凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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ホワイトアルバム2脳・・・。
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更新ペースがかなり高速化しているので、ここから先はしばらく夜の19時更新にしようと思います(一日2話投稿する場合は昼の12時も使用します)


第百六十三話 雷雨、時が止まる前に

~千夏side~

 

 体力を随分と使い果たした私は、一人でふらふらと歩いて帰った。当たり前のようにいつも歩いている道が、今日はどこまでも遠く感じた。・・・あとどれくらい歩いたら、家に帰れるんだっけ。

 

 もう心は空っぽだ。ただ遥くんへの愛だけが残って、他は何もない。憎いとか、殺してやりたいとか、そんな気持ちを感じる余裕すら今はなかった。

 ・・・あ。

 

 目の前に公衆電話のボックスが見える。別にそれ自体は大したことではない。・・・なのに私は自然に立ち寄っていた。

 身体は無意識にカードケースからテレホンカードを取り出し、差し込む。指が勝手に動いて、誰かのアドレスを押す。・・・もう長い事使ってなんかいないのに、たった数回聞いただけなのに、私はその番号を確かに覚えていた。

 

 そして受話器を耳に当てる。声が聴きたかった。何を話そうかなんてちっとも頭にないのに、ただ声が聞きたいだけに私は電話を開始して、それを願った。

 

 そしてその願いは、叶う。叶ってしまう。

 

「もしもし・・・どちら様ですか?」

 

「・・・あ、遥、くん?」

 

「千夏? なんで公衆電話からなんか掛けてきてるんだよ」

 

「あはは・・・ちょっと、話がしたいなって思っちゃったから」

 

「それなら、家に帰ってからだって十分できるだろ。なんで急に・・・」

 

 私の異変を感じたのか、遥くんは心配そうな声音で私に問ってきた。それは嬉しい事。・・・そのはずなのに、さっき枯れたはずの涙がまた溢れ始めた。突き動かす感情が何か分からないまま、私は必死に叫んだ。

 

「・・・ごめんなさい!!!」

 

「え?」

 

「ずっと、ずっと酷い事してきたよね!? 私! 知らなかった!! 遥くんのこと忘れてしまったあの日に、遥くんが死にかけたこと!! それなのにあんな態度ばかり続けて!! ・・・私、本当に最悪だ・・・!!!」

 

「おい、待てって・・・」

 

「待てないよ!! だってそれは、本当のことなんだから!!!」

 

 自分が何を言っているかもはや収集がついていなかった。

 ただ、心の奥の方で暴れる感情だけが言葉となって表れてくる。私が遥くんにしてしまったこと、これまで生きてきたことへの懺悔をしなければ自分を赦せなかった。

 

 もう、二年前に全て終わったはずなのに。

 それでも罪は、痛みは消えない。はがれた瘡蓋からとめどなく血が溢れてくるように、私は感情をただ垂れ流した。

 

「許されても、許されきれないよぉ・・・!」

 

「おい、千夏! 今どこいるんだ!?」

 

「・・・」

 

「おい! 返事しろって!!」

 

 ああ、また遥くんに迷惑をかけてしまっている。好きだからって、甘えている。

 こんな人間に美海ちゃんは相手してくれてたんだ。・・・ホント、強い子だなぁ。心の底から憎んでたなら、とっくに友達なんてやめればよかったのに。

 誰も幸せになってないじゃん・・・。

 

 自分の心の弱さが嫌になって仕方がない。

 遥くんは自分で答えを見つけて立ち直ったって言うのに、私には出来ない。誰を頼ればいいか、何を目指せばいいか分からないよ・・・。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」

 

 懺悔は続く。もはや何に謝っているのか分からなかった。

 ただ今は、過度なまでの自責の念だけが押し寄せてくる。死んでしまいたかった。それならいっそ、惨たらしく。

 多分、遥くんはそれでも許してくれる。でも、許されちゃいけない。私にそうしてもらうだけの価値はもうない。

 

 全ての歯車を狂わせた私が悪いんだから。

 

「うぁ・・・うぁあああああ!!」

 

 それからまた、さっきみたいな雨が降る。切れかかっていた雲が再び繋がって、黒ずんで、雷雨のような雨を流す。

 その場に座り込んで、動くことも出来ず。

 

 ディスプレイに表示されている数字がどんどん減っていく。それはこんな私が遥くんと繋がれるタイムリミットを示してるって言うのに、そんなことも気にすることは出来なかった。

 

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~遥side~

 

 心当たりのない電話番号。その先にいたのが千夏だなんて思いもしなかった。

 電話越しにただ懺悔と絶叫を繰り返す千夏に俺の声は届かない。何度名前を呼んでも、どこにいるか尋ねても返事はない。

 

 最初は何も口を挟まなかった要も、俺の肩に手を置いた。睨む、とは言わないでも恐ろしく目を細めて俺の方を見る。

 

「・・・遥」

 

「分かってる。・・・行かなきゃいけないだろ。こうなったのは俺の責任だ」

 

「ただ闇雲に行くの? なんて声を掛けるか、腹は決まってるの?」

 

 純粋な要の問い。普段なら飄々と返せたはずなのに、今は何も言葉が出なかった。

 千夏は何かにやられて心を壊してしまっている。それを助けないといけないというのは分かっている。

 でも・・・その何かの中に、俺がいる。そんな俺が、あいつになんて声を掛けてやればいい? 少なくとも、さっきは何も届かなかったんだぞ?

