凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
春休みバンザイですね。
~遥side~
それから犯人を突き止めるのに丸一日かかった。むしろ、丸一日で済んでいるのは日野家前面のバックアップがあるからであって、それはもはや奇跡に近いとも言えた。
そして分かったのはいいとして、どのようにアプローチをするかが次の問題だった。
小一時間悩む。とは言え、下手に装うことは帰って怪しまれる行為であることに変わりはなかった。
一周回って、俺は真正面からそのドアをノックした。薄気味悪い路地裏にある、小さなアパート、その一部屋。そこにいる首謀者の元へ俺は向かった。
「・・・誰だ?」
「日野陽香」
「・・・なるほど」
無駄な話をせず、まるで暗号のようにその名前を口にする。正直こんな態度は取りたくなどなかったが、守りたいものを守るためなら心を捨てることが出来た。
「一旦中へ入れ。話位は聞いてやる」
暗い部屋の中へ男が誘導する。俺はそれについて行き、中へと入った。
視界が狭い部屋で、一際光る物がある。それは病院内を映したものであろうモニターだった。
犯人は、日野家の事業にて追いやられたメカニッカー。下調べでここまでの情報を得ることは出来た。
・・・けど、まさかここまで計画が大掛かりだとは正直思っていなかった。
「で、最初の問いだ。・・・お前は誰だ? どうして俺が分かった?」
「俺は・・・まあ、そうだな。お前と同じような立場の人間だ。といっても、俺は日野家お抱えの仕事から事故で追い出された感じ、ってところだけどな」
カッコつけて振舞って、とっさに嘘を言う。信ぴょう性を高めるべく、俺はズボンを捲って左足の義足を見せる。
俺の嘘が通ったのか、男は少し目を丸くして、やがって分かったような顔をした。おそらく、同類と認めたのだろう。
しかし、質問は続く。
「どうしてここが分かった?」
「日野家に恨みを持ってる人間なら、風の噂の一つや二つで集まるだろ。・・・逆に、どれほどうわさが出回っているのか知らないのか?」
「どうなんだ?」
「今はまだそれほど、ってところだな。それこそ、噂がもっと早くに広まってるなら警察も勝手に動き出すだろ」
「まあ、そうかもな」
男はふっと鼻息をして、俺の目を見てはっきりと確認してきた。
「お前は、何がしたい?」
「単刀直入に言えば、その復讐の手伝い。・・・今確認したけど、外回りの対策が薄いだろ。だから俺がそこを補うようにすればいい」
「一理あるかもな。・・・見ず知らずの相手にそれを頼むのも、どうかと思うが」
男は少し悩んだような表情を浮かべて、やがて決心したのか俺に一つ機械を手渡してきた。
「・・・お前に任せる。不穏な動きは見せるなよ?」
「分かった」
「ところでお前は、どこに住まうつもりだ? まさか、こことは言わないだろうな?」
「拠点にしている場所があってな。ずっと開けるのはまずいから基本はそこに待機しようと思う。決行のタイミングは、手術当日、でいいんだよな?」
「当然。モニターで手術室の様子は確認できる」
奥のモニターは三画面ほどに分かれており、そこには病院のあちこちが映し出されていた。メカニッカーとは言え、ここまでできるとなると、遠隔で操作できる小型の爆弾を作ることも相違ないのだろう。
背筋に冷や汗が走る。男がどこまでも本気だということがひしひしと伝わってくる。生半可に行動すると、先に殺されるのは多分、俺だ。
「・・・それじゃ、さっそく作業に取り掛かる。何かあったら連絡してくれ」
男の顔を見ずに、俺はそそくさと部屋から出ていった。この男と同じ空間にいる時間が長ければ長いほど、ボロが出るのは確実だろう。下手に関わらない方が吉であることには変わらないのだ。
そして俺は男の部屋をあとにした。ほどなくして手元にあるドライバーで無線機を解体してみる。
そこには、赤のランプを点滅させるチップが着いていた。おそらく発信機だろう。
男が、俺を簡単に信用などするはずがない。人に疑り深い俺だからこそ、見つけられたのだろう。それが正しい事かどうかと問われれば、反応に困るが。
「・・・用意周到だこと」
俺はそれを取り外す。しかし不用意には捨てられない。
と悩んでいたところに現れたのは、どこぞやの野良犬だった。目に傷を負っているその犬はこちらで大学生活を始めてから何度か目にしていた。
「ちょうどいい、一芝居打ってくれや」
俺は野良犬の足元に発信機を括りつけた。こいつなら人のような挙動を見せてくれるだろう。
間もなく、野良犬はどこかへ駆けていった。こいつは空き家の屋根の下に隠れる癖がある。生息場所もうまく偽装できるだろう。
「さて、と・・・」
