凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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尺管理ガバガバ過ぎて(n回目)
ただ、無編集と言うわけにもいかんばってん。


第七十六話 ”はるか”

~遥side~

 

 目が覚めた場所は病院。もう何度も見慣れた天井が俺を待っていた。そして、すぐそば誰がいるのかも分かっている。さぞご立腹なことだろう。

 

「さて、おはよう島波遥クン?」

 

「あ、おはようございます」

 

 明らかに怒気が含まれた言葉を軽口でスルーする。それくらいの器量がないと本気で殺される気がした。

 目線を動かした先の大吾先生は眉の端をひくつかせながらつづける。

 

「言い訳位は聞いてやる。・・・なんで海に入った?」

 

「知り合い・・・というか、大切な人です。その人が不審者に襲われかけて海に落っこちて、それを目撃した俺が助けようとした、という顛末です」

 

「言い訳にしちゃ壮大じゃねえか」

 

「嘘じゃないです。実際警察の方問い合わせてみれば逮捕履歴とかあると思いますよ。というか俺が目を覚ましたのもあって、後々こっちに話を聞きに来るんじゃないですかね」

 

「ったく、それが本当だとして、それはそれで面倒くさい話なこった。・・・んで、それでその人は助けれたのか?」

 

 大吾先生は不器用な人間だ。文句を言いつつも、その裏で必ず事の本質を間違わない。もう五年も見てきた人だ。それくらい分かる。

 

「それがですね・・・」

 

「あん?」

 

「えっと・・・先生を信用したうえで答えます」

 

 あまり他言しないほうがいい事であることは知っている。が、俺と大吾先生の仲だ。何より、この人が信用するに値する人間であることは知っている。

 

「その人、・・・なんて遠回しに言う必要ないっすね。美海です。美海が海に落っこちたわけなんですけど、エナを手に入れたんです」

 

「・・・そんなことって、あるのか?」

 

「分かりませんよ俺にだって。ただ結果から言えば俺が飛び込む必要なんてなかったって話です」

 

「はぁ、骨折り損のくたびれ儲けってやつだな」

 

 それを聞いて俺もハハッと笑い飛ばすが笑い事などではない。一歩間違えれば本当に死が絡んでいたかもしれないと言っても過言ではないのだから。

 大吾先生はため息を一つついて、ポッと呟いた。

 

「んで、そのエナの話はとりあえず他言しないでくれと」

 

「あ、分かりました?」

 

「何年お前の担当医をしてきたと思ってるんだ。それくらいのこととっくに理解してる」

 

 俺が大吾先生のことを理解しているように、大吾先生もまた俺のことを理解しているのだろう。全く頼もしい限りである。

 

「んじゃ、説教なんてどうでもいいから今後のことを話さねーとな」

 

「あ、はい」

 

 大吾先生は持っていた雑誌を近くの机にポトリと落として、椅子に深々と腰掛けて足を組みながら話し始める。

 

「まず、ここ三日は絶対に入院させる。絶対だ。抜け出したら今度こそ殺すぞ」

 

「どえらい脅しですね・・・。信ぴょう性も」

 

「あ?」

 

「何でもないです」

 

 途中で茶々を入れるのはやめておいた方が良さそうだ。俺は唾を飲んで次の言葉を待つ。

 

「んで、投薬も一からやり直し。これが一番面倒くさいんだよなぁ・・・。全く、厄介なことをしてくれやがって」

 

「それはまあ、すみません」

 

「理由は分かるし、仕方のないことだとも理解してるよ。だがな、流石に俺も医者だ。事情が事情だからと言って看過することは出来なんだ」

 

「分かってますよ」

 

 今回の件に関しては俺に責任があるのは事実だ。認めるほかないだろう。

 

「んじゃ、俺は帰る。また何かあったら呼べ。あと、一応この部屋他の患者も入ってるから仲良くしろよ」

 

「は、はあ・・・」

 

 大吾先生は落とした雑誌を手に持つとカツカツと音を鳴らしてその場から退出していった。本当に風のような人間だ。つかみどころもない。

 それからしばらくして代わるようにやってきたのは、事情聴取にと俺に話を伺いに来た警察の人だった。

 

 ・・・はぁ、厄介だ。

 

 

---

 

 一通りのごたごたが終わり、ようやく一息つくといったところに至るまでそれなりの時間がかかってしまった。そしてようやく、憂鬱な一週間の入院生活が始まる。

 と、その時。

 

「ねえ」

 

「っ!?」

 

 どことも知れないところから俺を呼ぶ声が飛んでくる。少し甲高い、少女の声だ。

 全く予想できていなかったその声に、すかさず俺は跳ねるように驚いてしまった。声の方面からクスクスと笑い声が聞こえたかと思うと、向かいのベッドのカーテンが開いた。

 

「ごめんごめん、カーテン開け忘れてたね」

 

 開かれたカーテンから顔を覗かせたのは俺の予想通り小さな女の子だった。見たところ、小学校低学年あたりだろうか。

 

「初めまして、おにーちゃん」

 

「え、ああ。初めまして」

 

「さっきの話、全部聞いてた。面白いんだね、おにーちゃん」

 

「言うな言うな。あれは完全に先生の暴走だから」

 

 当たり障りのないことで、うまくやり取りをする。ここまで年の離れた人間と会話することがそうそうない以上、距離の取り方が非常に難しく思える。

 というかこの病院、子供病棟とかない質なのか・・・? 

 

「そうだ、名前。私言ってなかったね。陽香、日野陽香っていうの。おにーちゃんは?」

 

「島波遥。・・・ん、日野?」

 

 どこかで聞いたことある苗字。それを追求しようと口を動かそうとするが先に少女に言葉を制されてしまった。

 

「へー、お兄ちゃんも”はるか”なんだね。きっと漢字は違うかもだけど、すごい偶然」

 

「ほんとだな」

 

「んー、じゃあどう呼ぼっか・・・。うーん、やっぱりおにーちゃんでいい?」

 

「いいよ」

 

 俺が答えると陽香は嬉しそうに笑った。けどその一方で、俺はまたいらぬ詮索をかけ始めていた。特に気になるのが、この子の育ちの良さだ。美海が同じくらいの年齢だった時、はたまた俺たちがこれくらい小さかった時、ここまで巧みに言葉や表情を操り、コミュニケーションが取れていただろうか。

 きっと、親の教育の賜物なんだろうけど・・・。

 

「おにーちゃん、難しそうな顔してるね。どしたの?」

 

「いや、何もないよ」

 

 そして、俺の表情まで簡単に読み取ってくると来た。ここでは変に理屈っぽくならないほうがいいのかもしれない。

 でも、本能で生きる毎日。それはそれで開放感のある毎日になるんじゃないだろうか。それならまあ、悪くはないかな。

 

 ・・・これからの三日も、退屈な時間ばかりではなさそうだ。

 

 




『今日の座談会コーナー』

冷静に考えて前作、ここのオリジナルパートに使った日数(作品内での)が結構長かったんですよね。一週間も入院してその上街でのあれこれですから、その間本編世界軸が動いてないわけであって・・・。光が孤独死するでこんなん。
と言うわけで今回の入院期間は三日です。まあ、検査入院と考えれば。
ここからの物語を膨らませていくことが私の使命にて候・・・。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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