 ・・・居候、か。懐かしいな。

 

「そ。そして、家に関するごたごたが終わってから、家に帰ったんだよ。ありがとな。あの時の事」

 

「なんで・・・?」

 

 悲し気な声で震えるのはちさきだった。

 

「なんで、遥は平気でいられるの・・・!? 自分が一番苦しいはずなのに、なんで、私たちの前で生き生きとしていられるの!?」

 

 そう言うちさきの頬は、涙が伝っている。 

 ・・・同情だろうか。だとしたら、少し許せない。

 

 困るんだよ・・・。勝手に感情移入されて悲しまれても。いつ誰が、お前たちの前で苦しいなんて言ったんだ。

 

 実際、生活するのには困っていない。一人で過ごす時間なんて昔から慣れてる。

 

 分からないのは、お前たちとの距離だけなんだよ・・・!

 

「別に、生活するのには困らなかったからな。不便もないし、戸惑ったのは最初のころくらいだ」

 

 いらだちを言葉に伝えないように必死に繕う。

 それにどこか思うところがあったのか、要が目を細めて反論する。

 

「違う、違うんだよ遥。ちさきの言いたいことはそういう事じゃない」

 

 

 うるさい、説教なんかするな。

 苦しくない? 辛くない? ・・・そんなわけないだろ!

 でも、一人でいないと、またあれが繰り返されるんだよ・・・!

 

 ・・・怖いんだよ。嫌なんだよ・・・! 何かを好きになるたびに、大切なものを失うことは。・・・あの日から、ずっと・・・!

 

 お前らに、何が分かるんだよ・・・!!

 

 どうにか感情と言葉を押し殺す。最悪な表情をしてるかもしれないが、この際そんなことはどうでもよかった。

 

 凍り付いた空気の中、まなかが声を上げる。

 

「やっぱり村の人たちは意地悪だよ! 好きな人が陸にいるからって、帰ってこれないように掟なんて作って・・・! 人の気持ちを縛って・・・。海は牢屋じゃないんだよ? もっと、自分の気持ち、大切にさせてあげてよ・・・」

 

 まなかの口からはっきりと意志が伝えられたのは意外だった。今まで見たことないそのまなかの姿に、言葉に、俺たちはどこか共感を覚える。

 

 でも、その言葉が許せなかったのか、光もついに感情を全てむき出しにした。

 

「それってよ、お前も地上の男とくっつきたいって思ってるのか?」

 

「な、ななな何言ってるのひーくん! エッチなことを言うひーくんは嫌いだよ!」

 

「俺だって、エッチなことをいうまなかは嫌いだ!!」

 

「言ってないもん!」

 

「大体な、お前も遥もおかしいんだよ! 紡君紡君って、なんなんだよ! 地上の奴なんかとつるんで、気持ちわりぃんだよ! 遥、お前が悪いんだろうが!!」

 

 自分に向けられた敵意むき出しの言葉におびえてか、悲しんでか、まなかは目にいっぱい涙をためて思い切り言葉を吐いた。

 

「ひーくんのバカ! もう知らない!!」

 

 そのまま海に飛び込んでいく。追いかけようとするちさきが光に鋭く言った。

 

「光、ちょっと言いすぎだよ・・・。光の言葉も分かるけど、キツすぎるよ。まなかの言ってること、少しは分かってあげても・・・」

 

「なんだよ! お前もお前で! 毎回毎回上からモノ言いやがって! 大人ぶってんじゃねえよ! 大体、お前なんかに俺の何が分かるんだよ!!」

 

 ちさきに対しても思うままに怒りをぶつけるだけの光。

 今の一言はちさきを傷つけるには十分で、ちさきは泣きながら海に消えていった。

 

 その様子を、俺はもうさすがに見ていられなかった。

 ぐっと前に出て光の腕を掴む。

 

 怒りを前面にした瞳を向ける光。俺はそれを鋭い視線で睨み返した。

 

 

「・・・なんだよてめぇ。やんのか?」

 

「やぶさかではないが、こう見えても平和主義者でね。喧嘩なんてまっぴらごめんだ。・・・それよりお前、少しはものを考えろ。いつまで小学生気分なんだよ」

 

「あぁ!?」

 

「落ち着けって言ってるんだよ分かんねのかオイ」

 

 視線だけで人を殺すくらい、鋭い目つきを光に向ける。それがどうやら刺さったようで、光は言葉を失っていた。

 

「俺に対しての文句なんていくらでも言え。気持ち悪いなんて思ってくれてもいい。・・・ただな、ちさきには謝っとけ。あれはお前の八つ当たりだろうが。人をサンドバッグにして、自分の怒りをぶつけて。・・・最低だぞ」

 

 視線をちらっと要の方に向ける。要は一度うんと頷いて言葉を添えた。

 

「あれは言いすぎだね」

 

「チッ・・・、なんなんだよホント。・・・気分悪いんだよ」

 

 光は無理やり掴まれた手を振りほどいて俺から急いで離れる。加熱しすぎた感情はいつの間にか冷めたようだ。

 

 俺はそんな光に背を向けて、汐鹿生とは別の方向に歩き出す。

 今は、こいつと同じタイミングで帰りたくなかった。

 

「おい待て。・・・どこ行くんだよ、お前」

 

「用事思い出したんだよ。先帰っとけ」

 

「ああそうかよ。エナが乾いて死んじまっても知らねえからな」

 

 誰が死ぬか。馬鹿。

 

 そして、振り返った時にはもう光たちはいなかった。

 

---

 

 

 ぶらぶらと海沿いの道を歩く。

 用事なんてなかった。しいて言えば、夕飯の調達位だろうか。

 とりあえず、さやマートにでも向かおう。

 

 そう思って歩いてみたが、途中で足は止まった。綺麗な夕日が目に入ったのだ。

 ただそれを眺めているだけで、抱えていたモヤモヤが全て吹き飛ぶように思えた。

 

 ・・・綺麗だな。

 

 そのままそこで見とれていると、後ろから声を掛けられた。俺は振り返り、その名を呼ぶ。

 

 

 

「・・・水瀬」

 

「まだこんなところにいたんだね」

 

 

 

 

 

 




ちなみに本編のここのシーンあまり好きじゃないんですよね。
光の感情が不器用すぎるし、ストッパーがいないのでほんとに怒り飛ばしているだけですし。

ここでも一緒か。

それでは今回はこの辺で。感想評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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