凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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この話のサブタイトルも好きですね。
葛藤の描写って何気に書いてて一番楽しいんです。

それでは本編どうぞ。




第二十四話 ここで終わりに・・・

~あかりside~

 

 私は・・・何なのだろう。

 数年前、私はようやく大人になった。・・・大人になったつもりだっただけかもしれないけど。

 

 けれど、大人になって、私は多くのものを失って、諦めたような気がする。

 ・・・だって、私は先島灯の娘なんだもん。海村の宮司の娘ときたら、いよいよ制約に囚われた人生を歩むしかない。

 

 ・・・分かってたんだ。この関係が知られたら、もう元には戻れないって。

 至さんにも告げず、誰にも言えないで、感情は溜まり、ふくらみ、暴発寸前というところまで来ている。

 

 だから、答えを出すならもう今しかなかった。

 無理やりいただいた数日間の休みももうそろそろ終わる。

 

 ・・・次、陸に上がった時に、この答えを至さんに告げよう。

 ・・・それで、終わりだ。

 

 

---

 

 

「さてと、お仕事行きますか」

 

 さっきまで食卓を囲んでいたお父さんと光に聞こえないようにそっと呟き、私は先に食器を片付ける。みんなもう食べ終わってるようで、食卓には私一人が残っている。

 

 片づけをササッと済ませて、私は鞄を片手にゆっくり立ち上がった。

 

「行くのか?」

 

「うん。長い間休ませてもらっちゃったしね。そろそろ行かないと」

 

 あれから、お父さんとは立ち入った話をしなかった。互いに言い出せず、聞き出せず、そうして時間だけが過ぎ去った。それぞれの胸の中で、考えだけ先先進んで。

 

 話なんて、答えが出たあとですればいい。きっとそれくらいものだ。

 ・・・割り切れてないって言えばそうだけど、いつまでも止まってはいられない。

 

 苦しいくらいなら、早いところ切った方がいい。・・・そうしてまた諦めるんだ。

 

 

 玄関に向かうと、光が今まさに外に出ようとしていた。私はあわてて声を掛ける。

 

「待って光、たまには一緒に行かない?」

 

「なんでだよ。てか、そんな年じゃねーし、・・・なんか、恥ずかしいし。んじゃ、先行くわ」

 

 ためらいもなく光は先に行ってしまった。

 ・・・もともと、小さい頃から私に泣きついてくるような子じゃなかったけど、こうしてみると大きくなったな、なんて思う。

 

 

 ・・・私も、進まないとね。

 

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 誰にも届かない声で、私は呟いた。

 

 

 

---

 

 

 数日間開けていただけなのに、もう長い事陸に出ていなかったような感覚。

 だからだろう、太陽の光がいつもより目に刺さった。

 

 海から出て、さやマートまで海沿いの道を進む。その途中の喫茶店あたりだろうか、遠くに至さんを見つけた。

 私が見つけたのと時を同じくして向こうも私に気づいたようで、一瞬にして私の元まで駆け寄ってきた。

 

 

「あかり、話があるんだ・・・!」

 

「・・・うん、私も。ね、ゆっくり入りたいし、そこの店にでも入ろうか」

 

 合意の上、二人で店内に入る。

 

 この店に来るのも、幾分と懐かしい。

 前に来たときは至さん、そしてみをりさんも美海もいた。

 

 あの日の事が、私が潮留家と知り合うことになったきっかけ。

 

 

 ・・・始まりも終わりも、同じ場所なんだね。

 

 私は、この関係を終わりにすることを決めた。・・・私の立場からして、始めからうまくいくわけなかったんだ。

 

 

 注文を聞かれたので、コーヒーとだけ返す。合わせるように至さんが頼んでマスターが過ぎ去ってから、また沈黙が流れた。

 

 しばらくして、マスターがコーヒーを淹れてやってきた。それを受け取って手元に置く。湯気立つそれをすぐに手に取らず、私はぼんやり眺めた。

 

 コーヒーの水面はうっすらと揺れていた。それはまるで、今の私を映しているかのように。

 

 そしてコーヒーの変わりに唾を一つ飲んで、私は別れを切り出した。

 

「私ね、もう至さんと別れようと思うんだ」

 

「えっ・・・? でも、僕は・・・」

 

「言わないで。・・・最初から無理だったんだよ。海の人間と陸の人間が結ばれるなんて」

 

