凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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個人的に、第一の盛り上がりはここからの数話と自負しております。
とはいっても、新規な展開もしっかりと考えておりますので、こうご期待。

それでは、本編どうぞ。


第四十二話 変わりだす空、動きだす時

~遥side~

 

 水瀬と和解することも出来て、美海のお願いを叶えることも出来た。

 全て、とは言い難いが、大体のことは上手く片付き、進んでいった。

 

 それから数日して、杖を使用しなくていいという許可が出た、ある日のこと。

 

 ・・・。

 それは、目覚めてすぐに気が付いた。

 朝、目覚めたとき、どことない肌寒さを感じた。これまでも夏にしては涼しいとは思っていたが、今回はその範疇を通り越している。

  

 布団から起き上がり、カーテンを開けてみる。

 

 そこには、雪が降り積もっていた。夏であるにも関わらず、だ。

 

 思わず、外に飛び出てみる。その雪を肌で触れて、確かめてみたかった。

 そして、触れて気が付く。これは、紛れもない、ぬくみ雪だった。

 

 ここ数日の謎の肌寒さは、これの吉兆だったというのだろうか。

 

 ・・・だとしたら、嫌な予感がする。

 

 

---

 

 

『それでは、次は陸の天気です———―』

 

 しかしそれ以降はどうすることもできず、今は水瀬と保さんと三人で食卓を囲んでいる。夏帆さんは夜勤明けのようで、まだ寝ているようだった。

 

 自作の軽めの朝食に手を付けつつ、食卓はやはりこのぬくみ雪の話題でいっぱいだった。

 

「なあ、水瀬。・・・確認だけど、これまで地上で、夏にぬくみ雪が降ったことってあるか?」

 

「私も初めて体験するんだけど・・・。お父さん、これまでこんなことってあった?」

 

「・・・確か、ない。いつしか夏帆が、「いつしか異変が・・・」なんとか、俺には分からん話をしてたが、・・・今回のは、それに近いのかもしれんな」

 

 異変。

 

 そもそも、海でぬくみ雪が降り始めたことも、一つの異変だった。それが、地上にまで波紋を及ぼしたと言いたいのだろうか。

 海の気温はどんどん低くなっている。ここ数日の陸の低気温を考えると、リンクしていると言われても無理のない話だ。

 

 さすがに、これ以上は海も黙っちゃいないだろう。直感めいた話だが、そんな気がした。

 ウロコ様が重い腰を上げる時が来たとしたら・・・、いよいよ俺たちは、当たり前の明日さえ手に入れることが出来なくなるかもしれない。

 

「・・・ん」

 

「・・・」

 

「島波君」

 

「・・・ん、なんだ?」

 

 思い込みに更けていたようで、俺を呼ぶ声が耳に入っていなかったようだ。

 

「・・・大丈夫、なの?」

 

 水瀬は、どうやら海の心配をしているようだった。

 大丈夫、か・・・。

 

「・・・悪い。気休めなんてのは俺に似合わないからはっきり言わせてくれ。・・・大丈夫、とは言い難い。それこそ、ここからどうなるか俺も分からないんだ」

 

「そう・・・」

 

「でも、出来るだけのことはする。だから、そう不安がるなって」

 

 みんなのための自分が、ここにいる。

 だから、どうにかするしかないんだ。

 

 そこからしばし声がパタリと止む。次に声を発したのは、保さんだった。

 

「遥くん、ちょっと頼まれてもらっていいか?」

 

「はぁ、いいですけど・・・。なんです?」

 

「悪いが、今日の学校への道中で、潮留さんのところに書類を届けてくれないか? なるべく早く渡した方がいいんだ」

 

「分かりました」

 

「あ、私も行く。・・・いい、よね?」

 

「もちろん」

 

 幸い、この家での朝は早い。

 これから潮留家に寄って学校に行くだけの時間は十分にあった。

 

 

---

 

 朝食を済まし、俺はいつもより少しだけ早く、水瀬と一緒に家を出た。そこから潮留家へ直行。

 アパートの階段付近では、美海が何かをせっせと作っていた。

 

「雪だもんね」

 

「ここは冬もあんまり降らないしな」

 

 その子供な行動に俺と水瀬は微笑ましさを覚えた。俺が同じ年の時も、あんな風だっただろうか。

 

 しかし、進む足が止まる。今行けば、邪魔になるような気がした。

 

「どうする? 行く?」

 

 水瀬が問いかけてくる。けれど、決定権が俺にあるわけじゃないし、大切な用事である以上、答えは一つだった。

 

「どうするったって・・・行くしかないだろ。まあ、邪魔しないようにしながら、な」

 

 と言ったタイミングでどうやら出来上がったのか、美海はウキウキでアパートへと戻っていった。

 それを見て、俺たちは安心してゆっくりと家の方へ向かった。

 

 ピンポーンとインターホンを一度鳴らす。

 数秒後、ドアを開けたのは、手に何かを持った美海だった。少々がっかりした表情を浮かべているが。

 

 その近くには、あかりさんと光もいた。

 

「・・・あれ? 遥、千夏ちゃん」

 

「よっ。ちょっと用事でな」

 

「おはよう、美海ちゃん」

 

 そして今度は、その手元にある物体に視線がいった。これを先ほど作っていたみたいだが・・・。

 美海は一つため息をついて、俺たちに質問をしてきた。

 

「・・・ねぇ、これ、なんだかわかる? 光、雪だるまとしか言ってくれないから・・・」

 

 がっかりした目で、美海は光を見つめる。

 

