凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】 作:白羽凪
~遥side~
最後に目をつぶった時から、ずっと暗闇を見せられてる。死んでしまったのだろうか、なんてことも思う。
・・・ここまでの人生、何かいいことあったかな。
たくさんのつながりもあった。新しく生まれた出会いもあった。
なのに。一番欲しかったものだけは、手のひらからすり抜けてく。
俺が海を好きと言ったばかりに、大好きだった両親を失って。そして俺が自分の気持ちから逃げてしまったばかりに、守りたいと思ったつながりと、その記憶を失って。
きっと、そうなんだ。こうやって、大事なものから奪われていくんだ。
だから・・・この人生は、呪われていて。
誰かを不幸にするだけの人生で・・・きっと、美海にとってもそうで。
生きてちゃいけない。そんな気がした。
ならば、この眠りが一生続けばいいと思った。そうしたら死ねる。悲しんでくれる人がいたとしても、俺がいるから生まれる悲しみに比べれば、大したことなんてない。
・・・なのに。
頭の方から、温もりが伝わってくる。これは、人の体温。・・・唇だ。そこに誰かがいる。
・・・目覚めたくないのに、目覚めてしまう。
その摂理に逆らう事が出来ないまま、俺の瞼はゆっくりと開いた。
そこにいたのは・・・美海だった。
ああ、そうか。
神様はまだ、俺に苦しめと言うらしい。
そこから、何をして、何を言ったか覚えていない。
ただ、俺の人生が呪われたものであること、ただ延々とそんなことを口にした記憶だけが残っている。
でも、美海の一言で目が覚めた。
美海が呪いになる。
俺が死ぬなら一緒に行く。その代わり、私が死んだら俺に来いと。
馬鹿げた鈍いかもしれないそれが、俺には嬉しかった。
一緒に不幸になってくれると言ってくれた。それは、俺の人生を肯定するものかもしれないと思えた。
だから、俺はかけられた呪いを手繰り寄せて胸に抱いた。
今だけは・・・この温かい呪いを手放したくないと、そう願って。
---
~美海side~
自分が佇んでいるベッドに私を引き込んだ遥だったが、結局手を出されることはなかった。遥の中に、まだどこか理性がちゃんと残っているのだろう。そこまでは壊れてないと思えたことに一息つけた。
軽く抱き着かれたまま、手を繋いだまま、遥はそれを放そうとしない。本当ならはずかしくて、今にも逃げ出してしまいたいくらいなのに、今だけはそんな気は微塵も起きる気がしなかった。
きっと、今なら遥に好きと言う言葉をぶつけることができる、そんな気がしていた。
でも、それだけは絶対にしない。約束をこれ以上裏切りたくはないし、何より相手の弱みに付け込んで好きをぶつけるだなんて・・・卑怯だ、それは。
これまで通りの関係って、どうなんだろう。これまで私は遥をどんな目で見てどんな風に好きでいたのか思い出せない。
超えてはいけない一線を越えてしまったんだと、私はようやく気が付いた。
・・・でも、今だけは。
そう思いながら、私は遥の腕の中で眠りについた。
---
朝、外から漏れてくる肌寒い風で目が覚める。時計が指し示す時間は六時半。昨日の体力の消耗はほとんど回復していた。
問題は、遥のほうなんだけど・・・。
「・・・ん」
ほどなくして遥も目覚める。見る感じだと、昨日よりは血色がいいように思えた。
「おはよう、遥。身体の方は大丈夫?」
「・・・分からない。けど、多分昨日よりは動けるはず」
「なら、一緒に帰ろうか」
私がそう言うと、遥は苦い顔で答えた。
「帰るって・・・俺はどこに帰ればいいんだよ」
「言ったでしょ。私は呪いだからって。付きまとってもらわないと困るから、家に来て。それを拒んだりなんて・・・許さないから」
「いいのか?」
「そこが今の、遥の帰る場所でしょ」
言い切ってから思う。私、最低だ。
千夏ちゃんはともかく、千夏ちゃんのお父さん、お母さんは遥を実の息子のように育てていたわけだし、そんな二人から大切な存在を奪うなんて、どうかしてると思う。
でも、それ以上に遥の意思を尊重したいから、今だけは心を鬼にしたって構わない。
遥は分かったように頷いて、私の手を取った。
「・・・せめて帰るまでは、こうさせてほしい」
「いいよ」
それ以上に言葉はいらない。私は遥の手をとって廃倉庫を後にした。昨日あれだけ降り続いていた吹雪は止んで、今はすっかり晴れ模様を映し出している。
これから先の未来が晴れかどうかなんて分かんないけど、一生懸命生きればきっと雲だって飛んでいくはずだから。
ねじ曲がった愛の表現を、お互いの冷たい手で結んで繋ぐ。今はきっとそれしかないから。それしか、選びたくないから。
---
家に着いた時、あかちゃんは玄関にいた。大きな声で私を叱り飛ばす。
「美海! あんたどこに行ってたの!」
「えっと、その・・・」
「・・・あれ? 遥くん」
「・・・どうも」
