凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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ここら辺、前作がアバウトすぎなのでしっかり膨らませます。
それでは、本編どうぞ。


第四十五話 残された時間

~遥side~

 

 おじょしさま修復作業が順調に進んでいるある日の朝、今日は四人で朝食の食卓を囲んでいた。

 そして、いつも通り水瀬と一緒に家を出て、学校へ行く。

 

 その道中、俺はふと思い出した。

 

「・・・待て」

 

「? どしたの?」

 

「今日、英語の課題の提出日だったよな?」

 

「そうだけど・・・。あ」

 

「忘れたんだよ。取りに戻らないと・・・」

 

 たかが課題を一つ忘れたくらいであの先生は怒らないだろうが、これはプライドの問題だ。

 

「分かった。じゃあ、先に行くね? 鍵は開いてると思うから。あ、走っちゃだめだよ。まだ怪我完全に治ってないんだから」

 

「分かってるよ」

 

 それに、走ったところで痛いのは自分だ。

 さて、遅刻覚悟で歩いて帰るとしよう。

 

 

---

 

 

 学校付近まで着くと、時刻はとっくに九時を回っていた。完全に遅刻である。

 普段なら遅刻すると教室に入るのを躊躇ってしまうが、今日はどこかすがすがしい気分だった。堂々と胸を張って教室に入れる気がする。

 

 するとその時、近くに人影が見えた。波中の制服。光だ。

 俺はすぐさま光に近づいて声を掛ける。

 

「よっ」

 

「うぉっ!? ・・・なんだお前かよ。驚かせやがって」

 

 今日の光は、どこか、何かが抜けたような感じだった。いつもほどに感情は入っていない。

 

「んで、お前が遅刻かよ。さぼりは多かったけど、遅刻は珍しいな」

 

「遅刻と提出忘れだったらどっちを選ぶかってところなんだよ。こっちに来て、まだ優等生を演じ切れているはずだしな」

 

「なんだそれ。気張んなくても、お前はお前だよ。誰が見ても間違いねえ」

 

 らしくない光の言葉に、俺はらしくない動揺を見せる。

 しかしすぐに取り払って、今度は俺から問いかけた。

 

「んで、お前は? 寝坊か?」

 

「なんでバレんだよ! せっかく隠そうと思ってたのによ」

 

「寝ぐせ、治ってないからな」

 

 光の右後頭部の髪が、少しばかり変な方向へ跳ねているのだ。

 遅刻すると分かってるなら、ちゃんと直せばいいのに。それをしないところが、また光らしい。

 

「・・・ま、なんだ。遅刻二人組で仲良く笑われ者になろうじゃねえか」

 

「いいけど、髪は直させろよな」

 

 そんな会話をしながら、建物の中に入っていく。

 手洗い場で軽く光の寝ぐせを治して、俺たちは倦怠感に包まれながら教室の扉を開いた。

 

「すいません、遅れましたー」

 

「・・・」

 

 教室中が静まりかえる。が、これはどこか違う。変な静まり方だ。

 

 俺はすぐに教室の中を見回した。・・・そして、気づく。

 

 汐鹿生の人間がいない。誰一人としてだ。

 それと同じタイミングで、何も知らないであろう先生がしゃべりだす。

 

「あれ、海村の子たちは、今日は全員休みって聞いてたんだけどねぇ。光と遥は来たんだね」

 

「え?」

 

 光が声を上げる。

 俺も、声こそ上げなかったものの、目まぐるしいスピードで思考回路が動いていた。

 

 そして、この状況が何を意味するのか。その答えに辿り着いた。

 

 これが、大人たちの答えの一部だ。

 光も少ししてそれに気が付いてようで、小さく怒りの声を上げた。

 

「村の連中・・・!!」

 

 そしてそのまま、荷物も放り出して教室を猛ダッシュで後にする。遅刻から早退まで1分も経ってない。

 

「ちょ、光!?」

 

「はぁ・・・。・・・すいません、先生。俺も行きます。ちょっとこれは、説明が後になるかと思います」

 

「遥もかい!? せめて、事情は・・・」

 

「時間がないんです・・・!」

 

 本当に時間がないかどうかはいざ知らないが、急いだほうがいいという結論に変わりはなかった。

 俺も光の後を追うように学校をあとにする。

 

 けれど、この足だ。まだ海に飛び込むことは許可されていない。

 

 ・・・こうなることを見越しておいて、俺は先日、要に話したのだ。

 

 

~過去~

 

「・・・でも、率先して動くったって、何をするの?」

 

