凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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尺ガッタガタやん・・・。
本編どうぞ。


第二十二話 壊して繋いで

~遥side~

 

 光が至さんを殴りに殴ったあの日から数日だった。今は普通に学校で授業、それも、調理実習の時間である。

 

 それこそ、あの後はなかなかにひどいものだった。掴みかかった光から容赦なく鉄拳が繰り出される至さん。しかし、至さんがダウンする前に先に引っぺがされ、紡のおじいさんに投げ飛ばされた光が先に気絶した。

 

 とはいえ、今回の件に関しては至さんを擁護することは出来なかった。かといって光の行為を正当化するわけではない。言えば、今回は中立の立場を取ることに決めた。

 

 みをりさんを失ってしまった悲しみがいまだに残っているのは俺だって理解できる。けれど、あかりさんとの交際があるなら、それを割り切って進まなきゃいけないはずだ。その覚悟が見受けられないなら、殴られても仕方ない。

 

 ・・・なんて、俺の言えたセリフじゃないから中立の立場なんだけど。

 

 おそらく、あかりさんへの気持ちは嘘ではないと思う。それがどこまで本気か分からないけど。

 きっと、美海もそう。

 

 みをりさんを失ってしまった痛みは、今もそれぞれの胸の中に残っている。

 だから、誰も好きに正直になれないのかもしれない。

 

 だったら、美海もホントはあかりさんのことを・・・。

 

 ・・・いや、一方的な決めつけになるかもしれないな。やめておこう。

 

 

 それとは別に、あかりさんの立場自体の問題もある。

 

 内情を知っている俺はそう言う捉え方をしないが、今のあかりさんの状態と言えば、みをりさんがいた席に入り込もうとしていると言える。

 

 ・・・でも、誰かの代わりなんて絶対なれないから。

 偽らない自分同士を愛さなければならないはず。

 

 

「・・・か」

 

「ん?」

 

「遥!!」

 

 ちさきの甲高い声で深い思考から現実に引き戻される。

 その時には、鋭くとがれた包丁が俺の指をしっかり切っていた。最初の数秒こそ何もないが、だんだん、じんじんと痛みが広がっていき、血が溢れていく。どうやら深く切ってしまっているようだ。

 

「っと、やっちまったなこれ」

 

「大丈夫? 結構深そうだけど・・・」

 

「あー・・・、いや、これはちゃんと処置した方がいいかもしれないな」

 

 自分の身体のことは、自分が一番分かっている。

 

「珍しいね、遥がこんなこと」

 

 ここぞとばかりにマウントを取ってくる要。何、恨みでもあんの?

 俺は挑発には乗らず軽口だけ吐く。

 

「弘法にも筆の誤りって言ってな。というか、俺だって万能超人でもなんでもないんだから、こんなことあるに決まってるだろ」

 

 そして改めて先生の方に合図を飛ばす。

 

「保健室行ってきますね。この時間内には帰ってくると思いますけど」

 

 先生からの返事を待たずに、俺は保健室hと向かった。

 

 

--- 

 

 保健室はちょうど留守になっていたようだった。とはいえ、応急処置くらいは自分でできるので、あれこれと無断で拝借して処置を行う。

 ・・・とはいっても、あまり帰りたくはなかった。料理というものを一人でやり慣れている以上、誰かと歩調を合わせるのはさほど得意ではないのだ。

 

 しかしさすがに授業中。仕方なしに俺はゆっくり実習室へと変えることにした。

 が、ただでは帰らないと気づかれないように寄り道オブ寄り道。

 

 その道中、俺はおじょしさま制作中の部屋の前を通り過ぎた。・・・いや、通り過ぎることは出来なかった。俺はその場で立ち止まる。

 

 中には、見るも無残な状況のおじょしさまが転がっていた。

 

 

 ・・・。

 