「どう考えても雪だるまだろ、これ。・・・てかお前ら、用たって何の用だよ」

 

「水瀬の親父から、至さんあてに書類をお願いされてな。それを登校ついでに持ってきたんだよ。・・・んで、美海のこれって、どう見たってあれだろ」

 

「ウミウシ、だよね?」

 

 水瀬に先を越されて、出鼻を挫かれる。仕方がないので、それに乗っかった。

 

「色がないとはいえ、流石に形で分かるだろ・・・。なぁ?」

 

 俺と水瀬のやり取りを受けて、美海はぱぁと顔を明るくして、うんうんと頷いた。どうやらご満悦の様子。

 

「というか、海の人間が間違えるかこれ。普通に上手だぞ」

 

「うるせえな!」

 

 と、奥からあかりさんが顔を覗かせてきた。

 

「あ、遥くん。それ受け取っておこうか。至さん、今外に出ちゃってるから」

 

「お願いします」

 

 そう言って、あかりさんに例の書類を手渡した。

 

「ああ、そうだ美海。ちょっと待ってね。そのウミウシだけど・・・」

 

 書類を見やすい机の家に置いて、あかりさんは台所のカイワレを二本、雪ウミウシに刺した。

 

「こうしたほうが、もっとウミウシっぽいかな」

 

 それがどうやら気に入ったのか、美海はずっと嬉しそうにニコニコしていた。しかし、すぐにその表情は、不安に変わる。

 

「・・・パパが帰ってくるまで、残ってるかな・・・」

 

「いや、冷凍庫入れておけばいいでしょ・・・」

 

「あ、そっか」

 

 どうやらその発想はなかったらしい。まあ、食品以外を冷凍庫に入れるって考えは確かにないかもしれないけど・・・。

 

「それじゃ、そろそろ行く?」

 

 話がひと段落ついたところで、水瀬が俺に問いかけてくる。が、答えたのは光だった。

 

「ちょっと待ってくれ。あと数分したら準備できっから、俺も行く」

 

「・・・だとさ。OK?」

 

「私はOKだよ」

 

 二人の了承を得て、光はすぐに支度を始めた。

 光は杜撰な人間ではあるが、準備だとか、そういった類の行動は俺たちの中では断トツだ。人を待つのが嫌いな人間だからこそ、待たせることも嫌いなのだろう。

 

 結局、光の準備は二分足らずで終了した。

 

「悪い、待たせた」

 

「いや、早えよ。逆に驚いたわ」

 

「・・・それじゃ、行こうか」

 

「行ってらっしゃい」

 

 あかりさんの声をあとに、俺たちは潮留家を出発した。

 

 今日の光は大分落ち着いているようで、時々感じてしまう不快感を感じることはなかった。

 ごく普通に、水瀬に声を掛ける。

 

「そいや、遥はお前んちで世話になってんのな」

 

「え? ああ、うん。そうなの。・・・色々あっちゃったしね」

 

「まあなぁ・・・。それこそ遥、お前、もう杖は大丈夫なのか?」

 

「歩く分には問題はないみたいだぞ。と言っても、まだ海に帰るのは控えていた方がいいらしい」

 

 客観的事実を光に述べる。光は「そっか」とだけ呟いて、特に関心はなさそうだった。

 けれど、主観的な事実を述べれば、今の俺に、海に帰る勇気はなかった。・・・どころか、心のどこかで海に帰りたくないと思ってしまい始めていた。

 

 当然、嫌いになったわけじゃない。けれど、あれだけの大人を敵に回して、今更のこのことは帰れない。

 それに・・・。水瀬家の居心地が、あまりにも良すぎる。

 

 離れたくない、そう思ってしまうほどに、俺は、あの場所のことを・・・。

 

 

「まあ、俺も帰るつもりはねえけどな!」

 

 急に鼻を鳴らして光が声高々に宣言する。俺と水瀬は少しばかり苦笑するが、その光の言葉でどこか気が楽になったのも確かだった。

 

 

---

 

 

 学校に着くと、すでに教室内に、まなか、要、ちさきの三人が来ていた。俺たちが遅れたのか、と思って時計を見るが、いたって定刻だ。どうやら三人は、今日は早く来ていたらしい。

 

「どしたよお前ら。えらく早いな」

 

「あ、おはよう。・・・えっとね、なんか、大人たちが大事な話し合いがあるから、先に行きなさいって」

 

 その言葉を聞いて、背筋に冷や汗が走ったのが分かった。

 

 大方、予想通りだ。

 

 異変に関することだとしたら、会議まで行われるとなると相当ヤバい話になってくる。・・・何を話しているかはさすがに推測できないが、時間は・・・きっと、もうない。

 

「遥?」

 

 ずっと下を向いていたせいか、気にかけられて、声を掛けられる。

 

「なんでもない。大丈夫だ」

 

 大丈夫な訳ないのに、また口にしてしまう。

 

 

 だんだん大きくなっていく不安に太刀打ちする術は、今のところ持ち合わせてはいなかった。




『今日の座談会コーナー』

前作を書いていたのが二年前のこの時期ですか。時が経つのは早いですね~。
今回の内容は前回で言う41話ですか。
当時はというと、まあ筆者がネットスラングやなんJにドはまりしていた真っ最中でしたので、この作品のみならず、いろんな地の文で引用していましたね。

悪くはないと思いたいですが、流石に文章が曖昧だったり、内容不足な点が多いので書き換えです。

スラング関係なしに、前作は本当に状況説明が足りていなかったような・・・(小声)


---


と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)

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