凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
この回は個人的に好きです。スコティッシュフォールド。
それでは、本編どうぞ。
~千夏side~
私は、病院にいた。
・・・いや、言い方が違うかな。
放心状態の私の心が帰ってきたのが、ちょうど病院にいる時だった。
昨日からの雨は予想に反して降りやまない。むしろ、昨日より遥かに強くなって襲い掛かってきている。
病院、とはいっても、別に私が怪我しているわけでもない。
私が訪れている理由は、目の前に眠っている一人の男性にあった。
その男性・・・、島波遥くんは、ピクリとも動かないまま、そこに眠っていた。
『心肺停止』
島波君の容態は医者たちの尽力により、なんとかこの状態に収まった。とは言え、死亡を回避できたのは奇跡と言えるらしい。
しかし、命に別状はない、とは言えない状態。
心臓も肺もいまだ動いておらず、容態がどちらに転ぶかは予断を許さない状況らしい。最悪の場合・・・死に至る。お舟引きなんて言ってられない状態だ。
けれど、島波君一人の容態でお舟引きの状況が変わることはない。現実は、非常だ。
もっとも、起きたとしてもそこから先苦しい思いをするだろうと、先生は歯がゆそうに仰せていたが。
断片的に覚えている。
私はあの日、島波君に庇われた。
最後に背中に受けた柔らかい感覚。あれは、島波君の手だった。
その優しさを受けて、今私はこうして彼のもとにいる。・・・彼の意識と引き換えに。
どれだけ叫んだか、どれだけ泣いたか覚えてなんかいない。
けれど、涙なら、今もずっと流れている。叫びすぎて、声は枯れてしまったけど。
周りには、汐鹿生の子もいた。すすり泣く声、歯ぎしりの音、その音一つ一つが私を苦しめる。
ちさきちゃんが背中をさすってくれているけど、それで止む感情なんてない。
私は、しゃくりをあげながら声を出す。
「私の・・・せいだ・・・!!」
私のせいだ。
私が、告白なんてしたから。その答えから逃げたから。
それをここにいる人に告白したかったけど、そうしてまた非難されるのが怖くて言い出せない。私はどこまでも最低な人間だ。
「・・・おい、水瀬」
少々怒気の籠った声で、先島君が語り掛けてくる。私は静かに耳を傾けた。
「遥の奴は、命張ってまでお前を助けたんだ。・・・そのお前がふさぎ込んで、どうするんだよ」
どこか悔しそうなその言葉。
・・・でも、そうなんだ。
私がここにいるということは、私は島波君に託されたんだ。
託されたものの荷は重い。お舟引きを成功させるという使命、海と陸を繋ぐという願い、そうした類の一切を、私は背負ったんだ。
「あいつが背負ってたもん、お前は託されてるんだよ、水瀬。・・・だったら、さっさと立ち上がりやがれ」
不器用に先島君が私を鼓舞する。
けれど、その言葉のおかげで私は少し体に芯が通った気がした。
いつまでも、泣いていられない。
ここで泣いたままで、何もしなかったら、私に託された島波君の思いまで殺してしまうから。
それだけは、絶対に嫌だ。
私はなんとか立ち上がり、涙をごしごしと乱暴にぬぐった。
私は進む。
託された使命と、刻んだ罪を忘れずに、それを背負って進む。
今は、二度と消えない罪よりも、果たすべき願いが勝っている。
成し遂げよう、最後まで。
「・・・みんな、ごめん。私、やるよ。島波君の分まで。恨むなら、その後にいくらでも恨んでほしい。・・・せめて今だけは、私を味方でいさせて」
私の覚悟を聞いて、真っ先に表情を変えたのは先島君だった。
「味方も敵も、クソもねえよ。俺たちは仲間なんだ。遥がダウンしようと、それが誰のせいだとか追及なんてしねえ。絶対に、成功させるんだよ」
「・・・うん、そうだね」
「まなか、行こう? 大丈夫だから」
「・・・うん」
他の面々も立ち上がり、先ほどまでの通夜みたいなムードはだんだんと薄れていく。
そして皆部屋を去っていく。けど、わがままを言って、私一人だけ残してもらった。
そうは言っても、島波君に私の気持ちを、語り掛けたかったから。
言いたいことはいくらでもある。
文句、思いの丈、そして懺悔。
けれど、思っていた言葉は、すんなりと口から音になった。
「・・・ごめん、島波君。全部私のせいで、掻き乱しちゃった。・・・みんな、ああは言ってるけど本当は怒ってるところもあるんだと思う。・・・嫌われる覚悟も出来てるし、許されなくてもいいと思ってる」
罪人とも、人殺しと呼ばれようとも構わない。
もう覚悟はしてる。
「だから、ここから先は全てあなたへの罪滅ぼし。・・・絶対にお舟引きを、成功させるから。だから・・・どうか、見守ってて」
私一人では、きっとダメだから。
だからどうか、力をください。
「・・・好きの気持ちは、また、その時にちゃんと伝えるから」
きっとそのころには、私は進めているかもしれないから。
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〜美海side〜
お舟引きまでもう数日とないのに、遥はまだ目を覚まさない。
いや、どうやら間違いなくダメらしい。
私は・・・遥を、失ったの?
