凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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今回、前作基準で一通り書いたら2000文字行かなかったので、多分相当前回47話は短かったと思う。
というわけで、本編どうぞ。


第四十九話 君の幸せ

~遥side~

 

 次の月曜日からは、海にいる光たちが学校へと合流した。どうやら、冬眠までの投稿は許可してくれたらしい。

 しかし、冬眠を挙行する、という姿勢は変えないようだった。向こうにも譲れぬものがあるらしい。

 

 陸でも、冬眠のことが発表される。皆驚いていたが、だからこそお舟引きを成功させようという機運が高まり、ますます陸と海の結びつきが強くなったようだった。

 

 そんなある日のことだった。ふと見ると、さやマート裏の壁に、ガムの文字が『完成していた』

 

 壁には、しっかりと『どっかいけ』と記されている。

 

 あかりさんは、片付けをしながら呟いた。

 

「こんなことをするの、理由はもう分かってるんだけどね」

 

「怒ったりはしないんですか?」

 

「しないしない。・・・少なくともこれは、あの子なりの優しさだから」

 

「家で、冬眠の話したんですか?」

 

「したよ。それで、陸に残る話もした。・・・遥くんも、そうなんだよね?」

 

「・・・まだ、全てを諦めたわけじゃないですけど」

 

 そう言わないと、俺は本当にただの裏切り者に成り下がる気がしたのだ。

 俺は、裏切り者になりたいわけじゃないから。

 

「そして、その話をしたらこのありさま。・・・気持ちは、痛いほどに分かるんだけどね」

 

 今度は、あかりさんはちゃんと美海の心を測れていたようだった。

 とはいえ、今度のことはあかりさんも笑っていられる立場ではない。

 

 天涯孤独の身となった俺とは違って、あかりさんは海に大事な人を残した状態でいいる。至さんのパートナーである以前に、あかりさんは光の姉だ。

 

 弟が海で眠っている状態で、果たして自分一人、陸で平然としていられるのだろうか。その取捨選択は、簡単に行えるものじゃない。

 

 

「美海は、優しい子です」

 

「・・・うん、優しい。だから、素直になれないんだと思う」

 

 美海は、あかりさんのことが好きだから。

 好きだから、いなくなってほしくない。だから遠ざけてるんだろう。

 

 一概に、心なんてものは簡単に割り切れない。

 

「・・・大丈夫ですよ、絶対に、俺は美海からいなくなりませんから」

 

「うん」

 

 

 なんて、本人のいないところで誓いを立てたって、その思いは届かないのだろうけど。

 

 

---

 

 

 そして、さらにそれから数日。

 おじょしさまの修復がほとんど完成したあたりで、俺たちは漁協に呼び出された。

 陸の、漁協の人間からの呼び出しという事だった。

 

 今度は保さんが同席している。こちらのトラブルメーカーもいないあたり、なんとかなるだろうと楽観することは出来た。

 

 

「「「・・・」」」 

 

 その他、複数の若い人間が複雑そうな顔でいた。

 

 その中の一人が口を開く。

 

「その・・・先日は会議ぶち壊してしまって、本当にすまんかった!」

 

「すまん!」

 

 それに続くように、残りの人も頭を下げる。

 

 ・・・あの日と別の人に謝られても、気分良くないんだけどなぁ・・・。

 

 責任を感じてくれているのはありがたいが、今はそんな話をしに来ているわけじゃない。

 

「・・・はぁ、顔上げてくださいよ。本題はそこじゃないでしょ? この際話は水に流すので、さっさと議論を進めましょう。それでいいよな? 光」

 

「俺は別に怪我してないし、おじょしさま壊されたくらいだけどな・・・。怒ってないってわけじゃないけど、今はその話じゃないってのはそうだな」

 

 光の感情は恐ろしいほどに安定していた。少なからずとも、時間がないことが分かってるのだろう。

 

 そんなことに、怒る余裕はない。それが現状なのだ。

 

「分かった。・・・それじゃあ、改めて」

 

 顔を上げると、青年の一人が話し出した。

 

「俺らは、やっぱりお舟引きをしたいと考えているんだ。この前のぬくみ雪。おかしいことは明白なんだ。きっとこのままじゃ、大変なことになってしまう。でも、俺らじゃ何もできない。だから、海に頼るしかないって気づいた。俺たちは、あんた達を手助けしたい。一度提案を蹴った身分で、勝手なことを言ってるのは承知してる。頼む、手伝わせてくれ!」

 

 どうも、大人というのは筋を通したいらしい。

 そんな謝罪だとか低い腰でというのが欲しいわけじゃないのに、どこかプライドのようなものでももあるのだろう。

 

「・・・どうするよ、光。つって」

 

「お舟引きをやりたいのは俺たちとしてもそうなんだ。断る理由がどこにもないだろ」

 

「・・・だな」

 

 ハナから、答えは決まっていた。

 

 ここで意見を述べたのは俺と光の二人に過ぎないが、きっと学校の連中で、お舟引きをやりたいと思っている奴で意志が変わった奴はいないだろう。

 

 だからここは、迷いなくOKを出す。

 

「こちらからも、よろしくお願いします。こちらとしても、何とかしたいという気持ちは変わりません。なら、そこに理由はいらないでしょう。まだ、お舟引きは間に合います。これから、頑張っていきましょう」

