凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
・・・やっぱシリアス多いからどうなんだろう・・・、不安になる。
まあ、そんな感じですが引き続きよろしくお願いします。
本編GO!
~遥side~
「みをりさん!? 大丈夫ですか!!? 返事してください」
周りを気にする余裕なんてなかった。もてる最大の声で安否を問う。とにかく今は、返事だけ欲しかった。
近づいてみをりさんの状態を確認する。どうやら心臓も動いているようで、息もあった。
ただ、明らかにリズムがおかしい。少なくとも異常事態であることは容易に想像がいった。
「あっ・・・遥くん・・・ごめん・・・」
「大丈夫ですから! 今はとりあえず休んでてください!!」
みをりさんは小刻みに体を震わせ、開くか開かないかギリギリの瞳を俺の方に向けた。俺はただ大丈夫ですとだけ繰り返して、みをりさんを落ち着かせようとした。
「とにかく、救急車呼んできます! 電話、借りますね!!」
そう言い残して、みをりさんをあとにダッシュでアパートに戻る。
「遥・・・どうしたの?」
息を切らしながら入ってきた俺をおかしく思ったのか、美海は心配そうに尋ねる。けれど、あの光景を美海に見せることの方がよほど問題だった。
「大丈夫、大丈夫だから」
誰に言い聞かせたのかも分からない言葉を与え、俺は急いで電話を取った。
「もしもし・・・! はい、救急です!!」
美海も救急という言葉を知っているらしく、俺のその言葉で嫌な予感に気づいたようだ。絞り出した震える小さな声でその名を呼ぶ。
「ママ・・・?」
「はい、お願いします」
電話を切って俺はすぐさま別の番号にかける。
「ねぇ、遥。ママは!?」
動揺した美海の声。
しかし、美海に構っていられる余裕などなかった。
「大丈夫だから安心して!! 大丈夫だから・・・! ・・・あ、もしもし、至さんですか!」
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それから救急車が駆け付けたのは10分くらいが過ぎたころ。迅速にみをりさんは病院へ運ばれた。
ただ、ずっと意識はあったらしく、命に別状もないようだった。
もし、もっと深刻な状態だったらなんて思うとゾッとする。
美海はまだ幼い。残酷な場面を目にしてしまったら生涯に残るトラウマなんて言葉じゃすまない。
だから、そこだけはありがたかった。
とはいえ、数日~一週間程度の入院は必要らしく、みをりさんは入院を余儀なくされた。それと同時に、みをりさんが退院するまで俺は潮留家に身を寄せることを決めた。
こればかりは譲れない。例えウロコ様だろうと海神様だろうと、拒むのなら殴り倒してでも進むつもりだった。
幸い、あかりさんにも事情説明がいっていたようで、重役への回りは早かったようだった。内密にだが許されて、俺は陸へ上がる。
そして、三日ほどたった頃、俺は一人で見舞いに向かった。
「でもよかったです。意外と元気そうで」
みをりさんの様子はいたって普通だった。若干食が細っている程度で、あとは苦しげな様子は一切見受けられなかった。
本当はもう少し早く来たかったのだが、準備やその他のごたごたでなかなか時間が取れなかったのだ。
「医者が言うには、発生した経緯とかは原因不明らしいけど、症例的に治る確率は高いっていう話らしいよ」
「そうですか」
原因不明、という言葉に少々引っ掛かりを覚えたが、それがエナを持つことが原因の病気なら、陸の医者が分からなくても当然だとは思った。
なんにせよ、前向きにとらえないことにはどうしようもない。
しかし言葉とは裏腹に、俺は下を向いていた。
「ところで・・・。一人で来るっていうことは、何か話したいことでもあるんでしょ?」
顔を上げるとみをりさんが得意げな顔をしてこちらを向いていた。
図星である。
「ほら、当たった。・・・いいよ、聞いてあげる」
みをりさんは母のような慈愛の籠った微笑みを俺に向けた。
「俺が陸に上がったあの時のこと、覚えていますか?」
「うん。ちょうど一年位前の話だったね」
俺が聞きたかったことは一つ。
あの時、なんで俺を助けたのか。
今となってはそんなこと気にする必要もないと思っていた。けれど、どうしてもそのつっかえが取れない。
・・・こんなことを聞いて、何になるんだろうな。
俺は諦めて、うまく話をそらした。
