凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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大事でしょここ。
本編どうぞ。


第六十三話 少し大きくなって今

~遥side~

 

 高校生になると、俺はまたずいぶんと変わってしまった。

 浜中の奴らの多い高校に行ったもんだから、ますます関係は親密になる。言えば、陸の人間になりつつあった。俺も、ちさきも。

 

 でも、間違いなく俺の方が染まっていた。時には海のことを見なくなるくらいに、俺は陸での生活に慣れていた。

 

 今はもう、それを何とも思わなくなった。後悔という行動に意味がないことに、ようやく気付いたから。

 そうして今も、水瀬家で穏やかに過ごしている。時々お父さん、お母さんと呼んでしまいそうになっては、我に帰るくらいにはなじんでる。

 

 呼べば楽になることは分かってる。それでも、この二人を両親と呼ぶことは出来ない。俺にもちゃんと、両親はいたのだから。

 二人もそれをちゃんと理解してくれているようで、特に何も文句をいうことはない。そのやさしさに、いつも助けられている。

 

 そうして、俺たちは高校二年生になった。

 秋、とある放課後。俺たちは例になく教室に残っていた。

 

「そう言えば、遥と紡は進路、決めてるの?」

 

 話をしようと呼びかけたのはちさきだった。どうも俺たちの進路が気になるらしい。

 そうだ、俺たちは着々と大人になっている。だからこそ、この壁に突き当たるのは必然の事だった。

 

「俺は昔から心理学を勉強したいって思ってたから、多分、街の大学に行くようになると思う」

 

「そっか。昔からそんなこと言ってたもんね」

 

 進路を決める理由が、あいつらに影響されなくてよかったと思う。そんなところでちさきを悲しませたくはない。

 

「紡はどうするんだ? つっても、俺の予想だと多分海にまつわるところの勉強をすると思うんだけど」

 

「ああ。まだ決めてないけど、俺も街へ行く。この間、海洋学研究所の先生に声かけられたんだ。一緒に研究をしないかって」

 

 紡は微力ながら、一人で海の異変と格闘していた。その様子を大学のお偉いさんが見ていたんだろう。ひたむきな努力は人の眼にはよく映える。

 

 しかし初めて聞いたのか、ちさきは少々驚いた表情を見せていた。そしていつもの、寂しそうな表情に変わる。

 

「・・・そう、なんだ」

 

「ちさきは、どうするんだ?」

 

「私は・・・まだ、分からないかな。何がしたいかなんて考えたことなかった。そういう話、皆としたいってずっと思ってたから」

 

 ちさきの言い分は分かる。

 けれど、その現状に対して厳しい言葉をぶつけることは出来る。

 

 現実から、目を反らしているだけだ、と。

 

 俺だって、立ち止まれるなら立ち止まって、このまま一生こうしていたいと思っている。けれど、それが出来ないから進まなきゃならない。

 駄々をこねる年齢は、とっくに過ぎ去った。どれだけ辛くても、前を向かなきゃいけない。

 

 だから俺は、少々語気を上げてちさきに問いかける。

 

「お前の夢ってなんなんだ、ちさき」

 

「・・・考えたことも、なかった」

 

 素直な返答。けど、それを聞いて思い出す。

 昔っから、こいつからああなりたい、こうなりたいなんて夢を聞いたことはなかった。今に始まった話ではない。

 

「でも」

 

 ちさきは、小さな声で言葉の続きを語り始めた。

 

「私は・・・この街から出たくない。一人になって、生きていける自信がないの。なんて、弱虫なこと言ってるよね、私」

 

「・・・おかしくないと思う」

 

 慰めるように共感したのは紡だった。

 

「俺だって、この街が好きだ。一人でうまくやってく自信も、正直ない。だから、大好きな街を選ぶか、夢を選ぶか、その選択肢が俺たちとちさきは違うだけだ。・・・別にそれが逃げでも、間違いでもない」

