凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
と言うわけで、少々強めに会話や思考等を変更してます。
それでは、本編どうぞ。
~遥side~
ある日の学校からの帰り、俺はいつものようにさやマートに買い物に来ていた。自分のことは自分でしなければならない。当然と言えば当然だが・・・。
店内に入ると、数日間休んでいると聞いていたあかりさんが復帰していた。至さんとの一件以降、拗れてしまった関係の整理のために休んでいたそうだが、こうして復帰したという事は、ある程度区切りがついたのかもしれない。
・・・それが良い方向かは、さておき。
「あれ、もう復帰しても大丈夫なんですか?」
素っ気ない風を装い、俺はあかりさんに近づく。そして何も知らない体を装い、あかりさんに話しかけてみた。
「あら、遥くん。今日も買い物?」
「そりゃそうですよ。流石に一人暮らしなんで自分でしないことには・・・」
「それにしても、えらい遅い時間に来たもんだね」
今は夜の七時くらいだろうか。最近はおじょしさまの制作に力が入り、熱中するあまりこのくらいの時間になることがしょっちゅうなのだ。
「まあ、学校で色々やってるんですよ。フル出勤したら、もれなくこんな時間に」
「あはは、おじょしさま作ってるんでしょ。出勤なんて言葉使わなくていいのに」
あかりさんは、学校でおじょしさまを制作していることを知っているみたいだった。
とはいえ、光は今回のお舟引きに関する一件を親父には伝えていないと公言した。とすると、どこかで聞かれたのだろうか。
・・・それにしても。
先ほどからのあかりさんの表情が気になって仕方がなかった。うまく取り繕っているつもりの笑顔。けれど、それが嘘だってことはバレバレだ。分からないと、俺がここまで積み上げてきた学習の意味がない。
・・・仕方がない。今までだって時には悪者を演じてきたんだ。なら、はっきりと言うしかないだろう。
それほどまでに、目の前の空元気を見続けるのは辛かった。
「・・・あかりさん、区切り、つけたんですか?」
「あはは・・・やっぱりバレちゃうか。流石だね、遥くんは」
今はそんな誉め言葉など欲しくない。
「それは、だって・・・。いえ、何でもないです」
誰だって、そんな悲しそうな顔してたら分かるはず、とはさすがにそうは言えなかった。
あかりさんは先ほどまでの乾いた笑いをひそめ、憂いと寂寥に満ちた表情で俺を見つめ返した。
「・・・うん、そうだよ。別れることにしたんだ。美海ちゃんのために。・・・これでどうにかなってくれるといいんだけどね」
・・・だろうな。
この結末の予想は出来ていた。けれど、実際に直面してみると、やはり悲しくて、寂しい。
好きになることから逃げる。それも、何かを本当の意味で失うより先に。
それは、どこまでも辛い・・・。
俺はあかりさんにどんな顔をしているだろうか。その予想は全くつかなかった。
そして場には沈黙が流れる。
その沈黙を切り裂いたのは、血相を変えて店に入ってきた至さんの声だった。
「た、大変だあかり! ・・・と、遥くんもか! この時間になっても、美海が帰ってこないんだよ!!」
場に緊張が走る。が、俺の思考回路は幸いにもエラーしないでいてくれた。
こういう時、どういう感情なら美海が行動するかを考える。
そして、俺は一つの結論に辿り着いた。そして、そのキーマンに声を掛ける。
「・・・あかりさん、今日、美海に会いましたか?」
「え?」
「会いましたか?」
俺が問い詰めるように聞くと、あかりさんは首肯してポツリと言葉を吐いた。
「会ったよ。・・・それで、もう会わないからって、安心してって、そう言ったの」
・・・ビンゴ。最悪の予感はどうやら的中してしまったみたいだった。
十分なんだよ、今の美海にはそれだけで・・・!
