凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
本編GO!
~遥side~
あれから数日たった。
幼馴染、というものはなんとも不思議なもので、あれだけこっぴどく喧嘩したはずなのに、気が付けば元の関係に戻っていた。
どれだけ深くえぐっても、傷は瞬く間に塞がる。
・・・その強さを、俺はまだ理解できないけれど。
そんなある日の午後、海に帰った後に、俺はまなかに呼び止められた。理由は打ち明けられていないものの、どうやらウロコ様に会いに行くのについてきてほしいとのこと。
とりあえず二つ返事でOKを出し、ほかのみんなが帰った後で、こっそりまなかとウロコ様の元へ向かうことにした。
その道中で、俺はまなかに聞いてみる。
「なあ、ほかのみんなに帰ってもらった後でウロコ様に個人的に会いに行くって・・・何の用なんだ?」
「それはちょっと・・・いいたくない・・・かも」
「・・・分かった。じゃあ質問を変えよう。・・・なんで俺だけ残した?」
別に威嚇しているつもりではなかったが、まなかは少し縮こまっていた。
「・・・だってその・・・、はーくんならきっと分かってくれるって思ったから」
「なるほど。まあいい、とりあえずさっさと済ますぞ。光なんかに見られたらとんでもないことになりかねん」
そうしてウロコ様の元へ着くなり、まなかは急に土下座を始めた。
「ウロコ様、呪って下さい!」
「・・・はぁ?」
まなかの行動の理由は、もちろん分からなかった。俺どころか、ウロコ様も困惑している。馬鹿を見る目より先の状態のウロコ様を見るのも結構久しぶりなもんだ。
・・・いやいや、バカか?
「・・・聞くがまなか、どうして呪ってほしいんじゃ? 何度も呪いに呪っているそこの阿呆も、そんなマゾな趣味に目覚めておらんぞ」
「俺もびっくりしてますよほんと・・・。自分から呪ってほしいなんて言うやつ初めて見ましたから」
とは言いつつも、まなかがどうして呪ってほしいかというのはなんとなく想像がついた。
そして、俺だけが同行を許された理由も分かる。
俺はまなかにこそっと耳打ちした。
「どうせ紡だろ」
「なんでわかるの!?」
きっとまなかは紡に、自信の理解し得ない感情を抱いているのだろう。それは、この間の一件がきっかけだ。
まなかはあの呪いを、紡との、陸とのパスのように思っているのかもしれない。
・・・そこに、『好き』の感情はどれだけ詰まっているのだろうか。少なくとも、今の俺には分からない。
好きの気持ちから逃げてしまった俺には。
俺は耳打ちをやめて、はっきりとまなかに言葉を添える。
「陸に上がって以降のお前を、なんだかんだ言って見てきたからな。・・・どうりで光らを呼ばずに俺だけ残したわけだよ」
「あぅ・・・。でも、嘘つくの、苦しいの」
それは、何に嘘つくことだろうか。
・・・きっと、自分の心に、なのかもしれない。
まなかの言葉をしばし黙って聞いていたウロコ様がようやく口を開く。
「まなかよ。聞くが、なぜ苦しいのじゃ?」
「えぇっと・・・分からないよ・・・。でも、胸がチクチクして・・・」
本当に、まなかは自分の感情を一切理解できていないようだった。
まだ、迷いの域にも達していないのだろう。それほどまでに、まだ、幼い。
挙句の果てに、まなかは立ち上がって逃げ出すように外へトテトテと走っていった。
「・・・大変ですね」
「えらく他人事じゃのう島波の小僧よ」
「そりゃあ、俺は恋心がないですから」
「はっ、言いよる」
ウロコ様と冗談を飛ばしあっていると、やれ外から怒号が一斉に聞こえだした。その様子が気になって、俺も外へ出る。
「おい! ちゃんと説明しろ! ウロコ様の前で、ちゃんと話せ!」
見ると、あかりさんが村の大人たちに抑えられ、俯いていた。その近くにはさっき外に出たまなかと、どこからか現れた光がいる。
俺は二人の元へと近寄ることにした。
・・・はぁ、そう簡単にバレちゃうと困るんですがね・・・。
その過失が果たしてあかりさんにあるのか至さんにあるのか俺は知らない。
「はーくん、あかりさんが・・・」
近寄った俺に、不安げにまなかが問いかける。
「とりあえず、今は黙っとけ。厄介事に巻き込まれたくないならな」
とは言いつつも、不幸にも俺たちが立っているところが大人連中の通路だったようで、立ちふさがるようになっていた。
一人の大人が俺たちにしゃがれた声を掛ける。
「おい、ガキは引っ込んでろ。これは大人の問題だ」
「ちょっと待て、そろそろ教えてやっておいた方がいいんじゃねえのか? 村から出ていこうとしたらどうなるか、教えとかないとな」
