凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
今回はこんな感じでちょいちょい膨らませていこうと思います。
それでは、本編どうぞ。
~要side~
おじょしさまの作業の傍ら、いきなり僕を呼び寄せたと思ったら、遥はなにやら伝承についての話を始めた。
それでしまいには、僕にリーダーをやれと言う始末。
正直、腹が立つところはある。
大人たちが何やら深刻な話をしているのは分かっていた。今、見えないところで危険が迫っているというのも事実だ。
でも・・・だからって、僕に何ができるっていうのだろう。
僕が空っぽな人間なこと、遥はとっくに分かってるはずなのに。
それでも、遥は僕に期待していた。お前しか頼れないと。
それが本当か、嘘か。今の僕に判断する力はない。おだてられているだけと言われればそうかもしれないし、本当に僕を頼っているかもしれないと言われればそうかもしれない。
だから僕は、その話に乗ることにした。
精一杯の作り笑い。これだって、すぐに遥は見抜くだろう。
けれど、僕がやることは変わらない。
みんなでずっといたい。その気持ちに変わりはないのだから。
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~遥side~
お舟引きの作業ももう時間が遅いということもあり撤収。各々が帰路に就く。
その前に、俺は光に呼び止められた。
何か文句でもあるのかと表情を覗いてみるが、特に怒りというものは見えなかった。代わりに現れていたのは焦り、だろうか。落ち着いた様子は少なくともなかった。
「どした、光。落ち着けよ」
「いや、落ち着いてるつもりなんだけどな・・・。悪い、なんかモヤモヤしててさ」
「・・・大人たちの会議、か?」
光は一度深く頷いた。
「・・・残念だけど、俺に聞いてもお前の望む答えは出せないぞ」
「分かってる。・・・でも、お前だって何か考えてるんだろ? こんな状況で黙ったままのお前の方がこえーよ」
光は、『島波遥』という人間の人物像をしっかりとらえているようだった。伊達に少しの間一つ屋根の下で暮らしたわけじゃない。
「・・・一つだけ言えることがあるとすれば、世界の崩壊が近づいているかもしれないってことだ」
「は・・・? スケールがでかすぎんだろ」
「まあ、段階を踏んで進んでいくかもしれないけどな。・・・最近、やたらと寒いだろ? きっと、海もだんだんとまた水温が下がってきている」
「それが吉兆だって言いたいのか?」
「ああ」
言い伝えのことは、光には言わない。というより、証拠不十分の状態でこいつに言うことは一番の握手だ。
やる気だけみなぎって、がむしゃらに行動する。その行動力が評価できる時もあれば、邪魔なだけの時もあるのだ。
ここまでの話を聞いてなお、光は大声を上げなかった。怒りや焦りがないわけではないだろう。
光は、しっかりと自制をしていたのだ。
「・・・俺たちに、出来ることはないのか?」
「はっきりと分からないことには、ない。・・・今は、お舟引きを完遂させることがなによりも重要だろ」
「・・・だな。頼むぜ、遥」
光はきっぱりと話を切り捨てて、一人俺の下から離れていった。
代わりに、水瀬が近づいてくる。
「・・・異変の話?」
「ああ」
「でも、どうなるか分からないんだよね?」
「ああ。だから、この話はあまり他言しないでほしい。変に不安を掻き立てたくないからな」
俺の忠告に、水瀬は一度しっかりと首を縦に振った。
「・・・それじゃ、私たちも帰ろうか」
「そうだな。もう暗いし」
木原家をあとにして、俺は水瀬と並んで帰路に就く。
しかし、どうにも話を切り出せなかった。こんな時、世間話の一つでも出せればいいのだけれど。こんな時に限って、何も出ない。
・・・いや、違うか。こんな時だからこそ、何も出ないんだ。
それほどまでに、焦ってるのは俺の方だ。
そんな俺に助けを出したのは、水瀬だった。
「・・・思いつめるの、やめよ?」
「分かってる。・・・けど、いざほかの話をしようと思っても中々話題が出なくてさ」
「じゃあさ、島波君から見た汐鹿生の子の話をしてよ。友達としてどう思ってるか、とかさ」
「・・・聞きたいか? それ」
「すっごい聞きたい」
水瀬の瞳は心なしか輝いているように見えた。どこか、憧れのような感情を海に対して抱いているのだろう。
わざわざ提示してもらった話題を蹴るわけにはいかない。俺は、一つ息を吐いてあいつらについて思っていることを話した。
