凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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意外と本編大幅改修するかもしれません。
ご了承ください


第八話 まだ、つなげない

~遥side~

 

 え?

 目を疑ったが間違いない。俺の目の前には確かに少女がいる。

 これから向かう浜中の制服を着た、波中の生徒ではない少女が。

 

「あっ、ご、ごめんなさい!」

 

 少女はこっちに気づくなり、急いで方向転換して陸を目指していった。

 しかし、そっちは別方向である。

 

「あ、おい待て! 浜中ならあっちからが早いぞ!」

 

 俺の指摘をもとに、少女は礼もなく一目散に俺の指さした方向へ進んでいく。瞬く間にその姿は見えなくなり、俺一人海に残された。

 

 

「さて・・・どういうことなんだ?」

 

 そのまま陸に上がった俺は、足を進ませつつもさっきのことについて考えていた。

 

 

 海で泳ぐにはエナがいる。

 いや、泳げないことはないのだが、あそこまですいすい泳ごうものなら、通常の人間ならそれなりの道具は必要だ。

 

 けど、少女は海でしっかりと呼吸をしていた。

 それはつまり、エナがあるという事。

 

 しかし、エナは純粋な海の人間しか持ち合わせていない。そう教えられていた。

 

 さっきの少女はどうだろうか。

 少なくとも、俺が生まれたときには海にはいなかった。

 ということは、陸で生まれ、育っているのは間違いない。では、なぜ泳げたのだろうか。

 

 導き出した答えは二つ。

 ひとつは、両親とも海の人間だったが陸で結婚し、陸で子供を産んだ。

 これなら納得がいく。言えば、俺を生む前から陸へ越した両親のような状態だ。

 

 そして、納得できないもう一つの答え、それは陸と海のハーフであるということだった。

 

 

---

 

 

 

 それから学校につき、今は教室で、教卓の前に立たされている。あれからというもの、少しゴタゴタしたが、遅刻することもなく無事についた。教室には何人か見慣れた顔ぶれがいたが、今は特別声を掛ける必要もないだろう。

 ちなみに、空席が一つ。一人休みのようだった。

 

 そして、明らかに優しい雰囲気の先生が説明を始める。

 

「はーい静かに・・・って静かだね。珍しい。まあ、今日から、汐鹿生の波中が廃校になったため、浜中と合同することになりました。じゃあ、自己紹介してくれるかな?」

 

 先生に促されて、一番端のちさきから自己紹介を始める。

 

「えっと、私は比良平ちさきです。その・・・よろしくお願いします」

 

 ついで要。

 

「僕は伊佐木 要です。趣味はまあ、特にないです」

 

 無難そうなことを口にする要と対照的に、一部女子から黄色い声が上がってくる。こいつ・・・。

 

 そして、自己紹介が光に回ってきたとき、周りの、特に男子が一斉に挑発を始めた。

 

「ああ、くせぇくせぇ。すげえ塩くせぇなー。もしかして、魚の糞とか被ってんじゃねえのか?」

 

 嘲笑。あるいは沈黙。

 まさに最悪の雰囲気とも言える。

 

 ったく、なんで光のタイミングで・・・。暴れないでくれよ・・・頼むから・・・。

 

 考えられる限り最悪のケースが生まれるかもしれない。

 俺は恐る恐る光の方を向いた。

 

 が、特別暴れだすような様子はなかった。・・・口先以外は。

 

 

「ああ、本当にくせえな! まるで、くそだらけの豚小屋に入れられたみたいだぜ! おい、お前らもなんか言えよ! こんな奴らに!」

 

 ・・・これはこれで、考えられる限り最悪のケースだった。

 だとすると、尻ぬぐいは俺の仕事。一つ咳払いをして、心を無にして言葉を放った。

 

「少し黙れ、話が進まんだろうが・・・」

 

「あっ!?」

 

