凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
まあ、そこはどうでもいいですが。
本編どうぞ。
~遥side~
俺は迷わず、先生に車を止めるようにお願いした。
そして車いすを車内から下ろすなり、全力の腕力でちさきの方へ車いすを漕いだ。
その音で気づいてか、ちさきは俺の方を見る。そして、そのまま力なく膝から崩れ落ちた。
「ちさき!」
「は、るか・・・遥、遥ぁあ!!」
ちさきは俺が到着する前に声を上げて泣き出した。ここまで狂ったように涙を流すちさきは初めてだ。
「よかった・・・! 遥までいなくなったら私・・・もう・・・!!」
「待てよ・・・。までってなんだよ」
俺は、その言葉が引っ掛かった。
ちさきはここにいるのに、他の人間が見当たらない。
嫌だ、考えたくない。
けど、俺の思っていることは・・・多分、正解なんだ。
みんなは、もう・・・。
「ごめん・・・ごめんね・・・! みんな、いなくなっちゃった・・・!! 私だけ、残っちゃったの!!」
やはり、その通りだった。
お舟引きは失敗して、冬眠も行われて、みんな眠ってしまった。
これが真実。これが・・・現実なんだ。
何も出来てないのに、俺のいないところで、全てが終わってしまった。
陸に残るなんて豪語してたけど、いざこうなるなんて思ってもみなかった。だからこそ、辛い。
けど、目の前で泣いているちさきに非はない。それだけは確かだ。
「そっか」
ちさきは涙をぬぐいながら、無理やり立とうとする。
「ごめん・・・一番辛いのは遥なのにね。・・・泣くの、やめないと」
「いや、いいんだ。・・・そんなにつらい思いをしてまで涙をこらえるのはやめてほしい。泣きたいなら、泣いてほしい」
それを聞いて安心したのか、ちさきはさらに声を上げて泣き出した。
けれど、俺の頬を伝うものはなかった。
けれど、胸のほうにぽっかりと開いた空虚な穴だけは、確かに分かっていた。
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ちさきは、数分経って泣き止んだ。それでも、しゃくりはまだ止まっておらず、話も途切れ途切れだった。
「・・・どこから、話そうか」
しかし、元気のないちさきから、心の傷をえぐるような言葉を聞きたくはない。
きっと、グダグダして進まないのは明白だった。
「じゃあ、俺が話そうか?」
奥から声が聞こえた。紡だ。
「紡・・・」
「ああ。・・・なんか、久しぶりだな、遥」
「紡君・・・なんでここに?」
「じいちゃんが、探して来いって。・・・それに、比良平にとっても、話すのが辛いだろ。・・・悔やみながら話すなんて、俺でもしんどい」
「・・・そう、だよね。お願いしても、いいかな」
「分かった」
紡と語り部を交代して、ちさきはその場から逃げるように駆けていった。きっと、自分一人残ったことだけでなく、怪我だらけの状態にある俺を見るのも辛かったのだろう。
そして、残った紡が淡泊に説明を始める。
「お前がいなかった時のこと、今から話す。・・・大丈夫か?」
「覚悟はしてる。・・・教えてほしい」
「・・・海は見ての通り。お舟引き中に、海から謎の竜巻みたいなものが何本も浮かびあがって、俺たちの舟を襲った。大体の人の避難は間に合ったけど、先島の姉ちゃんも、俺も、海へ投げ出された」
「っ・・・! それで、どうなった?」
「先島の姉ちゃんは多分、先島と向井戸が助けて、俺は比良平と伊佐木に助けられた。・・・その時、海に吸い込まれたように先島達は消えた。比良平と俺と伊佐木は船に上げられたけど、倒壊しそうになった柱を避けるために船が急旋回して、そのまま伊佐木も」
「ちさきは、後を追って飛び込もうとしなかったのか?」
「その時には、海が一層荒れて飛び込むにも飛び込めなくなっていた。・・・というより、放心状態でいたからな、あいつは」
「そうか。・・・多分、冬眠に巻き込まれたんだろう」
そこまでは予想できた。ただ、お舟引きが成功しなかったという事実が、今は一番辛い。
「そう言えば、水瀬は? あいつは大丈夫なのか?」
「・・・」
紡は何も語らない。
そこで、また俺は悟ってしまった。何よりも辛い沈黙だ。
震える口先で声を紡ぐ。変な予感がしていても、それを本当にしたくなかったから。
「なあ、紡。答えてくれよ。・・・水瀬は」
「あいつも・・・。海に飲まれた。・・・行方不明の扱いになってる」
「・・・嘘、だろ・・・?」
おかしい。
冬眠は、汐鹿生の人間を対象に行うだけのはずだった。
なのになんで、それに水瀬が巻き込まれて、海に落ちなきゃならないんだよ。
話したいこと、伝えたいこと、まだいっぱいあるのに・・・!