「会議で何が決められたか分からないから、今は何とも言えないけどな・・・。でも、出来るだけ連中の指示に従うようにしてほしい。でも、子供の意見も殺してほしくない。・・・お舟引き、ここまで来たんだ。どうにか融通を聞かせてくれれば」

 

「結構難題なことを言うんだね」

 

「ああ。正直、誰が行動しても同じくらいに難しい話だ」

 

「・・・分かったよ。そうするしかないんだろうね」

 

「それと、ウロコ様に、俺が話たがっていることを伝えておいてほしい」

 

「いいけど・・・。伝えてどうにかなるものなの?」

 

「ああ。『秘策』があるからな」

 

 

~現在~

 

 もし、その秘策がハマっているのなら、ウロコ様がどこにいるかを俺は知っている。

 この鷲大師には、海沿いの雑林の中に、一つ小さな祠がある。海の歴史を学ぶうちに知った、一つの知識に過ぎないものが、今ここで役に立っている。

 

 この祠は、海神様に関係するものだ。

 だから、呼び寄せればきっと・・・。

 

 祠について、あたりを見回す。人の気配は、まだない。

 が、声は突如として聞こえた。

 

「ほう、ここを知っているとはのう、遥よ」

 

 声の方を向く。

 祠の綻びた屋根に、ウロコ様はいた。

 

「あなたがここにいるってことは、要はちゃんと、あなたに俺の意思を伝えてくれたんですね」

 

「ああ。聞いたぞ。・・・しかし、こうも簡単に人を使いっぱしるとは、お主も中々に自分勝手よなぁ」

 

「無理言わんでください。この足で戻って、俺に死ねとでも言うんですか?」

 

「冗談じゃよ」

 

 八ッハとウロコ様が笑い飛ばす。けれど、今は笑っていられる状況なんかではない。

 

「で、どうして俺がここにあなたを呼び寄せたか、分かりますよね?」

 

「・・・大方、会議の内容でも知りたがってるのであろう。じゃが、大人たちは皆、まだお主ら子供に伝えるつもりはないようじゃぞ?」

 

「・・・なら、こういうのはどうですかね?」

 

 そして俺は、例の伝承を口走る。

 

 

———海神様が力を失ったとき

 

———ぬくみ雪が陸と海に降り積もり

 

———やがて人間が暮らせないくらいの寒さになる

 

 

「・・・ほう?」

 

 ウロコ様は興味深いものを見る目で俺をしっかりと見つめてきた。そして、一度瞑目して開いたかと思うと、急に口を割った。

 

「その伝承は、普通まだ14になったばかりの小僧が知るような内容ではないんじゃがの」

 

「ずっと前から知ってましたよ。あれだけ籠って本を読みふけっていたんですから。それを知らないあなたではないでしょう?」

 

「中々面白いことを言う。・・・そうじゃな。それが念頭にあるのであれば、お前には公言しても良いであろう、遥よ」

 

 ウロコ様は、一つ息を吸って、吐いて、淡々と述べた。

 

「冬眠じゃよ」

 

「冬眠・・・?」

 

「そうじゃ。その言葉の意味を知らないお主ではあるまい」

 

 意味は知っていた。

 人間以外の、一定数の野生動物が冬の寒さをしのぐため、籠って長い眠りにつくことだ。そうして、冬を越して、また目覚める。

 

 それを、人間がしようという話なのだろうか。

 

 ・・・確かに、理にかなっているけど。

 

「どれくらい、眠ることになるんですか?」

 

「さあの。眠らせるのは海神様の仕事じゃが、目覚めるのは人次第じゃ。5年で起きる奴もおれば、10年かかる奴もおるかもしれん。3年で終わる奴もおるかもしれんの」

 

 ・・・冗談じゃない!

 

 そう簡単に、今の陸を手放したくない俺は、心の中で叫び声を挙げた。

 

「・・・やはり、反抗的な目を示すと思ったぞ。エナを持つものを対象にしているからの。お主や灯の娘の扱いには困る。じゃがな、このまま陸に残り続けたら、最悪人より早く死に至るかもしれん。それでも、お前はここを選ぶのか?」

 

 

 曇りのない、ウロコ様の瞳。

 

 

 けれど、俺の答えは、もう決まっていた。




『今日の座談会コーナー』

そう言えば、この作品、やたらとウロコ様大事にしているのに、ウロコ様の出演回が前半の方からここまでだいぶ飛ぶんですよね。
やはり、物語の軸が陸にあるから、でしょうか。海の描写も少ないですし。

ただ、個人的に思うのが、原作と同じシーンを同じように文章にするのは、二次創作として少し意味がない事では、ということです。

なので、海でのやり取りや、映像化されているシーン、というよりは、こういったオリジナルな展開を書きたいわけです。

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といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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