 授業中なので声は挙げなかった。しかし、腹の奥底で沸々と怒りは確かに燃えていた。これの制作にかかわっているのは海の人間だけではない。そうした人たちの思いが無下にされたと考えると、心底腹立って仕方がないのだ。

 

 とりあえず状況の確認をする。すると、「さゆ、三じょう!」とマジックで書かれているのが分かった。

 

 その名前には、心当たりがあった。それは、昨日の事である・・・。

 

 

~昨日~

 

 俺が光と二人で帰っているときに限ってよく誰かと遭遇する。

 昨日も、初登校の日と同じ場所で美海とその連れの子に遭遇した。

 

 今度の美海はというと、前回見たいに逃げ出すことはなく、タオルで息を奪い、光を気絶させようとした。・・・まあ、結果はお察しの通りだが。

 

 しかし、失敗しても悪気なさそうに不貞腐れていた。

 

「・・・なあ、なんでこんなこと」

 

「パパとあの女を別れさせるのに協力して」

 

 困惑している光の言葉より先に、美海は自分のお願いを言う。

 そんな美海に対して、光は別段感情を荒げることはなかった。ただ冷めた声音で美海と連れの子に語る。

 

「・・・考えてることは一緒なのかもしれねえけどよ・・・。俺は、こういうせこいやり方は嫌いだ」

 

「・・・」

 

 場にいる誰もが黙った。そしてその沈黙のまま、光はその場を立ち去っていった。

 ・・・これだけ冷静にものが言えるなら、いつもこうあってほしいんだがなぁ。

 

 

 

~現在~

 

 さて、とりわけ今はこれが光たちにどう伝わるかが問題だ。

 かといって、授業のさなかでこれを伝えることは難しい。どうにか穏便に事を済ましたいが・・・。

 

 まあ、今は帰ろう。

 俺はそこからまっすぐ実習室へ帰った。

 

 そして俺が扉を開ける数秒前、実習室からガシャンという音が廊下にまで聞こえた。

 しばしの沈黙の後、紡の声が聞こえる。

 

「謝れ!!」

 

 過去にも聞いたことないその声に、俺まで背筋を凍らせる。窓からそっと中の様子を見ると、まあこちらも無残にウチのグループの皿が床に落ちて割れていた。その渦中にはクラスの番長格の・・・江川だっけか。がかかわっていた。

 

 ・・・さすがに入るに入れねえよ。

 

 といっても、空気が冷めに冷めまくっていたので、俺がドアを開けた音はほとんど誰の耳にも届いてなかった。

 授業が終わるなり、真っ先に紡のもとに駆け寄り、事の次第を聞く。

 

「おい、紡」

 

「ん、ああ。もう大丈夫なのか?」

 

「切り傷程度だから問題はねえよ。・・・それより、さっき何があったんだ?」

 

「お前、見てただろ・・・」

 

 苦笑する紡。どうやら窓越しの俺に気づいていたようだ。

 

「・・・故意、なのか?」

 

「・・・そうじゃないと俺は信じたい」

 

 すると、遠くから怒りがハイボルテージに達した光の声が聞こえてきた。

 

「ああ、くそっ! むしゃくしゃする・・・! 俺、おじょしさま見てくる!」

 

 とまあ、なぜか怒りの矛先が明後日の方向に向いた発言。

 ・・・なんて、笑っている場合ではない。

 

 光はずんずんとおじょしさまがある部屋の方へ進んでいく。今のあいつにあの惨状を見られたら、ただでさえ崩壊しかけているクラスの雰囲気が一層嫌悪になりかねない。

 

 ・・・さっき江川らともめてたのも相まって、江川らに殴りかかりにでも行くだろう。

 

 それだけは、避けたい。

 

「悪い、ちょっと先行く。急用だ」

 

「どうしたんだ?」

 

「何とは言わないけど光だよ。あいつを止めないと・・・!」

 

 紡の前であの光景のことは言えなかった。とにかく心配だけされないように言葉を振りまいて光を全力で追う。

 

