凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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かしこまらない前書きって書く内容が無さ過ぎて困るんですよね・・・。

それでは、本編どうぞ。


第三十二話 小さな歩幅、進む日々

~遥side~

 

 それから、海、陸と各々で準備を進めた。その進行度はまとめきれてないが。

 そうした中で、今日は陸で全員そろって署名活動を行うことにした。

 

 一番人通りが多いであろうさやマート付近に張り、署名の準備をする。

 

「・・・さて、一通り揃ったし、始めますか」

 

 机の上でビラをトントンと鳴らして整理し、署名の紙をバインダーに留める。その後目で光に目線を送った。

 

「準備出来てるか?」

 

「おう!」

 

「んじゃ、始めようか。遥」

 

 紡の号令で、話が俺に振られる。一つ咳払いして、俺は今回の内容を話し始める。

 

「ああ。・・・さて、海勢諸君、分かってると思うが夏だ。熱いぞ。と言うわけで、頑張りすぎるのもいいが適宜休憩を、できれば交互に取ろう」

 

 先日の心配が嘘のように、今日は日にガンガンに照らされて、あついのなんのの状態だ。

 

「状態が良くないなと判断したら自分で休んでくれ。とりあえず、ここで倒れられたら本末転倒だからな」

 

「分かった。・・・それで、署名はここらへんでやる、ってことでいいのかな?」

 

「ああ。そもそも鷲大師も言って人が多いわけじゃないからな。ピンポイントで絞らないと逆に数を集められない可能性もある。まあ、そこらへんは追々考えよう。各々方、質問は?」

 

 俺の問いかけに反応する声はなかった。

 

「・・・よし、それじゃあ始めよう」

 

 

---

 

 

 それから時間は経って今は昼下がり。あれからというもの、紙が捌けていないわけではないが、状況が良いかと言われれば微妙なラインで動いていた。

 ただ、署名の方はなにやら順調に言っているのか、俺たちのもとに立ち寄る人がそこそこいた。

 

 ・・・これが、陸の人間の総意ならありがたかったんだけどな。

 

「お舟引き、やりまーす!」

 

「お、お舟引き、やります!」

 

 ちさきと要が木陰で休憩している中、今は光とまなかが二人で前面に出て活動している。

 光は当然ながら、まなかがここまで声を張れるとは思ってもいなかった。・・・それだけお舟引きに強い思いがあるのだろうか。いつも誰かの背中に隠れて、みんなの中で一番臆病だったあいつが、こうも生き生きと行動している。

 

 ・・・いや、今までも、一番行動力があったのはまなかだな。言うにも失礼と言うものだろう。

 

「・・・と言っても、ここまで頑張るまなかは初めて見たかもな、なんて」

 

 小声で呟いたつもりだったが、その言葉はしっかりと隣の美海に聞き拾われていたようだった。

 

「そうなの?」

 

「・・・ああ。昔から、あいつはカクレクマノミみたいな存在だったからな。・・・だからこう、なんだろう。変わったのかな、あいつも」

 

 なんて、それは誰も分からないけど。

 

「タコスケー! やるーー!!」

 

 十分休憩を取ったのだろう、美海のその向こうに座っていたさゆが立ち上がり、光のもとに駆け寄ってビラを受け取る。さゆが先ほどまで座っていたところに代わりに座ったのは水瀬だった。

 

「ふぃー・・・休憩休憩」

 

「お疲れさん。あまり無茶するなよ。この間だって体調崩してたんだし」

 

「分かってるよ。誰かに迷惑かけるの、やだしね」

 

 水瀬はこちらに微笑みかける。その笑みが偽りでないのは分かった。おそらく、本当に無理はしてないのだろう。

 

 そして、場が一瞬静まり返る。その静寂を切り裂いたのは、先ほど飛び出ていったさゆの、息を吸う音だった。

 

「ご・きょ・う・りょ・く・く・だ・さ・痛っ!!」

 

 ・・・うるせえ!

 

 最初の一言聞いた瞬間、思わず鼓膜が破れるかと思うくらいには大きな声だった。今でも鼓膜がビリビリする。

 途中で光が静止してくれたおかげで、全て聞かずにすんだが。

 

「お前は人を脅してどうすんだよ!」

 

「い、痛い痛い!!」

 

 本人も悪気はなかったようだ。その純粋さに、思わず苦笑いを浮かべる。元気なのはいいことだが、元気だけよくても意味はない。

 まあ、真面目な行いに文句は言わないけど。

 

「光、その辺にしといてちょっと行動範囲広げてくれ。この様子だったら、もう少し広げて活動した方が効率いいかもしれない」

 

「そうか? 分かった。まなか、行くぞー」

 

 近くにいたまなかも動員して、光は俺たちの視界の奥の方へと動いて行った。その穴を補填すべく、今度は俺が立ちあがる。

 

「うし、そろそろ休憩終わりますかね!」

 

