凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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第百六十二話 これからのこと

~美海side~

 

 両目を真っ赤に腫らしたまま、私はお母さんと家に帰る。それを見て事情を察したパパは晃を連れて外に出て行ってくれた。二人きりのリビングで、私はゆっくりとお母さんに事の顛末を話す。

 

「・・・千夏ちゃんに、酷い事言っちゃった」

 

「酷い事って?」

 

「・・・これまでのこと、全部千夏ちゃんのせいだって。・・・遥のこと、何度も殺しかけたくせに、って」

 

「そっか・・・」

 

 お母さんは驚いた顔をしながらも、悲しそうな顔をして私の頭を撫でた。そのぬくもりに安堵して、私は次の言葉を紡ぐ。

 

「でも、一番悲しいのは、私が心の奥底でそう思ってたんだって分かったこと。・・・大切な友達だったはずなのに、言葉にしないだけでそんなことを思ってた自分が、嫌で仕方がなかったの」

 

「どうして、それを言ってしまうことになったの?」

 

「千夏ちゃんに、ズルいって言われたの。私が時々遥の家に遊びに行ってること。・・・それが、どうしても許せなかった。私よりもずっと同じ時間を過ごしてきたはずの千夏ちゃんに、それを言われることが」

 

 酷いことをいってしまったことは今でも後悔しているが、あの発言だけはどうしても許せない。私より恵まれた立場でありながら、悲劇のヒロインぶられることがたまらなく気に食わなかった。

 

「私、遥のこと奪ってないよね? 強引に千夏ちゃんの両親から引きはがしたわけじゃないよね?」

 

「うん、大丈夫だよ。・・・多分、遥君が海に戻ることを選んだ理由に美海が入っているかもしれないけれど、その決断をしたのは遥君自身。全部が全部、美海が抱え込まなくていいの」

 

 お母さんは私を肯定して、また頭を撫でた。うんうんと頷きながら、私の発言を理解してくれようとしている。

 

「私だって遥が好きだから・・・だから、一緒にいる時間を増やしたいの。・・・それを否定されて、許せなかった」

 

「否定されるの、辛いよね。痛いよね。・・・私も昔、そうだったからなぁ」

 

「お母さん・・・」

 

 パパと結婚するまでに、沢山のことがあった。

 自分のお父さんにも理解してもらえないで、海からは疎まれ、陸でも私に拒絶され・・・。お母さんは、そんな毎日を過ごしてた。

 形は違うけど、同じような痛みを理解している。お母さんはそう言うことを言いたかったんだと思う。

 

「でもね・・・、やっぱり、誰かを直接傷つけるのはダメ。心ない言葉で、あるいは暴力で。・・・手を出さなかったのはえらいけど、流石にちょっと言い過ぎたね、これは」

 

 そんなお母さんは、優しい顔をしながらもやんわりと私を咎めた。悪いことをちゃんと「悪い」と明言してくれた。・・・心は痛いけど、少し嬉しかった。

 全部が全部私の味方をするようだったら、本当に悪い子になってしまいそうで嫌だった。そんな私を、お母さんは最善の方法で引き戻してくれた。

 

「・・・うん、分かってる。ごめんなさい」

 

「悪いと思ってるなら大丈夫だよ。美海が素直な子でよかった」

 

「・・・ん」

 

 お母さんは私を少し抱き寄せる。私はされるがままにお母さんに身を委ねた。また涙が溢れそうになるけど、それを必死でこらえて、目を伏せた。

 

「すぐにとは言えないけどさ・・・悪い事言ったんだから、そこはちゃんと謝らないとね」

 

「うん。・・・ちゃんと心の整理がついたら、謝るよ。・・・許してもらえるか分からないけど」

 

「ならよし。流石美海」

 

 しばらくして、お母さんは私を放した。それから「さて」と呟いて、パンと手を鳴らした。

 

「ここからは、これからどうするかを考えないとね」

 

「これから・・・?」

 

「言ってしまったことは変わらないし、そこは謝るしかない。だけど、自分の心に嘘ついちゃダメ。今美海が何をしたくて、これからどうしたいかをちゃんと考えないと、酷い事言ってまで遥君を選んだ意味、なくなっちゃうよ?」

 

 そうだ。

 私が千夏ちゃんにあそこまで言って怒ったのは、遥が好きだったから。

 傷つける道を選んだ私は、もう引き返すことはできない。引き返しちゃ、いけないんだ。

 だって、引き返したら誰かを傷つけた事実しか残らない。それはあまりにも虚しすぎる事。

 だったら、同じ結果になるとしても選ばれなかったせいでそうなる方がいいに決まってる。

 

 私がこれからどうしたいか。それをちゃんと言葉にしてお母さんにぶつける。

 

「私、やめたくない。遥ともっと一緒にいたいし、ずっとそうしたい。・・・もちろん、決めるのは遥次第だから、遥が千夏ちゃんと遊びに行くことはあると思う。・・・でも、遥を責めることだけは、絶対にしたくない」

 

「それは、本心、ってことでいいのかな?」

 

「うん、いい。そして、答えを出してもらう前にもう一度千夏ちゃんと話すの。その時友達に戻れるかどうかは分からないけど、ちゃんと話して、悪い事は謝りたい」

 

「・・・ちゃんと答え出てるなら、私が言うこと何もないね」

 

 うん、お母さんに言われることはもう何一つない。

 私はこれまで通り、遥を思い続けるだけの日々を過ごす。千夏ちゃんに妬まれようとかまわない。だって多分、私も同じように妬むだろうから。

 そして、答えを出してもらうんだ。「私を選ぶ」、という、私が一番欲しがっている答えを。

 