俺はどうにか平静を装い、これからの自分の行動を端的に二人に伝える。
「分かりました。・・・俺、これから探してきます。至さん、漁協の方へ協力要請、お願いしてもらえますか?」
「え、ああ。任せて!」
至さんを先に外に出させて、もう一度あかりさんと二人きりになる。
とはいえ、あまりのんびりはしていられない。大事なことだけ。
・・・俺は、何を言えばいいんだ?
ここに来て言葉が出ない。いや、言葉はあるのかもしれないけど、それをどうして、逃げに逃げ続けた自分が言えるのだろうと立ち止まっている。
・・・けれど、今は。
「諦めないでください」
「え?」
「逃げたらきっと・・・辛いだけです」
訳も分からないことをただ口走って、俺はその場から逃げ出すように美海を探しに、買い物袋を握りしめて、店の外へ飛び出した。
逃げたらきっと辛いだけ。
・・・ずっと逃げ続けている俺の言う言葉じゃないだろ・・・!
とんだ失態を犯してしまった自分を責めながら、ギアを加速させてどんどん走っていく。
遠くに見えたあかりさんの目には、やっぱり涙がにじんでいた。
・・・未練があるなら、なんで。
しかしそれ以上の言葉はなく、俺は再び前を向いた。
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走りながら、必死に思考を巡らせる。
美海はきっと、人目のつきにくいところにいる。ただでさえ行動を隠密に行っているのに、探されることを分かって目立つところに行くはずなどないだろう。
隠れきった感情を表すような行動。だから、そこを探せばいい。
そして、出会う。
「こんなところにいたんだな、美海」
美海は、海が見渡せる小さな山の浅いところでじっとしていた。とはいえ、目が据わっている。迷ったようではなかった。
そして、それは奇しくも俺があの時倒れた場所に近かった。
「遥・・・、なんで、ここが?」
「小さいときから美海を知っていたし、ここにも何度か来たからな。美海が考えそうなことは、少なくとも分かる」
などと言うと、美海は少し不満げな様子で俺のすねを軽く蹴った。
「知られてもないし分かられてもない・・・! 勝手に決めないでよ」
「悪い悪い。・・・それよりまあ、なんだ。こんなあかりもない、暗い山にいるのもなんだ。場所を変えようか。いい場所知ってるんだ」
俺がそう提案すると、美海は疑念を込めた瞳で少々驚いていた。
「・・・帰ろうって言わないの?」
「それで帰るならこんな行動しないだろ。・・・覚悟、それなりに決めてるんだろ? だったら、それを無下にはしたくないから。ちゃんと、美海の気持ち、汲みたいからさ」
「・・・そう」
俺を信じてくれたのか、それ以上の反論はなかった。
「私、今日は帰らないから」
「はいはい、お付き合いしますよ」
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俺たちは港から少し離れた廃倉庫の方へと下っていった。当分使われていないこともあり人はいない。しかして望み通り、明かりはいくらか灯っていた。
ここなら二人、時間を潰してもそれなりに安全だ。誰の邪魔も入ることはない。
・・・そう、思っていたのだが。
コツ、コツと遠くから足音が聞こえてくる。その足音の小ささは子供のもののように思えた。という事は、これはおそらく光たちかもしれない。
今、この状況にあいつらを介入させると話が拗れかねない。面と向って話せるかもしれない絶好な状況。それを失いたくはない。
「美海、ちょっと待っててくれ」
「いいけど・・・」
「五分もあれば終わるから」
俺は美海をうまく諭して、光らのものであろう足音に近づいて行った。向こうはこちらに気づいたのか、声を掛ける。
「おーーい! って、なんだお前か」
「なんだとはなんだ」
「それより、お前も探してんのか?」
「ああ。・・・んで、そのことなんだけどな。お願いがある」
俺がはっきりとそういうと、光は少し驚いた。