 

「紡・・・」

 

 俺もやれやれと首を振る。

 ・・・ああ、その通りだ。何も間違った答えじゃない。

 

 好きな場所を選ぶこと、それもまた人生に違いないのだから。

 それに乗っかるように、俺も言葉を添えた。

 

「それに、もし俺たちが高校を卒業してバラバラになって、あいつらが目覚めたとき、誰もいないんじゃ寂しいだろ」

 

「・・・その時は、みんな一緒じゃなきゃやだよ」

 

「ああ、そうだな。その時は俺もその場所にいたい」

 

 今なら、心の底からそう言える。俺も少しは成長できたのだろうか。

 紡も目を伏せて、一度頷く。

 

 この三人の距離感は、きっとこれでいい。

 

---

 

 

 帰り道。俺は並んで帰る二人の少し後ろを歩いて帰っていた。たまには紡の爺さんに顔を出すのもいいだろうなんて思ったりして、そのまま紡の家までついていく。

 

 そして紡の家が近くに見えたとき、紡は一人先を歩くちさきをよそに立ち止まり、俺の方を向いた。

 

「遥、話がある」

 

「話って言ったって・・・。ちさきのことか?」

 

「まあ、な」

 

 紡は例になく顔を背ける。どこか気持ちの整理が上手い事いっていないのだろう。俺は親身になって聞く姿勢を紡に提示する。

 

「好きって、言いたいのか?」

 

「・・・分からない。俺自身の感情なのに、一番俺が分かってない」

 

 それは、いつかの俺を見ているようで、どこかもどかしく思えた。自分の感情に素直になれない辛さは、身をもって体験しているから分かっているつもりだ。

 

「ただ、中学の時と比べて、あいつを見る目は変わったと思う・・・。多分」

 

「たぶん、ね」

 

「これを、好きって感情で割り切っていいのか?」

 

 紡は純粋無垢な瞳で問いかけてくる。だからこそ、返答に困る。

 俺だってそれを知りたいくらいなのに。

 

「分かんねえよ。俺はお前じゃないし、お前の気持ちの細部までは理解できない。・・・今はまだ辛いかもしれないけど、付き合い方は変えない方がいいんじゃないのか? きっと、あいつにとって今のお前との関係が一番楽でいられるんだと思う。本当にちさきのことを大切に思うなら」

 

「・・・辛いな」

 

 たった一言、紡は恋愛感情に対してのもっともな答えを口にする。

 そう、辛いのだ。その一言しか出てこない。

 

 好きになって得るものより失うもののほうが多い。それを直感的に分かっているのだろう。

 

「ただ、あの日以来ずっとちさきを見て思った。・・・あいつを一人にはさせれないって」

 

「ああ、同感だよ。・・・でも、夢との取捨選択って言ったのはお前だろ」

 

「そうだけど・・・」

 

 

 平行線な会話。

 生まれようとした沈黙を切り裂くように、遠くから女性の甲高い悲鳴が聞こえた。

 

 

「きゃああああ!!」

 

「!!」

 

「ちさきだ! 急ぐぞ!!」

 

 俺と紡は顔を合わせて一度うんと頷くと、そのまま紡の家へと走っていった。

 そして庭先、一人の男性が血を流して倒れている。

 

 そう、それは見間違えることなどない人物。

 

「じいちゃんっ!?」

 

 例になく、紡も大きな声を上げる。

 

 

 目の前に倒れていたのは、紡のじいさんだった。

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

本格的に高校生編を書こうかなと思っては見たのですが、いかんせん要素が少ないのと、オリジナルを含めるあまり原作の世界観を壊してしまうのではないかという心配から少しだけにすることにします。が、これは原作のシーンなので。

というより、私原作のつむちさ好きなんですよね。高校の制服のツーショットときたらもう・・・。要、すまんな。

なんでしょうね。肩入れが凄い。

---

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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