凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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はい、筆者の多忙&浮気のせいで二か月間更新がございませんでした。失踪はしていません。
というところで、どうぞ。


第七十七話 そうして大人になっていく

~遥side~

 

 そこからの毎日は思ったよりも退屈しない日々だった。というより、病院にいるためこれまでよりもさらに規則正しい生活。それはまあ、流石に退屈。

 けど、向かいのベッドにいる少女。日野陽香。彼女がいるおかげで思ったよりも退屈していないのが現状だった。

 

 そして、気が付けば明日に退院を迎えていた。

 夕日の差し込む病室で俺は黄昏るようにして外を眺める。そこに陽香が声を掛けてきた。

 

「おにーちゃんは、明日で退院、だったよね?」

 

「んー? まあ、一応な。今日の健康診断でもそんな悪い数値とか異常とかは見られなかったから、そうなるかな」

 

「そっか。寂しくなるね」

 

「そう言えば、陽香のこと、まだ全然聞けてなかったな。陽香は、何があって入院してるんだっけ」

 

 俺が問いかけると、陽香は目線を少し下に落として物悲し気に言葉にした。

 

「心臓の病気だって、言われてる。どれくらい治るのに時間がかかるのか、どうやったら治るのか、まだ分かってない。・・・もとから、体は強くないって言われてたんだけどね」

 

「それは、手術とか必要なのか?」

 

 俺の問いかけに対して、陽香は首を横にフルフルと振って分からないとだけ答えた。

 なかなかに残酷な話だと、そう思った。なんせ目の前にいる陽香はまだ小学生低学年だ。それでいてこんな毎日、辛くないはずなどないだろう。

 

 ・・・きっと水瀬も、こんな感情を抱いていたんだろうか。

 

「ただね」

 

 ふとした瞬間、陽香は顔を上げて、先ほどまでの鬱屈とした表情とは一転した、太陽のような笑顔を俺に向ける。

 

「ここ最近の毎日は、ずっと楽しかったよ。おにーちゃんがいてくれたから」

 

「・・・そっか」

 

 恋愛とは違うものの、真っすぐで純粋な愛の感情。俺は真正面から受けとめることが出来ているだろうか。自信はない。

 でも、そう言ってもらえることが嬉しいという答えだけは確かだった。

 

「別れるの、寂しいか?」

 

「・・・うん」

 

 小さく、小さく、陽香は呟く。年齢相応の対応を見せられて困るのは俺だった。それだったら、なんでこんなことを聞いたのだろうと俺は小さく悔いる。

 でも、いつかこの関係も終わらなければならない。陽香もきっと、そうやって大きくなるはずだから。

 

 俺はベッドから立ち上がると、陽香が横たわってるベッドの横の椅子へと腰かけた。最後になるなら、ちゃんと顔を見て、近くで話した方がいい。どうせ訪れる別れが辛くならないはずなんてないから、せめて向き合うことからは逃げたくない。

 

 小さく頭を撫でる。少し頭を下げて、陽香は続けて言った。

 

「でも、きっとこれで終わりじゃないよ。・・・絶対に、またどこかで会えると思う」

 

「ああ、そうだな」

 

「その時がいつになるか、私がどんな状況かは知らないけど、その時まで私のこと、ちゃんと覚えててくれる?」

 

「もちろん」

 

「それなら・・・少しは寂しくない、かな」

 

 いつもの元気な様子とは違うけれども、確かに優しそうな瞳で、陽香は呟いた。それを見て、確信する。この子はきっと、素直でいい子になれると。

 俺はそれから次の言葉を待った。が、数分待っても声が聞こえることはない。意識していなかったが、陽香はいつの間にか眠ってしまったようだった。

 

「そりゃ、体調悪くて入院してるのにこんな時間まで話してたら疲れるよな」

 

 俺は一人で納得して、少しはみ出している陽香の足の部分に布団をかけなおして、自分に与えられたベッドに寝ころんだ。

 それから真っ白な天井を見上げて、さっきの陽香の言葉を自分の中で反芻した。

 思い返してみるほどに、「寂しい」という言葉が強く出てくる。強がりを演出しても、なんせこの歳だ。自分の偽りない心に逆らえるはずなんてない。俺だって、ずっとそうだったんだから。

 

「・・・でも、入院中一回も陽香の両親に会ってないんだよな・・・。そんなに会えないものなのか?」

 

 ふと、思ったことを呟く。言葉にしてみると、そのおかしさに俺はどんどん飲み込まれていく。

 一人で何かできる歳じゃない。一人で強くなれる歳じゃない。その傍に「親」が欲しい年齢だ。なのに、この場所に、この子の近くに・・・いない?

