凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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編集がマチマチ・・・。
本編どうぞ。


第七十一話 失われた五年

~遥side~

 

 光が地上に戻ってきてから、一日が経った。

 疲れもあってか眠りは深かったが、朝起きてみると定時。なんとまあ素晴らしい生活態度だろうか。

 さすがに泊まるわけにはいかないと断って歩いて家に帰ってからは、死んだように眠っていたというのに。本当に勤勉な大学生そのものだ。知らないけど。

 

 とりあえず、今日の光の様子が気になるので慣れた足取りで潮留家へと向かう。

 

「おはようございます」

 

「あら、遥くん、おはよ」

 

「洗濯、まだ終わってなかったんですね」

 

「昨日バタバタしちゃって、皆目覚めるのが遅くてねー」

 

「光、起きてますか?」

 

「起きてるよ。・・・ほんっと、寝相も寝起きの仕草もあの頃のまんま。五年たってるってのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、何にも変わってないよ」

 

 あかりさんはどこか憂いの目で声音を落として呟いた。その仕草の意味を、重さを、俺はちゃんと理解している。

 光の中にはきっと、五年という月日が経ったという自覚はない。俺たち地上に残った人間だけが、むなしくその感覚に見舞われているだけだろう。

 だから、本当は会いたくなかったと言われれば、そうだったかもしれない。

 

 そんな中で、遠くから軽トラの音が近づいてきた。この街の軽トラ番長と言えば、今はもう奴しかない。

 軽トラから降りてきた男性に、俺は真っ先に声を掛けた。

 

「狭山か、朝っぱらから何の用だ?」

 

「おお、遥もいたのか。はえーな朝から」

 

「まあ、流石に色々と整理したくて、な。というか本当に何の用だよ」

 

「用も何も、光だよ光。目覚めたって聞いてな。昨日無理だったから今日会いに来たわけよ。んま、どっちかというと漁協のおっさんたちが会いたがってるからそことのパスがメインかな」

 

「こき使われてんのな」

 

「言うな言うな。それに俺自身あいつと会いたいってのがあるからさ」

 

 狭山もあの頃に比べるともうずいぶんと丸くなったようで、平然とそういうことを言ってのけるようになった。悪ガキの成長過程ってのは大体こういうものなのだろうか。

 

 なんて思っていると、今度は玄関が開く音が聞こえ、続けて怠そうな声音が俺の耳に響いた。

 

「なんだよ朝から玄関先でやかましいな・・・」

 

 眠たげに目をこすりながら出てきたのは光だった。

 

「おぉ! 光! 久しぶりだな!!」

 

 狭山は俺が目を離した一瞬で光の方に飛びかかり抱き着こうとして・・・躱されて、顔面から地面に突っ込んだ。

 

「んだ狭山かよ・・・でかくなってびっくりしたわ。というか、何の用だよ」

 

「お前もそれ言うのな・・・。あれだよ、漁港のおっさんたちがお前に会いたがっててよ、迎えに来たっちゃそうなんだが・・・」

 

「分かったよ、行く」

 

「サンキュ、軽トラの助手席乗ってくれ。すぐ着くからよ」

 

 と、そのタイミングで制服姿のさゆが合流する。同じように学校に行く準備が出来た美海も合流して、いよいよ玄関先が賑やかになってきた。

 

 その状況に耐えかねて、すかさず俺は逃げるようにその場から誰にも気づかれないように距離を取った。

 何より、今ここで声を発してしまえば、何かが壊れてしまうような気がして仕方がなかった。

 

 そのまま光と女子二人を乗せた軽トラは潮留家を去っていく。皆の姿が見えなくなったところで、俺はあかりさんの下へ再び姿をひょいと見せた。

 

 光が現れて以降の俺の態度が少し気になったのか、心配そうにあかりさんが声を掛けてくる。

 

「遥くん、大丈夫?」

 

「何がですか?」

 

「さっき、光と話せなかったけど」

 

「・・・」

 

