凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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ここかどこらかで会話を設けなきゃ、冒頭の幼少期時代に狭山を出した意味がないでしょうが!
という事で、本編どうぞ。


第四十三話 止まらない歯車

~遥side~

 

 交渉が大失敗に終わった、とは言えども、ここまで来た俺たちに、お舟引きを諦めるという考えは毛頭なかった。子供たちの、最大の反抗だ。

 それが実る、実らないは気にしていない。きっと、なるようになる。

 

 頑張ったことが報われる。ここにいる人間は、そんな奴らばっかりだから。

 

 とはいえ、派手に壊れたおじょしさまの修理には結構な時間がかかった。時間が限られてくる中での作業となると、いよいよ学校での作業では事足りなかった。

 

 そんな中、助け船を出してくれたのは紡の爺さんだった。場所どころか、船まで貸してくれる、とのこと。本当に、この人には助けられてばかりな気がする。

 

 当然、まとまっていても意味はない。大人数いるということもあり、分担で作業を行う。俺の作業場所は・・・厨房だった。

 

 ここにいる人間、俺しか料理が出来ない、などという残念な理由ではなかったが、水瀬らに押された挙句、現状がある。まあ、ある意味サボれるからそれはそれで・・・。

 

 まあ、などと一人脳をフル活用させながら、人数分の磯汁を作る。この人数、豪華なものは作れないし、細かいものも作れない。そんな中で、汁というものはうってつけだった。

 おまけに、最近はどんどん冷え込んできている。やはりこの間のぬくみ雪は悪い吉兆となってるのかもしれない。

 

「おっすー、出来てっかー?」

 

 ぐつぐつ鍋の中で汁を煮込ませていると、厨房に入ってくる声が一つ。狭山だ。

 

「なんだ? 茶化しに来たのか? もしくはサボりか」

 

「へへ~あたり。って、流石に俺もそんな馬鹿じゃねえよ。まあ、ここに来たのは休憩がてらだけど」

 

「結局どっちなんだよ・・・。・・・んで、本題は? 本当に茶化しに来ただけじゃねえよな」

 

「さすがは島波さんだぁ。よくわかっていらっしゃる」

 

 ふざけた風に狭山は俺の名前を呼んで、がさがさと音を立てながら、何かが入っているレジ袋を俺が調理している台の左に置いた。

 

 

「・・・なんだこれ」

 

「差し入れ、と、まあ、食材? うちの店で買ってきたってわけ。まあ、親父が立て替えてくれてっけど」

 

 言われて、俺はその袋の中身を確認した。

 確かに、差し入れと思われる菓子がちらほらと入っていた。が、本当に食材も入っていた。少々の野菜と、バラの豚肉だ。

 

「つって、今から別のもんなんて作れねえぞ。流石に時間もないし、人数分も用意できない」

 

「だったら、その汁の中ぶち込めばいいんじゃねえの?」

 

 純粋な狭山の助言。しかし、どこか俺の中でしっくりくるものがあった。

 

「・・・それだ」

 

「は?」

 

「さっきから何回か味見してたんだけどな、どーにもインパクトが薄いっていうか、昔知り合いに作ってもらった味にならなくてな。そうか、豚肉だったんだ」

 

「あ、ああ、そう。親父にあとで礼言っとくわ」

 

 みをりさんに何度か作ってもらったことのある磯汁。

 あそこにも、確かに豚肉が入ってたはずだ。・・・空いたパズルのピースが埋まる。

 

 

 そんなことに思い更けていると、似合わない様子で狭山が俺に声を掛けてきた。

 

「島波はよ、なんか最初っから違ったよな」

 

「なんだ藪から棒に」

 

「最初、俺たちはお前らとなんて仲良くできるはずなんてないと思ってた。・・・なんつーかな、バカにしたかったわけじゃねえのに」

 

「まあ、あの日のことはもう忘れてくれ」

 

「けど、今こうしてると、なんかちょっと、嬉しいっつーか、そんな気がするんだよな。こうして大人数でワイワイ馬鹿やって、なんて日々。あーあ、ずっと続きゃいいんだがなぁ」

 

 狭山も狭山で、楽観的な思考を持ちながらどこかそんなことを思っていたようだ。その思考回路は、どこかちさきに似ている。

 

 けれど、それが無理なことはちゃんと理解してるようで、狭山は笑ってごまかした。

 

「なーんて、バカ見てえだな。らしくねえ」

 

「ああ。らしくないぞ」

 

「んじゃ、俺はまた江川にちょっかいかけてきますわ! 今が続かねえなら、今を楽しむしかねえもんな!」

 

 そして勢いよく狭山は厨房をあとにしていった。

 

「・・・忙しい奴だな、ホント」

 

 苦笑交じりに、俺は追加した具材を混ぜ込むのだった。

 

 

---

 

 

 それから完成間際、今度厨房に寄ってきたのは要だった。これまた珍しい。

 

