凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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ようやく書きたかったシーンまでありつけましたね・・・。


第九十一話 仄暗き闇の中へ

~美海side~

 

 今日は異様に肌寒い朝だった。そのためか普段より早い時間に目が覚める。

 けれど、眠たいかと言われたら、そうでもない。今は朝の5時半。せっかくの休日だって言うのに、もったいない気がする。

 

 リビングに向かうと、先に起きていたパパが新聞を読んでいた。珍しい。いっつもあかちゃんに起こされることが多いのに。

 

「あれ、パパ起きてたんだ」

 

「ああ、うん。なんか目が覚めちゃってね。それこそ、美海だって」

 

「うん、なんかね・・・ちょっと寒くて」

 

 窓の外を見てみる。少しだけぬくみ雪が降っているけど、それだけで果たして寒いのだろうか。

 

「そんなにかな? ここ最近はずっとこれくらいだと思うけど」

 

 パパは特別おかしいとは思っていないようだった。てことは、エナを持っている私だからこそ感じるものなのかな。光やあかちゃんなら何か分かるかもしれないけど。

 こんな時は、なぜか海が気になる。光が帰ってきたケースもあるし、何があっても不思議じゃない。

 

 もしかしたら、誰かが目覚めるのかもしれない、なんて。そんな淡い予感がする。

 

「ねえパパ、ちょっと散歩してくる」

 

「いいけど・・・朝ご飯までには帰って来るんだよ?」

 

「分かってるよ。それじゃ、行ってくる」

 

 少し釈然としない表情のパパを置いて、私は海へ向かった。

 

---

 

 外に出ると、私の予想していた通り普段よりも詰めたい空気が漂っていた。そう言えば、巴日が起こった日も、これくらい肌寒かったような気がする。

 私は、海に呼ばれているような気がした。だからこそ、自然と足取りは早く、海へと向かう。

 

「・・・着いた」

 

 海に到着する。けれど、特別何か異変が起きているという風でもなかった。いつも通り氷が海を漂っている。ただそれだけだ。

 専門家・・・それこそ、紡さんとかが見れば何か異変にはっきりと気が付けるのかもしれないけど、私はそうじゃないから、目の前の現状は分からない。

 だから、気のせいという言葉で片付けざるを得ない。

 

「・・・無駄足だったかな」

 

 何もない、もしくは何かあったとしても私にはどうしようもないのが事実。

 帰ろうか。

 

 そう思った瞬間の事だった。

 謎の光が、海を包む。私はその眩しさに思わず目を閉じた。

 

 この光・・・あの時と一緒だ。

 何が、起こるの・・・?

 

 そしてしばらくして目を開ける。その視線の先には、さっきまではいなかった人の陰があった。

 そしてそれは、絶対に見間違えることのない人。その人が、横たわっている。

 

「え・・・ちなつ、ちゃん・・・?」

 

 間違えるはずなんてない。目の前にいるのは千夏ちゃんだった。

 

 それは、五年前と何一つ変わらない姿で。

 

---

 

~遥side~

 

 家でのんびりと構えている暇なんてなかった。

 美海聞かされる、水瀬の目覚め。それを目の前にして何もせずにいられるはずなんてなかった。

 五年だ。五年の間、俺のせいで海で眠ることになったあいつが、ようやく目覚めたんだ。今すぐにでも会いたい。

 

 すぐに荷物をまとめるなり、俺は始発電車に飛び乗って鷲大師へ戻った。

 

 鷲大師が近づいてくるたびに、鼓動が早くなる。

 今更、どんな顔をして会いに行けばいいかなんて分からない。けれど、それでも俺は会いたいと願った。

 

 駅に着くなり、俺はロッカーに荷物を置いてそのまま海へと走っていった。ここ数日の疲労で体は言うことを聞かず、うまい事動けないがそれでも走った。

 

 美海が、水瀬が待つ海に向かって。

 

 海辺が見えてくる。遠巻きに美海と、横たわっている水瀬が目に入った。もう少しだ。駆ける足は速くなっていく。

 氷が張っている、その上。光の時と一緒だ。

 

 そして美海に近づいて、俺は声を上げた。

 

「美海!」

 

