凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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完全オリジナルのシーンは考えるの苦労しますね・・・。
それでは、本編どうぞ。


第六十話 小さな願いを

~遥side~

 

 それから三日後、俺は病院持ちの車で街に向かった。一発で探せる当てはないが、OKが出ている以上、俺は全力で甘え倒す。

 ただ、今日の大吾先生は用事が入っていたようで、ドライバーは別の先生だった。名前を西野先生というその人曰く、大吾先生の同期とのこと。

 

 出発して10分が経った頃、それまで沈黙を貫いていた車内に会話が生まれた。

 

「君は、担当医があいつで疲れたりしないのか?」

 

「大吾先生ですか? 別に何ともないですし、あれくらいのほうが気が楽でいいです」

 

「ならいいんだが・・・。あいつも中々病院の中でははみ出し者だからなぁ」

 

 空いている片手で、西野先生は髪を掻く。

 

「もちろん、あいつの医者としての腕は確かだ。病院の中ではトップクラス。だから君の手術や処置を買って出たわけだが」

 

「そうなんですか?」

 

「あいつも、過去に辛い思いをしてるんだろうな。状態が危険な人間ほど、あいつは頑張ろうとする。よかったな、君の担当があいつで」

 

 はっはと笑って西野先生はアクセルをべた踏みし、スピードを上げる。朝早くの道にはほかの車はいないようだ。

 

「西野先生は、大吾先生の事、疎んでいるんですか?」

 

「まさか! ・・・というよりは、疎んでるのはあいつのほうかもしれないな。どこか一匹狼っていうか、近寄りづらいっていうか・・・。仕事熱心のあまり、周りとの付き合い方を学べなかったのかもしれないな」

 

 言われてみれば確かにそんな気を大吾先生から感じているなと思えた。それにしては、俺に対して結構馴れ馴れしすぎないだろうか。

 

「仲良くできるならしたいよ。でも、俺はあいつのこだわりを邪魔したくはない。だから、距離を測りかねているって言えばそうなのかな」

 

「そうなんですね・・・」

 

「ま、そんなあいつにとって君は心の拠り所になってると思うからよ、その関係、大切にしてやりな」

 

 やはり外の先生から見ても、俺と大吾先生の関係は医者と患者の関係に留まらないようだった。男同士の友情、なんだろうか。

 

「んじゃ、ギア上げていくぞ」

 

 

---

 

 

 街に着いたのは、病院を出てから40分ほどたった頃だった。電車で来るより遥かに速い。文明の違いを感じる今日この頃だ。

 ここからは、自力で歩いて回らなければならない。一度西野先生と別れて、俺は街に繰り出すことにした。

 

 が、片足立ちで杖で、前みたいに歩き回ることは不可能。だから、俺は絞って探すことにした。

 こういう細かい仕事は、多分表立ったところに店を構えないだろうから。

 

 だから、少々怪しい匂いのする裏路地を誰もいない朝早くに回る。

 

 10分、20分、30分。

  

 ・・・さすがに早すぎたか?

 

 道沿いのベンチに腰かけて、時間が過ぎるのを待つ。今ちょうど9時くらいになったころだ。店の類ならそろそろ開いていいはずだけど。

 

 なんて思うと、向かいの道にある店のシャッターに目がいった。

 ガラガラと音を立て、シャッターが開く。中からは鉄の匂いが漂ってきた。

 

 その出会いに運命的なものを感じて、俺は真っ先に駆け込んでいく。

 

 

「あの!」

 

「・・・開店早々客が来るなんて初めてだよ」

 

 店主は、女性だった。頭にタオルを巻いて、髪を短くまとめて目はキリッとしている。性格がサバサバしているのは一目でわかった。

 

「確認、いいですか?」

 

「おう、聞いてやるよ」

 

「あなたは・・・日野鈴夏さん、ですか?」

 

 俺がそう尋ねると、女性は眉をピクリと動かした。どうやら当たりのようだった。

 

「どこで、私を?」

 

「藤枝大吾から」

 

「そっかぁ・・・あいつかぁ」

 

 鈴夏さんは、残念そうに納得した。どうやら大吾先生と縁があるのは本当だったらしい。

 鈴夏さんは改めて俺の足元を嘗め回すように見始めた。そしてようやく、俺が本当に客であることを確認する。

 

「・・・足か」

 

「はい」

 

「膝から下の義足くらいなら作った経験はあるけど・・・、お前、海の人間だろ」

 

 鈴夏さんは俺の肌の一瞬の光を見逃さなかったようで、すぐにエナがあることに気づいたようだ。といっても、最近はエナが弱まりつつあるけど。

 

