凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
それでは、本編どうぞ。
~遥side~
それから数日、署名を多く稼いだことが実って、会議の開催に辿り着くことに成功した。
光の方は灯さんともめにもめたそうだが、そこはあかりさんの尽力もあり、なんとかたどり着いたようだ。
陸も陸で一苦労したそうだが、ここは有志の数が多かった分、簡単に説得で来たらしい。そこには至さんや、保さんの姿もあった。
そして今、海と陸の代表がそろって卓についている。当たり前のようで、当たり前とは程遠い光景を、俺は室内から見ていた。
卓には海側の代表が三人、陸側の代表が三人。海側の席には、当然のことながら灯さんが座っていた。この場に保さんがいないのは気がかりだが。
そして、窓の外には制作にかかわったほとんどの人が待機していた。全員で話し合いができるならそれでいいのだが、バチバチの対立関係にある大人の間に、子供を混ぜるのは危険すぎる。代表して俺と光、紡と水瀬が部屋に入っている。
「で、ではー・・・始めましょうかねぇ・・・?」
「先生ビビりすぎだろ。もうちょっと堂々としてくれよ」
はっきり言って、頼りない。
そうは言っても俺たちはまだ無力な子供だ。頼りにしたい大人がこうであっては困るのだ。
そんな震える声で、先生は司会を始める。
「それでは、中止になったお舟引きについてですが・・・」
先生の声に合わせて、光が威勢よく机に署名の紙をバンと貼り付けた。
「ここに署名がある。俺と遥、波中のみんな、そんでもって手伝ってくれた陸のみんなで集めたんだ。それに、そこのおじょしさま、あれ作ったのも俺らだ! 俺たち海の子供と陸の奴らで協力して作ったんだよ!」
光は大人に屈しない、強い口調で言い放つ。
その言葉に追従するように、俺も自分の意見を述べた。憎まれても責めるなら今しかなかった。
「これが子供が頑張って生み出した協力の結果です。・・・大人の事情がどんなものかなんて子供達には分かりません。ですが、子供に出来て大人にできない、それって子供に示しがつかないんじゃないですかね?」
とりあえず言うだけ言って次の言葉を待つ。
そんな俺の意見を聞いてか聞かずが、漁協の人たちはおじょしさまを見あげ、おぉ・・・と小さく声を上げた。海の人間の態度は相変わらず冷たかったが。
「これはすげえな・・・。誰が彫ったんだ?」
「それに、供え物もちゃんとしてらぁ。子供が作ったものにしてはクオリティが高よなぁ・・・。数年前のあれにはかなわねえが、これは立派なもんだ」
「俺らが作った時、こんなに上手にできてたか?」
あちらこちらで感嘆の声が上がる。それだけでやってきた価値があると思えた。
けれど、それだけじゃ終われない。終わりたくない。
「そのおじょしさま、遥が作ったんだぜ」
光が鼻を鳴らして、誇らしげに言い放つ。その言葉に反応したのは灯さんだった。
「ふむ、お前がか、遥」
「ええ。なんて言っても、俺一人で作ったんじゃありません。協力あってこそです。・・・これを見て、何も感じないんですか?」
「ふむ・・・」
灯さんは腕を組んだまま黙り込む。
「えっとー・・・、まあ、生徒たちも頑張っているという事ですし、どうですか皆さん? ここは陸と海でのお舟引きをやるというのは・・・」
先生の言葉で、場に少しの沈黙が流れる。
そして、陸の大人連中はお互いに顔を見合わせた。そして意見がまとまったのか、ポツリと言いだす。
「しゃあねえな。こっちとしても、お舟引きはやりたかったんだ」
「おうよ。海で仕事する人間たるもの、神様を疎かにはできねえしな」
その言葉に呼応してか、海の人間も声を上げた。
「坊主どもがここまで作り上げたんだ。灯さん」
「こっちも、過去のことは水に流そうや」
海の人間は灯さんに提案する。しかし、灯さんはというと黙ったままだ。
けれど、灯さんの言葉より先に、言葉を発したのは陸の人間だった。
「・・・んじゃ、はよせんか」
「なんや?」
「そんなの決まっとるやないか。謝罪や。謝罪」
下卑た笑いを浮かべた陸の大人連中が海の大人に謝罪を促す。当然、激昂しないはずがなかった。
「・・・はぁ!? なんでそんなもんこっちが・・・! 大体、やらん言い出したのはお前らやろうが!」
「ぬかせ! 大体、数年前に海側が言い出したんだろうが!『金がないから規模を小さくしてくれ』なんて、ふざけてるのはどっちや!」
