凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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いろんな作品の同時進行は堪えますね・・・。

本編どうぞ。


第二十九話 異変

~遥side~

 

 夏だ! 海だ! などと世間は騒ぎ立てるが、俺たちは年がら年中泳いでいるので特別思うことはない。

 しかし陸の体育には水泳、などという忌まわしいものがある。はっきり言ってサボりたいが健全な学生を貫きたいしそれはしない。

 

 他の面子も渋々水着を用意していたが、まなかだけ用意が間に合っていないようだった。これを待つようなら遅刻は待ったなしだろう。

 

 なんて様子でまなかを待っていると、俺は昨日帰り際に千夏からお願いされたものを思い出した。

 

曰く

 

「私は行くことが出来ないから、汐鹿生の写真とかあるならほしい」だそうだ。

 もちろん、俺は快諾した。である以上、約束は早めに済ませた方が良さそうだ。

 

「みんな、悪い。俺も忘れものだ」

 

「え?」

 

「帰ってるから、まなかが来次第先に行っててくれ」

 

 その返事を待たずに、俺は家へとダッシュした。

 

 

---

 

 

 家に戻ったはいいものの、ずいぶんと整理していなかったアルバムからこれだというものをぬきだすにはなかなか時間がかかった。気が付けばもう家に帰ってから10分は経過している。

 

 それなりの枚数を集めた俺はようやく家から飛び出す。この時間なら遅刻はなんとかせずに済みそうだ。

 

 一応、先ほどの集合場所に戻ってみる。けど、やはり誰もいない。

 俺は一人で陸へすいすいと上がっていった。

 

 

 そして、地面に足を着けて、あたりを見回してみる。

 穴場として使用している以上、誰かにあまり見られたくはなかった。

 

 そうして周りを見回していると、遠くに人影が見えた。浜中の制服。見慣れたその髪は、表情が見えずとも誰かをすぐに分からせた。

 

 水瀬だ。

 

 ここから声を掛けるには遠すぎるので、俺は近寄ることにした。

 その最中、だんだんと水瀬の様子がおかしいことに気づいた。

 

 どこかふらふらとしていて、足取りがおぼつかない。無理して歩いているのは一目瞭然だった。

 そう言えば、昨日の去り際の水瀬も、どこか様子がおかしかった。

 俺は歩くスピードを上げ、水瀬のもとへと駆け寄った。

 

 水瀬の顔色は、やはり悪かった。昨日よりもさらに顔から血の色が引いている。

 

「おいお前、大丈夫かよ」

 

「あっ、島波君・・・おはよ」

 

 水瀬の吐息は途切れ途切れだった。意識が正常にあるかどうかすら怪しいまである。

 

 俺は水瀬の額にそっと手を当ててみた。

 その温度は、人間の平常の温度よりもはるかに高い。言えば、高熱の部類だった。

 

「お前、やっぱり昨日から・・・」

 

「大丈夫だって、ほら、行かないと遅刻しちゃう・・・」

 

 そう言って水瀬は歩き出そうとする。しかしまっすぐ歩くことは不可能になっており、ついには力が入らなくなったのか、その場に崩れるように座り込んだ。

 

「おいっ! ・・・やっぱダメじゃねえかよ。無理するな」

 

「だって、さ・・・」

 

「・・・はぁ。今日はもう帰れ。というか、俺が連れて帰る。学校行って倒られたら保さんや夏帆さん、困るだろ」

 

 体調不良は自分一人の問題ではない。ましてや、ずっと体が弱く、両親を心配させてきた水瀬なら尚更。

 

 というか、こんな状態が続いているのなら二人がGOサインを出すはずがない。おそらく無理をしてでも学校に行こうとしたのだろう。

 

「・・・じゃあ、おぶってよ」

 

 水瀬は観念したのか、自分の身体を投げだした。年相応の男に自分の身体を投げ出すその行動にさすがに俺は驚いた。

 ・・・まあ、熱にうなされて気がどうかしているのだろう。

 

 何より病人であり、ここに動けるのは俺しかいない。それ以外に方法はなかった。

 俺は水瀬の軽い体を自分の背に乗っける。

 

 それからほどなくして安心したのか力尽きたのか、水瀬は背中で少々苦し気な寝息を立て、眠りについた。

 

 

 

---

 

 

 水瀬の家に辿り着く。当然のことながら鍵は閉まっていた。どうやら両親とも仕事らしい。

 しかし幸いなことに、水瀬のカバンの端の方に、なにやら金属の光沢を放つものを見つけた。鍵だった。

 

 背は腹に変えられないと鍵を取り出し、ドアに挿して回転させる。カチリと音を立てドアが開くなり、俺はすぐに入った。

 

