凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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この回は、サブタイトルを変更しておりません。
それくらい思い入れのあるサブタイトルです。

それでは、本編どうぞ。



第十六話 一歩踏み出すって決めたから・・・

~千夏side~

 

 一歩踏み出すって決めたんだ。

 

 私は生まれつき体が弱い。ついこの間まで入院していたくらいだ。

 それゆえに、学校に行きたくても行けない日が人より多いし、街に出て誰かと遊ぶだなんてことも少ない。

 だから、私の周りの人間関係は、ひどく狭いものになっていた。

 

 言い換えれば、ぼっち、ってやつなのかな。この言葉はあまり口にしたくないけど。

 

 もちろん、関わってくれた人も沢山いた。

 ・・・今でこそ会わないようになっちゃったけど、美海ともよく遊んだし、美海のお母さんのみをりさんらにも良く接してもらった。紡に至ってもそう。

 

 ・・・でも、やっぱり寂しかった。

 

 なんでこんな体なのって、恨む時もあった。こんなに苦しいなら、エナなんていらない、なんて思う日も。

 

 でも、結局は同じゴールにたどり着く。どうしようもないって。

 

 海が好きな気持ちが変わることはない。だから、エナを手に入れたことも後悔しない。 

 変わらないといけないのは、私の方だから。

 

 どんなに辛い、悲しい、苦しい結果が待っていようと、私は受け入れて前に進みたい。

 今、中二の学校生活が始まった。例にないくらい、体の状態はいい。

 

 汐鹿生の子たちが統廃合に飲まれてこの学校に来るようになった今。

 それが、きっと変わる時だった。

 

 

---

 

 

 ある日の事。

 帰りのHRが終わったあと、私は学校に残ってお舟引きに用いるおじょしさまの制作を手伝っていた。

 

 聞くところによると、今年のお舟引きは中止になったらしい。・・・きっとそれほどまでに、海と陸の軋轢が深まっているのだろう。

 だからこそ、自主的にやりたいと提案してくれた先生には感謝するしかなかった。

 

 これまで、ずっと遠くからでしか見れなかったお舟引き。

 形が変われど、そのすぐ近くに入れるのなら私はそれでよかった。

 

 だから、あの時手を上げて、今ここにいる。

 

 二手に分かれての作業。

 紡と島波君と、向井戸さんとで四人。クラスで時々感じるような敵意は、このメンバーでは感じなかった。

 

「そう言えば、紡くんはどうして参加したの?」

 

 ふと思ったのか、向井戸さんがそう口にする。その言葉に、私の口は独りでに走っていた。

 

「紡のおじいちゃんが漁師なの。だからきっと、それが影響してるんじゃないかな」

 

 反射するように口走る。その後で私はようやく冷静に言葉を紡げた。

 

「・・・あ、はじめまして、だよね。向井戸さん。こうやって面と向かって話すのは」

 

 初めまして、とがちがちになりながら向井戸さんは返してくれた。

 

「ねえ、下の名前で呼んでいいかな?」

 

「えっと・・・、うん、どうぞ!」

 

「じゃあ、よろしくね。まなか」

 

「こちらこそだよ! えーっと・・・、ちーちゃんだと被っちゃうから、千夏ちゃん!」

 

 まなかは対応が柔らかいようで、本当にありがたかった。

 さっきの説明が不服だったのかブチブチと紡が文句を言ってるけど気にしない。

 

 

 そして、あまり意識に気を配っていない状況が続いていた中で、まなかがふと声を漏らした。

 

「そう言えば、紡くんと千夏ちゃんは、どういう関係なの?」

 

「普通に、昔からの知り合い・・・」

 

「友達、でしょ?」

 

「・・・まあ、そんなところ」

 

 ただの知り合い、で終わりたくはなかった。

 ずっと昔から知り合ってて、何度も遊んでいた仲だから。

 

 ちゃんと友達って言ってほしかった。

 

 それに、これは押し付けなんかじゃない。

 紡が少し俯いて話す時、声音が一層無機質になる。それが、恥じらいから生まれるものだと私は知っているから。

 

 だから、この言葉もきっと照れの裏返し。

 

 そんな風に感傷に浸っていると、島波君が会話に入ってきた。

 

「そう言えば水瀬、お前はなんで希望したんだ?」

 

 

 言われて初めて、私は私のことを考える。

 けれど、特に理由なんてなかった。

 

「私? 別に、大した理由はないよ。海が好き。ただそれだけだから、案外紡と同じなのかもね。なんて」

 

 私、うまく笑えたかな?