ここまでくれば、後は時間が解決してくれる。
手術当日に男のもとに向かい、何とかして爆破を阻止する。それまでの間でできることがあるとすれば一つだけだった。
俺はそれを求めて、最後の目的地へ向かう。
今日も空いている室内。
ドアを開けて、俺は奥へ入った。
「こんにちは、鈴夏さん」
「おう、島波か。上がってけ。あたしんとこ来るってことは、何かあったんだろ」
「よくお分かりで」
ほどなくして、鈴夏さんは表の看板をしまい込む。それが仕事スタートの合図だ。
「で」
「?」
「真冬に会ったんだろ? ・・・あいつは、なんて言ってた?」
鈴夏さんらしくない、後ろめたそうな表情。
でも、ここであっさりと伝えてはいけない。俺はそう思った。
感情の交換を他人を介して行う。それでは前に進めないことを俺は少し知ったつもりでいるから。
だからこそ傷つくこともいとわず、自分の目で、声で、確かめなければいけないはずだと、俺は少し厳しい態度を取る。
「そこは、ちゃんと自分で会って確かめてくださいよ」
「・・・そっか、そうだよな」
「ただ、伝言は預かってます」
伝えてくれと真冬さんから言われた言葉。それだけはちゃんと繋げておく。
「私に自由を見せてくれてありがとう。それと、ずっと尊敬してる、自慢の姉だ、と」
「・・・なんか、照れるな。・・・ありがとう。決心が着いた」
「それと、たまには遊びに来いって催促してましたよ」
「あ、そうなのか」
それでも、まだ鈴夏さんは考え込んでいるような顔つきをしていた。やがて自分の中で言葉がまとまったのか、鈴夏さんは口を開く。
「けど、会うのは今回の一件が全部終わってからにする。・・・あいつの娘をちゃんと助けることが、ほったらかしで家を任せちまったことの報いにする。それを達成して、あたしはようやく前を向ける気がするんだ」
「きっと、それがいいでしょう」
何一つ間違いじゃないその決意表明に俺は一度頷く。
そして、今回の一件をちゃんと終わらせるために、鈴夏さんに協力をお願いする。俺がここに来た理由はそれだった。
「それと、鈴夏さん。仕事の依頼をしていいですか?」
「・・・了解。あたしはなにをすればいい?」
「作ってほしい機材がいくらか。時間もないので、明日か明後日には・・・」
「何申し訳なさそうにしてんだ。あたしを誰だと思ってる?」
割と無茶な要求をしたと思っていたのは、ただの俺の杞憂のようだった。
それを為せるだけの腕を持っていると、鈴夏さんは自分を信じていた。
「・・・ですよね。それで、作ってほしい機材なんですけど・・・」
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それから小一時間、作戦の打ち合わせを鈴夏さんと行う。
正直かなり無茶を言っている自覚はあった。下手に写真を撮ることも出来ず、出来るだけの見分で状況を伝え、それに沿ったものを作ってもらう訳なのだから。
しかし鈴夏さんは嫌な顔一つ見せることはなかった。助けたいという想いが正面目一杯に集まっているのだろう。
「以上になりますけど・・・」
「よし分かった。作るもの自体はそんなに難しくなさそうだから時間はかからないと思う」
「よろしく頼みます」
「ああ、それと」
「?」
「さっきの話なんだけどさ・・・。あたし、もう一人向き合わなきゃいけない相手いるだろ?」
大吾先生の事だ。
俺は黙って一度頷く。
それを見て、鈴夏さんは困ったような笑顔を浮かべて俺に伝言を頼んだ。
「あいつに伝えておいてくれよ。また今度、飲みにでも行かないか、ってな」
「伝えます。必ず」
「そんじゃま、私も頑張らないとな」
一つ伸びをして、鈴夏さんは両頬を叩く。ここからは仕事が始まる。そう思って俺はこの場から引くことにした。
「それじゃ、また来ます」
「おう。あんまし急かすなよ。ちゃんと間に合わすから」
軽く手を振って、俺は自分の部屋へ戻る。
心は落ち着かない。いろんなものを、人を見せられて、どこか参ってるのだろうか。それとも迫りくるタイムリミットに、俺の心が焦っているのか。
分からない。けれど、一つ言えることがあるとすれば。
今日も一日が終わる。それだけだった。
『今日の雑談コーナー』
改めて書いてみると、前作から結構変更とかしてるんだなぁと思います。まあ既存のキャラは性格等が出来上がっているのでむやみやたらに加筆修正などできませんが、オリジナルのキャラとなると話は別ですね。
ここまで書くと、結構終わりが見えてきたりそうでもなかったりするんですよね。
まあ、まだまだこれからなので根気強く書こうと思います。
と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)