凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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憂慮オブ憂慮。
本編どうぞ。


第六十九話 再開の歯車

~遥side~

 

 氷が張った海が広がる。

 美海は中学生の輪から少し離れたところに立っていた。やはりまだ集団行動は苦手らしい。

 

 でも、俺にとっては好都合。迷わず近づいて、美海に声を掛けた。

 

「よっ、どんな感じだ?」

 

「遥。・・・うん、まあまあ」

 

「なんだそりゃ」

 

 美海は俺の方に向けられた瞳を海の方へ戻した。その先には、今にも光が見えようとしている。

 その光を瞳に灯しながら、美海はポツリと話し出す。

 

「・・・巴日、こうやって見るの初めてかも」

 

「まあ、もともと海でしか見れないものだったからな・・・。少々複雑な気もするけど」

 

「ちさきさんも言ってた。皆で見なきゃダメだって。遥、みんなで見たことあるの?」

 

「・・・ある。きっと」

 

 五年前。まなかとちさきが喧嘩した日。その日が巴日だった。

 あの時、俺は光と要と一緒にいた。二人はどこにいたか知れてない。けど、きっとあの日、俺たちは一緒に巴日を見た。

 それが、最後の巴日の記憶。

 

「あれから五年か・・・。みんな、って響きも、結構懐かしくなったもんだな」

 

 言っておきながら、少しだけ寂しくなる。その気持ちを俺はくっと噛みしめた。

 そして改めて美海を見つめる。同じ憂いの瞳を美海は海に向けていた。

 

「みんな、帰ってこれるのかな?」

 

「さあな。でも、いつでもあいつらが帰ってこれるように、俺はここにいるわけだけど」

 

「そうだね」

 

 それしか、言うことがなかった。

 結局、俺は待つだけの存在に過ぎない。今は、それしかないから。

 

「それじゃ、俺先生の手伝いに誘われてるから、ちょっとそっち顔出してくる」

 

「分かった。終わったらまた寄ってね」

 

 美海に軽く手を振って、俺はその場をあとにして少し離れたところで研究機材を張っている紡と教授のもとに合流する。

 

「おお、遥くん、来てくれたんだね」

 

「ええ。それで、どうです?」

 

「・・・そろそろ来る。観測機から目を離すなよ」

 

「OK」

 

 紡の忠告を受けて、俺は表情に展開された機械に目を向ける。海流を捉えた矢印があちこちから一方向へ動いていく。それが少し止まったかと思えば・・・。

 

「おぉ・・・」

 

 光が、地上に現れた。あの日以来の巴日だ。

 

「これが巴日・・・」

 

「・・・おい、ちょっと待て。先生、機械が・・・」

 

 機械の矢印がおかしなことになっているのに真っ先に気が付いたのは、俺だった。機械上の矢印に?マークが灯る箇所がある。

 そして同じタイミングで凍った地面の一部が揺れだした。それは、巴日のすぐ近く。

 

「・・・っ!!」

 

 俺は直感的に走り出していた。紡と先生が驚く声も一切聞こえない。

 ただ、向かい側から走ってくる美海の姿だけは確認できた。人より離れたところに立っていた分、美海もこの異変に気が付けたのだろう。

 二人、光が発している地点で立ち止まる。それから互いに顔を見合わせた。

 

「遥、これって・・・?」

 

「分からない。・・・けど、何か不思議な感覚だ。変な予感がするんだよ」

 

 俺がそう答えて少しして紡が合流する。

 

「遥、これはどういうことだ?」

 

「だから分からないって・・・。・・・っ!!?」

 

 また、突如として強い光があたりを包む。その光の眩しさに俺も美海も紡も目を閉じた。

 一瞬ひるんだのちに、ゆっくりと重たい瞼を開ける。そこには、一人の少年が映っていた。

 

 忘れるはずもない、ツンツンとした特徴的な髪に、あの日と何も変わらない姿。

 手が届きそうな、少し遠く。

 

 そこに倒れていたのは、光だった。

 

 俺たちは急いで駆け寄る。そうは言っても、まずはちゃんと確かめたかった。

 駆け寄って、近づいて、ちゃんと確かめる。そこにいたのは、間違いなく光だ。

 

 しかし、息をしていない。肩が小刻みに揺れ動くことすらなかった。

 

「光!!」

 

 俺は考えることをやめて、そのまま光を抱き上げて肩をゆすった。しかし、反応はない。

 とりあえず、ここは人工呼吸をするしかないか・・・。

 

 男同士のキスなんて考えるだけでおぞましいものだが、この際気にしてなんかいられない。

 俺は諦めてその唇を光に近づけようとする。

 

