凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
オリジナル回も大切に。
本編どうぞ。
~千夏side~
私の身体について、これまで何度か話してきた気がする。
今回は、もう少しだけ、深く。
本当なら誰にも他言はしない。でも、島波君になら、伝えてもいいと思った。それに今、こうして助けてもらった恩もあるし。
だから今日、打ち明けてみることにする。
「私の病気の話、昔ちょっとだけしたよね?」
「どんなのかは知らないけど・・・、それで学校に行けなかったり、とか、そう言った話は聞いた」
「じゃあまず、どんな病気かから、だね」
話の論点がまとまると、島波君は私にまっすぐな目を向けた。
「・・・みをりさんのこと、覚えてる?」
「覚えてるも何も・・・、あの人の異変を一番最初に見たのは俺だ」
「そうなんだ。・・・私の病気も、あの症状に近いんだ」
「つまり、心臓の病気ってことか?」
私は一度首を縦に振った。
「発作っていうのかな。程度に寄るけど、一度発生したらひどいときは数日動けなくなったりもする。みをりさんのもきっと、こんな感じだったのかな。・・・けど、私の場合は長期的に、波みたいに襲ってくる感じなの。ただ、原因も、完治の方法も分かってないってことは、一緒かな」
私自身がみをりさんのもとに立ち会ったわけじゃないけど、お母さんから聞いた話だと、この推測で間違いはない。
私より辛そうな顔をした島波君をそのままに、私は黙々と語る。
「それでいて、完治の方法もなく免疫だけがどんどん下がっていくから、今日みたいに体調を崩すことがしばしば」
「そうなのか・・・」
「初めて異変が起きたのが、確か小学一年生の頃だったかな。これから学校生活が始まるって、そんな時だった」
「そんな出だしのタイミングで病気なんて・・・」
「うん。だから出遅れた。帰ってくるころには周りの人間関係出来上がっちゃってて・・・。いじめなんてものはなかったけど、やっぱり辛くてさ。それこそ、あの時美海ちゃんと出会わなかったら、どうなってたか・・・」
思い出すだけで、胸がチクリとする。
みんなもう、共にいて楽しいと思える人が出来てて、私は誰かの一番になれなくて。
分かってても、孤独はちゃんと子供にも伝わる。
「あはは、前を向こうと思ってたんだけどね・・・、やっぱり、きつかった」
「それでもお前は、頑張ったんだろ?」
島波君は真剣な顔つきでそう励ます。その言葉だけで、報われる気がした。
けど、頑張るだけじゃどうにもならないことだってある。・・・今はその時。
「頑張ったよ。・・・でもね、まだ足りないの。私はまだ、全然動けちゃいない」
「そうか。・・・強いんだな、水瀬は」
きっと、その言葉は心からの尊敬だったのだろう。
・・・けど、全然心に響かない。嬉しくない言葉だった。
そんな言葉で褒められても、何も変わらない。これだけ頑張って、苦労して、だったら、幸せにならなきゃいけない。・・・きっとそこは、まだまだ遠くの世界だ。
だから。
「ううん、そんなことない。・・・それに、強いなんて言葉で簡単に終わらせたくない」
強いまなざしを島波君に向ける。私のその表情を見てか、島波君は少し萎縮したように、悪いと小声で呟いた。
「・・・これくらいだよ、私の話。結局、それくらいのものでしかない」
「そうか。・・・頑張れよ、水瀬」
「うん。・・・ねえ、もうちょっと寝ていいかな? まだ熱っぽくってさ」
少々感情が籠ったせいか、さっきより調子が悪い。
「ん、ああ。長引かせて悪かったな。おしぼりの替え、いるか?」
「・・・ん、お願い」
「分かった。あとそうだ、晩飯とかどうする? 二人の帰る時間俺分からないんだけど」
「・・・遅くはないけど、頼める?」
「分かった」
そして島波君は立ち上がって私の寝ている部屋をあとにする。
その後姿に安心してか、私はそっと目を閉じた・・・。
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~遥side~
強いんだな。
何の邪気もなく、ただ投げかけたこの言葉はどこかで水瀬を傷つけてしまった。
同情でもなんでもない。俺はただ、水瀬にあこがれてたんだ。
苦しい現実を真正面から受け止めて、それでも前に進もうとするその強さ。俺にはない。なくしたものだから。
変えのおしぼりを用意するために一度部屋から出る。戻ってきたときには、水瀬は再び寝息を立てていた。先ほどより少し穏やかそうに見える。
「・・・あれ、俺よくもまあこんなことしてるな」
声に出して気づく。一つ屋根の下、同学年の異性と二人きり。よくよく考えれば赤面案件だ。
考えただけで顔が熱くなる。思春期真っ只中というのはこういうことだ。