双方机から身を乗り出し、本気の怒声で喧嘩を始める。止めようにも気圧されて先生は行動できず、光も硬直している。水瀬や紡もどうにかしようとしていたが、どうにもできないでいるのが現状だ。
・・・ああ、なんて。
なんて、醜いんだろう。
過去の因縁が、今の軋轢が、互いに手を取り合う可能性すら潰すというのか。
海と陸、決して結ばれることのない両者。
なら。
『どちらでもない』俺が、敵になればいい。
そんな安直な考えで、俺は両者の間に入ってまずは陸の人間を睨みつけた。
「なんや? ガキはすっこんでろ!」
「・・・まだ分かんねえのかよ。なあ・・・」
「あ!?」
「みんな見てんだよ・・・。子供が何も知らないからって、それを無下にして・・・。てめえら大人はそうやって!! 何も学ばないで生きてくだけなのかよ!!」
地面を一度、ダンッと踏みつけて精一杯の威嚇を行う。
「お前ら大人は、子供に何を伝えてえんだよ!? さっきも言ったよな!? 子供に出来て大人にできないことがあってどうするんだよ! 何のために早く生まれたんだよ! あぁ!?」
「黙ってりゃいい気になりやがって! このクソガキが!!」
耐えかねた陸の大人の一人が俺の胸倉をつかみ、そのまま壁の方へ投げつける。
どうすることもできず、俺はただ、コンクリートの壁にたたきつけられた。
つぶれそうなくらい肺が痛む。呼吸が苦しい。遠くから俺の名を叫ぶ声が聞こえるが、そんなことはどうでもいい。脳は恐ろしいほどに冴えている。
まだ、言い足りない。
「・・・てぇな。痛えなぁおい。気に食わないことがありゃそれだけですぐ暴力かよ」
呟くと、再び殴られる。ごつごつしたその手がクリーンヒットしてしまえば、顔が腫れるのは避けられなかった。
それでもまだ立ち上がる。
俺が説教をかましたいのは、何も陸の人間だけじゃない。
・・・お前らなんだよ、海の大人連中。
「・・・おい、何黙ってぼーっと見てんだ、海の大人連中。・・・あんたらも同罪なんだよ、俺たち子供の立場からすればなぁ!!」
「なっ、てめぇ!」
「因果? 軋轢? 掟? どうでもいいんだよ! なんでもかんでも陸のせいにしてりゃそれで済んで、生き方の自由さえ奪おうとして! 分かんねえのかよ! 俺たちはもう、とっくに気づいてるんだよ!!」
「黙れや小僧が!!!」
畳みかけるように二人の大人が壁に寄り掛かっている俺の方に殴り込みに来る。けれど、抵抗する気力など最初からなかった。
そして俺は、殴られるべくして殴られる。蹴られるべくして蹴られる。
当たり所が悪かったのか、足の方から嫌な音が聞こえる。それでも痛覚が鈍感になっていただけましか。
体が壁にたたきつけられて三度目になるころ、いよいよ意識の限界が来た。
遠くで光の怒声と、水瀬の悲鳴が聞こえる。遠目に紡がおじょしさまを守ろうとしているのが見える。光は何度か俺を庇おうと近づこうとしたが、俺はそんな光を精一杯にらんだ。
『お前まで犠牲になる必要はない』
この咎を受けるのは、俺一人でよかった。
しかし、そんな防戦むなしく、投げ飛ばされた俺の身体が運悪くおじょしさまに当たってしまった。そのままおじょしさまは折れてしまう。
そんなおじょしさまに目を向けて、空虚な目を灯さんは光に向けた。
「・・・これで満足か?」
その時、俺の何かが切れた気がした。
「て・・・めぇなぁ・・・!!!」
よろめく体で立ち上がる。防戦と言っておきながら、目の前の大人一人殴り飛ばさなければ気が済まなかった。
けれど、そんな俺だったが次の言葉で体は止まった。
「・・・俺たちは、何をしているんだろうな」
灯さんが残念そうに呟く。その目の奥はどこまでも寂しそうで、寂しそうで。
そして動くのをやめた瞬間、俺の身体は崩れ落ちた。
いまだに生きている聴覚が外から近づいてくる音を拾う。誰かが、この場所に入ろうとしている。様子を伺おうと前々から話していた至さんだろうか。だとすると危険どころじゃない。
俺は水瀬にアイコンタクトを送った。できるなら、止めてほしいと。
水瀬は俺の視線を受け取って、ドアの外に向かった。
けれど水瀬は、その人物を止めることなく、中へと入れた。
入ってきたのは、保さんだった。
感情表現をセリフで書くのって難しいんですよね。
避けては通れない道なので頑張りますが。
それでは、今回はこの辺で。
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また会おうね(定期)