凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
現実的に書くのはいいんですが、現実的過ぎても・・・。
本編どうぞ。
~千夏side~
目の前で傷つくだけの島波君を見ていただけの私。
何一つできることなく、気が付けば全てが終わってた。
後悔を乗せた車は病院へたどり着く。もちろん、島波君の診断のためだ。
待つこと30分くらいだろうか。ドアから出てきた島波君の表情には、心なしかまだ余裕があるように見えた。
それが不思議でならない。
どうにかその感情を抑えながら、ただ島波君の方を向く。
いや、違う。
向こうとしたが、出来なかった。どんな顔をしていいか分からない。それに、顔を合わせてしまったら、どんな言葉を発してしまうか分からない。
黙ってうつむいたまま、島波君とお父さんの話に耳を傾ける。
「・・・確認するが、診断結果はどうだった?」
「あちこちに打撲、内出血、それと足にヒビ、らしいです。軽いのが幸い、だそうです。顔も目立った傷がるわけでもありませんし」
・・・なんで?
なんで、そんな涼しい顔でいられるの?
痛かったんでしょ? 辛くないはずないでしょ?
なのに、それを一人で抱え込んで、平気な顔して・・・。
・・・違うでしょ。
違うでしょ!!
「バカじゃないの!? あんな無謀なことをして、自分だけ傷ついてそれでいいって終わらせようとして!」
「っ! お前な・・・」
ああ、言ってしまった。後悔だけが浮かび上がってくる。
けれど、荒ぶる感情を抑えることなんてできない。口先は止まらない。
「違うでしょ!? あんなことをしても、誰も幸せにはなれない! 島波君が傷ついて喜ぶ人なんて、いないのに・・・! 私が、私たちが望んだのは、あんな姿じゃないよ!!」
「だったら・・・! だったらどうすればよかったんだよ!!!」
勢いよく放たれた怒声に私は凍り付く。
しかしその怒声は次第に温度を無くしていった。
「・・・ほかに、どうすればよかったんだよ・・・! ただの話し合いがダメなら暴力で解決しようとする連中のあのままにしてちゃ、今頃もっと・・・ひどくなる可能性だってあった。・・・なのに、どうしろって言うんだよ」
島波君が怒る。当然だ。怒らせるようなことを言ったんだから。
けど、それでも内なる私は止まらない。
「何のために私たちがいたか、考えてよ・・・。黙ってみてるだけなんて、そんなの・・・」
言い終わって気づく。
・・・違う。
私が言いたかったのは、こんなことじゃない。もっと簡潔に、思いを言えばいいだけなのに。
胸の中が震えて、もう声を出せる気がしない。きっとこの声は、今は島波君には届かない。
そこからはもう、何も考えなかった。お父さんが島波君を家に泊まらせる提案をしたけど、正直もうどうでもよかった。
少なくとも今の私は、島波君には会えない。
・・・ああ、最低だ。
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~遥side~
『うちに泊まらないか?』という保さんの提案は、ありがたいものだった。
全てを敵に回して、身寄りをなくしたと思っていたところでの提案だったのもある。けれど何より、誰かの優しさが身に染みた。
「とりあえず、客間でいいだろうか?」
「十分です。・・・ありがとうございます」
家へ着くと、保さんに部屋に案内された。この間水瀬を寝させた部屋。まさか俺が使うことになるとは思ってもみなかった。
この部屋は一階に存在する。階段を上ることが厳しい怪我というのを考慮してこうしてくれたのだろう。その配慮はありがたかった。
「・・・さて、荷物などどうしましょうかね。当分ここに住まわせてもらうことを考えると、最低限の衣類などが必要になるんですけど、この怪我じゃ帰れませんし・・・」
「ああ、そこに関しては問題ない」
曰く、保さんは事前に至さんらに「もしものことがあったら頼む」と連絡をしていたらしい。
実際、保さんが来た時、至さんがちょうど会議室に入ろうとしていたそうだ。もしあの場で静止する人間が居なかったらどうなっていただろうか、なんて考えるとゾッとする。
保さんが静止してくれたおかげで、俺一人の被害で済んだのかもしれない。
・・・なんて、そのほかに残した傷跡が多すぎるけど。
結局、俺の荷物はあかりさんが持ってきてくれるそうだ。海と陸の間にまた亀裂を生んだのだ。・・・陸に上がるなら、今しかなかった。
「・・・とにかく、しばらくは安静にしててほしい。陸の大人は私が叱っておく。少なくともあれは、子供たちに見せるべき姿勢ではないだろう」
「喧嘩吹っ掛けたの、俺みたいなもんなんですけどね」
「だからといって手を上げるのは違う。道理に反している。・・・全く、いつからこうなったんだろうな」
「分かりません・・・。それこそ昔からの因果、なんじゃないですか?」
「だとしたら、どうすればいい?」
保さんから発せられる、弱気な質問。
それに応えることが出来る俺ではなかった。
「・・・すいません。今の俺には、ちょっと」
「そうか。・・・悪かったな。ゆっくり休んでてくれ」
そうして保さんは一人部屋を去っていった。ドアが閉められて、ようやく俺は一人を実感した。
体を倒して、天井を見上げる。
今になって体がさらに痛み出す。全ての緊張が切れたからだろうか。
その痛みを忘れるべく、俺は目を閉じる。
自分の進んできた道が、進んでいく道が正しいのか考えながら。
自分が前に進めているのか、何か変わることが出来たのか。
そんなことを思いながら、俺は目を閉じた。
・・・
「・・・んっ」
どうやら、短い時間だが眠ってしまっていたらしい。動いた時の電流が走るような痛みで目が覚めた。
時計に目をやる。時間はもう夜に差し掛かろうとしていた。
ドアの外から、話し声が聞こえる。どうやら夏帆さんももう帰ってきていたようで、なにやら二人で話しているようだった。
それからしばらくして、そこから足音が一つこっちに向かってきているのを感じた。そして間もなく、ドアも開かれる。
「おう、ちょっといいか?」
入ってきたのは保さんだった。相変わらず表情に色がない。
「ええ、構いませんけど・・・。どうしましたか?」
「ああ、潮留から電話がかかってきたんだが、彼女さんがまだ帰ってきてないらしい。こういう時、何が起こってるのか分かるか?」
その話を聞いて、思い当たる節は一つしかなかった。
さっきの件のこともある。関係がさらに悪化したとなれば、ウロコ様も黙ってはいない。
だとすると・・・。
「とりあえず、至さんらのアパートに向かいましょう。こういう時は直に言ったほうが早いです」
杖を支えにして立ち上がる。もう体の痛みも幾分か引いていた。
「そうは言っても、お前は怪我しているんだぞ?」
「大丈夫です」
「・・・そうか」
少々食い気味にかかった俺の言葉で腹をくくったのか、保さんはそう言って外に向かった。おそらく車の準備をするのだろう。
後を追うように俺も付いて行く。
「あら? おでかけ? 行ってらっしゃい」
後ろから呑気な見送る声があったが、気にしなかった。
そうしてまた車は走る。雨が上がってなお曇天の夜を切り裂きながら、答えのない何かを目指すように。
ここまでは前作通りの話数で進んでいますが、今後追加展開する場合、話数が前作とずれるようになるかもしれないのでご了承ください。
それでは、今回はこの辺で。
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また会おうね(定期)