凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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前作では好きな回堂々のトップ10入りする回です。
本編どうぞ。


第五十七話 揺れる瞳、凪ぐ心に・・・

~遥side~

 

 俺が美海に見せている瞳はどんな色だろうか。

 けれど、美海相手に平静を装えるほど、今の俺は万全ではなかった。

 

 ただぼーっとした受け答えしかできない。

 

「・・・珍しいな、美海がこんなところまでくるなんて」

 

「なんとなくね、誰かがいる気がしたから」

 

 

 美海は少し悲しそうな目をする。

 それを見るだけで、自分が失ったものがまた込み上げてきた。

 

 本当なら、ここに水瀬がいるはずなのに・・・。

 

「・・・なぁ、美海。俺、また失っちまったよ。はっ、笑えるよな。あれだけ守って見せるって豪語してたのに、終わってみればこの有様だ。何も守れないで、また失って」

 

「・・・」

 

「好きになることがダメじゃないなんて言ったくせにな・・・。俺、やっぱりダメなんだ。だからもう二度とこんな感情・・・。もう、いっそ一人で生きた方が」

 

「・・・め」

 

「?」

 

「それはダメ!!」

 

 美海の心からの叫びで、俺は目を覚ます。

 

「遥は・・・何も失ってなんかない! まだ大切な人は残ってる! 誰も、いなくなったりなんかしてないから!」

 

 そして、美海も目にいっぱいの涙をためていた。

 

「それにさ・・・。もう全て終わったみたいな顔してるけど、遥が守り抜こうとしたものはすべてなくなったの? ・・・私は、大切になんか思われてなかったの?」

 

「・・・あ」

 

 その言葉で、ようやく気が付いた。

 俺は・・・水瀬が行方不明になって、全てが終わったと思い込んでいた。もう、全ての大切なものを失ってしまったと思っていた。

 

 けれど、違う。

 ここにはまだ美海がいる。あかりさんもいるし、保さんも夏帆さんもいる。・・・大切なみんなが、いるんだ。

 

「・・・ごめん、美海。俺は・・・俺は・・・!」

 

「遥が今辛い思いをしているのは分かるよ。だって、遥は優しいから。・・・でも、忘れないでよ。遥が守りたかった人は、みんな遥のことを守りたいと思ってるから。・・・私も、そうだから」

 

 美海は俺の背後に回り、そっと優しく俺の首の後ろから手をまわして抱き着いた。優しく、ほんのり冷たい手先が俺の涙をぬぐう。

 

「だから・・・もう泣かないで。今は無理でも・・・いつかきっと、報われる日が来るから」

 

「・・・まいったな」

 

 美海にぬぐってもらったためか、俺の頬を雫が伝うことはもうなかった。ただ、こうされていることがありがたく思えて、恥ずかしく思えて、もうめちゃくちゃだ。

 

「こんなんじゃ俺、いつまでたっても子供だ。・・・いや、美海が大人になっただけなのか? なんか、お姉ちゃんぽいっていうか」

 

「うん、だってそうだもん」

 

「え?」

 

「・・・お舟引きのあと、すぐだったかな。あかちゃんに子供が出来たらしいの。・・・生まれるまでは、まだ遠いかもしれないけど、私はお姉ちゃんになるの」

 

「至さん・・・」

 

 タイミングが悪いと言いたいわけではない。そこについては結果論なので至さんを咎めても意味はない。

 というより、俺は単純に驚いていたのだ。至さんが、その行動まで至っていたことにだ。

 

 けれど、結果論とはいえ、問題はある。

 それはあかりさんの事だ。めちゃくちゃになった海を見て、落ち着いていられるほどあの人の肝っ玉が強くないことは知ってる。弟である光がいつ起きるか分からない眠りについてしまった今、やるせない思いは強まっているはずだ。

 

「でも、あかりさん大丈夫なのか?」

 

「最初は、大丈夫じゃなかった。取り乱して、心を閉ざしかけてた」

 

「だよなぁ・・・」

 

「でも今は、大丈夫。・・・私の思い届いてくれた。あかちゃんも分かってくれた」

 

「美海が、説得したのか?」

 

 俺の問いかけに、美海は一度頭を縦に振った。

 もちろん、驚くほかない。

 

