凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
100話分考えれるのかどうか、心配ですけどね。はっは!
・・・本編行きまーす。
~遥side~
「海村を出るって・・・、まさか、そういう事?」
海村を出るという事は、自ら海村を捨てることを選ぶということ。
呆気にとられた俺は、そう返すことしか出来なかった。
「察しの早いお前なら分かるか。お前の想像通りで合っている」
「なんで、そんな・・・」
理由が分からない。
だってこれまで、一度もそんなそぶりを見せなかったっていうのに・・・。
俺の質問に、父親が図らずも答える。
「この村にはな、遥。結構な数の掟が存在するんだ。『一度村を抜け出して陸で結ばれたものは追放される』とか、その例だな」
「じゃあもし、今うちらが抜け出しても・・・」
「まあ、間違いなく追放だな」
父は表情一つ変えず、淡々と答えた。それほどまでに、汐鹿生への感情が覚めているだろうという事は、容易に想像がついた。
しかし、確かめるために俺は敢えてそれを問うことにした。
「父さんたちは、海が嫌いなの?」
「・・・海は好きだ。それは間違いない。けど。この村のルールは受け入れられなかった。だから、この村を出る。陸へあがって生きることにする。・・・例え、それが世界が滅ぶことに繋がっても、な」
父さんの気持ちは分かった。一言も発さない母さんの気持ちも、多分一緒なんだろう。
俺は・・・。
「俺は、ここに残る。だってまだ、知らないことだらけだから」
「・・・そう、か」
それ以上は、何も言えなかった。もう言葉がなかった。
ここで両親とたがえることになっても、俺はまだ、海を出る勇気はなかった。
これが、両親との別れだった。
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残ることを決めたのはいいが、俺はあえなく一人になってしまった。
身寄りもなく、お金も心もとない。自分自身も未熟なもので、自炊なんてものはまだほど遠いものだった。
人知れず汐鹿生の街を歩く。
今はとても前を向ける気がしなかった。
だからか、俺は下を向いて歩いていた。
そんな状態では、誰にぶつかったかも分からなかった。
「っつ、すいません」
ドンと誰かにぶつかり、とっさに俺は謝った。顔を上げるとそこにいたのは、光の父親にして汐鹿生の宮司、灯さんだった。
「あぁ、島波のところか。悪かった。・・・っと、ちょうどよかった。色々話しておきたくてな」
「光の・・・。あぁ、話って、両親の事ですか」
俺が先手を打って話を吹っ掛けると、少しだけ灯さんは顔色を変えた。
間違いない事のサインは、それで十分だった。
「勘が鋭いんだな。・・・まぁ、ここで話すのもなんだ。一旦、うちに来てくれないか?」
否定する理由もなく、俺は光の家に向かった。
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「はい、お茶淹れといたよ」
「ありがとうございます」
俺と灯さんと面と向かっていた時に、光の姉であるあかりさんが麦茶を入れてくれた。
光はどうやら奥で昼寝をしているようだった。これから展開される俺の家庭の話のことを思うと、昼寝してくれていて本当によかったと思う。
冷たい麦茶が喉元を通り過ぎて、俺はようやく冷静になれた。
まっすぐ灯さんの目を見て、話を始める。
「何から話せばいいですかね」
「お前さんのところの両親がなんて言っていたのかを、まず教えてほしい」
神妙な顔つきの灯さん。俺は洗いざらい話すことにした。
「海は好きだと。でも、この村の掟は納得いかなかったと、そう言ってました」
「・・・遥君は、この村の掟のことを知っているのか?」
表情は険しい。それこそ、本当に子供には知られたくないような内容なのだろう。
しかし、俺の答えは変わらなかった。
「知りません。・・・ただ、追放されれば二度と戻れないことくらいしか」
「そうか。・・・この件に関しては、いずれ知ることになっただろう案件だ。気にしないでくれ」
気にするなと言われても、気にしない方が無理な状況。
言葉を押し殺して俺は一度頷いた。
それを受けてか図らずか、灯さんは一転、俺にある提案を持ち出した。
「遥君。これは提案なんだが・・・、しばらくの間、うちに居候しないか? いろいろ厳しいんだろ?」
「・・はい?」
厳しい事には間違いないのだが、まさか灯さんからそんな言葉が出てくるとは思ってもみなかったわけで。
しかし、この提案はありがたかった。何せ今は、身寄りになるものが欲しかったのだから。
一人になるには、まだ幼すぎた。
俺はそうして、先島家に居候することになった。
怒涛の流れすぎたあまり、もはやなにも覚えていないが、あの後グダグダしたことだけは覚えている。
原因は、やはり光だった。
「・・・はぁ? なんで遥がここにいんだよ!」
「あらおはよう光~。それなんだけど、遥君、今日から当分の間家で済むことになったから、よろしくね~」