 さゆも元気よくビラを配り、俺より先に動き出した美海も小さい声ながら頑張ろうとしている。ここでリーダー面して動かないなんて、カッコ悪いの極みだ。

 要も要でありとあらゆるマダムを口説き落とし・・・失礼、説得している。対女性においては要がダントツだろう。

 

 まあ、そんなのはどうでもいい。俺には俺のできることを。

 ただ、それだけを。

 

 

---

 

 

~千夏side~

 

 みんなが動いている中で、私は木陰で休憩。

 自分の体調を鑑みると、それが最善策と分かっていても、もどかしかった。私だけ置いてけぼりにはされたくない。

 

 そうしていると、私との距離をつめるように、ちさきちゃんが隣に座った。

 思えば一対一で話すことがあまりないから、ちょっと緊張する。

 

 けれど、そんな私を気にすることなく、ちさきちゃんは話しかけてきた。

 

「みんな頑張ってるね」

 

「うん。・・・お舟引きをやりたいって気持ちは、みんな一緒なんだと思う」

 

「光なんて、こっちから願い下げだ! みたいにカンカンに怒ってたんだけどね」

 

「そうなんだ」

 

 私の知らない海の話。

 ちょっぴり憧れて、ちょっぴりうらやましくて、妬ましい。

 

「・・・でも今はこうして、陸の子たちとも仲良くできて、光やまなか、・・・遥も楽しそうにしてて、すごく嬉しい」

 

「ちさきちゃんは、どうなの?」

 

「私? 私も一緒だよ。・・・ずっとこのままでいたい。みんなでこうしていたい。変わりたくないって思っちゃ位に、今が楽しい」

 

「そっか。嬉しいな」

 

 届くことはないと思ってたところとの距離が詰まって、今こうして話していられる。

 妬ましい、なんて言っても、やっぱり嬉しいものは嬉しい。

 

 そんなことを思ってると、ちさきちゃんは遠く誰かを眺めながら、ポツリと呟いた。

 

「・・・でも、みんな先に行っちゃうの。なんだか、寂しいよね」

 

 そしてやっと、その視線の先に映っているのが島波君だと気づいた。

 

「・・・島波君の事?」

 

「・・・うん。別に、本人は何も気にしてないかもしれないけどね。・・・遥だけ一人、陸との交友を持つのが早かった。だから、陸で仲良くできる人が多くて・・・。そうして、遥が遠ざかっていくの、見ててちょっと辛いの」

 

「・・・それが、変わるってことなの?」

 

「分かんない」

 

 ちさきちゃんの顔を覗き込む。憂いと哀愁と、何かに満ちた顔だ。

 そして、その奥にある感情が見える。

 

 ・・・これは。

 

「島波君、かっこいい?」

 

「えっ!? 何、急に?」

 

「ごめん、なんでもない。・・・なんでも、ないよ」

 

 ちさきちゃんが顔を赤くする。それにつられてかつられずか、私の顔も赤くなっていった。

 我ながら、大胆なことを聞いたものだ・・・。

 

 

 ・・・けど。

 そうして赤面してしまうくらい、島波君のことが頭にあるのも、事実だ。

 

 

---

 

~遥side~

 

 作業は、時が過ぎるごとにどんどん順調になっていく。

 そうした中、休憩になったのかさやマートからあかりさんと、どこからか至さんが出てきた。

 

「へぇ、結構やってるんだね」

 

「こうでもしないと話になりませんからね。ダブルミーニング」

 

 ドヤ顔であかりさんの方を向いたが、その話題はスルーされた。

 

「光が言い出した時は一体どうするつもりだ、なんて思ってたけど・・・、うん。この様子なら問題なさそうだね。遥くんもいるし」

 

「買いかぶりすぎですよ・・・。俺だって、まだ、ただの14歳ですからね?」

 

「その14歳がこうして大人に対抗しようと段取り組んで行動してるんだから、大したもんだ」

 

 嫌みっ気なく、あかりさんが言う。その表情にある安堵を見る限り、他意はないのだろう。

 

「おーいあかり、署名してくれよー!」

 

 遠くでの作業を一旦やめて光がこっちに駆け寄ってくる。

 

「はいはい焦んない。ちゃんと書くから」

 

「そうだ、遥くん。僕に出来ることはあるかな?」

 

「そうですね・・・。今日、取り急ぎの話ではないですけど、漁協内のお舟引き賛成側を集めてサポートに徹してくれませんか? 会議の場が設けられることが第一目標なので」

 

「分かった。約束するよ」

 

「あとは・・・なるようになる、か」

 

 小さな一歩を積み重ねて、俺たちは進んでいく。

 交渉の席がどれだけ遠くても、カードが劣悪でも諦めない。

 

 

 例え道行く先が苦難の連続であっても、ここまできた証を、誰もが無駄にしたくないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はてさて時が流れるのは早いもので、作者は大学生になりました。
ちょうど前作を書いたのが高校二年のGW前。そこから半年の旅でした。

そう考えると、結構なことやってるんですね、私も。

と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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