 

「決まってないなら、行かない方がいい。返って傷つけるだけだよ」

 

「なら見捨てろって言うのか!? それを・・・渦中の俺が見過ごせるはずないだろ!! 見損なったぞ・・・!」

 

「・・・ああもう! どうしていつも遥はそうなのさ!? とりあえず行動することが全部正しいと思って闇雲に突っ走って!! 勢いが全部解決するならこの世に問題なんて何もないんだよ! 少なくとも僕のさっきの質問に何一つ答えてないじゃないか!!」

 

 珍しく要は声を挙げて俺を叱った。その真っすぐな瞳に、俺はたちまち小さく唸ってしまう。

 分かっている。・・・今回に関しては、こいつが言っていることが正しい。ちゃんと自分の気持ちを整理して、それを伝えるべきだって分かってる。

 

 でも、そうじゃないんだよ。理屈だけが全てじゃない。

 悩んで整理をしている間にあいつが死んじまったらどうする? 不安定な心は何をしでかすか分からないんだよ。俺がそうだったように、きっとあいつだって・・・!

 

「もう一度聞くよ。遥は今から千夏ちゃんの所に行って、なんて声を掛けるの?」

 

「・・・俺は」

 

 あいつが何に悩んでいるか分からない。けれど多分、俺含め、誰かに迷惑をかけたことをただひたすらに懺悔していることだけは確かだった。

 

 あの日・・・、千夏が記憶を取り戻した日、俺は全てを赦した。・・・はずなのに、前に進めるはずだったのに、瘡蓋の下はまだ傷だらけだった。それを千夏が美海と言い争ってはがすことになってしまったんだ。

 

 同じように許したって、あいつがそれを信じるか分からない。

 あの日俺と美海の世界に千夏が帰ってきたはずだったのに、またバラバラになってしまった。それもおそらく、修復不可能なまでに。

 

 思うほど、「愛」を「恋」とするのは簡単じゃないという事を思い知らされる。その行為にどれだけの傷があるか、苦難があるか、あの時の俺は知らなかったんだ。

 

 ・・・畜生っ!

 

 自分の情けなさに腹が立って、地面を一度強く踏みしめる。少し老朽化の進んだ家がミシリと悲鳴を上げた。

 

「ほら、何も出てこないじゃないか」

 

「ああ、出てこねえよ・・・! これまで築き上げたものが一つ一つ崩れてく様見せられて、簡単な言葉なんてかけてやれねえんだよ。・・・でも、だからこそ俺は、あいつの所行かないとダメなんだよ。ちゃんと話聞いて、理解しないと・・・!」

 

「・・・頑固だね、ホント」

 

「ああ。逃げたくないから、必死でもがくしかないんだよ。・・・もう全部だめになりそうだって分かってるのに、それでも期待してる俺がいるんだよ・・・クソッ!」

 

 目の前の要に対する怒りなど一ミリもなかった。今はただ、こうなってしまった俺の愚かさに腹が立つ。

 どこかでちゃんと答えを出せていたら、今みたいな地獄は生まれなかったはずだ。この景色は、俺が逃げ続けた報いだ。

 

「要・・・」

 

「何?」

 

「先に謝っておく。・・・悪い」

 

「・・・そっか、そういうことか。・・・ごめんね、余計な口挟んじゃって」

 

「いや、いい。ただ今は・・・行かせてくれ」

 

 今にも狂暴化しそうな俺の目を見てか、要はすっと道を譲った。そのまま俺は何も羽織らずにただ海を往く。陸を往く。

 そこで今にも死にそうにしている千夏に、もう一度言葉を伝えたかった。俺は生きてきた道を後悔していないと。これでよかったと思っていることを。

 

 許す許さないじゃない。俺がこれでよかったと思っているということをちゃんと伝えないと、千夏の中の罪が消えない。

 ・・・なんだよ、言える言葉、あるじゃねえか・・・!

 

 

 軋む足を必死に動かして俺は走る。市中の公衆電話を探して回る。千夏が罪の意識に縛られている鳥籠をただひたすらに探す。

 

 

 

 もう飛び立っていい。罪なんて何一つないんだよ、千夏・・・!

 




『今日の座談会コーナー』

 あのー、修羅場は一旦終わりとかぬかしてましたね。あれ一旦忘れてください。流石にあれだけ盛大な言い合いして引きずらずにまた明日はないでしょうに・・・。というか自分で書いててなんですけど、ここまで拗れてどうやって軌道修正するのか結構悩みどころになりそうなのが怖いです・・・。罪の意識というものは、簡単に消えてはくれませんからね。自分がやった悪い行いは鮮明に記憶するように、犯してしまった罪の意識は記憶から消えないんでしょう。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

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