凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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自分の中で熱が来ている今こそ書くタイミングに他ならないですね。
オリジナル展開が続く中ですが、できるとこまで頑張ってみます。
といったところで、本編どうぞ。


第七十九話 夕日、爆ぜゆく前に

~遥side~

 

 信じる、と腹をくくり、俺は病院から、先生からかかってくる電話を一人そわそわと待ち続けた。

 しかし、一日、二日経ってもなんの連絡も入ってこない。手術の交渉がそんなに難航しているのだろうか。だとしたら、いくらなんでも親が渋りすぎだ。

 それでも、俺は先生を信じようとした。

 

 しかし三日経っても連絡はない。日が頭上を越え、西にだいぶ進んだ時、俺はとうとう動くことを決意した。

 信じるとは言ったけれども、これはきっと何かがおかしい。

 大吾先生は、確かに俺に連絡をよこすと言った。それはきっと、どんな形になってもやるだろうと俺は信じていた。あの人は、多分、嘘を吐くことが下手で、きっと嫌いだろうからと、そう決めつけて。

 

 そう信じていたからこちらから電話をかけることをしなかった。けれど今は・・・もう、限界だ。

 それに、大吾先生が嘘をつかない人間であるのならば、電話できない何らかの理由がそこにあるはずだ。

 

 俺は水瀬家の電話から、渡されたメモに書いてある番号を入力する。

 一回。二回。それから何回もコールが耳元で響く。

 

 しかし一向に電話を取る気配がなかった。そこで、何かあるのではないかという疑念はようやく革新に変わる。

 俺は上着一枚羽織って、玄関に向かった。その音に気づいてか、仕事が休みで家でのんびりしている夏帆さんが声を掛ける。

 

「おでかけ?」

 

「ええ、ちょっと」

 

「どこに行くか当ててあげようかしら」

 

「すいません、あまり時間がないので・・・」

 

「ごめんごめん。病院でしょ? 行ってらっしゃい」

 

 俺の様子で簡単に察することが出来たのだろう。夏帆さんはちゃんと俺のやりたいことを当て、そしていつものように送り出してくれた。

 それに内心感謝しながら、俺は駆けるように家を飛び出た。

 

---

 

 焦る気持ちと一緒に、俺は病院へと駆けていく。鼻当ての近くで少し揺れる眼鏡も、ギシリと音を立てる義足も、上がる息も気にもせず俺は走る。

 そしてまだ太陽が沈まない頃、俺は病院に着いた。玄関をくぐると、いつになく冷たい風が廊下を吹き抜けていった。その肌寒さに、どこか嫌気を覚える。

 しかし、構わない。俺は大吾先生を探すべく早歩きで院内を回った。

 

 そしてその途中、先生とは違う、見慣れた姿を見かけた。ちさきだ。

 そしてちさきもまた俺に気づき、近寄り話しかけてくる。流石に目と目が合っている以上、無視なんてことは出来ない。

 

「あれ、遥」

 

「・・・よっ」

 

 平静を、とにかく平静を装い、俺はちさきに接する。きっと平静を装えてないことなどとうにバレているだろうけれどこの際気にすることではない。

 ちさきから何か言われないように、俺はちさきに他愛のない話を吹っ掛ける。

 

「ちさきは、今日も紡のじいちゃんのところか?」

 

「うん。最近、ちょっと調子よくないみたいで」

 

「そうか・・・」

 

「遥は?」

 

「・・・うーんと、あれだ。担当医に用事があるんだよ。ほら、色々と」

 

「そっか。足とかのこと、あるもんね」

 

 ちさきは少し複雑そうな表情を浮かべて、俺の話を上手に受け流した。きっと俺の焦りは見えていたのだろう。それでもそうしてくれるのが、ちさきの優しさだ。

 

「それじゃ、私、面会時間そろそろだから帰るね」

 

「ああ。気をつけてな」

 

 それ以上むやみに言葉を交わすわけでもなく、ちさきはさっさと帰っていった。それに一息ついて、俺はさらに足を進める。

 

 そうしてまた俺の知る人に出会う。いつしか俺を街まで車で連れて行ってくれた・・・確か、西野先生だ。

 

「あれ、君は」

 

「西野先生。ちょうどよかった」

 

「?」

 

「大吾先生、どこですか?」

 

 突拍子もなく、俺は先生の所在を問った。本当なら理解するのに時間がかかって当然の場面、それでも西野先生は俺の質問に真正面から答えてくれた。

 

「あいつなら、多分今頃・・・屋上じゃないかな。・・・というより、君はあいつに会って何をするんだい?」

 

「と、いうと・・・」

 

「知らないんだな。なるほど」

 

 西野先生は俺の反応に一度頷いて、俺が続きをねだるより早く答えてくれた。

 

「そうしたものも含めてあいつと話すといい。・・・あいつが君に教えるかどうかは分からないが、今、ちょっと問題を抱えてるんだ。少なくとも、俺は君にそれを教えることは出来ない」

 

「分かりました。屋上ですね、ありがとうございます」

 

 今は必要最低限の言葉だけでよかった。それを受け取って、俺は足早に屋上へ向かう。そこにきっと大吾先生がいると信じて。

 エレベーターに揺られ、屋上へ向かう。夕日が今にも消えそうなオレンジの空の下に、大吾先生はいた。

 大吾先生は俺が来るのをまるで待っていたかのように堂々としており、驚きの声も上げなかった。しかし、その表情だけは、暗く、重たい。

 

 俺は大吾先生のもとに詰め寄り、事の顛末を聞く。

 

「大吾先生、どうして電話よこしてくれなかったんですか? まさか、手術・・・」

 