「・・・と、とりあえず、やることはやったし、俺はどこか部屋の端の方でくつろがせてもらうか」
これ以上余計なことを考えないように、俺は部屋の端の方で体育座りで仮眠を取ることにした。
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目覚めたのは、夕方の五時くらいだった。うん、いい時間だ。
俺はすぐにキッチンへと向かった。そこで簡単なおかゆでも作ることにした。
そして再び部屋に戻るころ、水瀬は目を覚ましていた。随分熱も引いたのか、顔色は大分よくなっていた。それでもまだ本調子ではないのが伺えるが。
「悪いね、ここまでしてもらって」
「まあ、状況が状況だしな。それに、苦でもないしな」
「さぼれたから?」
「それもあるし、それ以外もある。・・・とにかく、気に止まないでほしい。若干俺の独善的な行為でもあるんだから」
そんな話をしていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。足音の重さ的に、保さんだろう。
「ちょっと顔出してくる」
「うん、行ってらっしゃい」
水瀬に送り出されて、俺は一旦部屋をあとにした。
部屋を出た先の廊下には、荷物の片づけをしている保さんがいた。
「お邪魔してます。・・・お仕事お疲れ様です」
「・・・ああ」
保さんはネクタイを緩めて、改めて俺に目を向けた。
「・・・今日はありがとう。助かった」
「え、いや、こういう時はこうするのが常ですし・・・」
保さんから発せられた感謝の言葉に、さすがに驚く。
「ところで、ちょっといいか?」
保さんはそう言って、くいっと庭の方を指さす。
「え、いいですけど・・・」
そう言って、俺は保さんについていくように、縁側へと出た。
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「何度も言うが、今日はありがとな」
二人して座った後、すぐ保さんが言った。
「ええ、それはいいんです。それより・・・」
ここに呼んだのは、それだけが理由じゃないはず。俺はそう踏んで話を促した。
「ああ、特別他意はないんだ。ただ、お前とゆっくり話がしたかった。夏帆以外の海の人間と話す機会なんて、そうはなかったからな」
「そうですか。構いませんよ」
「そうか。・・・なあ、お前は地上が、陸が、この街が好きか?」
「好きですよ。もうずっと前から好きです」
「それなら嬉しいってものだ。・・・本当に、なんで海と陸は分かり合えないんだろうな」
それは、鴛受け止めながら、俺は続ける。
「・・・お舟引きの中止、止めることは出来なかったんですか?」
「ああ。俺はこういっているが、他は違う。年を追うごとに関係は悪化。互いが互いを嫌い合ってちゃ、俺の小意見なんて切り捨てられてしまう」
「そうですか・・・。でも、そういう考えの人が陸にいて安心しました。ずっと仲たがいしたままの関係、嫌なので」
「俺もだ。・・・だから、この場を代表して謝る。・・・すまん」
「やめて下さい。・・・大丈夫ですから」
この人は悪くない。誰のせいにするわけでもないが、そう言えた。
「・・・話は変わるが、学校での千夏の様子はどうだ? あいつも話してはくれるが、外から見たあいつの話を聞かせてほしい」
「学校での、ですか? ・・・そうですね。ちょっと大人しいなとは思いますけど、俺たち海の人間とも仲良くしてくれてます。ありがたいですよ、ほんと」
「そうか。それが聞けて良かった」
「だから・・・元気になってほしいですね。みんなでずっと一緒にいたいので」
これが偽らない、俺の本音だった。
「そうだな。・・・さて、冷えてきたしなんだ、そろそろ入るか」
「いいですけど・・・、俺はそろそろ帰ります」
「そうか、気を付けてな」
そして俺は帰る間際、最後にもう一度水瀬のいる部屋へと立ち寄った。見た感じ、もうずいぶんと回復しているようだった。
「おかえり。・・・あれ、もう帰っちゃうの?」
「まあな。というか、『もう』って俺今日一日中この家いたんだけど・・・」
「ふふ、冗談だよ。じゃあ、また明日ね」
「ああ。早く治してこいよ」
そして俺はようやく、水瀬家をあとにした。
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一人海に身を沈めて考える。
俺が言った、前に進みたいというのはどういうことなんだろうか。
こうやって、誰かとの距離を縮める。それが、俺の言う一歩なんだろうか。
その答えは、まだ出そうになかった。
一次創作に力が入りすぎるあまり、こちらの更新がおろそかに・・・。
あわわわわ。
と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)