「はいはい、うちの馬鹿光がすいませんね。俺は島波遥。趣味はまあ・・・勉強? なんでもいいか。料理なんてのも時々する。そっちがどうかは知らないけど、俺はこのクラスの人間、一応何人かは知ってるつもりなんで、まあ仲良くお願いします」

 

 実際、嘘はついてない。

 視界の端に狭山が映る。こいつもずいぶんと雰囲気が変わっていたが、俺と目が合うなり気まずそうにふいっと顔をそらした。

 

 言葉をまくし立てたためか、挑発の流れは息をひそめた。これで、光の次にまなかの順番が来たら・・・なんて思うとゾッとする。

 ともかく、何も起きなくてよかった。

 

 そしてまなかの自己紹介は何事もなく終わり、授業に入っていった。

 

 

 

---

 

 

 それから流れるように時間が過ぎ、いつの間にか昼休憩になった。

 さすがに初日から陸と海の距離が近くなるはずがない。

 

 当初はそんなことを思っていたが、あの様子を見るにこれはなかなか重症だ。最悪、このまま距離のあるまま平行移動で進むだけ、まだマシとなる状況が来るのかもしれない。

 

 そんな初日だったが、俺の席のところに一人、少年がやってきた。

 

「なぁ、少し話しないか?」

 

 その少年は近くの開いている椅子に腰かけた。先ほどのように煽ってくるような雰囲気もなかったので、少々心を許して素直に話す。

 

 そういえばこいつ、さっきの挑発には加担してなかったしな。

 むしろそいつらを睨んでいたような雰囲気まである。

 

 光たちは光たちで別なところに集まっていたようなので、問題もなさそうだ。

 

「いいぞ。っと、その前に自己紹介頼めるか?」

 

「ああ。俺は木原紡。そっちは島波遥、だったか」

 

「遥でいいよ」

 

「じゃあ、遥。あと、俺も紡で大丈夫だ」

 

 俺が気さくにそう言うと、早速紡はそう呼ぶことにした。

 

「というか、なんでわざわざ海の人間に話しかけてんだ。俺は構わないけど、周りの目が白いだろ」

 

「関係ない。・・・そもそも、俺は海が好きなんだ」

 

「へぇ・・・」

 

「じいちゃんが漁師で、何度も船上から海を見てきたからな。・・・もっと海を知りたいんだよ。俺は。海は好きだし、憧れてる」

 

 冷静を装いながらも、気分が高揚しているのは目に見えた。

 

「それに、遥だけ、雰囲気が他と違ったからな。反応が子供じゃない。・・・それに、陸にも面識があるみたいだしな。俺の事は」

 

「いや、知らないな。せいぜい一部くらいしか関りがなかったし、さっきのもハッタリに近い。だからまあ、これからだな。よろしく」

 

 相手の機嫌を損ねないように、うまく言葉を取り繕う。しかし、本来握手するべきはずの俺の手は伸びなかった。

 はてさて、その言葉にどれだけの感情が籠っていただろうか。それは誰にも分からない。

 

 よろしく・・・か。

 

 その言葉ひとつで友達になれるなら、この世界はどれだけ平和になるんだろうな。

 

「・・・遥?」

 

「悪い。啓蒙してた」

 

 ぼーっとしていた俺は紡の言葉で帰ってくる。

 

「まあこれからよろしく頼む。・・・また、海の話とか、聞かせてほしい」

 

「時間がある限りいくらでもしてやるよ」

 

 軽く笑って、眼を動かす。

 その時、先ほど気になった空席がなぜか気になった。

 

「なぁ」

 

「?」

 

「あそこの空席、今日休みだって言ってたけど・・・、誰の席なんだ?」

 

 ふとした質問だった。

 特別他意はなかった。

 

 

 けれど、紡が言葉にした名前は、いつか聞いたことがある名前だった。

 

 

「千夏。・・・ああ、フルネームか。あそこに席は、水瀬千夏の席だよ」

 

 

 




はてさて、オリジナルのキャラを我の強い本編に混ぜるのってなかなか難しいんですよね。
頑張ります。

また会おうね(定期)
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