凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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まだ原作より、まだ原作寄り・・・。
本編どうぞ。


第三十六話 瞳の奥に映るもの

~遥side~

 

 数分後、俺は至さんらのいるアパート付近に着いた。

 至さんは美海共にアパートの外で、今か今かとあかりさんの帰りを待っていた。しかしその表情はいい色をしていない。

 

「ああ、遥くん。来てくれたんだね」

 

「ええ。・・・というか至さん、真っ先に俺に聞けばいいと思わないでくださいね?」

 

「でも、聞けば大概のことは知ってるってあかりが言ってたし・・・」

 

 うーん、この・・・。

 

「ところで、揃っているようだし、状況を説明してもらえないか?」

 

「あかちゃんは今、どうなってるの?」

 

 美海と保さん双方から最速の言葉が来る。俺は気を取り直して今回のあかりさんが直面してるであろう状況を説明することにした。

 

「そんな大層なことじゃないですけど・・・。ウロコ様が多分、足止めか何かをしてると思いますよ」

 

「足止め?」

 

「ええ。海の中で二人の周辺の気候だけ変更したり、体から魚を生やしたり・・・、まあ、いろいろです。言えば呪い、ってやつですか」

 

「そうまでする理由が、ウロコ様にはあるのか?」

 

 ある。

 

 ただ人材流出を防ぐだけならこれまでも海は行ってきたが、ウロコ様の直接的な妨害はなかった。

 つまり、もうこれまでとは違う状況へと変化している。それが、俺が勉強に勉強を重ねてたどり着いた真理だった。

 

 海は今、世界は今、崩壊に近づいてきている。

 

 思えばここ数日の寒さもそれに影響しているのかもしれない。確信はないので、言葉にしないが。

 

「ありますよ。詳しい事情は確証がないのでお話できませんが、海側はあかりさんを行かせたくない。その気持ちに間違いはないです」

 

「あかちゃん、もう陸に来れないの・・・?」

 

 俺の話を聞いて、美海が不安げに言葉をポロリとこぼす。

 俺はそんな美海の頭の上にそっと手を置いて軽くなでた。

 

「大丈夫、あかりさんは絶対に来る。・・・もう美海をひとりになんてさせないよ」

 

 確証はない。けど、俺は言い切る。

 美海の母親になる。そんなあかりさんの覚悟に間違いはない。

 

 だったら、こんなところで投げ出すはずがない。投げ出していいはずがない。

 

「・・・そう、だよね」

 

 それでも美海は不安そうにする。俺はただ、その不安を和らげるくらいのことしか出来なかった。

 

「ところで、足止めって・・・どんなのがあるの?」

 

 何気なく、至さんが尋ねる。俺は俺の知識の範疇で答えることにした。

 

「そうですね・・・。さっきも言ったようにあれは呪いの一部なので、なんでもあります。体から魚を生やしてくることもあれば、急に高熱にうなされることもある。・・・ほいほい用もなく陸に上がろうとすると、時々吹雪に見舞われて凍らされたり・・・。まあ、いろいろです」

 

 そんな俺の体験談を聞いていくにつれ、至さんの表情はどんどん青ざめていった。

 

「え、ええ!? それってあかり、大丈夫なのかい!?」

 

 

 その時、後ろから聞きなれた声がした。

 

「大丈夫だって、心配しない」

 

 そこにいたのは、ぼろぼろになったあかりさんと・・・光だった。

 誰が言葉を発するよりも先に、保さんが俺だけに告げる。

 

「・・・先に帰っておく。終わったらまた呼んでくれ」

 

 そう言って保さんは一人車を動かして帰っていった。

 それから各々が口を開く。

 

「あかり!」

 

「あかちゃん!」

 

「はいはい、大丈夫だから落ち着きなよ」

 

「とりあえず、中に入らせてもらっていいか? 体温すっげえ下がってるし、口の中じゃりじゃりしてよ」

 

「そうだね。みんな、中に入ろうか」

 

 至さんの号令で、俺たちはアパートの中へと入っていった。

 

 

---

 

 

「なるほど、それで心配していたと」

 

 あれからアパートの中に入り、今は食卓を囲んで座っていた。

 

「といっても、ウロコ様の呪いの中じゃ、あの凍らされる呪いが一番しんどいですよ。下手したら気絶しますし」

 

 小さいころ、俺も何度か同じようなことをされた。

 最も、あの時はいたずら混じりでの呪いだったのかもしれないが、今は違う。

 

 心の底から、意味の籠った呪いだ。

 

「殺さないにしても、無力化、そして海へと戻してお説教、ってところじゃないんですか、今回は?」

 

「・・・うん、そうだと思う」

 

 あかりさんは悲しそうに呟く。その隣で燃えていたのは光だった。

 

「俺はともかく、あかりはなんにも悪くねえんだよ! ・・・それなのに、ウロコの野郎・・・!!」

 

