凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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やはり停滞期・・・。
本編どうぞ。


第七十話 まだ見えぬ未来

~遥side~

 

 俺の背中で眠ったままの光は潮留家に移っても眠ったままでいた。客間に敷かれた布団に眠らせて、俺は改めてあかりさんたちと対峙する。

 帰ってきた光を見てあかりさんは当初目に涙を浮かべていたが、今はもう落ち着いたようで至さんの隣に、息子である晃を携えて座っていた。

 

「とりあえず、光をここまで運んできてくれてありがとね、遥くん」

 

「当然のことをしただけですよ。あそこであのまま放置なんてのもダメでしょ倫理的に」

 

「ま、そうだけどね」

 

「それより、光は当面ここに住むって方向でいいですよね?」

 

 目覚めたはいいものの、汐鹿生に帰れるわけでもないし、他の身寄りもない。むしろ光にここという居場所があるのが奇跡に近いことだ。

 この質問大しては、至さんが真っ先に首を一度縦に振った。

 

「大丈夫だよ。前のアパートよりも全然広いし、不便に思うことは少ないと思う。・・・ところで遥くん。光君が海から上がってきたときに、海はどんな状況になってたんだい?」

 

 至さんは顔色一つ変えて本題に入る。漁協の人間として今回の問題は真正面から向き合わなければいけない問題なのだろう。

 それを分かって、俺も出来るだけのことを伝えることにする。

 

「今日が巴日だったのは、知ってますよね?」

 

「そうだね」

 

「光が上がってきたのはほんの一瞬でした。巴日が地上に見え始めて三十秒後くらいですか。それまでより一際強く光って、そのまぶしさにくらんだ後、目を開けてみれば」

 

「光が倒れていた、ってことね・・・」

 

 だから、伝えれることと言っても俺の視点からすればほとんどないのである。もっとも、教授と紡の研究機材には何か反応があったのかもしれないが、そんなのは途中で投げ出した俺の知るところではない。

 

 至さんは一通り話を聞いて首をうんうんと頷かせた。きっと分かってないだろう。しかし、分かってないなりの反応の示し方に俺は文句を言わないでおいた。

 

「研究的に今回の事象がどれだけ重大なことかは知りませんが、一つだけ言えることがあるとすれば、そろそろ海の目覚めの日が近いかもしれないという事です」

 

「本当なのかい?」

 

「確証はないですけど、光が目覚めたという事は多分、そういうことかと・・・。まあ、あいつのことですし、本能的に冬眠に耐えきれなくなって上ってきたんでしょう」

 

「あはは、光らしいね」

 

 じっとすることが苦手なやつだ。思ってないないところでそういう行動をしてしまったのだろう。本当に可愛げしかないやつだ。

 

 話が詰まったところで、俺は時計を見る。時刻は夜の9時頃を示そうとしていた。

 俺のその行動に気が付いてか、至さんが声を掛ける。

 

「遥くん、今日はもう遅いしうちに泊っていかないかい?」

 

「・・・すいません、ありがたい提案なんですけど、遠慮します。今この状況で寝起きの光に接するの、多分あいつの方が疲れると思うので」

 

「どうして?」

 

「まあ・・・色々です」

 

 長々と話したところで、至さんは全てを理解できないだろう。当事者ではないのだから。

 別にそれが悪いことだとは言わない。けど、事実には変わりないので俺は色々という言葉を使って逃げた。

 

「分かったよ。・・・あと、うちにはいくらでもいてくれていいからね」

 

「ありがとうございます」

 

 そして俺は自分の荷物片手にその部屋を出た。最後にもう一つ寄っておきたい場所があった。

 その場所に向かって、コンコンとドアを二回ノックする。部屋から出てきた美海は風呂上がりだったのか、仄かにシャンプーの香りがした。

 

「どしたの?」

 

「いや、ちょっと話でもって思ってさ」

 

「いいよ。ちょっと待ってね」

 

 美海は部屋から出るなり、俺の袖を引っ張って家の縁側にグイグイ進んでいった。そして縁側に出たところで、二人並んで腰かける。

 

「・・・遥がこうしてここに呼んだってことは、千夏ちゃんの事、だよね?」

 

「やっぱり気づくかぁ・・・」

 

 俺が話を切り出す前に美海が切り出す。そのせいで俺は出鼻を挫かれてしまった。

 しかし、本題がそれであることには変わりない。俺は自分の弱い心ごと美海に曝け出すことを決めた。

 

「・・・光がこうやって帰ってきたからさ、ひょっとしたら水瀬もそのうち帰ってくるんじゃないかって、そう思ってさ。・・・なんて、冬眠って決まったわけじゃないのにな」

 

「千夏ちゃんは海の中で眠ってるよ。・・・私は、そう信じている」

 

 美海はまっすぐな目で俺の目を正面から覗き込んできた。その視線の強さに俺は言葉を失い、ただ茫然とする。

 でも、そうやって誰かを信じれるようになった美海は、間違いなくあの頃より成長していた。その事実だけは嫌と言うほどに俺の胸を突き刺した。

 俺はどうだろうか。あれから成長しているだろうか。・・・変わってしまったのだろうか。

 

 少なくとも、誰かに弱みを見せるようになったのは確かだし、弱くなったのは間違いない。

 

「・・・だから遥も」

 

「分かってる。自分の弱さと信じる信じないは、別だよな」

 

 何も決まったわけじゃない。何も終わったわけじゃない。信じる限り、まだ終わりはない。

 それを確かめることができた。今はそれだけでいい。

 

「そう言えば、遥・・・」

 

「ん?」

 

 俺の名前を呼んだ美海だったが、やがて身をたじろさせて、何かを振り切ったように言った。

 

「なんでもない」

 

「なんだ、急に」

 

「いいから、何でもないの」

 

 美海は無理やり何でもないという言葉で俺を突き放した。

 勇気を出して何かを言おうとしたが、ダメだったのだろう。だったら俺ももうこれ以上は追及しないようにする。

 

 きっと、二人の距離は今はこれが正しいから。

 

 

---

 

~美海side~

 

 

 遥に、告げたかった。

 私は遥が好きだって。もちろん、告白のつもりはない。千夏ちゃんとの約束だから。

 

 でも、また今日も勇気が出なかった。

 

 最初はそんなこと言うつもりもなかった。それなのに、だんだんと大きくなるにつれて遥のことが気になっていった。これまで以上に好きになってしまった。

 

 ・・・どうしたんだろ、私。

 

 好きの感情を抑え込んでいたつもりなのに、全然うまくいってない。

 

 峰岸に告白されたからだろうか。はたまた、光が目覚めたからだろうか。

 千夏ちゃんが目覚めたらきっとまた勝負が始まる。圧倒的に不利な状況で。

 

 だから私は、焦ってたのかもしれない。・・・ううん、今も焦ってる。

 こうして話している今だって、心臓がドクドクして熱い。遥は今の私に気が付いているんだろうか。

 

 結局私は、あの時から何も成長してない。ずっと子供のままで、遥に頭を撫でられる存在。

 前はそれでいいと思ってたのに。

 

 でも、今ははっきり言える。私は遥が好きだから。

 

 

 ちゃんと、その隣を歩きたいって、今はその気持ちしかここにはない。

 




『今日の座談会コーナー』

 細部をふくらませるだけでこれまでより確実に文字数が増えてますね・・・。本当に二倍の量待ったなしなんですわ。
 とまあ、リアルが忙しいので今後も停滞してしまう気がします。ご了承ください。

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 といったところで、今回はこの辺で。
 感想、評価等お待ちしております。

 また会おうね(定期)
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