 そして、決定的な一言を放つ。

 

「私は、みをりさんの代わりにはなれないの」

 

「・・・!」

 

 そう。私は私。みをりさんの代わりにはなれない。だから、美海の母親になるなんてことも、出来やしない。

 仮に至さんに受け入れられて、それで割って入ったとして・・・美海はどう思うだろう。この数日間は、そんなことをずっと考えていた。

 

 コーヒーを一口飲む。何も入っていないブラックの苦みも、胸の痛みで中和され、どこか消えていく。

 

 至さんは血相を変えて、必死に語った。

 

「確かに海と陸の間には軋轢があるかもしれないけど・・・、でも、僕たちは仲良くできるよ!」

 

「できない。・・・しちゃいけないんだよ。・・・私ね、美海ちゃんのことが好きなんだ。だから、美海ちゃんのことを傷つけたくない。変に母親になった気になって、それで傷つけたりしたら・・・。だから、私は身を引くの」

 

 そして、私はコーヒーをクイっと飲み干すと、二人分の料金をテーブルの上に投げ出して、すっと立ち上がった。

 そのまま、呆気にとられる至さんを放っておいて、一人出ていく。

 

 振り返ることはしなかった。出来なかった。

 ・・・振り返ったら、泣いちゃいそうだったから。

 

 

 

---

 

 

 道路をただ進んでいき、さやマートへと着く。

 例の壁文字は、まだ完成していなかった。『どっかい』のまま、文字は止まっている。

 

 そして、そこに美海ちゃんはいた。またサボっているのだと思うけど、もう何も言うことはない。

 ふと、私と目が合う。けれど、美海ちゃんは逃げずに、ただまっすぐ私を見つめたまま黙っていた。

 

 けれど、私の方から言う言葉は決まっている。

 

「・・・あのね、私決めたんだ。もう、美海ちゃんの前から、至さんの前からいなくなるから。・・・『どっか行く』って決めたから。だから・・・」

 

「・・・」

 

 何も言わず、美海ちゃんは逃げていく。その表情は見えなかったけど、もういいんだ。どうせ、全て終わることだから。

 

 

 それから私は店に戻って、時が過ぎるのを忘れて働いた。暴れようとしている感情を抑えるには、それくらいしかないと思ったから。

 忘れられない何かを、無理やり忘れるように。

 

 ・・・そんなこと、出来るはずなんてないのに。

 

 

---

 

 

「あれ、もう戻ってたんですか」

 

 遥くんが店に来たのは、夜七時頃だった。学校の下校時間のことを考えると少々遅いような気がする。

 

「あ、遥くん。今日も買い物?」

 

「そりゃそうですよ、さすがに一人暮らしなんで自分でしないことには・・・」

 

「それにしても、えらい遅い時間に来たもんだね」

 

「まあ、学校で色々やってるんですよ。フル出勤したら、もれなくこんな時間に」

 

「あはは、おじょしさま作ってるんでしょ。出勤なんて言葉使わなくていいのに」

 

 公では言われてないものの、光らが話しているのを聞く限り今年もおじょしさまを作っているらしい。お舟引きは中止になっちゃったけど。

 

 私が乾いた笑いで感情をごまかしていると、遥くんは目つきを少しばかり鋭くして私の顔を正面から覗き込んだ。

 

「・・・あかりさん、区切り、つけたんですか?」

 

「あはは・・・やっぱりバレちゃうか。流石だね遥くんは」

 

「それは、だって・・・。いえ、何でもないです」

 

「・・・うん、そうだよ。別れることにしたんだ。美海ちゃんのために。・・・これでどうにかなってくれるといいんだけどね」

 

 遥くんは黙ったままだった。

 ただ、憐れみと言ったような感情を込めた瞳を一心にこちらに向けたまま。

 

 その瞳が何を見ているのか、私には分からないけど。

 

 

 そうした場の沈黙を一瞬で切り裂くように、至さんが血相を変えて店に入ってきた。その表情から事の急さが伝わる。

 

「た、大変だあかり! ・・・と、遥くんもか! この時間になっても、美海が帰ってこないんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 




今回リメイクを始めた理由の一つに、この起~承あたりの文章の曖昧さを是正するといったのがあります。
実際、前作の文章は一回の会話文が長かったり、また言葉不足だったり等が目立っていたような気がするので、今回テコを入れた感じです。

と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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