凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
~美海side~
【さかのぼること数日前】
巴日が見れる、とのことで、今日は教室がずっと浮き立ったままでいる。確かに、見たくないわけじゃないし少し楽しみではあるけど、こうしたノリには正直ついていけない。そもそもこのクラス自体に愛着があるわけでもないし。
しかし、集団に逆らうような馬鹿はしない。あくまで空気に生きて、どうにかやり過ごす。
そうしていると、時間はいつの間にか巴日間近まで来ていた。
輪を作って男子連中と一部の女子が群れている。私はそこから少し離れたところでぼんやりと海を見ていた。
そんな時、誰かがトントンと肩を叩いた。この雰囲気は顔を見なくても分かる。さゆだ。
「ね、美海、美海」
「何?」
さゆは私の耳元に口を近づけて囁いた。
「峰岸のやつ、今日美海に告白するつもりだよ」
「・・・そう」
そんなことを言われたところで特別感情があるわけでもなかった。話したことも無い相手から告白されたところで何も思わないのは明白な感情だ。
「ほんとさ! 男達って馬鹿だよね!! こんなイベントで盛り上がっちゃって舞い上がっちゃって、浮かれて告白だなんてさ! ロマン? はぁ? 馬鹿じゃないの?」
さゆは声高らかに男子を貶める。けど、言葉にいくらか棘があろうと言ってることが間違っているようには思えなかった。それは私がさゆの価値観を理解したからか、それとも私も本心で同じようなことを思っているからか知らないけど。
場面なんて飾りなんだ。結局分かり合うことが出来るのは心からだから。
私は思い出したついでにさゆに語り掛ける。
「ところでさゆはさ、告白なんてされたらどうするの?」
「私? ・・・私は女一人で生きてくって決めてるからそういうのいらないし、想像したこともないな。誰よりも上手に生きて、誰よりも稼いで、強くなって、そして・・・男なんていなくても生きていられるって証明してやるの!」
さっきよりも語気を強めて、さゆは自分の願いを叫ぶ。
けど、違う。どこかその言葉の中には寂しさのようなものを感じた。それは、さゆにも気になっていた人がいたことを知っていたから。
要さん。あの事件を機に海で眠りについてしまった、汐鹿生の住人。そして、この浜中で中学二年生だった人。もうすっかり同じ年だ。
あの人のこと、気になってたんじゃないの? 私は問いかける。
「・・・要さんのことは、いいの?」
「嫌いになったわけじゃないよ。・・・けどあいつは、いつ帰ってくるかなんて分からないし、絶対好きな人いるじゃん。・・・諦めるの、しょうがないじゃん」
さゆは元気をなくしそっぽを向き、口先を尖らせてそう答えた。自分の心に素直になれないのが目に見えて分かる。
さゆはどこか悔しかったのか、私に似たような質問を返してくる。
「逆にさ、美海はなんで告白しないの? あの人、ずっと傍にいたじゃん。今だって、陸に・・・」
遥の事だ。どうして、私が告白しないのかと。
もちろん、できればそうしたい。私だって、ずっと傍で遥の事見てきた。年齢的には年下の女の子としか見られてないかもしれないけど、私は一人の異性として遥を好きでいる。
でも、フェアに戦うと私は千夏ちゃんと約束した。一人の友達として、それは絶対に破りたくないから。
「約束したんだよ。フェアに戦うって。今私だけいるのにさ、告白だなんてそんなこと・・・できないよ」
「ふーん? ま、そこは美海の自由だけどさ、もったいないと思うなぁ・・・。そうやってもし負けたら、美海は満足なんだ?」
さゆは些細な抵抗をするように私にそう語り掛けてくる。少々棘のある言葉に神経が反応したけど、さゆの言ってることは何一つ間違いじゃない。千夏ちゃんが帰ってきたら、私に巡ってくるチャンスが減るという事。
それでも、卑怯な人間になってまで遥の隣にありつこうとするよりはきっと全然マシだから。
