凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
それでは、本編どうぞ。
~美海side~
お舟引き。
ついに、この時が来たんだ。
今、控室にいる私の前には、綺麗に化粧をして、衣装を羽織ったあかちゃんが存在感を漂わせながら座っていた。
後ろの方で、パパが「僕は見ないぞ」なんて言ってるけど、こんなの、見ない方が馬鹿だ。
・・・あまりにも、綺麗すぎる。
『綺麗だな、あかりさん』
「遥っ・・・!?」
ふと、遥の声が聞こえたような気がした。けれど、周りを見回しても遥はどこにもいない。・・・いないんだ。
「そう、だよね・・・」
変な夢のようなものをみて、自然に悲しくなってしまう。けれど、今はもう悲しんでいる暇なんてない。
運命の時が、すぐそこまで来ているから。
でも、今の私に何ができるかなんて、私は知らない。
いつも遥の少し後ろにいて、その大きな背中に守られてきて、ここまで来て。
いざ遥がいなくなって、現実を見せられた私には何ができるの?
・・・分からない。
だから私は、見守る。願う。
この物語の結末を、この先の未来の幸福を。
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~千夏side~
夜になった。
私は、お舟引きに使用されている船の一隻に乗り込み、手に松明をもって行く先を灯していた。
あかりさんの乗る舟は私のすぐ斜め前にある。船の前方に立っているあかりさんの姿は美しく、そしてほんの少しだけ、恐ろしさを覚えた。
どこか、嫌な予感がする。霊感的に、だけど。
すると、遠くから、青色の揺れる炎のようなものが海の中に現れた。
「これは・・・ウロコ様の案内か?」
先島君が不思議に思って声を上げる。けど、もしそうなら嬉しいと思った。
海の人も、見てくれているんだ。この、晴れ舞台のような儀式を。
揺らめく火と光の反射で、汐鹿生がくっきりと映る。こうして綺麗に汐鹿生を見たのは初めてだ。
今はまだ遠いけど、いつかはそこに辿り着きたい。私のとっての汐鹿生は、そんな場所だ。
揺れる水面に、私はそっと呟く。
「・・・ずっと、こうしてここのみんなといられたらな」
刹那、船体が大きく揺れ動いた。
荒れた波が船にぶつかり、しぶきを上げて私の乗る舟に襲い掛かる。
海水が目に入らないように腕で目元を覆う。そして、それを目の前からどかすと、信じられない光景がそこに映っていた。
「何、これ・・・?」
海から何本もの竜巻のような渦が上ってきている。そしてそれは、瞬く間に私たちだけの舟でなく、お舟引きに参加している舟を包み込んでいく。
「おいおい、どうなってんだこりゃ!?」
「まさか、海神様が怒ってるんじゃねえのか・・・!?」
周りの大人が次々に驚きの声を上げ、焦りを見せている。こんな状況で焦らずにいられる方が不思議だ。私だって、その一人。
「嘘・・・!?」
何が起こっているのか分からない。
けれど、一つ言えることがあるとすれば・・・。
絶対に、何かが起こる。とてつもなく、悲しみを生みかねない何かが。
こうなるって、島波君は分かってたの・・・?
もしそうなら・・・。
・・・ううん、違う。今、私が考えるべきことはそんなことじゃない。
どんなに考えたって、島波君はここにはいない。ここにいるのは私だ。水瀬千夏だ。
今ここに必要なのは、誰からも頼られている島波遥の考えや答えじゃない。
私の脳で、私の考えで、どうにかしなければならない。
「船を引いてください!! このまま進むと危険です! 荒波に飲まれる前に、早く!!」
私の声が響いてか、後続の舟がどんどん舟を下げていく。竜巻が前方に複数展開している以上、後ろに引いた方が遥かに賢明だ。
そして、半数ほどが安全圏に動き出したころ、それは起こる。
一つ大きな竜巻が、先頭の舟、あかりさんの乗る舟へ直撃した。
「ダメッ!! それだけは!!!!」
私の思いむなしく、直撃した船は大きく揺れ、先頭に立っていたあかりさんは海へ放り出されてしまった。
さらに不運なことに、あかりさんはその時意識を失っていた。本来エナを持っている人間にも関わらず、海でおぼれている。
「あかり!!」
その様子を同じタイミングで見ていたのか先島君が急いで海に飛び込む。
私も、と思って、飛び込もうとしたとき、自然とその足が止まった。
こんな渦の中、私はまともに泳げるのだろうか?