 廊下に出ると、ドアが破壊される勢いで開く音が聞こえた。どうやら光があの光景を目にしてしまったようだ。そこから全力疾走の音が響いてくる。

 

 

 こうなってしまったら、光を止めるのは無理だ。だったら、江川らを探すしかない。

 そうした中、俺は一人の女性とすれ違った。水瀬だ。

 

「どうしたの島波君、そんなに急いで」

 

「水瀬・・・! 江川らどこにいるか分かるか!?」

 

「もう教室に帰ったと思うけど・・・。それって、さっきの事・・・?」

 

「それもあるしそれ以外もある! とにかく、ありがとな!」

 

 

 それ以上の言葉は今はいらない。俺は光よりも早く教室へとダッシュした。

 

 教室内に、江川らはいた。

 そのまま俺は江川らの元へ走る。さすがに驚いて、江川は引き気味の声を上げた。

 

「!? なんだよお前急に・・・!」

 

 その時だった。

 

 

「チェストぉおお!」

 

 光が叫び声と共にものすごいスピードで突進してくる。狙いはもちろん江川、狭山だ。

 

 

 まずい!

 

 とっさに俺はその場にいた江川と狭山を押しのけ、光のタックルを真正面から受け止めた。

 

 腹に重たい痛みがのしかかる。みぞおちに入らなかったことだけが幸いか。

 

「なっ!? 遥てめえ何してんだよ!!」

 

「落ち着けバカ! こいつらは違うんだよ!」

 

 

 この会話を聞いて江川らが首をかしげる。それを見て、俺はようやく本当におじょしさまの件に関して江川らが何の関与もしていないことが分かった。

 

「違うって、何の事だよ」

 

「うるせえ! お前らがおじょしの・・・!!」

 

 喧嘩が始まりそうな雰囲気だったが、運よく先生が現れて、その場はいったん収まった。が、関係者は皆校長室行き。まあ、無理もないだろう。

 

 校長室で光は、早退しろと命を受け、不服そうな顔をしてすごすごと帰っていった。それに同調して、まなかも帰っていく。

 

 落ち着いて話せるメンバーが残ったところで、話は再開した。

 

「で、実際のところ真相はどうなんだい? 遥」

 

「実際、おじょしさまが破壊された件に関してで言うと、この学校に犯人はいませんよ。それは俺が保証します。というか、どう考えても中学生がやるには馬鹿馬鹿しい内容でしょ。あれは」

 

 しかも犯人はしっかり自分から筆跡を残したと来た。光の早とちり以外に何もない。

 

「なので、犯人の方には俺がきつく言っときます」

 

「そうかい・・・。って、遥、早退するのかい?」

 

「そうさせてくれると助かります」

 

 俺もくるりと踵を返して校長室のドアの前に立つ。

 そこで思い返したように江川と狭山に声を掛けた。

 

「ああ、一つ忘れてた。・・・江川、狭山、今回はうちのバカ光がすまなかったな」

 

 俺が謝るのが意外だったのか二人は驚いて、そして言った。

 

「・・・いや、さっきの件もあったし、お互い様ってことにしてくれれば・・・」

 

「そうそう。お前だけにいい恰好はさせれないからな」

 

「ならまあ、そういうことで」

 

 

 二人もやんちゃな人間ではあるが、根は素直なようだ。

 

 そして俺は今度こそドアから向こうへと飛び出る。

 

 

 行き先は決まっている。 

 今回の件、美海がそこにいたのか、それを俺は知りたい。

 

 だから、やるべきことは一つ。

 

 

 

 

 俺は学校を抜け出すと、全速力で美海を探しに出向いた。

 

 

 

 




ここら辺がやっぱり一番難しいですね・・・。全力で頑張ります。
ちなみにですが、今作はフルリメイクですので、コピぺは一切使用しておりません。投稿に時間がかかるのはそのせいですね(言い訳)

と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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