「なんか、お前に真正面からお願いされるのって久しぶりだな」
「それはどうでもいいだろ」
「とりあえず、話聞かせてくれるかな?」
後ろから要が顔をのぞかせる。ちさきやまなかも、言葉はなくとも言いたいことは同じなようだった。
五分で終わると豪語した以上、早めに終わらせたかった。
「美海は見つけた。・・・けど、家出した人間がさあ帰ろうで帰るとはいかないだろ?」
「まあ、確かに・・・」
「だから、ここは俺に任せてくれ。多分、美海の話し相手になってやれるから」
「分かった。・・・じゃあ、僕たちは何をしたらいいかな?」
「他に探してくれている人のところへ、見つかった、安全だとだけ教えてほしい」
「近づくなってことは?」
「加えておいてくれ」
要が気を利かせて深く掘り下げてくれる。俺はそれに乗っかって、手出しを封じるようにお願いすることを付け加えた。
「分かった。じゃあ、俺たちはとりあえずあかりやあいつらに安否を連絡するだけでいいんだな?」
「ああ。そのまま帰ってくれてもいい」
「しゃーねえ。じゃあ、そうするわ。・・・エナには気をつけろよ。お前、海に帰ってきてねえだろうからな」
「分かってるっての。んじゃあな」
光はすんなり引き下がってくれたようで、そのままくるりと踵を返してくれた。
・・・さて、後は。
俺はすぐさま美海の元へ戻る。美海は積まれた鉄骨の上で足をぶらつかせて待っていた。
「美海、飯、食べるか?」
「そんなものあるの?」
「ああ。ちょっと待ってろ」
俺は近くの小さな倉庫の中を漁った。一番新しいのであろうその倉庫はほぼ新品に近いほどきれいな状態を保っており、中にはシンク、食器まで備わっていた。
できる限りを尽くして丁寧に洗い、衛生的な不安を無くしたところでさあ調理開始。といっても、買っている食材が食材なので、できるものは限られるが・・・。
それから数分後、出来上がったのは野菜炒めだった。
これだけと言われればそうなのだが、それでもないよりはまし程度のものが出来たのでこれ以上は何も言わない。
「いただきます」
美海は小さくつぶやいて、料理にそっと手を付けた。
口に一回箸を運んで、目を丸くして俺の方を向いた。
「遥って、料理、上手なんだね」
「恐縮です」
などと会話も織り交ぜながら、食事は進んでいく。
俺のぶん? そんなものはない。
「遥、本当に帰らないの? ずっと私に付き合ってくれなくてもいいのに・・・」
食事が終わると、美海は少々不安げに俺の方を覗き込んでいた。一応、周りに迷惑をかけているという自覚はあるようだった。
けれど、帰るつもりはない。
「美海に寄り添うって決めたからな。少なくとも、今日一日は全部の時間。・・・あれから、一回もまともに話せてないし。だから、美海の気持ちを聞きたい」
俺はそう告げて、憶測で美海の心を図って口にする。
「・・・本当は、美海はあかりさんのこと・・・嫌いだなんて、思って・・・」
「!」
美海は座っていた木箱をぶらついていたはずの足でけり飛ばした。
「私は好きな人なんていない! 私を好きな人もいない! いらない!!」
これまでにない剣幕で美海は叫ぶ。
・・・でも、その顔にあるのは怒りだけではなかった。
心の奥底にある、悲しみが滲み出ていた。
「好きな人なんてもういらない!! 遥だって、私のことを好きじゃない!!」
俺から逃げるように美海は走り出す。けれど、前を向いていないのだろう。その進行方向は・・・海だった。
そして美海がそれに気づいた時、運悪く小さな石に躓いてしまう。すぐそこには海が・・・。
「バカ! 戻れ!!」
「えっ、あっ・・・」
そして美海のふらついた体は、そのまま海へと落ちていった。
前回と人物像が変わっていそうなせいか、少々難しいんですよね・・・。
けど、確かな手ごたえと共に頑張っています。
それでは、今回はこの辺で。
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また会おうね(定期)