「よくわかりましたね」

 

「私も昔は鴛大師に住んでたからよ、分かるんだよな。エナの光沢もそうだし、雰囲気もそうだし。・・・で、依頼はその足でいいんだな?」

 

「そうです」

 

「分かった。んじゃあまあ、上がれ。経緯とかも聞きたいし」

 

 鈴夏さんは体を少し横に反らして、俺を中へ迎え入れた。遠慮せず、俺はそのガレージのような店の中へ入っていった。

 

 俺が座った反対側にあるドラム缶に鈴夏さんは腰かけて、俺をじろじろと見てくる。

 

「・・・なんすか?」

 

「お前、いくつだ?」

 

「今まだ14ですけど」

 

「そうは見えねえなぁ」

 

 鈴夏さんも大吾先生同様、思ったことをズバリという人間のようだ。慣れたには慣れたけど、なんかモヤモヤする。これがこの人なりのコミュニケーションとのことだから、変に文句は言わないけど。

 

「うし、聞こう。お前はどうして、その足を失ったんだ?」

 

「・・・四か月くらい前ですかね。学校近辺の山肌で土砂崩れが起きて、目の前で立ちすくんでいた女の子を助けたんです。その拍子に、ひときわ大きい岩石が左足に当たって、そのまま・・・」

 

「潰れたってことか。そりゃまた災難だったな」

 

「その時やられたのは足だけじゃなくて・・・なんで、こうして生きてることも奇跡だって言われました」

 

「なるほど。その眼鏡もその時に」

 

 鈴夏さんは観察眼に優れているようで、すぐに俺の状態を理解したようだった。仕事人ならではの力というのもあるかもしれないが、この人は多分、ハイスペックだ。そう気づかされる。

 

 鈴夏さんは一通りの話を理解して、一度首を縦に振った。それは、依頼を受けるという肯定。

 

「分かった。その左足の義足を作ればいいんだな」

 

「頼めますか?」

 

「おし。・・・と言いたいけど、ちょっと問題がある」

 

 それまでとは違い、鈴夏さんは少々苦々しい表情をした。どこか問題があるのだろう。俺にまで緊張感が伝わってくる。

 

「私は、エナを持った人間の義手や義足を作ったことがない。・・・賢そうなお前なら、その意味が分かるな?」

 

「・・・。保証は出来ないと?」

 

「保証というかなんというか・・・、一般人に対して作る義手や義足が、汐鹿生の深さの水圧まで耐えれるかどうか分からないんだよ。もし、そのままで行くなら、お前は海に帰れなくなるかもしれない」

 

「・・・!」

 

 表情を強張らせる俺。対照的に鈴夏さんは表情を崩して口の端を上げた。

 

「なんて、ちょうど研究していた分野だからな。あともう三年もすればそれなりの答えが出るはずなんだ。そしたら、エナにも対応する、というより、海に対応する義手義足が完成させられる」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。だから、取り急ぎ今作るって言うなら当分は海に帰れなくなるけど・・・構わないのか?」

 

「・・・」

 

 構わないも何も、今海に帰ることは不可能だ。

 好機なのに、全く嬉しくなんてない。でも、今はきっとそれが最適解な気がする。

 

 海に帰れない体であっても、俺はもう一度、美海の隣に両足で立ちたかった。

 

「それでお願いします」

 

「分かった。・・・今が九時半か。体のサイズ測定して、細部までチェックして、今日の間に繋げて夜の10時くらいになるかもな。泊っていくか?」

 

「というより、一日で終わるんですか?」

 

「いや、これは急いでる方。けど、学生ならリハビリにそんな時間かけたくないだろ? だから、これが最大限私にできること」

 

「じゃあ、それでお願いします」

 

「よし」

 

 鈴夏さんは快諾して、細かい作業道具を奥の方から持ってきた。すぐにでも作業を始めてくれるようだ。

 

 どんな未来がこれから先訪れるかなんて俺には分からないけど。

 許されるのなら、大切だと思う人の隣に、両足でしっかりと立っていたい。

 

 

 

 それが、今の俺の小さな願いだ。

 

 

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

前回はハイライトで終わった義足を作るシーンを、今回はフルフルでお届けすることにしました。ほかにも空白の五年編のうちに色々と書くつもりです。
ただ、前回とは違い、日野鈴夏という人間をここで出すことになったため、前作と大幅に流れが変わると思います。そこら辺をお楽しみください。

あと、西野先生はほとんどモブです。あと数回登場するかしないか。

---

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期) 
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