凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
・・・サボりじゃないよ?
それでは、本編どうぞ。
~遥side~
「・・・どうしたんです? まさか、俺を潰しに来ましたか?」
俺は冗談交じりにウロコ様にそう毒を吐いてみた。冗談と言いながら、本当にやりかねない力をこの人は持っている。悔しいが、この人は海神様のウロコなのだ。
ただ海を捨てるだけの人間ならいいが、俺みたいな自由勝手に行動する人間は邪魔者以外の何者でもないのかもしれない。
少しばかり身構えた俺に対して、ウロコ様は手を横に振った。
「お主は阿呆か。儂とて鬼ではない。確かに、お主の行動は目に余るものがあるが、それはあくまで海を思っての事。海神様の意思は、お主を許しておる」
「はてさて、本当にそうだといいんですけどね・・・」
なんせここは、『海神様のいる場所』だ。
どう事が急展開するか分からない以上、安心はできないでいた。
「・・・お前は、真意に辿り着いた、という見解でよいのかの?」
「さあ、どうでしょうね。少なくとも自分の中での答えはありますが、それが真意かどうかは分かりません」
敢えて遠回しな言葉を並べているが、言っていることは本当だ。
この人の前で、おめおめと自分の思っていることを言う方が馬鹿だ。ただでさえ、考えていることを読むことが出来そうな人なのに。
ウロコ様はそんな俺の考えを読んだのか読まずか、一つ小さくため息をついて仕方がなさそうに吐いた。
「まあ、なんじゃ。この際、儂はお主が何を思っていようと、何をやろうとしていようと、どんな未来を送ろうと何も言わん」
「それは、海を出て陸に残る道を選んでもですか?」
「・・・」
珍しくウロコ様は黙り込む。が、流石はウロコ様。すぐさま自分の調子を取り戻した。
「お主を追放するかどうかは儂の一存ではない。これは前にも言ったことじゃ。・・・じゃが、本音を言えば、誰にも自由に生きる権利はあると考えておる。それが出来ないのが現状、ということじゃが」
「分かってます。・・・俺は、その上で選びました」
「・・・。止めはせん。じゃが、これだけは言っておく。お主の選ぶ道は、過酷で、残酷で、失敗が何度でも立て続くじゃろう。・・・それでも、行くというのか?」
「はい」
ここまで親切に語ってくれるウロコ様は珍しいと思えた。
というより、これが本心なのだろう。考え方が対極にあるだけで、本当はこの人も海と陸の現状をどうにかしたいと心のどこかで思っている。
「少なくとも、俺は俺に出来る、最善の道を選びます」
「・・・分かった。あと遥、これだけは覚えておけ。・・・自分が背負ってるものを、忘れてはならん。もうお主も、一人じゃないのじゃから」
「・・・分かってます」
俺はしっかりと返事を返す。その言葉の意味は分かってるつもりだ。
俺が背負ってる想いを、人を数える。
あいつらがいて、紡がいて、陸で仲良くなったたくさんの同級生がいる。
あかりさんに至さん、・・・みをりさんだって。
そして保さんと夏帆さんがいて、美海と、水瀬がいる。
お互い、背負い背負われて生きている。
そんな思いを、もう失いたくない。お舟引きを成功させたい。
やっと、人を好きになるということが分かってきたんだ。
もう、誰にも奪わせやしない。
「それじゃあ、儂はここいらで失礼するぞ。あとはどうにか足掻いて見せろ」
そして、ウロコ様はパッとどこかへ消えていった。
・・・さあ、帰ろうか。
今の俺の居場所は、多分ここじゃないから。
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~美海side~
遥から冬眠の話を聞かされた日の夜、私はj一人、布団の中にこもって考えた。
「海村は冬眠に入る」
「でも、俺は海へは戻らない。陸で生きていく」
その両方は、遥の言葉だ。
遥は、陸を、この場所を大切な場所だと言ってくれた。
嬉しかった。・・・それだけで、嬉しかったのに。
「でも、海も陸も、両方諦めたくない」
遥は、そう言った。
遥は強い。全てのものを愛して、守ろうとして、常にその最前線にいる。
誰だって、島波遥は強い人間だって言うと思う。私だって、そうだから。
・・・私は、そんな遥のために、何ができるんだろう。
こんな離れた年に生まれたことを後悔するのは初めてだ。
遥はもう、遊んでくれたお兄ちゃん、じゃない。
私の・・・私の、大好きな人なんだ。いなくなってほしくない、不幸せになってほしくない、大好きな人。
でも、今の私は、そんな遥の隣にいれるのかな?