「・・・というわけで、よろしく」
「マジ分かんねえよ・・・。てか、誰だよそんな提案したの!」
「俺だが」
「親父かよ! ・・・じゃあまあ、しょうがねえな」
どうやら光は、親父には頭が上がらないようで口先をとがらせて了承した。
「あれ、嫌だった?」
「別に。遥なら問題ねーけど」
光から拒絶されなかったことは、素直に嬉しかった。
少し間違えれば、誰も信じれなくなっていたかもしれないから。
・・・あぁ、賑やかになるだろうな。
どことなく、そんな予感がした。
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あの日から、涙は流さなかった。
まだ小学三年生。急に両親がいなくなるなんて、普通の子供ならショックが強すぎただろう。
けど、あの別れは今生の別れではない。
そんな、理由もない自信があったからこそ、俺は正気でいられた。
・・・果たしてそれが正気なのか、そんなことは分からないけど。
また、余談だが、別の日に穴倉に行ったが、この間とは違い、不気味な穴倉は完全にふさがれていた。
大方、予想はつく。
「・・・ウロコ様、だろうな。大人ならまず口頭注意から入るだろうし・・・」
「くっそ、やっぱり昨日のうちに行っておけば・・・!!」
「はいストップ。それ以上はダメだよ、光」
この日は男三人だけで確認のために来ていた。
不幸中の幸いなんて言葉は、こういう日のためにある。
今ここにまなかやちさきが居れば、きっと光の飛び火がとんでもないことになっていただろうから。
この穴についてはまた後に知ることになるが、それはまだ知る由もなかった。
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さておき、それからの日々は光陰なんとやらというにふさわしかった。
いつものように学校に行っては、休みには光たちと遊んで、これまでの生活と何の変わりもなく、毎日は過ぎていった。
ただ一つ、両親がいないことを除いて。
でも、そんな毎日だっていつかは変わってしまう。
今回もまた、それは何の前触れもなく訪れた。
それは、ちょうど居候を始めてから一年くらいたった頃だった。
「灯さん、ちょっと陸へあがってきます」
「あぁ、構わん。・・・が、こんな時間だ。、ほどほどにしておけよ」
「大丈夫です。さやマートにちょっと買い物に行くくらいですから」
「そうか。早めに帰れよ」
そう言うなり、灯さんは再び新聞に目を戻した。代わりにあかりさんが声を掛けてくる。
「そうだ、遥君。行くならついでにお使い頼めるかな? ちょうど醤油が切れそうなんだけど・・・」
「いいですよ。・・・それじゃ、行ってきます」
ちなみに、光は部屋に幽閉されていた。数時間前、灯さんから激しい雷が落ちていたからな。しっかり反省してもらおう。
そして俺は最短距離でさやマートに向かった。
中で買う予定だった菓子や醤油を揃える。
店から出たとき、後ろから聞きなれない声がかかった。
「ねぇ」
振り返ると、自分と同じくらいの背丈の少年が立っていた。
「どした? ・・・てか、誰?」
「えと、狭山旬って言う・・・。あの、そっちは?」
「ああ、俺は島波遥。まあ、適当に覚えておいてくれ」
うんと頷いて狭山はどこかに走っていった。入れ替わるように店主らしき人が店から出てくる。
「やあ。さっき旬と話していたけど、知り合いかな?」
「いえ、初対面ですけど・・・」
「そうか・・・。そうかそうか。あいつ、少し人見知りな部分があるからなぁ・・・。よかったら、また会ったとき仲良くしてやってくれ」
「は、はぁ・・・、分かりました」
そして俺は店をあとにする。
まだ明るいと思っていた空はもう夕暮れに差し掛かり、日は今にも沈みそうだった。
時計の針は、もう五時を示していた。
「・・・帰ろうか」
ゆっくりと足を進めて汐鹿生を目指す。
そしていざ海に飛び込もうとしたとき、ふと二つの人影が見えた。
そして、息が止まった。その目の前の光景が信じられなかったのだ。
一度深呼吸して、もう一度目の前の光景を疑う。そして、現実を確かめた。
今度ははっきりと見えた。
誰かが、刃物で、誰かを、深々と刺している。
おぞましいほどの深紅が視界に広がる。
そして、その視界で目の前の世界を捉え、俺は声にならない声で悲鳴を上げた。
理由はいらない。
血を流していたのは、俺の母親。
涙ながらに刃物を突き刺していたのは、俺の父親だったのだから。
いろいろな視点で作品を書かせてもらうことが多いですが、やはり一人称は書きやすくていいななんて思ってます。
そして、二年前と比べると、地の文の力はついているのかなと思ったりも。
この力で、過去に書いた作品のリメイク。
どこまで戦えるか頑張ってみたいともいます。
【追記】
感想はありがたく頂戴します。
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不快と感じられる方がいらっしゃる可能性があるため、先に謝罪させて戴きます。
また会おうね(定期)