どうやら、村の人間はあまり俺の内情を知らないらしい。ならばちょっとだけ、抵抗してみるのもいいかもしれない。
「追放するんだろ? そんなこと、知らない俺らじゃないぞ。というか、数年前までこの村にいた俺の両親の事、もう忘れたって言うのか? ああそうか、追放した人間は追放したことまで忘れるってのかよ」
少々挑発的に話を吹っ掛けたところ、一人が思い出したように反応した。
「・・・あぁ、おめぇは、島波さんのとこの」
さてここから話がヒートアップするかと思いきや、奥の方から灯さんがやってきた。
宮司が出てきたとなると、いよいよ俺たちの出る幕はない。再び黙ることにした。
「何の騒ぎだ?」
「あ、宮司様・・・。それが、あかりの奴、地上で男を作ってやがったんですよ・・・」
「地上で男とイチャついていたのを見た奴がいるんです」
灯さんはわずかに驚き、そして静かに怒れる瞳をしてあかりさんの方を向く。
「・・・あかり、本当か?」
「・・・」
沈黙は肯定。無力な俺にどうすることも出来なかった。
誰と結ばれているかまで把握している俺は、立場によっては証人ともなれる。いよいよ口を挟む術がなかった。
「宮司様・・・宮司様のところから追放者が出たら、示しがつかねえぞ」
「・・・悪いが、今日は帰ってくれ。俺がウロコ様のところに連れていく」
そして灯さんはあかりさんを連れてウロコ様の元へと進んでいく。
その光景を俺たちはただ眺めていることしか出来なかった。
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それから数十分後。
話を聞いたちさきと要が合流して、俺たちは波中に向かうことにした。
ここなら大人に聞き耳を立てられることもない。そういう算段だ。
廃校になった波中はそれまでの生活感の一切を失っていた。至る所でぬくみ雪が積もり、あちこちが埃っぽい。
「何だよこれ! すげえ埃っぽくなってるじゃねえか!」
「本当だね。ぬくみ雪が教室の中までたまってる」
「もうずっと使ってなかったからな。当然と言えば当然だが・・・」
それはそれで、やっぱり寂しいところはある。
真っ先に教室に入るなり、光はすぐに怒り散らした。
「絶対あの男のせいなんだよ! あかりが苦しんでるのも、あの男が全部悪いんだ!」
「ちょっと待って。光、なんで相手の男が全部悪いなんて言えるの? 根拠とか・・・あるの?」
ちさきの控えめな質問に対しても、光はエンジン全開で当たる。
「あかりが自分から苦しみに行くわけなんてないだろ! あいつ・・・明日、絶対ぶんなぐってやるからな!!」
「・・・」
さすがにかける言葉がなかった。
「こっからは男だけの作戦会議だ。女子はどっか行ってろ」
容赦なく他人を突き放す一言。女子たちもそれを分かり切っているようで、ちさきはまなかの手を引いて、そそくさと部屋から去っていった。
出ていく際のまなかの憂いげな瞳が気になったが、何も言わない。
そして、その背中を追うように俺も立ち上がった。
「おい待て、遥。お前は男だろうが。どこ行くんだよ」
「悪いけど、この話には乗れない。・・・納得いかないんだよ、理論の一つ整ってない作戦なんて」
確かに、至さんに非がある部分もあるのかもしれない。あの人のことだから、結構な数。
しかしそれでも、それを都合のいいように利用しているだけの光の怒りには付き合いきれなかった。数日前の燻りが、いまだに胸の中に残っているのが簡単に見抜ける。
「お前も、あの男が悪くないって言いてえのかよ?」
「その一か百かの考えが嫌いなんだよ・・・。どれだけ非があるかすら知らないのに、全てを押し付けて、自分のいら立ちまで含ませて・・・。・・・いや、なんでもねえよ。とにかく、この話に俺は関わらないからな」
そして逃げるように、俺も光たちの元を去る。
・・・なんだかんだいって、一番何も理解できてないのは俺なのかもな。
みんな、変わり始めている。そんな気がする。
あかりさんも誰かを愛するようになり、まなかも不器用なりに自分の感情を知ろうとしている。
この間の水瀬だってそうだ。「諦めたくない」って、そんなことを言って。
俺はあんな風に自分と向き合えるだろうか?
逃げてきてばかりだったこれまでの人生に、真正面から。
だから、二人を見て思える。
たった一つ、小さなこと。大切なこと。
・・・俺も、一歩を踏み出したい。
原作に準拠したシーンが一番難しかったりしますね今回の改変は。
ここまで新規ストーリー無し。まあ、慌てる時期じゃないです。
と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)