年齢も、学校も違う。人間としてのスペックだって遥の方が全然上で・・・。
私は、・・・その隣にいることが許されるのかな。
私は、遥のことが好きだ。大好きだ。
一人で感情を抱え込んで、パンクして、周りにあたってしまっていた日々。
そんなある日、海に落ちてしまったある日、遥は自分の思いの丈を伝えてくれた。
その時、遥は私と同じ傷を、私と同じ痛みを、私と同じ思いを持っているって、伝えてくれたんだ。
安心した。一緒にいたいって思った。そうすれば、この痛みも乗り越えることが出来るかもって、思った。
でも、私のこの好きの気持ちは、簡単に口にできない。
同じ痛みを抱えているってことは、遥も好きの気持ちが分からなくなってるってこと。
この気持ちを口にしたら、遥はどう応えるのだろう。
分からない。・・・分からないし、とても怖い。
好きだって言っちゃったら、遥もどこかに行ってしまうかもしれない。私の心の奥底の誰かがそうささやいている。
今は・・・きっと、ダメなんだ。
・・・だから私は、今は、せめて遥の邪魔にならないように、遠くでその背中を眺めていれるように。
いつか、大好きを言うために、今はそうしよう。
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~千夏side~
今日、島波君は一度海へと戻っていった。
今日中には陸に戻ってくるって言ったけど、海で何が行われてるか分からない以上、確証は持てなかった。
だから私は、島波君を待つ。いつもの堤防で。
・・・こうしてぼんやりと何かを眺めているだけで、島波君のことを思い出してしまう。
島波君は、やっぱり強い。
誰だって、自分を守ることで精いっぱいなのに、島波君は全てを欲しがって、全てを守ろうとしている。何一つあきらめちゃいない。
私はきっと、そんな彼だから、好きになったんだ。
今だから言える。私が彼に抱いている気持ちは、『好き』なんだ。
私が歩んできた苦しく、辛い道。そんな道を乗り越えて、やっと光が見えた気がしたんだ。
彼に出会って、私の人生に光が差し込んだ。
・・・でも、好きだと言って、この思いは届くのかな。
始まりは偶然だったけど、島波君と一緒にいる時間も増えた。好きの気持ちも、だんだん膨れ上がって。
でも、私が抱いているこの感情を、島波君が一緒に共有しているなんてことは分からない。
それに、島波君の過去を、私は知ってるから。
たくさん辛いことに見舞われて、好きになることが分からなくなって、そして今日までを生きてきている。
そんな彼に、私は思いを伝えるべきなんだろうか。
それで彼を傷つけることになっても、私は言うべきなんだろうか。
・・・私は。
私は、それでも伝えたい。
辛いことの先に光がある。そのことを教えてくれたのは島波君だから。
だからいつか、この想いを伝えよう。全てが間に合わなくなってしまう前に。
ふと、遠くで波が立つ音が聞こえた。不自然なリズム。そこに目をやると人影が見える。
その姿が瞳に映ったことを、私は安堵した。何が起こるか分からない、なんて、結局はただの建前で、私はその姿を一秒でも長く目に焼き付けたかっただけなんだと思う。
彼は、私の足元の方まで泳いできて、私の方を見上げた。
「・・・よっ、ただいま」
無邪気そうに彼が微笑む。・・・ああ、やっぱり私は、彼が好きなんだ。
けど、今はその時じゃない。その時までは、私も普通でいるとしよう。
「おかえり、島波君」
今は、この時間が、こんなやりとりが、一番心地いい。
『今日の座談会コーナー』
前作四十六話「それぞれの覚悟」のあとがきに、こう書いてあります。
「想いを知り、過去をあまり知らない美海と
過去を知り、想いをあまり知らない水瀬」
今回の話は、それに重点を置いているんですよね。
美海は遥の両親のことをまだ知らされてないですし、水瀬は美海ほど遥自身の切なる想いを聞かされていない。
そして、これからの行動は、そうした立場の違いによって大きく変わることになります。
ぜひ、ご堪能あれ。
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といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)