「少しはものを考えて言え。・・・殺すぞ」

 

 今までのどの瞬間よりもきつく、大吾先生に睨まれる。そのリアクションをよそくしていなかったのもあり、俺は瞬く間に萎縮する。

 

「・・・先に言う。電話は『出来なかった』んだ。そんな余裕がなかったってことだけ先に伝えておく」

 

「そうですか・・・」

 

 とても嘘をついているようには見えなかった。俺はとりあえずその言葉を信じることにする。

 

「でも、この答えだけじゃお前は満足しないんだろ? ・・・ほら、これを聞け」

 

 そう言うなり先生は俺になにやら端末を手渡してきた。俺はその再生ボタンを押して中身を確認する。

 

 そこには一言、そしてとても受け入れがたい言葉が録音されていた。

 

『日野陽香の手術を失敗させろ』

 

 そして、そうしなければこの病院を爆破する、とのことだった。

 

 言葉を失う俺に、先生は苦虫を嚙み潰したような顔で続ける。

 

「これが届いたのがお前が帰ってすぐだったんだよ。でもこんなことをすぐに何の関係があるわけでもないお前に伝えるわけにはいかない。電話なんてできるわけないだろ」

 

「この情報・・・病院にはどれくらい知れ渡っているんですか?」

 

「院の関係者の中でも一部だけだな。上役、それと担当医あたりか。あの子の担当も一応俺ってことになっているからな」

 

「それにしても・・・なんで、こんなこと」

 

 理解しがたい現状のために言葉を失っている俺に、大吾先生は淡々と伝える。

 

「まあ、十中八九私怨だろうな。日野陽香の両親に対する、な」

 

「その・・・やっぱり先生は、陽香の両親について何か知ってるんですか?」

 

「知らないわけないだろ。流石に一度は顔も合わせているし、話もしている。もっとも、会ったこと自体は指折り数える位しかないけどな」

 

 ということは、俺は嘘を吐かれていたことになるということだろうか。

 ・・・そうは言っても、向こうにも守秘義務がある。それでも聞かせろと言うのは常識知らずの俺のわがままという事になる。うだうだは言っていられない。

 それに、過ぎたことを責めるのは、あまりにも不毛な時間だ。

 

 一旦そのことを忘れて、俺は本題に戻る。

 

「先生は、・・・病院はこれからどうするんですか?」

 

「・・・」

 

 問いかけた俺の質問に大吾先生は答えない。その表情の険しさを見るに、堪えないのではなく答えることが出来ないという事に俺は気が付いた。

 確かに、この状況でうかつには動けないだろう。かといって、医者として人を助けないというわけにもいかない。その二つの天秤にかけられて、今とどまってしまっているという訳だ。

 

 しばらくの沈黙を経て、ようやく大吾先生は答える。

 

「俺個人としては、何があってもやるつもりだ。自分の担当の範囲で人が苦しむのを見逃す医者がどこにいるんだよ」

 

「・・・その言葉を聞けて安心しました」

 

 俺の知る医者としての像が、この人で良かったと心から思う。それと同時に、俺は心の底から安心できた。

 置かれている現状は最悪だ。無数にばら撒かれた導火線、その一つにでも着火すれば間違いなく最悪の結末を迎えるだろう。

 けれど、俺自身やることが見えた上に、何よりようやく陽香の力になれると思えた。

 

 不安はあるけれど、これから選ぶ道に後悔はしない。

 一つ息を整えて、俺は透き通る瞳で大吾先生を見据え、真っすぐに思いをぶつけた。

 

「とにかく先生は来たる手術を成功させることに集中してください。・・・その他のことは、俺がやります」

 

「その他の事ってお前・・・何をどうやるんだよ」

 

「そりゃもちろん、爆破を止める方向ですよ。・・・病院と言う神聖な場所にいる医者と言う穢れない存在に、汚れ仕事をさせるわけいかないじゃないですか」

 

「そんなの警察呼べば・・・って言いたいけど、そうだな。警察なんて呼べたもんじゃないよな。きっと向こうはもっと複雑に予防線を張っているだろうからな」

 

 その通り、なのである。

 うかつに動くことは出来ない。ましてや警察などという公の存在ならなおのこと。

 だから、この仕事はきっと俺にしか出来ない。

 

「街で、犯人を捜します。こんな端くれの田舎の小さな病院に脅迫なんて、せいぜい鷲大師か街かくらいしかないでしょう」

 

「そこはどうとは言えないが・・・。そうだな。すまん、任せていいか?」

 

 言って、大吾先生は小さく頭を下げた。俺に頭を下げるなんて、普段のこの人ならプライドが許さないはずだ。それでもやるという事は、そんなプライドすらも跳ね返す状況なのだろう。

 

 その行動を踏みにじらないように胸に決意を秘めて、俺は告げる。

 

「それじゃあ、明日にでも俺は街へ戻ります。・・・しばらくここを開けますが、陽香のこと、よろしくお願いします」

 

「ああ。任せとけ」

 

 先生もどこか心に余裕が出来たのか、少しほぐれた表情を浮かべた。先生を信じて、俺は背を向け、その場を後にする。

 

 信じることもまた覚悟。そう思えるようになったのは、この人がきっといたからなんだ。

 

 

 

 




『今日の雑談コーナー』

前作のここら辺は、本当に展開がぶっ飛んでいたように思えるので辻褄が合うように書こうと頑張るのが今回の執筆の理由の一つとなります。
オリジナル展開を書きたいと思いながら、結局のところ途中から投げやりでしたからね・・・。
出したモブキャラ、特に今回は西野先生なんて新しいキャラも出しているので頑張りたいところですね。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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