そんな問いかけが、私の涙を誘う。遥が心肺停止になったと聞いてから、私はずっと泣き続けていた。
いろんな感情が混同する。・・・でも、ことの原因にもなった千夏ちゃんを、恨むに恨めなかった。
だって、今私が悲しんでいるのは私のせいでもあるから。
遥が好き。その気持ちを伝えなかったら、こうなってしまった。好きを好きにできないで、私は逃げてしまった。
悪いのは好きの気持ちなんかじゃない。それを認めることが出来ない私だったんだ。
今になってやっと気づく。遅すぎた真実に。
そんな時、私はふと千夏ちゃんに出会ってしまった。
今にも逃げ出したいと心が暴れている。けど、そんな気持ちをどうにか抑えて、私は千夏ちゃんに声を掛ける。
「千夏ちゃん、もう大丈夫なの?」
「私は。・・・美海ちゃん、私のこと、恨んでる・・・よね?」
恨む恨まないを千夏ちゃんも気にしていたようで、恐る恐る問いかける。こういう時、嘘を言うだけ馬鹿馬鹿しい。
「・・・恨んでないって言ったら、嘘になるかもしれない。・・・でも、多分その感情をぶつけるべきなのは誰でもない私自身だと思う。・・・私が、その気持ちから、千夏ちゃんが言葉にして伝えようとした気持ちから逃げちゃったから。だから、恨んでるって言っても、嘘になる」
「美海ちゃん・・・」
「だから、今はこの話、やめよう? まだお舟引きも残ってる。絶対に成功させて、遥に報告するの」
「うん、そうだね・・・」
千夏ちゃんも分かっているようだった。それでも、まだ引きずっているのか、心なしか悲しげに見える。
そういうの、やめてほしい。
そうした反骨心が強まったおかげか、だんだんと言葉に力が入ってきた。空になっていた心が、何かに満たされていく。
「絶対やるの。遥のこともそう、あかちゃんのこともそう、まだ何も始まってないし、何も終わってないから。だから、今は出来ることを最大限、全力でやるの。・・・私はもう、何も諦めない」
あかちゃんは、お舟引きと同時に結婚式を挙げるみたい。
それに伴って、自分からお舟引きの『生贄』になると言った。
正直、あまりいい予感がしない。でも、だからこそ、逃げちゃダメなんだ。
「千夏ちゃんも、もちろん、そうでしょ?」
「・・・うん!」
千夏ちゃんの中で何かが吹っ切れたのか、さっきよりも少しばかり元気のある声で私の問いかけに対して返事を返した。
今はまだ、互いに許せないかもしれないけど、いつかはきっと分かり合えるから。
みんないなくならない。いなくさせない。
私が・・・、ううん。私も頑張るんだ。
そして、私は一度両手で頬を叩いた。
もうすぐ、お舟引きだ。
『今日の座談会コーナー』
ここのシーンはあまり手を加えてません。
というより、間の会話を省き、冒頭の放心状態の心が戻った、というのを印象付けるためにこういう風にしています。
はてさて、ここからですよ。
・・・空白の五年編、頑張ります。
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といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)