「あん? 今度はお前か。なんか用か?」

 

「いや、特にね。休憩がてら、遥の様子確認。みんなそろそろお腹が減るころだろうし」

 

「急かしても出来上がるスピードは変わらねえぞ」

 

「分かってるよ」

 

 爽やかに要が笑う。・・・俺はその仕草が、どこかいけ好かない。

 

「・・・あと三分もすりゃ出来上がるって、みんなに伝えといてくれ」

 

「分かった。ほかには? 手伝えることはない?」

 

「じゃあ、向こうでお椀の用意しておいてくれ。そうした方が注ぎやすいだろうし、スピードも上がるだろ」

 

「分かった」

 

 それだけを受けて、要は去ろうとする。

 しかし俺は、反射的に要を呼び止めてしまった。

 

 心の奥底に、伝えなきゃいけないメッセージがあるのが分かった。

 

「要」

 

「なあに?」

 

「あとでさ、ちょいと抜け出してくれないか? ・・・話したいことがある」

 

「それは、僕一人じゃないとダメなのかな?」

 

「ああ」

 

 間髪入れずに、俺はそう答える。その本気さが分かったのか、要は一度うんと頷いた。

 

 

---

 

 

 それから数分後、俺が丹精込めて作った磯汁は、瞬く間に無くなっていった。こうも美味しそうに頂かれると、作った方はいい意味で溜まったもんじゃない。

 

 なんて、母性まみれの眼でそんな皆を見ていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。要からの合図だろう。

 

「・・・ちょっと離れたところに行こうか」

 

「聞かれちゃいけないこと、なのかい?」

 

「・・・聞かれたくは、ないな」

 

 ことの重大さを理解して、要は了承して頷いた。そして、二人で家の影の方へ隠れた。

 

「・・・で、話って?」

 

「今日、学校に早く行くように言われただろ。大人連中に」

 

「うん。会議があるってね」

 

「その会議の内容についてなんだがな、憶測を立てたんだ。・・・信ぴょう性はあまりないけど、聞いてもらいたくて」

 

 要は少々渋い顔をしたが、一度ばかり首肯した。それをOKと捉えて、俺はいつか知った言い伝えを口にする。

 

———海神様が力を失ったとき

 

———ぬくみ雪が陸と海に降り積もり

 

———やがて、人間が暮らせないくらいの寒さになる

 

「・・・!」

 

 俺のその説明を聞いただけで要は何かを察したようで、動揺しているそぶりを見せた。それに俺が説明を加える。

 

「数年前から海でぬくみ雪が増え始めていること。そしてこの間、陸でぬくみ雪が降ったこと。・・・あまり信じたくはないが、もしこれが本当だとしたら・・・」

 

「海の大人たちは、黙っちゃいないって?」

 

「だから今日、会議してるんだろ」

 

 はてさて、その会議で何が決まるのやら。俺には知る由もない。

 けれど、何も対処しないままということにはならないはずだ。お舟引きどころか、動きも制限されるかもしれない。

 

「・・・当たり前だと思っていた暮らしが出来なくなる日は、近いのかもしれないな」

 

「・・・それを、なんで僕に話したのかな?」

 

 要は、バツの悪そうに俺を見つめてきた。

 悪いとは思っている。けれど、俺は要を適任だと思って呼んだ。それだけだ。

 

「会議で何が決まるのか分からないけどな・・・。もし、なんらかの指示が出された時、お前に率先して動いてもらいたいんだよ。この足だ。俺も帰ることは出来ないし。何よりほかのみんなはいざという時に難ありだからな」

 

「買いかぶりすぎだよ。僕だって、非常時に自分がどうするかなんて予想できない」

 

 要の表情からは、いつもの笑顔はとっくになくなっていた。感情がむき出しのこいつも、なかなかに珍しい。

 けれど、俺は無礼を承知で頼みこむ。

 

「それでも、俺はお前に頼んだ。・・・お前が一番頼れるんだよ。・・・ともかく、一回ウロコ様と話はしておかないといけないが」

 

「・・・はぁ。分かったよ。引き受ける。こうも頼まれちゃ、断れないよね」

 

 要の表情には再び笑顔。

 それが紛れもない作り笑顔なのは間違いないが、あえて要はこうしているんだ。いちいち言及する必要などない。

 

 こいつとは、本当の意味では仲良くできないのかもしれない。

 けど、それでも、こうして頼み込む理由はたった一つだけ。

 

 みんなで一緒にいたいという気持ちは、同じなんだ。

 

 




『今日の座談会コーナー』

前作から、幼少期狭山を出してはいましたが、結局前作はそれ以降特定で絡むことはなかったんですよね。もったいない。
という事で、今回はこんな会話文を。

本編狭山は基本、江川と一緒で「チャラい」のイメージしかありません。
なのでまあ、こういう改変をするのも二次創作の醍醐味かなと思った次第。

今後もこうした絡みを増やしていきたいところ。

---

というわけで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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