「大丈夫か、遥」
「・・・大丈夫、じゃないかもしれない。・・・わりぃ、一人にしてくれねえか。ちょっと今は・・・やりきれない」
「分かった。・・・また何かあったら連絡してくれ。絶対力になって見せる」
「・・・」
その言葉に返事をする余裕も、もはや俺には残っていなかった。
「じゃあ、俺、戻るから」
「気をつけろよ」
紡の方を振り返ることもなく、俺は残された力で車いすを押し、大吾先生の待つ車へと戻った。
「いいのか?」
「いいんです。・・・ただ、あと一か所だけ、寄ってほしいところが」
「分かった。・・・行くぞ」
そして、車は再び走り出した。
先ほどより少し暗くなった道を駆け抜けていく。
そんな時間になってまで、行きたい場所があった。
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「お前、こんな場所に何の用だ?」
そこについて、先生は呆れたような声を出す。けれどここは、俺にとて大切な場所。
海の見える堤防。・・・ここに来れば、水瀬に会えるような気がしたから。
それ以上の言葉は、いらない。
「何でもいいじゃないですか。・・・もう放っておいてください」
もう、先生と会話する元気もなかった。
車から降りて、堤防の近くへ。堤防へ登っていく元気も、足も、もうなかった。
「・・・なあ、どこで眠ってるんだよ。早く帰ってきてくれよ。・・・俺、お前におかえりって言う立場じゃないんだよ」
水面は凪いで、てんで動く気配もない。そこには誰もいない。
「なんでお前が・・・いなくならなきゃならないんだよ・・・! 帰ってきてくれよ・・・水瀬!!」
ずっと強張っていた涙腺が一度ほどけてしまえば、そこから涙がとめどなくあふれるのは致し方のない事だった。
「俺が・・・好きになったから・・・全てこうなったのかよ・・・! また、またまたまた俺のせいで・・・!!!!!!」
また、守れなかった。頭を抱え、くしゃくしゃと髪を掻き乱す。
結局俺は無力で、それなのに、歳を重ねてなんでもできるような気持ちになっていて、それで結局、同じ光景を見せられる。
神様が嘲笑う。お前は壊れていると。
あの日忘れようとした痛みが、今何倍にもなって襲ってくる。
俺は、久方ぶりの涙を流した。
涙で滲んだ視界で、ぼんやりと映った海を見る。
穏やかだ。気持ち悪いくらい穏やかで、俺を嘲笑っている。
そこに帰れば、皆がいるってのに。
もう、戻れない。
ここに残るって言ったのに。
水瀬は、帰ってこない。
「・・・ぅうああああああああああ!!!!」
声を押し殺すことも、涙を堪えることもしない。
泣けば、少しは楽になると思ったから。
けれど、開いた古傷が涙のかさぶたで塞がることなど、ありはしなかったのだ。
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十数分が経つ頃、こちらに向かってくる一つの足音があった。
先生かと思って車の方を向くが、全く動いている気配もない。
なら、反対側だ。俺は身体を捻って後ろの方を振り返る。
そこに、彼女はいた。水色のパーカーを羽織った彼女が。
「・・・やっと会えたね、遥」
美海だけは、間違いなくそこにいた。
『今日の座談会コーナー』
実は作者、この空白の五年編が凄い大好きなんですよね。だからこそなんで前回あんなに短く終わらせてしまったのか不思議に思ってしまいます。
というより、創作物ってどうしても作者自身の考えや理想などが文章に現れてしまうんですよね。ということは、二年前に書いた前作は作者である私の感情の一部なのだろうか・・・?
黒歴史にはさせません!!
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と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)