凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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会話とか変えていかないとこのリメイクの意義自体なくなりますね。
もっと善処します。

それでは本編どうぞ。


第九話 そんな二人はきっと一緒で

~遥side~

 

「水瀬千夏、さんね・・・」

 

 動揺を悟られないように、名前を復唱する。それと同時に、みをりさんにあの日言われた、水瀬千夏という人物のことを思い出していた。

 

「・・・おい、遥?」

 

「ん、ああ。悪い」

 

 またぼーっとしていたようで、紡に声をかけられた。不思議なものを見る目でこちらに視線を向けるが、俺はそれをうまくいなす。

 

 と、ここで予鈴が一度鳴る。

 

「次は体育だったか。なら、そろそろ行った方がいいな。話、また今度聞かせてくれるか?」

 

「ああ。知ってることならいくらでも教えてやるよ」

 

 とりあえず約束と縁を結んで、俺たちは体育へ向かうことにした。

 ・・・遠くから見つめる光の視線が少し痛く感じたが。

 

 

---

 

 

 そして、今度は体育の時間。

 内容が持久走とこれまた人気の悪そうなもので、これなら忘れてしまっていた体操服を忘れたままにしておいたほうが良かったのではないかと思う始末。

 

 しかし、愚痴を垂れても仕方はない。今は走る。

 

「さて・・・」

 

 軽く体を動かして、跳ねるような軽さで走る。

 

 陸から遠ざかったあの日から数年、俺が力を注いでいたのは勉強なのだが、かといってずっと家に引きこもっているわけでもなかった。

 そして何より、陸での活動には慣れている。

 

 そんな理由相まって、俺はグループの先頭を走っていた。

 

 ほぼ横についているのは紡一人。その紡も少し驚いた様子だった。

 

「お前、早いんだな。エナを持つ人間って、海の中で走ったりするのか?」

 

「ああ? ・・・そうだな。海の中で生きてるっていっても、やってることは陸上生活とあんまし変わらない。むしろ、汐鹿生だと泳ぐことの方が少ないかもな」

 

「ふーん・・・そういうものなのか」

 

「それに、陸の重力や呼吸には慣れているしな・・・」

 

 言葉にしたとたん、数年前のあの日々がぼやけながらも思い出された。それが頭の片隅にあるだけで、胸が痛くなる。 

 

 ・・・こんな痛み、早く忘れてしまいたい。

 

 けれど、忘れる方が、よっぽど痛いかもしれない。

 

 

「どおっっせええええい!」

 

 そんなことに気を取られていると、後ろから光がものすごい勢いでペースを上げてきた。

 

 ・・・馬鹿ッ! これはぶつかる!!

 

 とっさに俺は外に進路を外したが、紡は間に合わずに光と衝突、転倒してしまった。

 

 ・・・ほんと、こいつは。

 

「おい、バカ光。内抜きは禁止って何回言えば分かるんだお前は。危ないって言ってるだろ。・・・ったく、二人とも、大丈夫か?」

 

 両手を差し出して、紡と光の腕を引っ張り上げ、立ち上がらせる。

 

「悪いな、遥」

 

「ったく、悪かったよ・・・」

 

 紡は相変わらず無表情で、一方の光は終始不機嫌そうに礼を言った。その後ずっと紡を睨みっぱなしだったあたり、反省はしていないのだろう。

 

 光が先に行った後で、紡に確認を取る。

 

「・・・なあ、紡。お前、光や俺以外の海村の人間と何かあったのか?」

 

「直接は何も。・・・ただ」

 

「ただ?」

 

「向井戸とは、一悶着あったか」

 

「というと?」

 

「俺のじいちゃん、漁師なんだよ。それで、今朝も船を出したんだけど、その時、網で向井戸を引き上げてしまってな」

 

 

 ・・・なるほど、そういうことか。

 その説明で、俺はちゃんと納得がいった。

 

 光のまなかに対する想いは強い。いや、強いなんてものじゃないな。

 あいつは、まなかのこととなると止まらなくなる。

 

 もし、その様子を陸から見ていたのなら、光は怒っているか何かしているのかもしれない。

 それに、さっきの自己紹介の時、まなかの目が紡にいってたから、きっと何かが二人をそれぞれ動かしているのかもしれないな。

 

 ・・・端的に換言すれば、嫉妬、か。

 

「なるほど。大体は分かった。その様子だと、大丈夫そうだな」

 

「いいのか?」

 

「あいつは単純だからな。ま、気になるところがあるなら俺の方から言っとくよ」

 