普通の人ならまず無理だ。・・・でも、私にはエナがある。ここで泳がなければいけないのは、もはや使命に近い。
でも、飛び込めないのはきっと、これまで守ってきた約束があるから。誰にもエナを見せるなという、約束が。
けれど、今はもうそんなことを言ってられない。多くの人の命がかかわっているんだ。私がいかなきゃ、誰が行くのか。
気が付けば、私は海に飛び込んでいた。
目指すところはただ一つ。あかりさんを助ける、ただそれだだ。
冷たい。
久方ぶりの海は、凍えるほどに寒かった。この格好でずっとこうしていたら、まず間違いなく体調を崩すだろう。
その冷たさはきっと、私を嘲笑っている。
「・・・!? おい! なんでお前・・・泳げているんだよ!」
私を見つけて、呼ぶ声がする。先島君だ。
けど、そんな質問に悠長に答えている暇なんてない。
「その話はあとにして! とにかく今は、あかりさんを助けに行って! 見えるでしょ!? 多分、先島君の方が泳ぐのは早いから!!」
「分かった! ・・・でも、お前はどうするんだよ!?」
「他にも助けなきゃいけない人がいるでしょ! 私はそっちに行く! だから先島君は、先島君の助けるべき人を!」
「・・・それじゃ、頼むわ!!」
先島君は私の言葉を了承して、そのまま一目散に沈んでいくあかりさんを追っていった。
残った私は、近辺に溺れている人がいないかどうかを探す。エナを持っていない人間は、この海では泳げない。
しばらく探し回る。幸いにも、私の見た限りでは溺れている人は見えなかった。早めに引き上げられたのか、ハナから溺れてなかったのか、いずれにせよ、いないことに越したことはない。
他の皆も追いたかったけど、まずは一旦陸に戻って避難誘導を・・・。
・・・!!?
その時、私の身体を得体のしれない違和感が襲い掛かった。
体から、急速に力が抜けていく。代わりに、どんどんカナヅチになっていくような感覚。
必死に腕を掻いて進もうにも、体はどんどん沈んでいくばかり。
まるでそう・・・エナを失ったような感覚。
けれど、呼吸が出来ないことはない。少しずつ苦しくなっているから、一瞬で失ったわけではないんだと思う。
でも、体は確かに沈んでいく。ついには息が出来なくなる。
「(なんで・・・どうして・・・!?)」
ふと、海の底から言葉が聞こえてくる。
『これで・・・みんな一緒』
その時、私は何かを察した。
これが、私が少しばかり望んだ願望なんだと。
・・・でも、こんなこと、望んで・・・ない、のに・・・。
遠くに陸が見える。それは、いつもよりもはるかに遠い。
きっともう、帰れないような気がした。
『その辛さを・・・忘れさせてあげる』
深淵から聞こえてくる声も、もう微かにしか響かない。
その言葉を耳に、私はとうとう目をつぶった。
全てを投げ出した身体はもういう事を聞かず、意識も遠のいていく。
だめ・・・私は・・・帰らないと・・・いけないのに・・・。
お父さん・・・お母さん・・・美海ちゃん・・・。
・・・遥、君。
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~美海side~
流れる。
また流れる。
海の流れ、人の流れ、時の流れ。
あの日海は凪いでしまった。今は穏やかで冷たい風だけが吹きすぎる。
時は流れた。もう、あの日から5年が経つ。
私はずっと、待っている。
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鴛大師駅。電車の到着アナウンスが流れてくる。
私はちょっと背伸びをして、奥の方を覗く。改札の向こうに、私の待っている人が見えた。
その人はこちらに気づいて、小さく手を振りながら近づいてくる。
そして私としっかり目を合わせて言う。
「・・・ただいま、美海」
私の待っていた人、私の大好きな人。その言葉に私は笑顔を見せた。
「うん。おかえり、遥」
『今日の座談会コーナー』
前作と比べて大きく変えたのは、千夏が溺れるシーンですかね。
セリフ等は特に変えていないのですが、謎の誰かからの謎の言葉(『』のシーン)を追加しました。これを、今後の推理要素にしていただければという魂胆です。
というところで、やっと第一部が終わりました・・・!
といっても、ここまではどちらかというと史実をなぞるような展開。それに付け加えただけのリメイクにすぎません。
やっていこうじゃないの、1.5部、2部。
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といったところで、今日はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)