「・・・光か。あいつはすげえよ。昔は馬鹿丸出しで、いつも前しか見てこなかった奴だ。・・・そんなあいつに、俺たちは何度助けられたことか」
「今回も、そうだもんね」
「・・・未熟な面があるせいか、しょっちゅうトラブル起こしまくりなやつだけどな。・・・でも、リーダーさせるなら、あいつが一番だよ。危なっかしいのにあれだけ信頼できるのは、あいつくらいしかいない」
言葉にするにつれて、どんどん楽になるのが分かった。
ため込んだ想いを吐き出すことへの気持ちよさを覚える。
「まなかは、そうだな。美海にも言ったけど、カクレクマノミみたいなもんだ。・・・なのに、ここ一番でって状況で一番勇気があるのはあいつなんだよ。そんでもって、光と同じくらい感情に不器用で、誰よりも脆くて。・・・だから、守りたくなる」
「先島君みたいなこと言うんだね」
「たぶん、俺たちのみんなそう思ってるさ。・・・でも、あいつがいると明るくていい」
居心地の良さをくれたのは、いつもあいつだったから。
「要かぁ・・・。説明に困るな」
「優しいって印象があるけどね」
「優しいさ。誰に対しても優しい。・・・けど、時々それが作り笑いの時があってな。あいつのああいう表情、見てて時々辛い。なんつーか、多分、誰よりも不器用なんだよ。優しさを見せることでしか生きてこなかったから、いざという時に自分がいない」
「嫌いなの?」
「嫌いな訳ないだろ。確かにタイプが違うから、時々おかしいなと思うことはあるけど、それはお互い様だし、だからといって信頼しないわけじゃない。むしろ、演じることが上手いからな、あいつは。ぶれない分、みんなが動揺してるときはあいつが一番頼りになる」
ついさっきの事がそうだ。
もっとも、その捉え方で言えば、俺は要の偽った表面の部分にお願いをしたことになるのだが。
この際どうこうは言ってられない。
「ちさきとは、水瀬もよく話すよな?」
「うん。どこか気が許せるっていうか、一緒にいて居心地がいいっていうか」
「あいつは、状況を判断して自分がどう振舞えばいいか分かってるからな。もちろん、完ぺきとは言わないけど」
「あの日の喧嘩の事?」
「まあ、光が言ってることも一理あるんだ。大人ぶってるって言えば、確かにそうかもしれない。・・・けど、それはそれで、大事なスキルなんじゃないのか? 人間、素の感情をむき出しなままで生きていけないだろ」
「島波君もそんなところあるけどね」
「・・・まあ、な」
俺も俺で、どこか大人ぶってるのかもしれない。
だとしても、今更治そうなんて気はない。素でやってるのなら、それが紛れもない俺なのだから。
「・・・みんないい奴だよ。とてもピュアで、純粋で、無邪気で、子供らしくて、羨ましい」
言葉にしているうちに、どこかで悟ってしまう。
俺はもう、あいつらとの間にどこかで線引きを行ってしまっている。
いつ行ったか、など知る由もない。
けれど、あの輪の中で、俺だけが異質なもののように感じてしまっていた。
「島波君も、まだまだ子供だよ」
その時、水瀬の言葉が嫌悪思考を断ち切った。
「器用そうに動いてるけど、ほんとはすっごい不器用。・・・大丈夫、島波君もみんなの仲間なの」
俺の考えていることを知ってか知らずかの水瀬の言葉。
だけど、その言葉でどこか心が救われる。
「・・・ありがとな」
「なにが」
「なんでも? さっ、帰るか。今日の夕飯は夏帆さんだったな。楽しみだ」
「私のは?」
「まだ夏帆さんには及ばないかなー」
「ふんっ、絶対いつか超えるから」
悪い方へ流れていく思考は、どんどん薄れていく。
狭山が言った言葉を思い出した。
変わってしまうのなら、輝いた今を送ろう。
それがきっと、今は一番正しい。
『今日の座談会コーナー』
この話のコンセプトはつまり、遥から見たみんな、ですね(当た前)
ただ、前作ではこうしたそれぞれへの感情が中途半端にしか書かれていなかったような気がします。
そうした中で、『いかに島波遥という人物が浮いているか』というのを表現したかった感じです。まあ、悪く言えば『マセガキ』ですよね・・・。
さて、そんな遥の成長の物語、ぜひ楽しんでいってください。
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といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等よろしくお願いします。
また会おうね(定期)