 だから一度、友達という関係に終止符を打つ。今はただのライバル、恋敵としてしか千夏ちゃんを見ない。それが不俱戴天の敵となるかどうかは今は分からないけど、遥のためなら、そんな敵になったって構わない。

 

 それは多分辛い事だろうけど、私は一人じゃない。背中を押して、期待してくれている人がいる。だから頑張れる。戦える。

 

「まっ、一旦解決したようなら何より。・・・また何か辛いことがあったら言いな? どこまで力になれるかは分からないけど、一緒に悩んであげるから」

 

「うん。その時はよろしく、お母さん」

 

 もうとっくに涙の乾いた目元を拭って、私は目を据えた。戦う覚悟は出来ている。

 絶対に、負けない・・・!

 

 

---

 

~遥side~

 

 俺の他に誰もいない家。学術書とにらめっこしながらうんうん唸っている俺に来客が来たのか、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。・・・いや、呼び鈴使えよ。

 

 扉を開けると、普段こんなところに訪れない奴がそこに立っていた。少しばかり驚いた俺は、その名前を呼ぶ。

 

「要・・・」

 

「やっ、元気してる?」

 

 あれからまた少し髪を伸ばして、より見た目にキレが出てきた要がそこにいた。中が悪いわけではないがあれから一番かかわりが薄い人物だっただけに、今この場所にいることに驚いた。

 

「何しに来たんだよ?」

 

「ちょっと、遥に伝えておかないといけないことがあってね。伝えたらすぐに帰ろうか?」

 

「どっちでもいいけど・・・まあ家入れよ。茶の一杯くらいは出す」

 

「じゃ、お言葉に甘えて上がろうかな」

 

 要は特に遠慮する様子もなく俺の家にずけずけと入ってきた。この二年で随分と素直な行動をするようになったみたいだ。さゆの影響だろうか。

 だからだろうか。今のこいつと一緒にいても特段嫌な思いをすることはなかった。むしろお互い乾いた関係だからか、居心地はいいように思えた。

 

 茶をテーブルに出して、俺は本題を聞く。

 

「で、話ってなんだ?」

 

「うん。美海ちゃんと千夏ちゃん、いるじゃん。・・・今日、とんでもない喧嘩してたよ。心あたりある?」

 

「あー・・・」

 

 ある、というか、千夏が美海と腹を割って話すと言っていた。つまり、その結果がこれだ。

 どうやら自体は最悪の方向に転がってしまったらしい。俺は頭を抱えてしまう。

 

「・・・心当たり、あるんだ」

 

「ある・・・というか、俺の話」

 

「やっぱりそうなんだ。二人のことだからまさかとは思ってたけど」

 

 これには要も苦笑いを浮かべるほかなく、どうしようもないものを見る目で俺を見つめてみた。・・・おい、そんな目で見ないでくれよ、頼むから。

 二人の気持ちを弄ぶわけではない。さっさと答えを出してしまった方がきっと二人のためになるだろう。けれど、それで納得できるかと言われればきっと、答えはノーになる。

 

「美海ちゃんが悩んでいることは重ね重ねさゆちゃんから聞いてたんだけどね。まさかそこまで深刻な事態に発展していたとは思わなかったよ」

 

「たぶん、あいつも気苦労するだろうな・・・。多分そうとう美海から相談受けていただろうし」

 

 自分の発言が事態を動かしたかもしれない、と思ってしまうことになるだろう。実際事実だから逃れることが出来ないのがまた事態に拍車をかけている。

 思い悩んでいると、要は悪びれない様子で確信に迫ることを口にした。

 

「で、これから遥はどうするの?」

 

「・・・ここまで拗れてしまったからには、筋を通さないといけないのは確かだ。けど、二人から距離を置いて、恋から逃げるのは多分筋じゃない。・・・だから、最後までどちらを選ぶか考えることが今俺に出来ることだと思う」

 

「なるほど?」

 

「そのためには、もっと二人との時間を過ごさなきゃダメだ。・・・言い方悪いけど、運のいい事に二人が同じ空間にいることは当分なさそうだから、それぞれを思った人付き合いは出来そうだと思う」

 

「傍から見たら二枚舌っぽく見えるけどね、それ」

 

「言うなよ、分かってるんだから」

 

 どちらにもいい格好をしないといけないのが辛いところだ。最終的には、その片方を裏切ってしまうことになるのだから。

 けれど、それでも、俺は躊躇わない。

 

 覚悟が伝わったのか、要は笑みを消してうんと頷いた。

 

「・・・分かった。それが遥の覚悟なんだね」

 

「ああ。・・・あんましいい行動ではないだろうけどな」

 

「少なくとも手放しでほめられることじゃないね。・・・けど、ちゃんと答えを出そうとしている今の遥、僕は好きだな」

 

 それから要は小さく笑った。その裏には何かしらの感情があることだろう。

 けれどそれを口にしないのが要だ。そう信じて俺は一度頷いた。

 

 

 ・・・大丈夫。俺は逃げない。二人を傷つけることから。二人を愛することから。

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

 というわけで修羅場の連続は一旦ここで終わりになるのかな、なんて思います。ここからはより一層各キャラクターの視点で話を進めたいですね。ルート分岐もそろそろ視野に入れないといけないか・・・。最近執筆スピードがバカにならないせいで案を練る時間がないんですよね。これがいいことなのか悪い事なのかは分からないですが。書いてる瞬間が楽しいのでヨシ!

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

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