「そうなのは分かるが、お前まで出てくる必要はないんじゃなかったのか? 海にあいつら残したまんまで」

 

「・・・悪いとは思ってるよ。けどな! あんなこと言われて、遥もこんなになって、親父や海の連中と顔を合わせられるかってんだ!」

 

 一通り怒るに怒って、光は心配そうな顔を俺に向けた。

 

「・・・ところで、大丈夫かよ、お前。結構めちゃくちゃにやられてたじゃねえか。それに、足も・・・」

 

「ああ。つっても打撲とヒビくらいだし、なんともねえよ。顔に傷がないのが不幸中の幸いだな。ハハッ」

 

「笑い事じゃねえだろ・・・。・・・そうやって我慢するの、好きじゃねえんだよ」

 

 光は呆れて呟く。と言っても、その言葉はごもっともだった。

 俺は多分、無理をしている。無自覚の中で、治すことも出来ないくらいに。

 

 そうしないと、生きていけないような気がして、これまでを生きてきたから。

 

 けれど今は、目の前の光にどこか感心していた。

 陸の人間を忌み嫌って、好きの感情にも向き合うことが出来てないで、誰よりも純粋で、誰よりも子供だったはずの光が、いつの間にかこうなっていた。

 

 そこに可能性を感じてしまう。・・・変わることができる、という可能性を。

 

「まあ、痛いっちゃ痛いけど自業自得だから泣き言は無し。そこは俺も分かってるから。・・・ところであかりさん。例のもの、持ってきてくれました?」

 

「例のもの?」

 

「着替えとかそういうの。なんせこの足だろ? 海には当分帰れねえからさ」

 

「なるほど。・・・んで、どうなんだ? あかり」

 

「・・・」

 

 あかりさんは何も発さなかった。こちらの言葉に気づかなかったのだろうか。ただその瞳には寂しさがにじんでいる。

 

「あかりさん?」

 

「・・・あっ、どうしたの? 遥くん」

 

 こちらの呼びかけに今度は気づいたようで、慌てて俺の方を振り向いた。

 

「いえ、頼んでたあれなんですけど・・・」

 

「ああ、持ってきたよ。遥くん、普段から荷物を結構まとめてるんだね。光とは大違い」

 

「うるせーよ。最低限片付いてりゃいいだろ」

 

「意外とそうでもないぞ。次使う時のことを考えると・・・」

 

「あーはいはい、分かってますよ精進します」

 

「じゃあ、あとで受け取りますので」

 

「うん。そうして」

 

 そして、会話がパタリと止む。先ほどのあかりさんの様子が気にならない人間はどこにもいなかったのだ。

 

 その中で、勇気を出してか至さんが声を上げる。

 

「ねえ、あかり。これでよかったのかい?」

 

「え?」

 

「・・・昔ね、みをりもそんな目で海を見つめていたんだ。・・・今のあかりも、そっくりでさ」

 

「目・・・?」

 

 あかりさんは至さんの言葉に困惑する。

 その言葉の意味をいち早く理解したのは俺だった。

 

「至さん、こう言いたいんですよね? 『みをりは海を抜け出す形で僕の妻になってくれた。でも、同じように海を寂しそうに見ていた。きっと、海の人に賛成されて結婚したかったんだと思う。今のあかりも、そんな目をしている』って」

 

「えぇ!? ・・・でも、大体あってるかもしれない。みをりがそんな目をしてたこと、知ってたの?」

 

 勝手に気持ちを代弁されてなお、至さんは俺を叱らず言葉を添える。

 そうした懐の深さ、優しさに、至さんを好きになった人は惹かれたのだろう。

 

「ずっと、ここに通ってましたからね。・・・あれだけ大事な人だったんです。ずっといれば、それだけ相手のことも分かるんですよ」

 

「至さん、それってプロポーズ?」

 

「えっ? あっ・・・そ、それは」

 

「はっきりしろよな! 俺をイライラさせんな!」

 

「落ち着け光。タイミングってものがあるだろうが。・・・気持ちは間違いないだろうし」

 

「・・・まあ、そうだよな」

 

 一時は感情に身を任せて至さんをボコボコにした光だったが、俺の言葉をすんなり受け入れて静かになった。

 

 そして、各々の熱が冷めたところであかりさんは呟く。

 

「・・・私ね、反対されててもいいんだ。・・・ただ、こうしてここで今日起こったことを笑い合いながら話し合って、食卓を囲んで、ささやかな幸せを手に出来れば・・・」

 

「あかり・・・」

 

 

 

 あかりさんが自分の心中を穏やかに語る。

 誰もがその言葉を真正面から受け止め、首を縦に振る。

 

 

 ・・・ただ一人、美海を除いて。

 

 




はんぺん! 
前作の36話で「長ったらしい文章はあんまり好きじゃないので」とかほざいてますが、今の私は地の文大好きマンです。
といっても、入れすぎるとくどくなるのでほどほどにしますが。

それでは、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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