 大丈夫も何も、俺はあそこで話せなかったことに、正直ホッとしてしまっていた。

 結局、光に会いに来たとのたまっておきながら、俺は何を話せばいいかすら考えることが出来てなかった。

 理由は簡単。きっと光が五年のロスを理解していなくて、俺がそれを分かっていたから。

 だから、五年の間で何があったかなんてベラベラ話すのも光を苦痛の淵へ追い込むだけであり、かといって薄っぺらい話ができるかと言われればそうでもなく。

 

「・・・包み隠さず言うなら、話せなくてよかったって思ってます」

 

「え?」

 

「五年間のロスをあいつは理解してないです。それなのに、五年の時を過ごした俺やほかの皆がベラベラ話しても、きっとまともなコミュニケーションなんて取れないでしょう」

 

 冬眠に入るギリギリ前の光はかなり心が穏やかになっていた。成長していた。だから取り乱すなんてことはないと思うけど、それ以前に心が持つかどうかがまず心配なのだ。だから今こうして狭山に連れられて漁港に行くという行為も、きっとあいつ自身の首を絞めるだけの行動でしかないはずだ。

 

 それほどまでに、過ぎ去った五年の月日は残酷なのだ。

 

「たぶん、これから最悪な状況になるかもしれません」

 

「どういうこと?」

 

「さっきの五年のロスの話ですけど・・・。果たして、光がどこまでそれに耐えれるか。少し穏やかな人間になったとはいえ、まだ中学生の光は荒れ狂ったやんちゃ坊ですよ。こんな混乱、耐えられるかどうか・・・」

 

「確かに、そうかもね」

 

 俺が深刻そうに語るものの、あかりさんは特別心配そうな様子を見せることなく俺に答えた。なんでそんな顔が出来るというのだろうか。それが気になって、仕方がない。

 

「どうして、そんなに余裕そうな顔をしていられるんですか?」

 

「だって、遥くんがいるもの」

 

 何の悪げもない顔で、あかりさんはケロリと言い放った。困るのはもちろん、俺だ。

 

 俺がいるからどうにかなる。

 

 その言葉は、あの日以来俺が一番嫌ってきた言葉だ。俺が無力で未熟だったせいで、この惨劇を生んでいるっていうのに。

 信頼されることがだんだんと恐怖に変わっていった。かといって俺に信頼を向ける連中を嫌いになることも無く、そうして矛盾の渦が広がって、今の俺になったっていうのに。

 

 それが表情に出ていたのか、あかりさんはそれをくみ取っていた。しかし、顔色が変わることはなかった。それよりかさらに慈しむ顔で俺に語り掛けてくる。

 

「遥くんが自分を信じれないのは分かるよ。もう何年も長い事付き合ってきてるからね。・・・でもね、同じ海の人間として、光が頼りにできるのはきっと遥くんしかいないと思うの」

 

「ちさきは、どうなんですか?」

 

「あの子こそ、光より取り乱すタイプだって、遥くんが一番分かってるでしょ?」

 

 ぐうの音も出ない正論だ。

 

「それに、今の光の状態をちゃんと把握できてるのも遥くんでしょ。だから、信じれる。私の弟のこと、任せたくなっちゃう」

 

「・・・そこまで言われちゃ、燃えない方がおかしいですよね」

 

 俺は卑屈になり過ぎていた自分を恨む。

 そして心の中で呟く。今度こそうまくやって見せると。

 

 そうだ、俺ならできる。ちゃんと向き合えば、きっと心の底から言葉が出てくるはず。俺は今ここで、自信過剰な島波遥を演じよう。

 

「光のことなら、俺がなんとかしますよ。鷲大師にいる時間もまだまだありますし、その間にはきっと」

 

「うん、頼むよ」

 

「任せておいてください」

 

 俺は少し大きな声で答える。

 さて、これからやる行動は一つ。

 

 

 

 

 帰ってきた暴れ馬を、探しに行くとしますかね。

 




『今日の座談会コーナー』

前回の59話と内容は一緒なのですが、結構展開を変えているように思いますね。前作遥と
今作遥が結構人物像的に違うので、当然と言えば当然ですが。
特に、結構弱みを見せるようにしてるんですよね、今作の遥は。高校二年生の陰キャの理想キャラを描いたあの頃よりは、少しは人間に近づいているのかもしれません。
ただまあ、ブランクがいかんせん長すぎですが。

---

といったところで今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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