凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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作者の多忙×怠慢のせいで更新遅れ気味・・・。

本編どうぞ。


第七十二話 酔い、覚めて

~遥side~

 

 漁協に連れていかれた光の足取りをたどるのは正直骨が折れる行為だった。

 そのまま走って後を追ったところでトラックと人の足じゃ差がある。何より義足に負担をかけるような行為は出来ないだろう。

 結果、今から漁協へ向かったところで俺が着くころには光は別の場所に移動しているだろう。

 

 ・・・さて、どうしたものかなぁ・・・。

 

 そうは言うものの、特別何かできるわけでもなく、俺はのんびり街中を散歩していた。それでばったり会えばラッキー程度に。

 が、そんな虫のいい話があるわけでもなく、二時間ほど過ぎる。

 あちらこちらで目撃証言はあるのだが、いずれも少し前の連続で足取りを追える気がしない。

 

 いったん諦めて家へ帰る。それから再出発してまた一時間。俺はようやく光を見つけた。

 

「あれは・・・確か紡のとこの・・・」

 

 その上にいるのが光と紡だという事を理解するのに時間はかからなかった。

 それからしばらく、声が聞こえてくる。最初は穏やかな、だんだんと怒気の籠った声が穏やかに揺れる波を伝って俺の耳に伝わってくる。

 

 怒っているのは、光だ。

 

 しかし、俺はもう光を止める役にはなれない。同じ境遇に生きた人間じゃないからだ。

 本当の意味で、あいつらと違うようになってしまった。願ってもなかったようなことが叶って、俺と光の間にはきっと見えない壁がそびえたってしまっている。

 

 しばらくして、光は逃げ出すように舟から海へと飛び降りた。

 そして俺の近くで陸に上って、遠くへ駆けていく。

 

 その背中を見送る・・・、なんてことは、できない。

 

 どれだけ離れてしまっても、俺は光の味方でありたい。だから、無理やりにでも離さないといけない。そんな気がした。

 だから俺はギシリと軋む足を放っておいて、光の方へと駆けていった。

 その距離が近づいた時、俺は光に声を掛ける。

 

「光!!」

 

 その声が届いてか、光は立ち止まり振り返る。その瞳には涙がにじんでいる。

 

「なんだよ、お前まで・・・」

 

「俺まで、何だよ」

 

「いや、なんでもねえ」

 

「・・・な、話でもしないか」

 

 俺は光の隣に並び、近くの堤防に腰かけた。

 光は不服そうに呟く。

 

「・・・なんだよ、話って」

 

「お前、いろいろ言われたんだろ。五年ぶりだな、だとか、久しぶり、だとか。変わってねえな、とか」

 

「・・・それがなんだよ」

 

「お前にとっては、お舟引きから1日しか経ってないのに、な」

 

「・・・! お前、知って・・・」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 光たちは冬眠することは知っていることこそ知ってるものの、感覚としてはただ眠っているだけだったのだろう。それが予想できない俺ではなかった。

 ただ寝て起きただけなのに五年ぶりだなんて言われたら・・・。辛くない方がおかしいだろう。

 

 光は握りこぶしを震えさせる。そこに怒りを滲ませて・・・。

 

「俺に取っちゃ、お舟引きは昨日の事なんだよ・・・。なのに、どいつもこいつも久しぶりとか変わらないななんて言いやがって・・・! 何一つ変わることないだろ・・・!」

 

「・・・そうだよな」

 

 俺も少し言いかけようとしていたと思うと、ゾッとして仕方がない。結果論だが、光を傷つけることにならなくてよかったと思う。

 そして、光が心にダメージを追っている理由は多分これだけじゃない。

 

 まなかを守れなかったことだ。

 

 それで後悔の念がないはずがない。

 

「変わるとか、変わらなねえとか・・・分かんねえんだよ。一体、俺はどうすりゃいいんだよ・・・! なあ!」

 

「俺に聞かれてもな・・・」

 

 困ったときに頼れる島波遥はもういない。最も、五年のロスを感じてない光にそれは分からないけど。

 変わるとか変わらないとか・・・そんなの、誰も分かるはずはない。

 だから、俺は光に質問をかけてみることにした。

 

「だったら、聞いてみるけどお前から見た俺って変わってるのか?」

 

「なんだよ藪から棒に・・・」

 

「答えてくれよ」

 

 挑発とか誘導のつもりだったが、いつの間にか俺自身熱くなってしまっていた。あれから一日しか経ってない人間から見て、五年たった俺は変わってるのだろうか。それによって何がどうこうあるわけではないけど、単純に俺は知りたかった。

 

 光は少し悩んだ風に眉を顰めて、途切れ途切れで答える。

 

「・・・どうって、分かんねえよ。背丈や足も変わってるけど・・・。なんだよ、よくわかんねえよ」

 

「だったら、案外そんなもんなのかもな。変わるとか変わらないとか。・・・気にしないでいいんじゃないか?」

 

「・・・すまん、やっぱりまだ難しいわ。しばらく一人にしてくれねえか?」

 

「分かった」

 

 これ以上光に尋問のような質問をするのは野暮なものだ。俺から言えることはもう何もない。

 光は一人小さな足取りで俺の下を離れていく。今度こそ俺はその背中を見送った。

 

 そして一人になって、俺は自分のことを考えた。

 光の目からは、よくわからないと言われた。あいつにも言った通り、結局はそんなものなのだろう。

 だから俺は・・・このままでいいのかもしれない。

 

 あとは、あいつ自身が上手く割り切るしかないけど・・・。

 

 

 その時、五時のチャイムが鳴り、お舟引きの歌が響き渡る。

 曰く、海で眠っている奴が迷わないようにって話だけど・・・俺自身、この曲はあまり好きではない。

 いい思い出がないからな、お舟引きについては・・・。

 

 そう簡単に割り切れるものではないのだ。苦い思い出は。

 

 それから数分ほどたった頃だろうか。

 感傷に浸っていたモードも終わり、帰ろうと俺が腰を上げると遠くから光が走ってきた。その顔はさっきとまるで違い、勇気と希望に満ち溢れている。これまで何度も見てきた、俺の知る光だ。

 その後ろから追いかけるようにちさきもやってくる。何か話したのか、それでどうやら吹っ切れたらしい。俺はやれやれと首を横に振る。

 

 

 それから一言、俺の目の前にやってきて、光はいたずらっぽく笑って答えた。

 

「お前、何も変わってないや!!!」

 




『今日の座談会コーナー』

毎度思うのですが本編後半のオマージュってIFだと相当難しいんですよね。とくに人間関係の辺りが変わってくるので。
まあ、これから一応オリジナル展開が結構入って、結局は本編と少々ずれたところでの展開になりますが。
しかしまあ、二次創作も怠けているとダメですね、。まじで腕がなまります。

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と言ったところで今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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