 それが薄情によるものなら・・・俺はちょっと、許せないかもしれない。

 

 ふと思い立った俺は病室を抜け出し、この病院で最も親しんだであろう場所へと向かう。人気のなさそうなそのドアをノックして、中の様子を伺う・・・

 

「何してるんだ?」

 

「あ」

 

 中の様子を確認するまでもなく、目的の人物は現れた。大吾先生だ。わぁ、そんなこめかみをひくつかせちゃって・・・。

 なんてのはどうでもいい。ちゃんと目的があってきているのだから堂々としよう。

 

「病室抜け出してまで、俺に用か?」

 

「はい、まあ、一応・・・」

 

「・・・診察内から、中入れ。まあ話位は聞いてやるよ。息の根を止める前にな」

 

「いや怖いっす」

 

 多少ふざけた会話をお互いにしながら、その診察室の中に入っていく。・・・え、本気じゃないよね?

 

---

 

 回転する椅子でくるくるしながら、大吾先生の用意が整うのを待つ。一分もしないうちに大吾先生は自分のデスクに着いた。

 

「で、何の話だ? お前の経過は良好だから、明日には退院になるはずだが」

 

「俺の事じゃないんですけど・・・。えっと、なんて言えばいいんだろ」

 

 陽香のことを堂々と聞いていいものかどうか悩んだ末に、俺はとても遠回しな答えを口にすることになる。

 

「鈴夏さんに、娘さんっているんですか?」

 

「・・・はぁ?」

 

 心のそこから不思議そうな表情を浮かべたかと思うと、大吾先生は大爆笑を始めた。部屋が壊れん位の大爆笑だ。

 

「あっはっは! 馬鹿かお前! あいつにいるわけないだろ! というか出来るかどうかだって・・・はぁ、おもしれー」

 

「いや、これでも真面目なこと聞いたつもりなんですけど」

 

「分かってる分かってる・・・。はぁ、笑った笑った」

 

 ツボに入っていたのがようやく冷めたのか、大吾先生はまだ口の端をひくつかせながら、声音を落として俺の質問に正面から答える。

 

「お前の考えてることは分かる。お前の同室の子だろ? あの・・・日野陽香ちゃんだっけか」

 

「まあ、そうです」

 

「いくら同姓って言ったって、流石にあれとは性格が似ても似つかないだろ」

 

「それはそうですね」

 

 というか、半年前にあの人を俺は見ているんだから、こんなこと聞かなくてもあの人の娘じゃないなんてことはすぐに分かる話だ。

 

「まあ、せっかく来てもらったところで悪いが、俺たちにはそういった個人情報に関しての守秘義務がある。本人にでも聞けばいいだろって話だ」

 

「寝ちゃったんですよね」

 

「じゃあ諦めろ」

 

「ですよね・・・」

 

 まあ、知ったところで何かあるわけじゃない。完全な自己満足のために危険を冒す意味もない。この話はここで終わり、多少引っかかる部分もあるがそれで納得しよう。

 

「ただ・・・」

 

「?」

 

「あいつ、確か妹がいる、くらいは言ってたような気がするけどな。そいつの娘かどうかは知らねえ」

 

「へー、あの人に妹が。先生は会ったことあるんですか?」

 

「んにゃ、ない。そもそもあいつが鷲大師の祖父母ん家いただけだからな。実家はもっと別のところらしい」

 

 懐かしむように、大吾先生は窓から遠くを見つめる。その感覚はきっとまだ、俺には分からないだろう。

 

「若いっていいですね」

 

「まだお前はそれを言う年齢じゃねーよ。もっと人生楽しめ」

 

「楽しめ、ですか・・・」

 

 それなりの楽しみ位はあるだろう。今はそう思うことは出来るけれども。

 でも、そこにみんながいなければ、きっとその楽しさも偽りになる気がする。誰かを待ち続ける今の俺には、きっと幸せになることなんてできない。

 だから・・・早く目覚めてほしい。

 

 俺も先生と同じように窓から遠くを見渡した。

 夕日が差し込む、凪いだままの海を。

 

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

前作、楽しかった、だとか、ダイジェストで書いていましたが、やっぱりちゃんとコミュニケーションを取っていたという場面を書かねばならないというところでオリジナルパートを入れました。
前回の適当さを今回でできるだけカバーしたいですね。

といったところで座談会コーナー短いですが今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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