「そうか、それならいいんだが」

 

 それ以降は特に何も起きることなく、浜中での最初の一日が終わった。

 

 

 

---

 

 

 帰り道、ほか三人と別れて、俺は光と二人きりで帰っていた。

 とりあえず、今日の光はかなり暴走気味だった。最悪、八つ当たりが起こるかもしれないと考えると、ほか三人と引き離す方が賢明だった。

 

 文句を一心に受けるなら、俺一人で十分だ。

 

「ったく、地上の奴らって、ホントダメだよな」

 

「何がダメか、具体例がないと分からんぞ」

 

「そりゃお前・・・。・・・具体例、か」

 

 一対一の状況。こういう時の光は大概愚痴を垂れることが多い。普段強気の割に、こうしたところのメンタルが幼いのがまた厄介だ。

 

 

「おーい、光、遥くんー。学校お疲れ様。どうだった? 初の陸の学校は」

 

 さやマート当たりで俺と光はあかりさんに遭遇した。

 まあ、あかりさんの就職場所がさやマートなので、それはそうなるのだが。

 

「お疲れ様です、あかりさん。初めてとかなんだかんだ言っても、まあ、普通ですよ」

 

「別に、何ともねえよ」

 

 ・・・あれだけムキになって噛みつきまくって、それで何ともないならだいぶ曲がってるぞ、光。

 

「ところで二人とも、友だち出来た?」

 

 純粋なあかりさんの質問。あのー・・・それって光の導火線に火をつけるだけなんですが。

 俺の方はと言うと、・・・出来た、になるのか。

 

「はぁ!? あんな連中と仲良くできるわけないだろ!」

 

「俺は出来ましたけどね」

 

「は!? お前マジかよ!」

 

 嫉妬、あるいは驚きか。悪い意味でテンションが高潮した光はとにかくうるさくなる。

 どうどうと俺は宥めるように言う。

 

「安い挑発なんかに乗るからああなるんだよ、お前は。もっと冷静に周り見たらどうだ? 挑発した人間なんてごく一部だろ」

 

「・・・ふーん? 光、また暴走しちゃったんだ?」

 

「してっ・・・! ・・・たかもしれないけど! てかおい! 遥! なんで言うんだよ!」

 

「隠してても意味ないだろ。そんな敵意むき出しでいたら。・・・ん?」

 

 言葉の途中で、俺はさやマートの裏の方に二人の人影を見つけた。

 一人は壁に隠れて見えない。

 

 ・・・けど、もう一人ははっきりと見えた。

 

 見たくなかった。けど、見てしまった。

 

 見間違いはない。・・・あれは、美海だ。

 

「? どうしたんだよ、遥。急に黙り込んで」

 

 光が急に冷静になったことでこちらが意識していることに気づいたのか、その二人はそそっと逃げていった。

 

「? あっ、おい待てそこの・・・!」

 

「光。・・・あれはいいのよ。放っておきなさい」

 

 あかりさんがストップの判断を下すのは早かった。

 

「放っておくって言っても・・・」

 

 光は居心地が悪いのかうずうずしていたが、こればかりは放っておくという選択が正しいように思えた。むしろ、放っておいてほしかった。

 

 なんせ、あそこにいた人間の一人は自分の勝手たるを知る人間だ。

 

 そして、俺と光はさっきの壁に近づく。

 その壁には、ガムの跡で『どっかい』と書いてあった。

 

「はあ? なんだよこれ、どっかい・・・読解?」

 

「いや、違うだろ」

 

 光は頭に疑問符を浮かべる。・・・というか、察し悪いな。

 

 この言葉の意味に、俺はすぐに気づいた。答え合わせのようにあかりさんが口にする。

 

「『どっかい』、ねえ・・・。きっと、完成したら『どっかいけ』になるんだろうね。多分、私あてのメッセージだよ、これ。・・・なんで完成しないんだろうね」

 

 あかりさんは少し悲しそうに、少し不思議そうに言った。

 ・・・でも、なんで完成しないかは、俺も気になる。

 

 しかし、光は違った。一人でまた勝手に変な結論へ行きつく。

 

「はぁ!? すげぇ酷い奴らじゃねえか! あかりは何もしてないってのに、海の奴らだからって、こんなことしてんのかよ! ・・・やっぱり、俺が捕まえて・・・!」

 

「少し落ち着け! ・・・言ったろ、もっと冷静になれって。・・・それに」

 

「それに・・・なんだよ」

 

