凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
本編どうぞ。
第六十七話 そして五年の月日は
~遥side~
朝、始発。
かすかに肌に触れる潮風を浴びては思わされる。
帰ってきたんだ、鴛大師へ。
なんて格好つけたところで、ここを離れてからそんなに時間は経ってない。なんならこの間最悪な帰り方をしたわけだし・・・。
大学生になった俺は夏休みを利用して帰ってきたというわけだ。とはいっても課題はあるし、何より気候のせいで夏という実感が何一つない。
まあでも、やっぱりこの街に帰ってくると心が落ち着く。それだけは確かだ。
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電車から降りると、テトテトと美海が歩み寄ってきた。もう中学二年生。すっかりと大きくなった。
「おかえり、遥」
「ああ、ただいま。ちょっと離れてただけなのに、ずいぶん経ったように思えるな」
「そうだね」
美海は大きくなって、一段とまた綺麗になった。妹のように思っていたはずなのに、今じゃもうそんな雰囲気はない。
とりあえず、立ちっぱなしも辛いので、近くの公園へと移動してベンチに腰掛ける。落ち着いたところで、俺は美海に聞いてみた。
「あれから鴛大師は何かあったか?」
「・・・ううん、いつものまま」
いつものまま、ということが何を示しているのか、俺は瞬時に理解した。それは少なくとも海に何の変化もないという暗示。
分かっちゃいたけど、やっぱり少し悲しい。
「まあ、そんな簡単に変わるはずなんてないよな。たった数か月で」
高校卒業まではずっと鴛大師を見てきたわけだし、開けた期間と言えばせいぜい数か月しかない。
少しだけどんよりとした空気になる。それを察知したのか、美海は話題をガラリと転換した。
「そういえば遥、今日は巴日なんだって。その・・・見に、行く?」
「巴日か・・・。そうだな」
受け取ったものの、判断に困って俺は一度黙り込む。
ちさきがいつか言っていた。巴日は、皆で見なきゃいけないと。
その約束は確かに守りたい。それでも、せっかく勇気を出して誘ってくれている美海をそう簡単に裏切りたくないのも事実だった。
だから俺は逃げるように、あいまいな答えを提示する。
「行こうかなとは思う。でも美海、今日は学校だろ? またサボりなんて」
「しないよ。子供じゃないんだし。・・・私、学校の方で見なきゃいけないようになると思うから、見つけたら声かけてほしい」
「分かった。ほかの生徒の邪魔にならない程度に顔出しに行くよ。先生にも久しぶりに会いたいし」
「あの人、時折遥の名前出すんだよ?」
「はぁ、あの人も好きだなぁ・・・」
思われていること自体は嬉しい限りだけど。
そしてふとした瞬間、美海は視線を俺の足元へ落した。
「・・・ん? どした?」
「その足・・・」
「ああ、この間変えたんだよ。これで海に入っても問題ないらしい」
エナ対応型の義足。その制作、装着は困難を極めた。作るのにも時間がかかったし、いざ付けてみると拒否反応起こしたりしたわけで。
リハビリは大変だったなぁ・・・。
「あいつらが帰ってきて、俺だけ海に入れない、なんてなったらカッコ悪いだろ?」
「・・・うん、そうだね」
美海は軽く返事をして立ち上がった。どうやら学校に寄る道中で俺のところへ来たらしい。
そんな美海を見送って、俺は一人ベンチに腰かけたままぼんやり海を見る。
積もった白雪。肌寒い風。
ああ。いつも通りだ。
いつも通りの・・・狂ってしまった世界だ。
感傷に浸っても意味はない。とりあえず動いてみるとしよう。
何か変わってるかもしれない。
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結局午後の四時くらいまで、ずっと町中をぶらぶらしていた。特に何もなかったけど。
そんな中で、ふらりと俺が立ちよった場所はさやマートだった。
あかりさんは店内にいるのか姿が見えなかったが、外で狭山がトラックを弄っているのを見かけてためらわず俺は近づいた。
「元気してるか?」
「おぉ? 遥じゃねえか!」
狭山は俺にすぐに気が付いたようで、作業をパッと投げ出して俺に近づいてきた。
「どうよ、街の方は?」
「ぼちぼちか。まあ、うまくやってるよ。それより、お前もちゃんと仕事するんだな」
「まあ、パチンコうちに行く足になるこの軽トラが壊れるのは死活問題だしなぁ・・・」
「・・・すまん、俺がバカだったな」
悪ガキはいまだに直ってないようで、サボりのための仕事をしているようだった。まあ、変わってなくてなによりだ。
なんて思っていると、狭山が俺の方にすすすと近づいてきて耳打ちした。
「そう言えば、江川、結婚するんだとよ」
「マジか?」
「ああ。デキ婚、だとよ」
「なんとまあ・・・」
言葉が出ない。それに尽きる。
まあ、あいつもあいつでなかなかちゃらちゃらしていたのが抜けていなかったから、当然のような気もするけど・・・。
「計画的に、って教訓になるな」
「それに尽きますな。はっは」
二人して悪い笑いをする。何だかんだ俺も性悪なのだろうか。
「ところで、ちさきは元気してるか?」
「ああ。今日も学校行ってるはずだべ」
ちさきは結局、看護学校に進路を決めたようだった。
おじいさんが倒れたことが響いたらしい。決まり方は最悪だが、やりたいことが見つかったことについてはいい事以外の何者でもない。
「みんな、頑張ってるんだな」
「おうよ。俺だってちゃんと仕事してんだぜ?」
「ちなみにあと何分後くらいに出るんだ?」
「10分」
「負けてしまえ」
なんて、こんな砕けた会話もこっちじゃないとできない。本当に暖かい街だ。
狭山はぐっと背伸びして、投げ出した工具を取りに行った。
「ほんじゃま、俺も仕事に戻るから店内でも入ってな。あかりさんいるぞー」
「そうだな。そうするわ」
狭山の勧めにのって俺はさやマート店内へ入る。そこにはせっせか働くあかりさんがいた。
「お久しぶりです、あかりさん」
「あら、遥くん。もう帰ってきてたんだ」
「ええ。一応夏休みですし。晃、元気にしてますか?」
「元気も元気。もう最近はやんちゃっぷりが止まらなくて」
「光みたいですね」
「ほんとだよもう・・・」
困っている、と言うのをアピールするように、あかりさんは手をぶらつかせる。本当に手を焼いているのだろう。
本当に、一度光に合わせてやってみたい。どんな化学反応が起きるんだろうか。
「いつまでこっちに?」
「当分は。まあ、期限なんてないです」
「そっか。まあまた買い物にでも来てね」
「はい」
あまり長々と立ち話をするわけにもいかないので、俺は速やかに店をあとにした。
そして、その足で今度こそちゃんと向かう。
懐かしの、水瀬家へ。
『今日の座談会コーナー』
ここから、結構鬼門なんですよね。前回も書くことがなくて手を焼いてましたし。
座談会・・・。狭山という人物についてでも語りましょうか。
イメージカラーはブルー。戦隊ものでも主人公じゃないイメージが強いと思います。何て言うんでしょう、悪になり切れない悪というかそんな雰囲気と言うか・・・。
これぞ典型的な悪ガキって感じですかね。
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といったところで、今回はこの辺で。
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また会おうね(定期)