 一時期は、気持ちを伝えることにさえ一苦労した美海が、今はこうして自分の想いを、好きの気持ちを言葉にしている。

 

 ・・・もう、とっくに俺なんかより先に進んでいるんだ、美海は。

 

 それが嬉しいようで、どこか悔しい。

 

「・・・また、ブルーなこと考えてる」

 

「・・・あっ、ああ。悪い。・・・うん、そうかもな」

 

「いいの。・・・遥、これだけは忘れないで。・・・遥は、大切を守った。だから、私の新しい大切が生まれようとしてるの。・・・何一つ、無駄なことはない。遥は悪くないよ」

 

「・・・今はまだ難しいかもしれないけど、分かった。いつか、絶対にそう認めれるようになるから」

 

 励まされても、手のひらをくるりと反すように人間はすぐに気持ちを切り替えることは出来ない。

 俺の胸に刻まれた傷は、そう簡単には翻ってくれない。分かってる。

 

 ・・・だから、いつか自分の弱さを、未来への希望を認められるように。

 好きの気持ちから逃げることが無くなるように。

 

 頑張って生きよう。その日まで。

 

「うん。・・・」

 

 それっきり、美海は黙り込む。さっきまでの穏やかな表情とは打って変わって、湿った表情で俯いている。

 

「どうした? 美海」

 

「・・・こんどは、私が泣いても・・・いい?」

 

「え?」

 

「だって遥・・・こんなにボロボロで・・・。見て、られなくて・・・」

 

 そこでようやく、俺はもう今までの自分とは違うことを再確認した。

 あからさまに突然な眼鏡。そして、形を失った左足。

 

 これまでの俺を知っている人間からすれば、苦しくないはずなんてなかった。

 

「・・・ああ」

 

 俺が承諾の言葉を吐くと、美海は俺の右肩に顔をうずめて泣き出した。

 自分の痛みじゃないのに、自分の痛みのように思って。

 

 

「・・・ごめん、美海」

 

「こうなるしか・・・なかったの・・・!?」

 

「・・・あの時には、もう。だから水瀬のこと、責めないでやってくれよ。・・・あれは俺が悪いんだ。好きの気持ちから逃げた罰なのかもな」

 

「そんなことないからっ・・・!」

 

 美海は必死に否定する。最後まで俺の味方であってくれるつもりのようだ。

 ・・・自分を犠牲にしないって言って、このありさまじゃ、やってられないよな、ホント。

 

 俺も・・・もっと成長しないと。

 

「大丈夫だから。絶対また、美海の前に立って見せるから」

 

「約束・・・して」

 

「もちろん」

 

 そして、空いている左の腕で美海の頭を撫でる。しばらくして美海は泣き止んだ。

 

「今はまだ無理だけどさ、義足ってのがあるんだ。・・・そんでもって、そうしてちゃんと美海の前で両足で立てたら、その時はまた、よろしく」

 

「・・・うん」

 

 美海は顔を上げて、一度うんとしっかり頷いた。

 

「さ、帰ろうか。あかりさん心配してるんじゃないのか?」

 

「そうだね」

 

「俺も頑張るからさ」

 

 そうして、俺は美海と別れて車へと戻る。

 癒えない傷は癒えないままだけど、少しは立ち直れた気がするから。

 

 だから、戻ろう。

 

「人前でイチャイチャしてるのを見せられている身にもなってみろ」

 

「はははっ、すいません。・・・ありがとうございました」

 

「おう。・・・んじゃ、帰るぞ」

 

 大吾先生の運転する車に揺られて、夕日に照らされる海をあとにする。

 

 変わってしまった海。

 

 凪いでしまった海。

 

 少し打ち寄せている波を映した瞳は揺れている。

 

 

 けれどもう、俺の心は揺れてなどいなかった。




『今日の座談会コーナー』

前作でも、なかなか面白いシーンを書いていると自讃していただけに、なんであんなに淡泊に終わらせてしまったんだろうと後悔してたので、今回はモリモリにしました。
あとは地の文、ですかね。
前回は会話文を中心に展開していましたが、今回は心理描写、行動描写に力を注ぐつもりです。

今後の話に、こうご期待あれ。

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それでは、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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