 とはいえ、水瀬の部屋にずけずけと入り込むのは少々気が引ける。俺は客間に苦でないように水瀬を寝かせ、すぐに電話へと向かった。

  

 まずは学校へ欠席の連絡。幸い担任に取り合えってもらえたおかげで、こちらの方は事なきを得た。

 

 そしてそれが終わると、俺は漁協へと電話を掛けた。

 数度のコールの後、電話がつながる。

 

 出たのは、保さんだった。

 

「もしもし、水瀬だが」

 

「ああ、保さん。よかったです!」

 

「遥くんか・・・どうした?」

 

「いえ、あの・・・水瀬が学校に行く道中で倒れたので、その報告をしてます」

 

「・・・なんだって?」

 

 電話の向こうの保さんが動揺しているのが分かった。

 

「一応、意識もあったので、家に上がらせてもらいました。・・・すいません」

 

「いや、緊急だ。構わん。・・・それで、千夏はどうだ?」

 

「俺が分かることで言えば、結構な高熱くらいです。本人の口から頭痛だとかそういう弱音が聞けなかったので・・・。今、客間で寝ています。これって・・・」

 

「・・・単なる体調不良だろう。全く、無理をする」

 

 電話越しに情けなさそうな声が聞こえた。それが何に落胆したものなのかは分からない。

 

「・・・それで、この後どうしましょうか。俺は水瀬家の人間ではないので、あまり踏み入るのも」

 

「いや、いい。お前ならなんとかしてくれるだろうからな。俺も夏帆も少々立て込んでて様子を見るのは難しいかもしれない。・・・あいつの面倒、見てくれるか?」

 

「はあ、分かりました」

 

 頼みとあっては仕方がない。俺は覚悟を決めた。

 

「それじゃあ、今日はよろしくお願いします」

 

「ああ、頼む」

 

 電話が途切れて、俺はようやく一息付けた。

 ・・・さて、様子でも見に行きますかね。

 

 

---

 

「・・・ん」

 

 水瀬が目を覚ましたのは、家に運んでから二時間ほど過ぎたころだった。

 

 

「よっ、目を覚ましたか」

 

 無地のタオルを絞りながら俺は返事を返す。すると水瀬はガバッと起き上がってあたふたしだした。

 

「あ、あれ!? なんで島波君が家にいるの!? というか、なんで私」

 

 そんな風に言葉をまくし立てたが、まだ不完全な調子で元気に行動できるはずもなく、体を力なく布団に投げ出した。

 

「ったく、熱あるんだ。おとなしく横になってろ」

 

「・・・はーい」

 

 水瀬は抵抗する元気もないのか、気だるそうな返事を一度した。

 

「・・・ごめんね、迷惑かけちゃって」

 

「ほんとだよ。・・・まあ、あんなところで倒れられても困るし、見てしまった以上俺の責任問題になるだろ」

 

 水瀬がいなくなるなんて思うと、冷や汗が止まらなくて仕方がない。

 もう、何も失いたくない。その気持ちが根底にあるのだから。

 

「それに、ぶっちゃけ水泳サボれるのありがたい」

 

「意外とワルなんだね、島波君も。泳ぐのが嫌いとかそういうのじゃないよね?」

 

「当たり前だろ。じゃなきゃ今頃海の中で引きこもりだ。・・・苦手なんだよ、組織的な泳ぎとか、塩素濃度がキツイ水が。あと、準備運動とか」

 

 多分、光とかも同じ感想だろ。

 

 

---

 

~光side~

 

「っくし!」

 

 一瞬体が冷えたのか、はたまた誰かのうわさなのか、大きなくしゃみがでた。

 ・・・ってこれ、絶対遥だろ。

 

「大丈夫か? 先島」

 

「別に、ただのくしゃみだっての。それよりほら、勝負すんぞ」

 

 

---

 

 

~遥side~

 

 

「俺らからすれば水の中で泳いだりとか呼吸したりってのが当たり前だからさ、それにいちいち体操なんていらないんだよ。分かるだろ?」

 

「あー、確かにね・・・」

 

 同じエナを持つもの同士、考えていることの共有は容易いものだった。

 

「はぁーあ」

 

 水瀬はだるそうに、退屈そうに腕を真上にぐてーっと伸ばした。

 

「・・・ところでさ、水瀬」

 

「何?」

 

「なんで今日、無理して学校に行こうなんて思ったんだ? こんな体調だ。無理をしようにも限界があるだろうに」

 

「・・・結構簡単な理由だけどね、せっかくだしついでに話しちゃおうか?」

 

「? 何をだ?」

 

 

「私の、病気の話」




前回は簡潔に終わらせていたシーンを、今回は少々深く掘り下げていきます。
まあ、このせいで時々迷走しかけるのですが。

と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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