凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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空白の五年編、最終回でございます。
本編どうぞ。


第六十六話 そしてもう一度

~遥side~

 

 四年ぶりに見た鈴夏さんの姿は、四年前と何も変わっていなかった。

 が、俺は変わっていたようで、鈴夏さんは最初「誰?」みたいな目を向けてきた。

 

 そして少しして、俺が四年前に自分の下を訪れたクソガキだということに気が付いた。

 

「ああ! 島波遥か!」

 

「お久しぶりです。前回から四年たったので、こちらに伺いました」

 

「そうかそうか、確かエナに対応する義足の話だったか」

 

「出来ていますか?」

 

 そうは言っても、出来ているかどうかは正直分からなかった。海に帰れるかどうかがかかっている。出来てないからといってはいそうですかとは引き下がれなかった。

 

 なんて、俺の心配をかき消すように鈴夏さんは笑った。

 

「案ずるなって。私を誰だと思ってるんだ」

 

「それじゃあ」

 

「ああ。そういう素材を作ることには成功した」

 

「・・・ん?」

 

 問いに対しての答えが少々錯誤していたので、俺は聞き返す。鈴夏さんは笑いを引っ込めて語った。

 

「さすがにお前が来るまでにお前用の義足を作るのは不可能だった。けど、エナに対応する素材を作ることは出来たから、その素材で今から義足を作るってわけ」

 

「ああ、なるほど」

 

 これは、流石に俺が求めていたものが高すぎたと反省する。ただの義足とはわけが違う中、俺のためにこの人は尽力してくれているんだ。それを忘れてどうする。

 

「と言うわけで、今回は前回の施術より遥かに時間もかかるし、リハビリにも時間がかかる。それだけの時間はあるのか?」

 

「ええ。高校を卒業して、大学への入学待ちなので、大学への入学式までの時間は全て費やせます」

 

「分かった。じゃ、中入れ」

 

 鈴夏さんに促されて、僕は店の中に入る。それからすぐに鈴夏さんは店の看板をclosedに切り替えた。

 

「どういうことです?」

 

「うちは大体ワンオーダー制。だから、依頼が入った時点で店を閉めるようにしてるわけ」

 

「そういうことですか」

 

「大体、私一人しかいない店だし、そうせざるを得ないだろ。マルチタスクなんて器用な真似できねえよ」

 

 一つため息をついて、鈴夏さんは僕が腰かけている椅子の真反対にあるパイプ椅子に腰かけた。

 

「・・・んじゃ、足見せてみ」

 

 鈴夏さんに促されて、俺は左足を台の上に置く。鈴夏さんはそれをなめるように見回しながら、コメントをつける。

 

「・・・随分と劣化してるな」

 

「言われたようにメンテナンスはしてるんですけどね」

 

「ただの金属だし、まあ無理もないだろう。それに鷲大師は海のすぐ近くだからな。潮風なんて義足の天敵だ」

 

 言われてみると、最後の方は左足がやたらと重たかったように感じる。なるほど、そういった理由もあるのか。

 

「そこで、今回の素材は塩分に対して強い素材になってる。まず、汐鹿生に対応する義足、ってので必要な要素がいくつかあるんだ」

 

「というと?」

 

「まず、海水の塩分を受けて錆びないこと。んで、汐鹿生の深さの水圧に耐えられること。そして、エナを持つ人間の肌に対応すること。義足自体にエナをつけることなんて不可能だからな」

 

 難しい話だが、言われて納得できた。そして改めて、目の前の天才の才能に気づく。

 ただの技師でここまでのことが出来る人間はそうそういない。この人は間違いなく天才の部類だ。

 

「ま、とりあえずまずはその左足を外す。んで、成長してるから測り直しだな。時間かかるぞ?」

 

「宜しくお願いします」

 

 

 そして、地獄の一週間が始まった。

 

---

 

 測り直して、一から義足を作って、取り付けて。

 この行程が終了したのは、俺が来店してから四日後の事だった。それまで入院のような形で鈴夏さんの家に居候。よくも悪くも女性っぽさがないこの人の家は居候に罪悪感を感じにくかった。

 

 そして取り付け後。

 体が、壊れ始めた。

 

「・・・っ・・・!」

 

 熱にうなされて、俺はじたばたする。謎の痛みも止まることを知らない。新しい素材がぶつかるという事もあって、体への代償はかなり大きかった。

 そして意識を失いかけたとき、ようやく鈴夏さんは俺の異変に気が付いた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「大丈夫・・・じゃ、ないです・・・。水ください・・・」

 

「水か? 分かった!」

 

 鈴夏さんからコップ一杯分の水を受け取って、俺は喉元から流し込む。少しだけ楽になったが、それまで。体調不良は一向に留まる気配を見せなかった。

 

 とはいえ、少し話せる状態になって、俺はありのままの状態を鈴夏さんに伝える。

 

「たぶん・・・拒否反応じゃ・・・ないですかね・・・」

 

「じゃあ、取り外すか?」

 

「・・・多分、もっと悪手です」

 

 結局、これは俺が慣れなければいけない問題に過ぎないのだ。とはいえ、今の状態はあまりにも辛すぎる。

 

「・・・とりあえず、鴛大師の病院、連れてってもらえますか・・・?」

 

「分かった。すぐ向かおう」

 

 それから間もなくして、俺は鴛大師へと逆戻りすることになった。

 

 

---

 

 一度眠って、気が付けばそこは病院のベッドの上だった。

 どうやら、入院状態確定の合図らしい。俺は一つため息を吐いた。

 

 だんだんと開いてきた視界で状況を確認する。腕には管が付けられている。おそらく点滴だろう。

 そして、足の義足は外れていなかった。とはいえ、まだ怠い。怠いどころじゃないけど。

 

 

「・・・起きたか」

 

 聞きなれた声が響く。大吾先生だ。

 

「ははっ・・・久しぶりですね」

 

「馬鹿野郎。俺の休日を返しやがれ」

 

 大吾先生はブチブチ文句を言いながら、俺のベッドの隣の椅子に腰かけた。

 

「それより・・・休日ならなんでここに」

 

「院長から連絡だよ。お前の担当の患者が入院したから面倒でも見ておけってな」

 

「はは、それはご愁傷様です」

 

「お前のせいだ阿保」

 

 とはいえ、心の底から怒っているようには見えなかった。

 

「・・・それで、どうだ?」

 

 今度はころりと表情を変えて心配そうに大吾先生が尋ねる。やはりこの人は根っからの医者だ。

 

「点滴があるおかげで、さっきよりは気分がいいですけど、やっぱり駄目ですね。体が動きません」

 

「投薬治療でじっくり治すべきなんだろうけど、お前、春から大学生だよな」

 

「はい、なので・・・」

 

「んじゃ、鎮痛剤と解熱剤出すからとりあえずはそれで繋いで、あとはリハビリを優先するぞ。春までには絶対に間に合わせる」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。その代わり、夏は絶対帰って来いよ」

 

 大吾先生は、俺へ最大の配慮を行ってくれた。それにはもう頭が上がらない。

 もちろん、その提案を蹴る必要もない。

 

 俺は一度首を縦に振って、これから先の運命を決めた。

 

 

---

 

 

 そして、季節は流れる。

 あの日から五年。大学一年生の夏。

 

 俺は、鴛大師へと舞い戻る・・・。




『今日の座談会コーナー』

空白の五年編終了でございます!
最期少々駆け足になった気がしますが、これで後半の冒頭のシーンに辻褄が合います。
というか、結構すっきりしてますね、前回不十分だった内容を補完出来たので。
大学がオンラインの今がチャンス、頑張っていきます。

---

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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