凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
という事で、本編どうぞ。
~遥side~
交渉が大失敗に終わった、とは言えども、ここまで来た俺たちに、お舟引きを諦めるという考えは毛頭なかった。子供たちの、最大の反抗だ。
それが実る、実らないは気にしていない。きっと、なるようになる。
頑張ったことが報われる。ここにいる人間は、そんな奴らばっかりだから。
とはいえ、派手に壊れたおじょしさまの修理には結構な時間がかかった。時間が限られてくる中での作業となると、いよいよ学校での作業では事足りなかった。
そんな中、助け船を出してくれたのは紡の爺さんだった。場所どころか、船まで貸してくれる、とのこと。本当に、この人には助けられてばかりな気がする。
当然、まとまっていても意味はない。大人数いるということもあり、分担で作業を行う。俺の作業場所は・・・厨房だった。
ここにいる人間、俺しか料理が出来ない、などという残念な理由ではなかったが、水瀬らに押された挙句、現状がある。まあ、ある意味サボれるからそれはそれで・・・。
まあ、などと一人脳をフル活用させながら、人数分の磯汁を作る。この人数、豪華なものは作れないし、細かいものも作れない。そんな中で、汁というものはうってつけだった。
おまけに、最近はどんどん冷え込んできている。やはりこの間のぬくみ雪は悪い吉兆となってるのかもしれない。
「おっすー、出来てっかー?」
ぐつぐつ鍋の中で汁を煮込ませていると、厨房に入ってくる声が一つ。狭山だ。
「なんだ? 茶化しに来たのか? もしくはサボりか」
「へへ~あたり。って、流石に俺もそんな馬鹿じゃねえよ。まあ、ここに来たのは休憩がてらだけど」
「結局どっちなんだよ・・・。・・・んで、本題は? 本当に茶化しに来ただけじゃねえよな」
「さすがは島波さんだぁ。よくわかっていらっしゃる」
ふざけた風に狭山は俺の名前を呼んで、がさがさと音を立てながら、何かが入っているレジ袋を俺が調理している台の左に置いた。
「・・・なんだこれ」
「差し入れ、と、まあ、食材? うちの店で買ってきたってわけ。まあ、親父が立て替えてくれてっけど」
言われて、俺はその袋の中身を確認した。
確かに、差し入れと思われる菓子がちらほらと入っていた。が、本当に食材も入っていた。少々の野菜と、バラの豚肉だ。
「つって、今から別のもんなんて作れねえぞ。流石に時間もないし、人数分も用意できない」
「だったら、その汁の中ぶち込めばいいんじゃねえの?」
純粋な狭山の助言。しかし、どこか俺の中でしっくりくるものがあった。
「・・・それだ」
「は?」
「さっきから何回か味見してたんだけどな、どーにもインパクトが薄いっていうか、昔知り合いに作ってもらった味にならなくてな。そうか、豚肉だったんだ」
「あ、ああ、そう。親父にあとで礼言っとくわ」
みをりさんに何度か作ってもらったことのある磯汁。
あそこにも、確かに豚肉が入ってたはずだ。・・・空いたパズルのピースが埋まる。
そんなことに思い更けていると、似合わない様子で狭山が俺に声を掛けてきた。
「島波はよ、なんか最初っから違ったよな」
「なんだ藪から棒に」
「最初、俺たちはお前らとなんて仲良くできるはずなんてないと思ってた。・・・なんつーかな、バカにしたかったわけじゃねえのに」
「まあ、あの日のことはもう忘れてくれ」
「けど、今こうしてると、なんかちょっと、嬉しいっつーか、そんな気がするんだよな。こうして大人数でワイワイ馬鹿やって、なんて日々。あーあ、ずっと続きゃいいんだがなぁ」
狭山も狭山で、楽観的な思考を持ちながらどこかそんなことを思っていたようだ。その思考回路は、どこかちさきに似ている。
けれど、それが無理なことはちゃんと理解してるようで、狭山は笑ってごまかした。
「なーんて、バカ見てえだな。らしくねえ」
「ああ。らしくないぞ」
「んじゃ、俺はまた江川にちょっかいかけてきますわ! 今が続かねえなら、今を楽しむしかねえもんな!」
そして勢いよく狭山は厨房をあとにしていった。
「・・・忙しい奴だな、ホント」
苦笑交じりに、俺は追加した具材を混ぜ込むのだった。
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それから完成間際、今度厨房に寄ってきたのは要だった。これまた珍しい。
「あん? 今度はお前か。なんか用か?」
「いや、特にね。休憩がてら、遥の様子確認。みんなそろそろお腹が減るころだろうし」
「急かしても出来上がるスピードは変わらねえぞ」
「分かってるよ」
