凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
それでは、本編どうぞ。
~遥side~
おじょしさま修復作業が順調に進んでいるある日の朝、今日は四人で朝食の食卓を囲んでいた。
そして、いつも通り水瀬と一緒に家を出て、学校へ行く。
その道中、俺はふと思い出した。
「・・・待て」
「? どしたの?」
「今日、英語の課題の提出日だったよな?」
「そうだけど・・・。あ」
「忘れたんだよ。取りに戻らないと・・・」
たかが課題を一つ忘れたくらいであの先生は怒らないだろうが、これはプライドの問題だ。
「分かった。じゃあ、先に行くね? 鍵は開いてると思うから。あ、走っちゃだめだよ。まだ怪我完全に治ってないんだから」
「分かってるよ」
それに、走ったところで痛いのは自分だ。
さて、遅刻覚悟で歩いて帰るとしよう。
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学校付近まで着くと、時刻はとっくに九時を回っていた。完全に遅刻である。
普段なら遅刻すると教室に入るのを躊躇ってしまうが、今日はどこかすがすがしい気分だった。堂々と胸を張って教室に入れる気がする。
するとその時、近くに人影が見えた。波中の制服。光だ。
俺はすぐさま光に近づいて声を掛ける。
「よっ」
「うぉっ!? ・・・なんだお前かよ。驚かせやがって」
今日の光は、どこか、何かが抜けたような感じだった。いつもほどに感情は入っていない。
「んで、お前が遅刻かよ。さぼりは多かったけど、遅刻は珍しいな」
「遅刻と提出忘れだったらどっちを選ぶかってところなんだよ。こっちに来て、まだ優等生を演じ切れているはずだしな」
「なんだそれ。気張んなくても、お前はお前だよ。誰が見ても間違いねえ」
らしくない光の言葉に、俺はらしくない動揺を見せる。
しかしすぐに取り払って、今度は俺から問いかけた。
「んで、お前は? 寝坊か?」
「なんでバレんだよ! せっかく隠そうと思ってたのによ」
「寝ぐせ、治ってないからな」
光の右後頭部の髪が、少しばかり変な方向へ跳ねているのだ。
遅刻すると分かってるなら、ちゃんと直せばいいのに。それをしないところが、また光らしい。
「・・・ま、なんだ。遅刻二人組で仲良く笑われ者になろうじゃねえか」
「いいけど、髪は直させろよな」
そんな会話をしながら、建物の中に入っていく。
手洗い場で軽く光の寝ぐせを治して、俺たちは倦怠感に包まれながら教室の扉を開いた。
「すいません、遅れましたー」
「・・・」
教室中が静まりかえる。が、これはどこか違う。変な静まり方だ。
俺はすぐに教室の中を見回した。・・・そして、気づく。
汐鹿生の人間がいない。誰一人としてだ。
それと同じタイミングで、何も知らないであろう先生がしゃべりだす。
「あれ、海村の子たちは、今日は全員休みって聞いてたんだけどねぇ。光と遥は来たんだね」
「え?」
光が声を上げる。
俺も、声こそ上げなかったものの、目まぐるしいスピードで思考回路が動いていた。
そして、この状況が何を意味するのか。その答えに辿り着いた。
これが、大人たちの答えの一部だ。
光も少ししてそれに気が付いてようで、小さく怒りの声を上げた。
「村の連中・・・!!」
そしてそのまま、荷物も放り出して教室を猛ダッシュで後にする。遅刻から早退まで1分も経ってない。
「ちょ、光!?」
「はぁ・・・。・・・すいません、先生。俺も行きます。ちょっとこれは、説明が後になるかと思います」
「遥もかい!? せめて、事情は・・・」
「時間がないんです・・・!」
本当に時間がないかどうかはいざ知らないが、急いだほうがいいという結論に変わりはなかった。
俺も光の後を追うように学校をあとにする。
けれど、この足だ。まだ海に飛び込むことは許可されていない。
・・・こうなることを見越しておいて、俺は先日、要に話したのだ。
~過去~
「・・・でも、率先して動くったって、何をするの?」
「会議で何が決められたか分からないから、今は何とも言えないけどな・・・。でも、出来るだけ連中の指示に従うようにしてほしい。でも、子供の意見も殺してほしくない。・・・お舟引き、ここまで来たんだ。どうにか融通を聞かせてくれれば」