あかちゃんの表情から怒りの色はみるみるなくなっていった。それは憂いに変わる。それからなんて言えば悩んでいるような表情をした。
けれど、それは次の一瞬で動いた。
「・・・あれ?」
遥は膝から崩れ落ちた。その様子はとても衰弱しているように見えた。あかちゃんも同じように思ったようで、私にすぐ指示を出す。
「美海! 話はあとにして、客間に布団敷いて遥くんを寝させてあげて!」
「え、あ、うん! 分かった」
遥は今にも倒れそうになっていた。昨日少し回復したとは言っても、丁寧にエナを扱えているわけじゃない。ストレスも相まって、体はもうボロボロになってるのかもしれない。
私はそんな遥を後目に客間へと向かった。急いで布団を出して、玄関に戻る。
肩を貸して遥を部屋に連れていく。息もさっきより絶え絶えで、苦しそうにしているのが分かった。
「遥、寝ててね」
「・・・」
布団に着くと安堵したのか、先ほどよりも遥の息は安定するようになった。ひと段落ついたのを見て、あかちゃんも一息ついた。
「さてと・・・美海、リビングに行ってて。後で話があるから」
「あかちゃんは?」
「ちょっと遥くんの処置を。といっても、この様子なら大したことする必要ないと思うけどね」
「分かった」
傍を離れたくないと思う私がいたけれど、何も出来ないんじゃ足手まといだ。あかちゃんの言葉を飲んで、私は客間を後にした。
それから遅れて小五分後ほどして、あかちゃんがリビングに戻ってくる。
「・・・それじゃ、何があったか話してくれる?」
「うん。長くなるけどいい?」
「ちゃんと聞くよ。だから、嘘、つかないでね」
「分かった」
恥ずかしい事だけは避けて、ちゃんと伝えよう。きっとこれは、私の、・・・私たちの未来にも関わってくる話だから。
「昨日、海に行ったでしょ。そしたら千夏ちゃん、帰ってきたの」
「冬眠してたってこと?」
「そうなると思う。・・・でも、千夏ちゃん、遥に関する一切の記憶を失くしてたの。思い出どころか、名前すら」
あかちゃんの眉がピクリと動いた。
「ここ最近の遥に何があったか分かんなかったけど、電話で呼んだら遥、街から帰ってきてくれたの。・・・それなのに、待ってた現実が、これだった」
「・・・それから、どうしたの?」
「昨日、すごい吹雪だったでしょ? 遥を探しに出て、見つけた時はもう帰れなくなってた。ここから随分離れた道端で一人、ポツンと倒れてたの」
「それで美海は、助けて介抱したってこと?」
「近くに廃倉庫があったから、そこで一晩寒さをしのいで、今日帰ってきたの。連絡できなかったことは謝る、ごめんなさい」
「・・・ううん。話を聞いたら納得しちゃったからいいよ。帰れないって話は光から聞かされたしね」
一通りの話を終えて、あかちゃんはさっきまでの怖い顔をやめた。どうやらちゃんと誤解は解けたみたいだった。
それから少しだけ目を伏せて、つづけた。
「・・・美海にそうしてもらえた遥くんは、幸せ者だね」
「え?」
「私さ・・・分かるんだよ。一人で苦しい時ってさ、誰かにいてほしくなるんだよ。特に、好きな人とかに、さ」
あかちゃんはきっと、昔の自分のことを思い浮かべているのだろう。パパとすれ違ってばかりいた、五年前のあの頃を。
「でも、遥が私をどれだけ求めてるか、分からない・・・」
「・・・美海、遥くんの事好きなんでしょ?」
「うん・・・」
あかちゃんには嘘はつけない。ここまでしているのに好きじゃないなんて自分の心の嘘を吐くのも嫌だった。
「だったら、疑っちゃダメ。面と向かってそれを拒否されるまで、可能性は消えないんだから。それに、千夏ちゃんに負けてると思ってもダメ。自分が一番だと思わないと、その思いは実らないよ」
「うん、そうだよね」
いつからか、私は千夏ちゃんに叶わないと思っていたのかもしれない。それこそ、あの頃の千夏ちゃんは遥と同級生だったし、私には届かない存在だと思っていた。でも、今は何一つ千夏ちゃんと変わらない。
「大丈夫だよ。美海なら」
「うん」
あかちゃんに励まされて、少しだけ自信を取り戻すことが出来た。そうだ、勝負はいつだって最後まで分からないから、この終わりのない戦いにだって、勝つことは出来るんだ。
とはいっても、約束は守る。
ちゃんとフェアに戦いたいから、今はただ寄り添うだけ。時が来たらそばを離れよう。
私は少しだけ震える手で、遥の眠っている部屋のドアを開けた。
『今日の座談会コーナー』
流石に前作の良く分からない展開はバッサリカットです。正直自分でも何かいてるのか理解不能なのはまずいので。
今作はやっぱりもう少し既存キャラに暴れてほしいですね。暴れるというか掛け合いというか、そう言ったところをもう少し増やせたらなと思います。
それこそ今作の大人しめな光すごい好きなんですよね。原作では聞かん坊が凄すぎて好き嫌いが分かれたと思いますが。
と言ったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。
また会おうね(定期)