「・・・あの時、美海が言ったんです。『遥が来てくれたから』って。・・・俺が来る前に、美海がよく遊んでいた子って、誰かいるんですか? ・・・大した話じゃなくてごめんなさい」
「なーんだ。そんなことか。・・・えっとね、それはたぶん、千夏ちゃんだと思う」
「千夏ちゃん・・・?」
「あ、ごめんごめん。水瀬千夏って言う子なんだけどね、よく美海を妹のようにかわいがってくれていたんだよ。・・・ただ、体が弱くてね。今は会えていないんだ」
「ここにはいないんですか?」
同じ地区の子なら、ここにいてもおかしくはない。そう思った。
しかし、みをりさんは首を横に振る。
「ううん、いないよ。あの子は今、街の方の病院で療養してるからね」
街と言うのは、鷲大師から電車で移動したところにある町らしい。なんせ行ったことがない地だ。分からない。
「次は私から聞いていいかな?」
一区切りついた後で今度はみをりさんから質問が来る。
「いいですよ」
聞きっぱなしは、よくないもんな。
「・・・ここから見える海って、綺麗だよね」
「そうですね」
この病室からはちょうど海が見える。夕方という事もあり、一層綺麗な光景がそこにはあった。
みをりさんは少し、寂しい表情で海を見つめていた。
「・・・汐鹿生は今頃、どうなってるのか知りたくて」
みをりさんはいわば、追放された人間である。
もう二度とあの光景を見ることが出来ない。それは少なからず寂しい事のようだった。
「みをりさんがいたころの汐鹿生はどんな感じだったんですか?」
「今とそんなに変わってないとは思うけどね。・・・うーんと」
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気が付けば会話は30分を過ぎていた。
長く待たせていては美海に悪い。つまり、そろそろ潮時だった。
ここ数日はあかりさんも潮留家に来ていたが、今日は無理なようで、俺がいるしかなかった。
「じゃあ、そろそろ俺は家の方に戻ります。とりあえず、無理はしないでくださいね。・・・いなくなられたら、困ります」
「大丈夫、分かってるって」
背を向ける。しかし俺は少し後悔していた。
先ほど聞かなかったことが、耳の中で波を打って反響する。
逃げ出したことを、今更になって・・・。
・・・けど、治るようならチャンスはまたいつでもくるだろう。これで終わりじゃない。
そんな曖昧なことを思いながら、病室のドアに手をかける。
「あ、ちょっと待って、遥くん」
「はい。なんです?」
ストップと言われ足を止める。
「・・・もう一つ、最後の話、聞いてくれるかな?」
「・・・いいですよ」
そう言ってもう一度近くの椅子に腰かける。
するとみをりさんは似合わないほどにかしこまった。
「・・・島波遥くん。ちょっと長いけど、聞いてください」
「え、あ、はい・・・」
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~みをりside~
目を開けたとき、私は全てを悟った。
『私の命は、きっとそう長くはない』
退院はできるかもしれない。
けど、得体のしれない恐怖がずっと私の胸の中で暴れている。あの日痛んだ心臓よりも、この不安感の方がよほど重症だ。
・・・とにかく、私はもう、もとには戻れないかもしれない。
だから、伝えておかなきゃならないことがある。
遥くん。
あなたはまだ子供だから。なんでも背負う必要なんてないの。
どんなに強くあろうとしても、幼くて脆いから。
弱くていいの。強くならなくて。
・・・だから、君に届けるよ。私の最後のメッセージ。
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~遥side~
「ごめん。こんな話。長くなっちゃったね。・・・色々言いすぎて混乱しちゃったかな?」
「大丈夫です・・・。ただ、今の俺にそんなことが・・・。・・・いえ、なんでもないです」
みをりさんの話は、どこか実感がわかなかった。
それが大切なことであるのは分かっている。だとすれば、問題は俺の方だ。
・・・でも今はなぜか、この場所にいることが心苦しかった。
逃げるように俺はもう一度振り向く。
「・・・それじゃ、もう帰りますね。・・・また、来ますから」
それから二度と振り返ることもなく、俺は病室をあとにした。
最後のみをりさんはどんな顔をしていただろうか。そんなことはいざ知らず。
・・・それから数日後、みをりさんが亡くなったという連絡が俺に伝えられた。
今回は特にないです。
また会おうね(定期)