「その時は、その時だよ」
私は短く、そう答えた。
そう、千夏ちゃんが帰ってこない限り、私の中の時間はずっと・・・。
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それから数十分後、峰岸が私のもとにやってきた。
軽くあしらった。好きな人がいるのと聞かれた。答える理由もなく、私はそこから立ち去る。
そして、巴日と一緒に別の、謎の光が現れた。そこには光がいた。冬眠から目覚めて、あの日々と同じ姿のままで。
それが、この長く止まった時間の終焉を伝えているように思えた。
けど、止まっていた時間は結局ほんの一部でしかなくて、今までと同じように、なんてことは出来なかった。
~現在~
それから数日経った。光が帰ってきたとはいえ、それ以外に特別進展はない日々。何も変わることが無ければ、何もやることがない。
私はぶらぶらと街を歩く。特に当てもない。心の向くままに足を進めるだけの散歩。
確か金曜日、不審者の情報を先生が伝えていたはずだけど、まさかこんな場所に出るはずなんてないだろう。
そんなことを、私は思ってしまっていた。だから・・・。
「そこの嬢ちゃん、ちょいストップ」
「え・・・?」
私の目の前には三人ほどの男が立っていた。下卑た目をして私を見つめている。声を掛けられ、堪えてしまったが最後、無視して逃げることなんてできない。
もっとも、逃げることしか選択肢として許されてなかったけど。
「常さん、なかなかいい子じゃないすかコイツ。ガキの話に耳を貸した意味ありましたね」
「あぁ、あんななよなよとした中坊が俺たちに声を掛けてきたときはなんだこいつと思ったがよ。悪くねえじゃねえか」
「と、いうわけだ。嬢ちゃん、俺たちと遊ばねえか? なあに、すぐ終わるさ」
目の前の男連中に耳を貸す余裕などなかった。ニヤニヤと、どす黒い感情を秘めた笑みだけが目の前に映っている。私はそれを後目に、じりじりと後ろに下がっていく。そして、目線をきって、素早く駆ける・・・!
しかし、体力や運動神経の差は歴然としたものだった。この距離で逃げ切れるはずもなく、私は連中の一人に袖を掴まれる。
「嫌ッ! 離して!!」
じたばたとする私を抑えるべく、私のパーカーの袖を掴んでいる男はもう片方の腕を私の首に回してきた。これが完全に締まれば、もう逃げ切ることは出来ない。
けど、何も思い浮かばない。脳内が真っ白になったと同時に私の体は脱力した。
向こうもそれを諦めと取ったのか、ゆっくりと私の羽織っているパーカーを剥ごうとする。
それが、最後のチャンスだった。
幸いにも、私はパーカーしか掴まれていなかった。そして前のチャックは開いている。
パーカーに手をかけられた瞬間、私はそれを上手に脱ぎ去った。そのまま全力で首に回されている腕に噛みつく。
「っ! いってぇ!」
腕を噛まれた男は痛みと動揺のあまり私の首から腕を離す。そうして拘束がほどけた瞬間、私はさっきよりも全力で前だけ向いて走った。追いつかれそう、だとか、どれくらい距離が離れているか、だとか気にする余裕もなく、ただ前だけを向いて走り続ける。
「誰か・・・」
目尻に涙を溜めて、駆ける。
「誰か助けて・・・!」
そして、私の目の前に映った世界は・・・。
「え・・・?」
見慣れた青い海だった。
『今日の座談会コーナー』
前回ここ近辺の内容を書いた時にとても文章が拙く見えちゃいましたね。これは私が成長しているのか、当時の私がただただ能力がなかっただけなのか・・・。
というより当時、私は確かスマホで書いていたんですよね。40分かけて2000文字程度。まあ、効率が悪いと言ったらありゃしません。
現在はPCをぶん回しているのでまあ昔よりは執筆スピードは上がってます。ただ外的要因として単純に忙しさが勝るので更新ペースがマチマチですが。
と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)