 

 

---

 

 

 時が経つのは早いもので、五時を迎えると汐鹿生のみんなはすぐに帰ってしまった。きっと、エナが乾いてしまうことが影響してるんだろう。私も私なりに対策をしている人間だから、分かる。

 

 今日の料理当番は私なので、帰りに買い物によって行くことにした。

 病院勤務の母親が夜勤、もしくはそれの近辺の時は、私が料理担当だ。

 

 といった理由で、さやマートに立ち寄る。が、三人分、という量は揃えにくく、私が行ったときにはもう不可能となっていた。

 仕方なく、四人分の食材を買って、店からささっとでる。余った時間を散歩に費やすためだ。

 

 毎度のごとく、海沿いを歩く。そしていつものように堤防に腰かけて、遠く海を眺める。

 

 そしてぼーっとしていると、遠くからやれ怒声だの泣き声だのが聞こえてきた。遠くに目をやると、波中の制服をきた数人が騒いでいるのが見える。

 

 ・・・喧嘩なんてするんだ。

 

 とまあ、掴みようのない感想をそっと吐いて、足をぶらぶらさせてまた海を見る。

 すると、先ほどまで見ていた方向から足跡がした。落ち着いて、しかし浮ついた足音。

 

 この時間、ここに来るのはきっと彼しかいない。想像するのは早かった。

 だからたまには、出向いて驚かせるのもいいかもしれない。

 

「よっと」

 

 私は堤防から降りるなり木陰に身を潜ませ、彼が私がさっきまでいた場所を通り過ぎるのを待った。

 そして、彼が通り過ぎた後、こっそり後ろをついていく。歩調を合わせ、だんだんと近づく。

 

 そして私は、そっと声を掛ける。

 

「ねえ」

 

 彼は、島波君は振り返って驚いた瞳を私に見せた。

 

「・・・水瀬」

 

「まだ、こんなところにいたんだね」

 

 島波君は、少しバツの悪そうな顔で私からフイッと顔をそらした。

 

「まあ、いろいろとトラブってな・・・」

 

「そりゃあ、あれだけこっぴどく喧嘩してたら、そうだよね」

 

 私がそう呟くと、島波君はさっきよりもいっそう驚いた瞳を見せた。

 

「・・・見てたのか?」

 

「遠くから、だけどね。・・・先島君の怒鳴り声なんて、遠く離れてもはっきり聞こえてくるんだもん」

 

「そうか・・・。あいつにはまた後で、お説教が必要だな」

 

 ハハハと島波君は笑うが、それが上辺だけのものだというのはすぐに分かった。

 島波君が先島君と揉めてたのは知ってる。・・・そんな関係ですぐに笑える方がどうかしてるから。

 

「・・・それで、逃げ出してきたってこと?」

 

 私が牽制をかけるようにいたずらめいた言葉を言う。島波君はそこからもう一度乾いた笑みを浮かべて、そしていよいよそれを消し去って言った。

 

 

「・・・そうだよ。・・・まあ、一概にそれだけが理由じゃないけどな。今日の晩分の食料、買いに行くところってのもある」

 

「さっきまで私さやマートにいたから分かるけど、もうほとんどものが残ってないよ?」

 

「あー・・・。まあ、そんな時間か。なら仕方ない。とっとと帰って今日はもう・・・」

 

 島波君が後ろを振り向こうとする。

 けれど、こんな中途半端な空気でバイバイなんて、私はしたくなかった。

 

 だから一歩、ここで勇気を出して踏み出す。

 

 

「ねぇ、だったらさ、ウチ・・・来ない?」

 

 




そう言えば、先日いただいた感想を読んでいて思ったのですが・・・。

・前作が不満だったわけではない

というのは念頭に入れていただけるとありがたいです。その上で

・当時はスマホで、読みやすい構図を知らない状態での執筆だったため、若干見にくい。その点の改正
・と同時に、会話表現が薄く、伝わらない可能性があると踏んだ箇所の修正

これをメインに、新展開等も追加したいと思ったため、リメイクしています。

あと余談ですが、リメイク前作品は私が一番読み返す作品なのでこのような考えに至りました。

といったところで、今回はこの辺で。感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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