「遥、帰ってきたんだ!」

 

「それより、水瀬は・・・!?」

 

 美海の膝の上で、水瀬は眠っているようだった。光の時とは違って、呼吸も感じられる。小さく揺れる腹部が、それを表している。

 

 水瀬は・・・五年前と何一つ変わっていなかった。みんなと一緒に、冬眠していたんだ。・・・信じてきて、よかった。そう思う。

 

「本当に・・・帰ってきたんだな・・・」

 

 次第に心の底からいくつもの感情が湧き上がってくる。少なくとも、俺の最後の記憶は告白されたあの日。その思いから逃げたあの日。

 目覚めて水瀬はどんな反応をするんだろう。それが少し怖くも思う。

 そんな感情ばかりなもんだから、これ以上口は開けなかった。開いてしまえば、余計なことまで言ってしまいそうで。

 

「まだ一度も目が覚めてないのか?」

 

「うん。近くの公衆電話から遥かに電話してからずっとこの様子」

 

 美海は首を横に振った。けれど無理もない。呼吸をしてるだけ、まだ光よりましな状況という訳だ。

 

「どうする? これから検査も兼ねて病院に連れて行った方がいいのか?」

 

「でも、光だって何もなかったでしょ? 急いだ話じゃないと思うし、それに目覚めを待つならこの場所のほうがいい」

 

「そうだな」

 

 真っ白に包まれた病室でのご対面なんて俺は嫌だ。確かにそうだ。

 俺は美海の意見をくみ取って、この場所で待機することにした。水瀬が目覚める、その瞬間まで。

 

「ところで、美海はなんでこんな朝早くに海に来たんだ?」

 

「・・・今日、どこか寒いでしょ? それで目が覚めて、気になって海に来たら、千夏ちゃんがいたの」

 

「でも・・・今はそんなこと感じないけどな。ひょっとしてその寒さってのは、もう引いたのか?」

 

「うん。千夏ちゃんが私の目の前に現れてから。・・・あのね、光が起きた時みたいに眩しい光に包まれたの。そして、目を開けたら千夏ちゃんがいて」

 

「それは、巴日だったのか?」

 

「いや、違ったよ。何がトリガーなのかは私にはちょっと分からないかも」

 

「そうか」

 

 それでも、その状況を視認できたのは大きいと思う。それに、この状態ならみんなが目覚めるのはもうじきってことかもしれないし。

 

「・・・ね、遥」

 

「なんだ?」

 

「千夏ちゃん、起きてくれて嬉しい?」

 

「・・・そんなこと」

 

 言うまでもない。

 どんな複雑な感情があろうとも、水瀬は俺の大切な人の一人であることには変わりない。どれだけ後ろめたい気持ちがあろうとも、目覚めてくれることは嬉しい。保さんや夏帆さんだって待ってるんだ。

 

 これからのことはこれから考えればいい。ならば、今出てくる感情は結局一つだけ。それを変に言葉にする必要なんてどこにもない。

 

「言うまでも、ないだろ」

 

「そうだよね」

 

 俺は笑った。うまく笑えている自信はないけれど。

 

 その時、水瀬の指先がピクリと動いた。次いで、「んっ」と小さな声を漏らす。

 

「水瀬!」

「千夏ちゃん!」

 

 俺と美海が同時に声を上げる。それで完全に意識は覚醒したようで、ゆっくりとその瞼を開いた。

 

「・・・おはよう、美海ちゃん。・・・それと」

 

 そして水瀬はそっと、この世で一番残酷な言葉を口にした。

 

 

 

「・・・そこの人、誰ですか?」

 

 それは、俺の感情にヒビを入れるのに一番効果的な言葉だった。

 

 




『今日の座談会コーナー』

 ここら辺に関しては展開を大きく変えるつもりはないんですけど、内容をふくらませたいなんて思ってます。
 ただ、そうなるとやっぱりキャラ崩壊だとか辻褄合わせってのが結構シビアになってくるので考えものですよね。
 特にキャラ崩壊、というか性格維持というか・・・小説全般においてぶれないようにするのが難しいところだと思ってます。

 といったところで、今回はこの辺で。
 感想、評価等お待ちしております。

 また会おうね(定期)
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