 俺が久々に大きな声を出したことが響いたのか、光は動こうとしていた足を止めて、こちらを振り返った。

 抑制こそ出来たものの、光は苛立ちを抑えきれていない様子で、今にも俺に突っかかってきそうな勢いだった。

 

「・・・多分これは、俺とあかりさんが一番分かることかもしれない。だから、まずはそっとしておいてくれ。・・・それでもって、俺に任せてほしい」

 

「ったく、しゃーねえ。お前がそう言うならそう言うことにしておいてやるよ。じゃあな、遥。先帰ってるぜ」

 

 光は不承不承ながら受け入れてくれ、そのまま海へ帰っていった。

 

 

 二人きりになったところで、俺は改めてあかりさんの方を向いた。

 少なくとも、その瞳は先ほどまでと感情の違うものだった。

 

 ・・・もっと、どす黒い感情だ。

 

「さて、あかりさん。少しお話しましょうか」

 

「まあ、そうなるよね・・・」

 

 一息ついて、あかりさんは俺の視線を受けとる。

 

「さっきの片方、あれって美海、で間違いないですよね」

 

「うん」

 

「俺の知る美海は・・・あんなことをする子じゃないです。・・・いったい、何があったんですか?」

 

 何かがあった、とは一言も口にされていないが、俺はあの様子から、美海に何かがあったことを察した。むしろ、それ以外の考えに辿り着けなかった。

 

「うん、そうだね。・・・ね、ここから先は、外に漏らさないでくれるかな?」

 

「分かってますよ。陸での話が海村で広がるのは、俺も嫌ですし」

 

 俺がそう言うと、あかりさんは自分のことを話し始めた。

 

 

 どうやらあかりさんは、至さんと付き合っているという事だった。

 

 あかりさんが至さん夫婦や美海と面識があるのは知っていた。何より、俺もそこにいたんだから、知っていて当然だ。

 

 そして、みをりさんが亡くなった後、だんだんと距離が近づいていったようだ。

 美海の態度は、その途中から変わりだしたとのことだった。

 

 

 

 全ての話を聞いて、俺は一つの確信に至る。

 美海は、今の俺と似ているんだ、と。

 

「・・・なるほど。そんなことが」

 

「うん、こういうこと」

 

 終始、あかりさんは悲しそうだった。

 けれど、俺はそんなあかりさんにこれからひどいことを言わなければならない。

 

 ひどいと分かっていても、言わなければならない。

 

「・・・なんとなく、ですが。分かりました。美海の今の事。でも・・・、俺はこの話に手を出せません。・・・出しちゃいけないんです」

 

「え?」

 

「とにかく、ここから先はたぶんあかりさんの問題です。・・・答えは、自分で導いてください」

 

「あはは・・・厳しいんだね、遥くんは」

 

 すいません、とだけ謝って、俺は急いで汐鹿生の方へ歩いて帰ることにした。

 

 ・・・手を出せない。出しちゃいけない。

 近づいたら、波のように離れてしまうから。

 

 

 ・・・似ているという事は、そういうことだった。

 

 

---

 

 

 とにかく無心を徹底して、俺は汐鹿生を目指していった。

 ほどなくして、ダイブするポイントへ近づく。

 

 しかし俺はすぐには潜らなかった。遠くに人影が見えたのだ。

 

 その姿を、もう一度よく見返す。

 一人、少女がいた。遠く遠く、海を見つめている。

 

 そしてその少女は、俺が今朝ぶつかった人間と一緒だった。

 

 ・・・話しかけてみるか。

 

 ふとそんなことを思った。思ってしまうと、体は独りでに近づいた。

 

「? どうかしましたか?」

 

 少女は近づいてくる俺に気づいたようで、首をかしげて声を掛ける。

 

 

 朝ぶつかった時とはえらい違いだな・・・。こっちが素って言えば、当然か。

 とにかく、思ったことを口にしないように、俺は下手に出て尋ねた。

 

 

「ああ、いえ。たまたま通りすがっただけなので。・・・あの、名前、伺ってもいいですか?」

 

 自分でも気持ち悪いと思うほど、下手に出た質問。

 その質問に、少女は真正面から答えてくれた。

 

 そして、俺が何度も聞いてきた名前を、少女もまた口にする。

 

 

 

「はい。私、水瀬千夏って言います」

 

 彼女こそが、水瀬千夏だった。

 

 

 

 

 




しかしこうしてみると、前作は会話が読み取りづらかったり等があるので、見やすい書き方へリメイクするという点においては今作はかなり重要ですね。

さて、ここからですよ。
前作と同じじゃ意味がない。

頑張ります。

また会おうね(定期)
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