爽やかに要が笑う。・・・俺はその仕草が、どこかいけ好かない。
「・・・あと三分もすりゃ出来上がるって、みんなに伝えといてくれ」
「分かった。ほかには? 手伝えることはない?」
「じゃあ、向こうでお椀の用意しておいてくれ。そうした方が注ぎやすいだろうし、スピードも上がるだろ」
「分かった」
それだけを受けて、要は去ろうとする。
しかし俺は、反射的に要を呼び止めてしまった。
心の奥底に、伝えなきゃいけないメッセージがあるのが分かった。
「要」
「なあに?」
「あとでさ、ちょいと抜け出してくれないか? ・・・話したいことがある」
「それは、僕一人じゃないとダメなのかな?」
「ああ」
間髪入れずに、俺はそう答える。その本気さが分かったのか、要は一度うんと頷いた。
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それから数分後、俺が丹精込めて作った磯汁は、瞬く間に無くなっていった。こうも美味しそうに頂かれると、作った方はいい意味で溜まったもんじゃない。
なんて、母性まみれの眼でそんな皆を見ていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。要からの合図だろう。
「・・・ちょっと離れたところに行こうか」
「聞かれちゃいけないこと、なのかい?」
「・・・聞かれたくは、ないな」
ことの重大さを理解して、要は了承して頷いた。そして、二人で家の影の方へ隠れた。
「・・・で、話って?」
「今日、学校に早く行くように言われただろ。大人連中に」
「うん。会議があるってね」
「その会議の内容についてなんだがな、憶測を立てたんだ。・・・信ぴょう性はあまりないけど、聞いてもらいたくて」
要は少々渋い顔をしたが、一度ばかり首肯した。それをOKと捉えて、俺はいつか知った言い伝えを口にする。
———海神様が力を失ったとき
———ぬくみ雪が陸と海に降り積もり
———やがて、人間が暮らせないくらいの寒さになる
「・・・!」
俺のその説明を聞いただけで要は何かを察したようで、動揺しているそぶりを見せた。それに俺が説明を加える。
「数年前から海でぬくみ雪が増え始めていること。そしてこの間、陸でぬくみ雪が降ったこと。・・・あまり信じたくはないが、もしこれが本当だとしたら・・・」
「海の大人たちは、黙っちゃいないって?」
「だから今日、会議してるんだろ」
はてさて、その会議で何が決まるのやら。俺には知る由もない。
けれど、何も対処しないままということにはならないはずだ。お舟引きどころか、動きも制限されるかもしれない。
「・・・当たり前だと思っていた暮らしが出来なくなる日は、近いのかもしれないな」
「・・・それを、なんで僕に話したのかな?」
要は、バツの悪そうに俺を見つめてきた。
悪いとは思っている。けれど、俺は要を適任だと思って呼んだ。それだけだ。
「会議で何が決まるのか分からないけどな・・・。もし、なんらかの指示が出された時、お前に率先して動いてもらいたいんだよ。この足だ。俺も帰ることは出来ないし。何よりほかのみんなはいざという時に難ありだからな」
「買いかぶりすぎだよ。僕だって、非常時に自分がどうするかなんて予想できない」
要の表情からは、いつもの笑顔はとっくになくなっていた。感情がむき出しのこいつも、なかなかに珍しい。
けれど、俺は無礼を承知で頼みこむ。
「それでも、俺はお前に頼んだ。・・・お前が一番頼れるんだよ。・・・ともかく、一回ウロコ様と話はしておかないといけないが」
「・・・はぁ。分かったよ。引き受ける。こうも頼まれちゃ、断れないよね」
要の表情には再び笑顔。
それが紛れもない作り笑顔なのは間違いないが、あえて要はこうしているんだ。いちいち言及する必要などない。
こいつとは、本当の意味では仲良くできないのかもしれない。
けど、それでも、こうして頼み込む理由はたった一つだけ。
みんなで一緒にいたいという気持ちは、同じなんだ。
『今日の座談会コーナー』
前作から、幼少期狭山を出してはいましたが、結局前作はそれ以降特定で絡むことはなかったんですよね。もったいない。
という事で、今回はこんな会話文を。
本編狭山は基本、江川と一緒で「チャラい」のイメージしかありません。
なのでまあ、こういう改変をするのも二次創作の醍醐味かなと思った次第。
今後もこうした絡みを増やしていきたいところ。
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というわけで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)