「結構難題なことを言うんだね」
「ああ。正直、誰が行動しても同じくらいに難しい話だ」
「・・・分かったよ。そうするしかないんだろうね」
「それと、ウロコ様に、俺が話たがっていることを伝えておいてほしい」
「いいけど・・・。伝えてどうにかなるものなの?」
「ああ。『秘策』があるからな」
~現在~
もし、その秘策がハマっているのなら、ウロコ様がどこにいるかを俺は知っている。
この鷲大師には、海沿いの雑林の中に、一つ小さな祠がある。海の歴史を学ぶうちに知った、一つの知識に過ぎないものが、今ここで役に立っている。
この祠は、海神様に関係するものだ。
だから、呼び寄せればきっと・・・。
祠について、あたりを見回す。人の気配は、まだない。
が、声は突如として聞こえた。
「ほう、ここを知っているとはのう、遥よ」
声の方を向く。
祠の綻びた屋根に、ウロコ様はいた。
「あなたがここにいるってことは、要はちゃんと、あなたに俺の意思を伝えてくれたんですね」
「ああ。聞いたぞ。・・・しかし、こうも簡単に人を使いっぱしるとは、お主も中々に自分勝手よなぁ」
「無理言わんでください。この足で戻って、俺に死ねとでも言うんですか?」
「冗談じゃよ」
八ッハとウロコ様が笑い飛ばす。けれど、今は笑っていられる状況なんかではない。
「で、どうして俺がここにあなたを呼び寄せたか、分かりますよね?」
「・・・大方、会議の内容でも知りたがってるのであろう。じゃが、大人たちは皆、まだお主ら子供に伝えるつもりはないようじゃぞ?」
「・・・なら、こういうのはどうですかね?」
そして俺は、例の伝承を口走る。
———海神様が力を失ったとき
———ぬくみ雪が陸と海に降り積もり
———やがて人間が暮らせないくらいの寒さになる
「・・・ほう?」
ウロコ様は興味深いものを見る目で俺をしっかりと見つめてきた。そして、一度瞑目して開いたかと思うと、急に口を割った。
「その伝承は、普通まだ14になったばかりの小僧が知るような内容ではないんじゃがの」
「ずっと前から知ってましたよ。あれだけ籠って本を読みふけっていたんですから。それを知らないあなたではないでしょう?」
「中々面白いことを言う。・・・そうじゃな。それが念頭にあるのであれば、お前には公言しても良いであろう、遥よ」
ウロコ様は、一つ息を吸って、吐いて、淡々と述べた。
「冬眠じゃよ」
「冬眠・・・?」
「そうじゃ。その言葉の意味を知らないお主ではあるまい」
意味は知っていた。
人間以外の、一定数の野生動物が冬の寒さをしのぐため、籠って長い眠りにつくことだ。そうして、冬を越して、また目覚める。
それを、人間がしようという話なのだろうか。
・・・確かに、理にかなっているけど。
「どれくらい、眠ることになるんですか?」
「さあの。眠らせるのは海神様の仕事じゃが、目覚めるのは人次第じゃ。5年で起きる奴もおれば、10年かかる奴もおるかもしれん。3年で終わる奴もおるかもしれんの」
・・・冗談じゃない!
そう簡単に、今の陸を手放したくない俺は、心の中で叫び声を挙げた。
「・・・やはり、反抗的な目を示すと思ったぞ。エナを持つものを対象にしているからの。お主や灯の娘の扱いには困る。じゃがな、このまま陸に残り続けたら、最悪人より早く死に至るかもしれん。それでも、お前はここを選ぶのか?」
曇りのない、ウロコ様の瞳。
けれど、俺の答えは、もう決まっていた。
『今日の座談会コーナー』
そう言えば、この作品、やたらとウロコ様大事にしているのに、ウロコ様の出演回が前半の方からここまでだいぶ飛ぶんですよね。
やはり、物語の軸が陸にあるから、でしょうか。海の描写も少ないですし。
ただ、個人的に思うのが、原作と同じシーンを同じように文章にするのは、二次創作として少し意味がない事では、ということです。
なので、海でのやり取りや、映像化されているシーン、というよりは、こういったオリジナルな展開を書きたいわけです。
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といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)