 

 そして、俺たちは握手を交わす。俺たちは確かに、ここに結ばれた。

 

 

 

---

 

 

 その帰り際、俺は光に呼び止められた。

 そうは言っても、この間の俺の意見に物申したい部分があるようだった。

 しかし、皆の前で癇癪を起してはいけない。それを光も分かっているようだった。

 

「なあ、遥。もしも、だけどよ。お舟引きが成功しても、海の異変は収まらなくて、汐鹿生が冬眠を始めても・・・お前は」

 

「陸で生きる。・・・そう話したよな」

 

「・・・っ」

 

 光はギリッと歯を食いしばる。声を大にして怒りたいのを堪えていると想像するのは容易いことだった。

 

「お前は、なんでそうまでして陸に残りたいんだよ」

 

「・・・俺ってさ、壊れてるんだよ。お前らといて、時々思っちまう。俺は、本当にここにいていいのかって」

 

「何をいまさら、そんなことを・・・」

 

「お前らが俺みたいなのを大切にしてくれているのは分かってるし、とても嬉しいとも思ってる。・・・でも、海じゃ俺は結局一人なんだよ。壊れた歯車は戻らないし、過去を変えることも出来ない。もともとお前たちを遠ざけようとしたのは俺だ」

 

「だったら、それを陸なら解消できるっていうのかよ?」

 

「・・・分からない。けれど、水瀬家に身を寄せるようになって気づいたんだ。失いかけた温もりが、あそこにはある。・・・やっと見つけたんだよ。ずっと一人で、行き場のなかった俺が」

 

 心中を吐露するにつれて、次第に胸の奥の方が熱くなっていくのが分かった。

 

 ・・・そうか。俺はやっぱりもう、海の人間じゃないのかもしれない。

 

 そこで何かが吹っ切れて、俺の気持ちは一瞬にして楽になった。両の肩にぶら下がっていた重荷が取れたように、体が軽くなる。

 

「でも、このまま冬眠に入ってお前らと違う年齢として生きるのも嫌ではある。・・・かといって、陸と歯車がずれるのも嫌。はっ、どこまでも子供みたいだよな。あれも嫌、これも嫌って」

 

「だから、お前はお舟引きに力を入れてるんだろ?」

 

「それが、唯一残された可能性かもしれないからな」

 

 結局、先行きは何一つよくはない。

 言っておきながら、進む足は止まりそうなのだ。

 

 そんな自分を何とか奮い立たせて、俺は進まなきゃならない。例え、進む先が絶望しかないとしても。

 

「・・・なぁ、一つ聞いていいか?」

 

 光はほんの少し恥ずかしそうに、俺にそう持ち掛けてきた。

 

「なんだ?」

 

「お前は・・・水瀬のことが、好きなのか?」

 

「・・・!?」

 

 光から、いともたやすく発せられるその言葉。

 けれど、確かに俺は動揺した。そうせざるを得なかった。

 

 でも。

 ああ、そうだ。俺はいつもそうなんだ。ずっとこのまま、分からないでいる。

 確かに、胸の中に今までとは違う感情が芽生えていないわけでもない。ただ、それを『好き』の感情にまとめていいのだろうか。

 

 それも、恋愛の対象として。

 

「・・・分からない。ただ、あいつはどこか違う。どこか・・・何か、違うんだよ。あいつを見てると」

 

「・・・そっか」

 

 光は、それ以上そのことについて何も言及しなかった。光なりの配慮と言えよう。

 

 

「・・・なんかさ、本当はもっと怒って殴ってやろうと思ったけどさ、お前らしくて安心したわ」

 

「なんだよそれ」

 

「俺たちはお前にいてほしい。一緒に冬眠するならしてほしい。・・・でも、それがお前の幸せにならないってんなら、俺は、それも嫌だ」

 

 開いた口がふさがらなかった。

 今まで、光がここまで誰かに配慮出来た言葉を言えただろうか。

 

 自分の感情にまっすぐで、そのせいで周りを巻き込んで、問題を起こして。そんなあいつの言葉とは思えなかった。

 

「ま、なんにせよお舟引きまで頑張ろうぜ。・・・てか、最近海じゃ何も食べないようになってさぁ、ねみぃんだよな、なんか」

 

「何も食べないと眠たくなるらしいな。だからこの前の宴会か」

 

「そ。そういうことになる」

 

 光が小さくあくびするのを見て、いよいよ時間がないことを再確認する。

 とはいえ、手はつなげた。お舟引きの遂行は、もうすぐそこまで見えている。

 

 

 ・・・ああ、やろう。

 どんなに辛い未来が待っていようと、こいつらも、陸の皆も、誰一人裏切りたくないから。

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

後半の光と遥の一対一の対話シーンは、今作追加シーンですね。
私、この作品において結構この二人の対話シーン好きなんですよね。二次創作の改変のせいですが、おとなしい光を描けるので。

何と言いましょうか、私の中では同学年で兄貴分、みたいな雰囲気なんですよね、遥って。
全て自分がリーダーというわけじゃないですが、真のリーダーというか、影のリーダーというか。

とはいえ、完璧超人モードを崩せつつあるのは大きいです。

---


といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

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