 が、そのタイミングで光の肩がピクリと動いた。慌てて俺は光の身体から唇を離す。

 

「動いた、よな?」

 

「ああ、意識はあるみたいだ。・・・もう少しこのままにしてたら大丈夫だと思う」

 

 紡の宣言通り、三分もすれば、ゆっくりと光は体を起こした。

 ・・・いや、意識が覚醒するなり、勢いよく体を起こした。

 

「まなかっ!!」

 

 しかし、そこにまなかはいない。数秒経ってようやく光はそれに気が付いたようだった。

 けれど、一つだけ変わらない事実があるとすれば・・・。

 

 帰ってきたんだ、光が。

  

 改めて光は辺りをキョロキョロして、やがてその視線は美海のところで止まった。

 

「・・・誰だ、お前」

 

「美海だよ、美海」

 

「ああ、美海か・・・。・・・んで、遥と紡か」

 

「そうだ。久しぶりだな、光」

 

「・・・」

 

 久しぶりに会えた喜びが勝ってか、それしか言葉が出てこない。けれど、光はいまだ釈然としない顔だった。

 とりあえず、今は保護が優先。俺は自分の服の一部を光に着させた。光はなおも黙ったまま、凪いだ瞳で海を見つめ続けている。そこでようやく、今の光に質問攻めをするのは酷だという事に気が付いた。

 とりあえず、あかりさんのいる美海の家へと戻ろう。

 

 ちさきには・・・。いや、これは多分俺のいう事じゃない。

 

「光、動けるか?」

 

「・・・悪い、体、だるくてよ」

 

「分かった。じゃあ、おぶってく」

 

 俺は光をひょいと自分の背中へ乗せる。俺が大きくなったのか、光が軽くなったのか、足は軋んだが重みは感じない。

 

「それじゃ、俺たちは一旦美海の家へ行く。紡、お前は?」

 

「いったん教授のもとに戻って、それで・・・」

 

「分かった。じゃあ、今日は解散しよう。行こう、美海」

 

「あ、うん」

 

 俺は光を背に美海と美海の家へ、紡は反対の方向へと進んでいく。

 俺の背中の上で、光が呟いた。

 

「遥、お前、足・・・」

 

「直したんだよ、いろいろやってな」

 

「そっか」

 

「・・・なあ、お前は」

 

 俺はそう聞いたところで、寝息が聞こえだした。さっきまで話していたはずなのに、光はもうぐっすり眠っていた。どんな神経してるんだこいつ。

 

「そりゃ、起きてすぐだし仕方がないよね。今は寝かせておいてあげよう」

 

「そうだな。時間はいくらでもあるし、話はまたその時でいいだろ。それに・・・」

 

「?」

 

「光も、結構混乱するだろうからな。あまりグイグイ攻めない方がいい。多分、パンクしてしまうだろうからな」

 

 多分、冬眠した人間に五年たったという実感はないだろう。だとすると、変わってしまった風景に間違いなく戸惑ってしまうはずだ。

 俺たちの見方と、冬眠してしまったあいつらの見方は間違いなく違う。そこをはき違えてはいけない。

 もっとも、それをどれだけの人間が理解しているか、という話だが・・・。

 

 

「ねえ、遥」

 

「どした?」

 

「光が帰ってきて・・・嬉しい?」

 

 美海から発せられる、無邪気で容赦のない質問。すぐに答えることは出来なかった。

 嬉しい。それは間違いじゃない。

 でも、本当に嬉しいだけかと言われたら、そうでもないのが事実だ。こうして会ってみて、五年の月日が経ってしまったろいうことを嫌と言うほど実感させられる。

 俺も五年分、歳をとってしまったのだ。

 

 それが辛くないはず・・・ない。

 

 でも、勝る気持ちは一つだった。

 

「嬉しいよ。ああ、嬉しいさ。当然。やっと会えたんだ。五年ぶりだ。俺がどれだけ大きくなったかなんて関係ない。無事でいてくれた。目を覚ましてくれた。俺はそれだけでいいよ」

 

 そうして無理して少しだけ笑う。美海はそれ以上は何も言わなくなった。

 

 

 感情はグルグルと巡っている。一言で言い表すことは到底できないけど、一つだけ言うことがあるとすれば・・・。

 

 

 帰ってきたんだ、光が。

 




『今日の座談会コーナー』

前回、ここら辺とても適当に書いていたので供養&懺悔。過度な原作改変はNG。
前作では、ここら辺書くのが一番楽しかったんですよね。それと同時に、オリジナルパートが増えたので苦行の連続でしたが。
けどま、やっぱりここから苦行ですね。そんな予感がします。
がんばゆ。

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といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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