凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
結構愛着はあります。
本編どうぞ。
~千夏side~
口にして、ようやく自我が戻ってくる。
・・・ああ、私言っちゃったんだ。島波君の事、大好きだって。
でも、後悔はない。むしろ、心の奥がすっきりした気分。こんなつっかえを持ったまま生きろなんて、それは無理な話だ。
・・・でも、それから瞬間的に気づいた。
これは、私のエゴだ。自己満足だ。
私は今、好きと言った私にどこか嬉しさを覚えている。思いだけ吐き出して、満足している。・・・島波君の気持ちすら考えないで。
島波君のことが好きな気持ちに間違いはない。
でも、この冷めた気持ちでは返答を受け取る勇気はなかった。
言った傍から、私は今の一瞬のことを忘れてほしくなっていた。
そんな彼は、頭を掻きながらものすごく困った素振りを見せた。・・・少なくとも、喜んでなんかいない。
「・・・えっと、水瀬。・・・俺はなんて言えばいい? 答えを返すべきか、今思ってることを伝えればいいのか。・・・水瀬は、どうしてほしいんだ?」
幸いにも、島波君は答えることを躊躇ってくれた。
だから、このわがままの夢にも終止符を打つことが出来る。
・・・あれ? 私、何をしたかったんだっけ。
「・・・何も、言わなくていいよ」
「何?」
「いいよ。何も言わなくて。・・・これは、私の自己満足。気持ち、伝えたかっただけだから。・・・だから、忘れてよ」
そう言って私は笑う。
心がどうかしているみたいで、おかしな行動をしている自分を私はおかしいと思えなくなっていた。
「さ、帰ろっか。みんな待ってるだろうし」
そのまま島波君の顔を見ないで、私は逃げ出すように駆けていった。
そして、気づく。
私がやってしまった、取り返しのつかない過ちに。
結局、自己満足だなんて安易な言葉で逃げているだけで。
私は、その答えを聞くことを怖がって、・・・逃げ出したんだ。
島波君が私のことをどう思っているか、知ることが怖かったんだ。
だったら、なんで好きだなんて口走ったんだろう。
笑う彼を、怒る彼を、悲しむ彼を、喜ぶ彼を、私はずっと見てきた。そして、好きになった。
ただ、それだけを伝えればよかった? ・・・違う。それは、誰も喜ぶことなんてない。
島波君の一番でありたいのに。島波君の傍にいたいのに。
なんで・・・私は。
傘を差すことも忘れて、雨に濡れながら歩いていく。今はもう、何も考えることが出来なかった。
私が壊した。・・・壊してしまったんだ。
そんなことを思っていたせいか、私は全ての音を知らずのうちに遮断してしまっていた。
・・・だから、聞こえない。
どこからか聞こえる、ゴーッという轟音が。
そして、聞こえたとき、そこに目を向けたとき、私の思考回路はショートした。
そこから先のことは断片的にしか覚えていない。
私の方へ流れてきたのは、崩れた山肌からの大量の土砂や岩石だったこと。
私が、絶望して目をつぶってしまったこと。
・・・そして、最後に背中に、何か柔らかい感触を受けたことだった。
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~遥side~
帰り際、俺は水瀬に呼ばれて、ほんの少しだけ学校に残ることになった。
空き教室で、ためらいの果てに水瀬が口走る。
「島波遥くん、私はあなたのことが大好きです」
それは、告白だった。
けれど、今日のそれは、この間ちさきから受けた告白とは違い、どこか違和感のようなものを感じた。胸の奥の方が、ムズムズしている。何か叫びたがっているような。
・・・失礼な話になるかもしれないが、正直、予感していなかったと言えば噓になる。
陸に上がって、水瀬に出会って、付き合いこそ短いけどずっと傍にいた。・・・いつか、こんな日が来るんじゃないかって、心のどこかで思っていたんだ。
・・・なんで、そんなことを思えていたんだろう。人を好きになることを遠ざけてきた俺が。
それが、この胸の痛みの答えなんだろうか。
けれど、素直なんて言葉は俺には一番似合わない。
また、遠回ししかできないような言葉を俺は口走る。
「・・・えっと、水瀬。・・・俺はなんて言えばいい? 答えを返すべきか、今思ってることを伝えればいいのか。・・・水瀬は、どうしてほしいんだ?」
