凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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細部をふくらます、というのは今作のコンセプトの一つです。
それでは、本編どうぞ。


第四十一話 純白の誓い

~遥side~

 

 それからしばらくして、俺は潮留家から帰宅した。流石に保さんに迷惑はかけられないので、自分の足で、だ。

 

 そして家に辿り着くころには、流石に疲労がピークに達していた。足が棒のよう、とはよく言ったものだ。それだけじゃなく、全身の倦怠感が石のように上からのしかかってくる。

 

 けれど、俺はやるべきことを達成していない。

 

 ・・・そう、俺がやろうとしていたこと。それは『水瀬への償い』だった。

 

 自業自得の怪我。それで俺は、誰も傷つけることはないと思っていた。

 けど実際、水瀬はそれで心に傷を負ってしまった。今考えれば、俺が傷つく場面を見ているだけで、被害を受けていることになる。

 

 一日たって、やっとわかる。あれは、間違いだったと。

 

 ・・・いや、本当はあの時に分かっていたのかもしれない。今、自分のやろうとしていることは間違いだって。

 

 しかし、今でも思う。だったらどうすればよかったのか、と。

 

 でも、結局水瀬が言いたいのはそういう事じゃない。いまでも耳に響く。『なんで私たちがあの場にいたのか考えてよ』という言葉。

 

 そう、俺はもう、一人じゃ無くなってた。それを分からずに、自分だけ傷つこうとした。

 だから、もう二度と間違えたくない。伝えたい思いは分かっている。

 

 九時ごろ、俺はようやく水瀬家のドアを開けた。

 結構帰りが遅くはなったが、こうなることは予想していたのだろう、お咎めはなかった。

 

 夏帆さんが作りおいてくれた夕食をいただいた後で、一度自分の部屋に戻る。

 想いは分かってても、それをどうやって伝えればいいかはまだはっきりと分かっていない。

 

 感情のままに話して、これまでもなんども醜態をさらしてきたから。

 

 ・・・けど、結局決めておいた言葉なんて、感情の前に打ち消されるものだ。こんなところで着飾った言葉を用意しても、何の意味もない。その答えにいきついた。

 

 だから、俺は小包を片手に部屋を出た。向かう場所は水瀬の部屋だ。

 けれど、その道中、保さんが手をこまねいているのが見えた。流石に無下にするわけにもいかないので、俺は保さんの下へ向かう。

 

 保さんは、俺が昨日今日で何を思っていたのかお見通しだったようで、無表情ながら柔らかな声で俺に語り掛けてきた。

 

「・・・責任って、難しいもんだな」

 

「なんですか?」

 

「千夏と・・・一悶着あっただろう?」

 

「・・・。そうですね」

 

 現に、この人もあの場所にいたんだから、分からないはずはない。

 あの会話を聞いていたんだから、何も思わないはずもなかった。

 

「遥くんが一人の犠牲で済ませようとした理由も、千夏が怒っている理由も、俺には

よく分かる。どっちが正しい、とか、どっちが間違い、とかもない。だからな、遥くん。・・・自分が間違いだと思いきれてないなら、謝らない方がいい」

 

「・・・!」

 

 声音こそ優しいが、少々厳しく諫められる。この人は、本当になんでもお見通しのようだった。

 確かに、この人の意見はもっともだ。妥協して和解したところで、その不満が解消するわけじゃない。

 今ではもう、特別不満を思うことはないが、ひょっとしたら後でまた燻るかもしれない。可能性はゼロではないのだ。

 

 でも今は、落ち着いた考えができる今なら、水瀬の意見をもっとくみ取れるかもしれない。

 だから、引く気はなかった。

 

「大丈夫ですよ。・・・それに、あの時は気が動転してたっていうか、なんというか・・・。でも今なら、あいつの言いたかったこと、俺の伝えたかったことをちゃんと伝えれるかもしれないから。・・・だから、またそこで対立が生まれても、今度は大丈夫だと思うんです」

 

「・・・そうか。いらない心配だったな」

 

 保さんはふっと笑って、また手元の新聞に目を落とした。さっさと行け、ということなのだろう。

 

 リビングをあとにして、二階部分の水瀬の部屋へ向かう。ドアの下部から光が零れる。どうやら、まだ眠ってはないみたいだった。

 

