凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
この内容は、このサブタイトルが適切だと個人的にそんなことを思っています。
それでは、本編どうぞ。
~遥side~
光は至さんを見つけるなりなりふり構わず殴りに行った。もちろん、距離が離れているためと目に行くのは不可能だ。
正直、至るさんが喧嘩に勝てるビジョンが見えない。第一、今回は不意打ち極まりないからな。
が、思い返してほしい。
今、この場所は木原邸。つまり、他人がいるのだ。
そしてその人間は、漁師である。
であれば、海の人間一人網にかけるのは容易いことだった。
どこからか網が飛び出し、瞬く間に光を吊り上げる。
投げたのは、紡の祖父だった。
そして紡のおじいさんは光に近づき、その目を見るや否や興味深げに呟いた。
「ほう・・・嵐だな。あの子は、まるで凪のような瞳をしていたが・・・」
とりあえず、紡のおじいさんのおかげで光の威勢はそぎ落とされた。そのまま熱が冷めてくれればよかったが、いまだに網の中で暴れている。
その後で、ようやくほかのメンバーも降りてきた。
「ひーくん、大丈夫!?」
「ちょっと! もう、光がいきなり飛び出すから・・・」
ちさきの呟きに反応したのは至さんだった。
「えっ・・・? 光・・・ってことは、あかりの弟!?」
至さんは驚いた声を上げて、一応無力化された光に近寄る。が、こいつはこいつで今にも噛みつきそうな狂犬。
網から這い出て至さんに掴みかかろうとした光だったが、すんでのところで俺がその腕を掴んで止めた。
そして至さんに視線だけ向けて声を交わす。
「久しぶりですね至さん。・・・また陸にあがるようになって数日ですけど、こうやって会うのはあの頃以来ですか」
「は、遥くんかい!? 随分大きくなって・・・」
「至さん、聞きたいことたくさんあるんで、感傷に浸るのはあとでお願いします」
などと言うが、一体何様なのだろうか。
自分から逃げ出して、溝を作ったのは俺の方なのに。
そんな俺と至さんを見て光がさらに怒り出す。
「遥てめぇ! そいつの知り合いなら、なんでそうって言わねえんだよ!」
「・・・言えねえだろさすがに」
色々と思うところがあったが、今ここで俺が声を荒げても意味がない。最小限の口数で光を制す。
その時、ふと力が抜けた瞬間、光は網の緩みを見つけ出しそこから潜り抜けて至さんの胸倉をつかんだ。
しかし、殴りかかるより先に言葉が先行した。
「このやろう! お前のせいで、あかりが責められているんだよ! お前があかりに近づいたせいで、村の大人連中、みんなあかりを責めてやがんだ!」
「えっ!? あかりが!? どうしてそんなことに・・・」
至さんは海村の掟を知らない。
それを解説するように紡ぐのおじいさんが至さんに質問した。
「子作りはしとるのか?」
「なっ!?」
そうしたワードに耐性がない光はやはり赤面し、動揺のあまり至さんから手を離した。
「こ、子作り!?」
「こ、子作りって・・・」
周りに立っていた女子連中も赤面する。平静でいられたのはせいぜい俺と要くらいだった。
「やはり知らされとらんのか、変わっとらんな・・・。おいそこの・・・遥か。お前はどうだ?」
「そうですね、一通りは知ってますよ」
簡単に言えば、陸と海のハーフはエナを持たないということである。だから、海の人間は外に人間が流出するのを防いでいる。
・・・それが逆効果だって言うのに。
それを聞いた光が赤面したまま声を荒げる。
「はぁ!? 何を知ってるって言うんだよ! だいたい、子作りが何の関係があるって言うんだ!」
激昂する光。
その質問に答えたのは俺ではなく、どこからか出てきた紡だった。
「その子作りが問題なんだよ」
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いったん場は沈静し、今は知るもの知らないものと別れてビールケースに座って説明をしている。俺と紡と紡のおじいさんはこっち、それ以外が反対側だ。
「陸と海の違いは分かるか? 陸で生まれる人間と、海で生まれる人間の違い」
「それって、エナがあるかどうかじゃないの?」
紡の問いかけに対してのちさきの答え。間違いではないが、足りない。
「それもある。・・・でも、今回の問題はそこじゃない。問題なのは、生まれた子供なんだ」
「なんで、そうなの?」
「俺が話すよ。そうだな・・・。俺たちは、海の人間同士の間に生まれてきただろ? だからエナを持ってる。けど、海と陸とだとそうはならないんだよ」
「じゃあ、海と陸のハーフじゃそうならないってこと?」
その通りだ。
美海がいい例だったりする。美海は海村の出身であるみをりさんと陸の人間である至さんの間に生まれた子供で、現在のところエナを持っている様子は見受けられない。
「そういうことになるな。・・・ただ」
ただ。
そう言いかけて、俺は言葉を止めた。
水瀬の一件が頭をよぎる。あいつはハーフであるにも関わらず、エナを所持している。それにともなった代償がないわけではないが。
あの現象に関しては説明のしようがない。何より、外で話してほしくないという水瀬の願いを、約束を破ることになってしまう。
だからまあ、ここから先の話は無しだな。
「いや、何でもない。とりあえず、最低限の認識としてはこれくらいだな」
「なんで遥はそれを知ってるの・・・?」
ちさきの心配したような瞳が少々癪に障る。けれど、昨日の今日で同じように腹を立たせることはなかった。
俺はただ、淡々とことを述べる。
「・・・別に、調べてたら色々分かっただけだよ。島の図書館の奥の方の本にこんなことは書いてあるし、大したことじゃない。それこそ、数年間も引きこもって何もしないでいたんじゃ、バカらしいってもんだ」
ちさきはまだ何か言いたげだったが、話を一通り聞き終えた光がまた至さんに掴みかかった。
「おい! お前はあかりのことどう思ってるんだよ!」
「え?」
「結婚したい、とかそう思ってんのか!?」
今度の光の怒鳴りは的を射ていた。
いくら前の妻であるみをりさんと死に別れしたとはいえ、そこははっきりとケジメをつけなければいけない。そのケジメを、あかりさんの弟である光が追及するのは至極当然のことだ。
至さんは逃げ場を無くした瞳を脇の方に落とし、小さな声で呟く。
「僕は真剣だよ・・・結婚は・・・」
そして曖昧な返答。
それで堪忍袋の緒が切れたのか、光は至さんを押し倒すなりついに殴り始めた。
俺は・・・止めに入ることは出来なかった。
好きであるなら、その気持ちははっきりさせなければいけない。その気持ちから逃げた人間の言うセリフではないが。
だからこそ、目の前の中途半端なことしか出来ない至さんを擁護する言葉は見つからなかった。
・・・分かっている。美海も、俺だってそうなんだ。
誰も、みをりさんのことを忘れることは出来ない。
失った、その痛みも。
前作、ここ尺切り取り失敗してるんですよね。
かといって、変に変更も出来ず、今回もなかなか短く・・・。
是非もなし、いざゆかん。
それでは今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)