言っておいてすぐ気づく。最低だ。
こういう時、本当はすぐに答えが欲しいはずなのに、それを口にしないだけでなく、相手に委ねるなんて。
すると、水瀬は悲し気に笑った。
「・・・何も、言わなくていいよ」
「何?」
「いいよ。何も言わなくて。・・・これは、私の自己満足。気持ち、伝えたかっただけだから。・・・だから、忘れてよ」
それから、水瀬は俺から顔を背けた。
帰ろうかと呟いて、そのまま逃げるように駆けていく。
俺は、その背中を眺めるだけ・・・。
・・・そんなのは、もう、ごめんだった。
水瀬の気持ちが、水瀬自身が、どんどん遠くへ離れていく。それをただ見送るだけなんて、もうごめんだ。
遠くへ行ってほしくない。そうしたら、もう二度とつかめないような気がしたから。
それほどまでに俺は水瀬を、欲していた。
好きになる気持ちなんて、まだ分からないけど。
分からないからこそ、今はこの胸の思いに答えなきゃいけないんだ。
ちさきに告白された時にはなかった感覚。きっと、これが好きの気持ちなのかもしれない。
その気持ちに・・・今、俺は答える。
気が付けば、体は走り出していた。
目指すのはただ一つ、水瀬の下、それだけだ。
もうすっかり遠く離れてしまっていて、今この位置からでは姿を捉えることは出来ない。
それでも、遅れた距離を取り戻すべく全力で駆ける。
駆ける。駆ける。駆ける。
荷物も、傘も、どうにもならない感情ごと放り投げて全力で走り抜ける。
そして、その視界の先に水瀬を見た。
「水瀬!」
声を掛けて、振り向いてもらおうとする。
・・・その時だった。
ゴゴゴと地面が揺れるような音が遠くからだんだんと近づいてくる。その音の方からは、大量の土砂や岩石がなだれ込んできていた。
・・・それも、水瀬のもとへ。
「水瀬ぇええ!!」
大声で彼女の名前を呼ぶ。けれど、その声は届いていない。
代わりに、水瀬は土砂の方を見た。どうやら気づいたらしい。
・・・けれど、そのタイミングで逃げ出すことは、もう不可能だった。水瀬の足は金縛りにあったように動かなくなる。一瞬映し出された瞳には、絶望の色しかなかった。
・・・やめろ。やめろやめろやめろやめろやめてくれ!!!
俺からもう、大切なものを奪うな! こんな・・・大切で、大好きな人を、誰一人奪わないでくれ!!!
なあ神様。もしいるなら、取り返しのつかないことになる前に・・・俺に、俺に力をくれ・・・!!!
水瀬は全てを諦めきってふさぎ込もうとする。
俺は、全力で駆ける。水瀬まで、助けたい彼女までもう少しの距離。
「ぅぅううああ!!」
全力で駆けて、勢いのままに水瀬の背中に触れ、前に突き飛ばす。
土砂が来たのは、その時だった。
左から、物凄い勢いの土砂が俺に襲い掛かり、瞬く間に俺はそれに飲まれていく。水瀬を助けて、自分まで助かる余裕は、ハナからなかったのだ。
水に流されるように、体が飲まれ、流されていく。
中に混じった、一際大きな岩石が、俺の身体に直撃しては砕いていく。
痛覚はもうなかった。しかし、どこかで神経がプツリと切れた感覚に見舞われる。足だ。
けれどもう、その思考すら処理することが出来ない。
最後に、少し大きめの岩が頭に直撃したとき、俺の意識はいなくなった。
だんだんと、沈んでいくように意識が消えていく。
そんな中で最後まで聞こえてくるのは、水瀬の俺を呼ぶ声。
・・・ああ、助けられたのか。・・・よかった。
これで、大事なもの・・・失わずに、俺は・・・。
・・・やっぱり、好き、だったんだ。
「やっぱり・・・俺、は・・・水瀬、お前・・・の・・・こと」
無情にも、俺の意識はそこで途絶えた。
『今日の座談会コーナー』
今回の内容については特にいう事はないんですよね。前回からもほとんどセリフ回し等を変えていませんし。
なので、座談会コーナーは、今回はここまで!!
・・・うそです。もう少しだけ。
私としては、ここから先の展開をふくらませようと今回のリメイクを行っております。
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それでは、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)