凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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この回はある種の分岐点・・・か?
まあ、とりあえず本編どうぞ。


第三十九話 君に伝う想い

~ちさきside~

 

 私は、遥のことが好きだ。

 ずっと前から、その背中を追っていた。そしてそれは、今も変わらない。

 

 それを、ずっと口にすることが出来ないままで、ここまで来た。

 日に日に思いは強くなっていく。どんどん遠ざかっていくその背中を、私はもう眺めたくなかった。それなのに、私は踏み出すことを躊躇う。それで、みんなの関係を壊したくなかったから。

 

 変わりたくない。ずっとこのままでいたい。そんな願いと、遥を好きだという気持ちを混同させていた。

 けど・・・みんな、どんどん変わっていっちゃう。

 

 意識しないところで大人ぶって、おとなしい自分でいた内に、みんなに取り残されていく私がいた。

 

 そしていつか光に怒られた。『大人ぶるな!』って。

 それで、私の中で何かが変わった気がした。どこか、私を縛っていた糸が断ち切られた気がした。

 

 だからもう、私も大人ぶるのはやめにする。

 それは、今だけの覚悟、今だけの勇気かもしれないけど。

 

 私は、遥に好きを伝える。

 

 

---

 

 

~遥side~

 

 

 電車に揺られて約一時間、ようやく街へと着いた。

 降りてみると、改めて遠い街へ来たんだなと再確認させられる。この感覚も久しぶりだ。

 

 寝ていた面子も、あくびや伸びをしながら降りてくる。

 そして全員集まったところで、俺たちは広場の方へと抜けていった。

 

「ところで紡、用事の方はどれくらいで終わる?」

 

「そんなにかからない、10分程度で済む。多分、途中で抜け出す形になると思うけど、それ以外は大丈夫」

 

「分かった」

 

 必要最低限の情報だけ聞きだして、俺は話を終える。

 知らぬが仏、触らぬ神に祟りなし。踏み入った話をしないでおく方が良いのが世の常ってものだ。

 

 一方そのころ、美海は街のビル群を見上げていた。物心ついてここに来るのは初めてなんだろう。上を見上げて、歩き続けて・・・、そして、転んだ。

 

「あいた」

 

「おいおい・・・大丈夫か?」

 

「うん。結構久しぶりに来たから、少し驚いただけ。昔来たときは、まだ私も小さかったし・・・」

 

 そこで美海はボリュームダウンする。みをりさんのことを思い出したというのは明らかだった。

 

 それ以上聞くこともなく、俺はそっと美海に手を差し出す。美海は俺の手をしっかりと握って立ち上がり、それ以上は何も言わなかった。

 

 そうしたところで、まなかがふと言葉を漏らす。

 

「潮の香り、全然しないね」

 

「そりゃ、一時間かけないと来れない場所だからな。海から山側に向けて走ってるから、こうなるのは当然っちゃ当然なんだけど・・・」

 

「エナ、乾いたらどうしよう・・・」

 

 心配そうな声をあげる。なるほど、海との距離を気にしていたのはそのせいか。

 

「・・・おい、まなか。あれを見ろ」

 

「えっと・・・? 『塩水あります』・・・。そっか、あるんだね!」

 

 街側も海に人間がいるということを考慮してくれているようで、そうした看板があちらこちらにちらほらと見受けられた。

 こうしたところでも海と陸は繋がってるっていうのに・・・。

 

「まあ、そんなわけだ。とりあえず色々見て回ろう。そこで美海が決めればいいさ」

 

---

 

 

 

 それから、行き当たりばったりでいくつかの店に回ってみた。が、美海の中でこれというものはなかったらしく、特別進展はなかった。

 ただ、方向性が決まったことは収穫と呼べるだろう。

 

 

 体は嘘をつかない。

 怪我を負った足を引きずった状態での歩き回るという行動はなかなか体に来るところがあり、疲労を感じる速度は普段の倍だった。言っては何だが、休みたい。

 

 けれど、美海に付き合うと言ったのは俺で、今日ここに来ることを選択したのも俺だ。そうそう足を引っ張るわけにはいかないだろう。

 

 六軒目の店を回っていると、ふと美海の足が止まった。その視線には、煌びやかに輝いているペンダントが一つ。

 俺もそれを注視して見る。そして、瞬時にそれを悟った。

 

 あまりにも、高すぎる。

 

 全員の財産を総力してやっとだろうか。目の前のものにはそれだけの価値があるようだった。無論、買えるはずなどない。

 

 難し気な顔をしている美海に追い打ちをかけるように、光は無意識に声を上げた。

 

「なんだよこれ! すげぇ高ぇじゃねえか!」

 

 その無意識の言葉は、美海に突き刺さる。

 

 ・・・はぁ。全くこのバカはホント・・・。

 

 俺は、残念なものを見る目を光に向けた。

 

「なんだよ、遥」

 

「お前、ホントに空気読めねえのな」

 