 俺は覚悟を決めて、そのドアを三度ノックする。しばらくして、中から力なくガチャリと扉が開いた。

 

「・・・何の用?」

 

「話、したくてさ」

 

 そうとしか言えなかった。

 水瀬はしばしの沈黙の後、ドアを先ほどより少し大きく開いた。

 

「・・・いいよ。入って」

 

 促されるままに、俺は水瀬の部屋に入る。

 今ここで水瀬の部屋について感想を述べることなどないが、強いて言えば、年相応の女の子の部屋、と呼ぶにちょうどよかった。まなかの部屋やちさきの部屋に近いものを感じる。

 

 そして、水瀬はベッドに腰かけた。改めてその表情を見ると、目元が少し赤くなっていた。何を思ってかは知らないが、泣いていたのだろう。

 それに何より、顔を隠したいのか、部屋着のパーカーのフードで表情を隠していた。

 

「「・・・」」

 

 しばらくの沈黙。けれど、切り裂かないことにはどうしようもない。

 勇気を出したのは、俺の方だった。

 

 

「・・・あのな、水瀬」

 

「何?」

 

「昨日のこと、だけどな・・・。水瀬が言いたかったこと、今になってやっと理解できたんだ。・・・俺、自分が傷つくことで誰も傷つかずにすむって、そう思ってたんだ。・・・でも、こうして誰かを悲しませて、傷つけてしまった」

 

「・・・」

 

「結局、俺一人でできることなんて何もありはしなかった。・・・でも、これだけは分かってほしい。あの時、こうするしか方法はないって、俺はそう思ってたんだ」

 

「・・・そんなの、分かってるよ」

 

 水瀬は少々語気を強めていった。

 

「分かってたよ。・・・それに、私が言ってることだって綺麗ごとに過ぎなかったんだよ。一人で背負うな、なんて言ってながら、結局、どうすればいいか分からなかった。口先だけって言ったら、そういうことだね」

 

 力なく笑う水瀬。その弱気な姿勢は、見るに堪えなかった。

 そんな顔をしないでほしい。その願いで、俺は水瀬の自虐を否定する。

 

「でも、間違いじゃない。・・・仮に誰もどうすればいいか分からなかったにしろ、考える頭を増やそうとしなかったのは俺の責任だ。・・・全部一人で抱えて、終わらせようとして、そんな最低なことをしたのは俺だ」

 

 

 そして俺は、一つの小包を手元に持ってくる。

 

「・・・だからな、一つ誓い事をしたいんだ」

 

「え?」

 

「誰かのために自分を傷つけて、誰かを傷つけることになるのなら・・・、俺は誰かのために、自分を大切にしようと思うんだ。・・・それはもちろん、誰かに代わりに傷ついてもらう、なんてことじゃなく」

 

 そして、小包を目の前の水瀬に手渡す。

 

「だから、これを約束の形にしてほしい。・・・これを手渡したら、俺はもう、二度とさっきの誓いを破らないから」

 

「・・・開けてもいいかな?」

 

「どうぞ」

 

 水瀬は小包を開ける。

 俺が手渡したものは、一つのネックレスだった。

 

「・・・こんなもの、いいの?」

 

「ああ。・・・そしてこれは、お前に持ってて欲しい。俺の誓いを聞いたのは、お前だけなんだ」

 

「・・・ありがとう」

 

 次第に水瀬の表情は晴れていく。

 しかし、次に出てきた言葉は、謝罪だった。

 

「・・・ごめんね。私、わがままだ」

 

「気にするな。これは俺のわがままだ。こうでもしないと、気がすまなかった」

 

「・・・私たち、似てるんだね」

 

「だな」

 

 そして、二人して笑いだす。

 これでいい。これがいい。

 

 

 

 俺は一歩、前に進めた気がする。

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

前作から書いててあれなんですが、筆者はこの【水瀬千夏】というキャラが相当大好きです。そりゃ、オリジナルキャラクターなんで当然ですけど。
けど、世の中には自分で生み出したキャラクターを自分で嫌うなんてよくある話だと思うんですよ。ジョジョのバニラアイスとか。

どうでもいいですが、直感的に名前を探したとき、水瀬家の女性二人は私の高校時代の同級生の名前になってました。ゴメンね。


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といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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