「はぁ、なんだよ急に」

 

 本人はやはり無自覚なようだった。だからこそ、余計にあきれる。成長しているのか、してないのか・・・。

 

「あれが高いのは一目瞭然だ。当然、美海も分かってたし気にしてたはずだ。それなのに、あれだけ堂々と高いなんて言ったら、美海落ち込むだろうが」

 

「わ、悪かったよ・・・」

 

 多少語気が強まっていたのか、光は少々引いたような様子で俺に謝った。

 けれど、謝るべきは俺じゃない。

 

「俺じゃない。・・・あとで美海に謝っとけ。お前が悪気がないのは分かってるだろうから、許してくれるはずだ」

 

「分かったよ。・・・はぁ」

 

「何か不服か?」

 

「お前もお前で、過保護だよなぁ・・・。好きなのか?」

 

 何気ない光の言葉とため息。けれど、それが今は少しばかり胸に傷を残していった。

 

『好き』・・・か。

 今は、その感情の話をする時じゃない。

 

 俺は光から顔を背け、美海のもとへ歩み寄った。

 

「どうする、美海。次の店、行くか?」

 

「・・・うん」

 

 やはり美海はかなりトーンダウンしていた。うん、やっぱり後でもう一回〆ようか。

 

 

---

 

 

 次の店にいざ入ろう、といったところで、紡の用事の時間が来た。

 

「悪い。そろそろだ。一旦抜ける」

 

「気にすんな。無理言ってんのはこっちなんだ」

 

「時間はかからない。この店にいるなら戻ってくる」

 

「分かった」

 

 そうして遠ざかっていく紡の背中を見送って、俺たちは店内へ入った。

 店内は人波でごった返していた。休日の街は、やはり恐ろしい。

 

 はぐれそうになるのを防ぐために、俺たちは極力固まって行動する。

 しかし、今回ばかりは無理があった。

 

 美海が気になった店はどうやらビルの最上階にあるみたいだったが、そこへ行くにはエレベーターが必須だった。しかし、この人の量ではあふれる。

 

 次の便なら多分空いている。そう判断した俺は自らその場に残る宣告をした。

 

「あれ、遥?」

 

「先行っててくれ。ほら、この足だし、大人数の中でもみくちゃにされたら溜まったもんじゃない」

 

「分かった。それじゃ、上で待ってるからな」

 

 そして、俺以外のメンバーはエレベーターで昇っていった。

 

 

 ・・・はずだった。

 

 

「遥」

 

 そこにいたのは、ちさきだった。

 

---

 

 

 それは、偶然だった。

 私はみんなから少しだけ離れた場所にいたから、その場にいないことは気にされなかった。

 

 遥は自分の足を考慮してエレベーターに乗るのを避けた。

 そして私は、乗ることが出来たけどもあえて自分から降りた。

 

 理由は一つじゃない。けど、根底にある理由は変わらなかった。

 

 ”私は、遥と二人きりになりたかった。”

 

 

「なんだよ、ちさき。乗らなかったのか?」

 

「うん。私が乗って重量オーバーになるの、嫌だったから」

 

 なんて、半分ホントで半分嘘。

 けど、変に怪しまれたくはなかったから、またこうして嘘を吐く。

 

 自分を偽るための嘘なんて、大人ぶってるって言うのかな?

 

 

「そうか」

 

 それ以上の言葉もなく、遥と私は黙り込む。

 

 ・・・踏み出せない。、

 勇気が出ない。きっと、こんな機会今しかないって分かってるのに。

 

 きっと、怖いんだ。ここで告白して今までの関係が壊れちゃうのが。まだ、心のどこかで。

 変わることを躊躇って、どこかで嫌って。

 

 ・・・でも、そんなことじゃ前に進むことも出来ない。

 大人になんて、なれないかもしれないから。

 

 この気持ちを、伝えるために。

 

「ねぇ遥。ちょっと聞いてもらっていいかな」

 

「うん、なんだ? いいけど」

 

「ありがとう」

 

 一度礼をして、全て思っている言葉を吐く。

 

「・・・遥はさ、優しいよね。いっつもそう。今日だって美海ちゃんのために、傷ついた足をどうとも思わないでここに来て。・・・今日だけじゃない。ここまでみんな、その優しさに助けてもらった」

 

「・・・結局、何が言いたいんだ?」

 

 

「私ね・・・、遥のことが、ずっと大好きなの」

 

 




『今日の座談会コーナー』

作者である私が一番好きなキャラは、実はちさきなんですよね。
ただし、『本編14話以降』という条件が付いていますが。

前回の座談会コーナーの最後で言った内容の引継ぎな話題ですね。

謎の性癖といいましょうか、海村の人間の中で一人だけ大人になってしまったという時点でもうぞくぞくします。14話の冒頭の「え、え、は?」みたいな感覚は今でも覚えています。

ほんと、謎の性癖ですね。


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それでは、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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