「おはようございます、師匠……」
真改は、湯気が立つスープを片手に、桜龍おうりゅうの埃っぽい寝間へと入る。もちろん返事はない。岩のように固まった桜龍が、ただ横たわっているだけだ。
「今日はとれたて果実のスープです」
そう言って真改はスプーンを桜龍の喉に突っ込む。桜龍は目を開けることもなく、ただ反射的にスープを飲み込んだ。
──征山との戦いから四年の時が流れた。
猫族だけが固有で使える技、
「くそっ……」
真改は歯を食いしばる。あのとき師匠を守ることができたのではないかと思うと、悔やんでも悔やみきれない。
あれから何度、猫族に復讐に行こうと思ったことだろうか。しかし真改は、桜龍が倒せなかった征山を自分が倒せるとは到底思えなかった。真改は未だに、
あの征山の鼓膜破壊を思い出すと、今でも足がすくんでしまう。何もできない自分がいた。これから先も、ただ時が流れていくのを眺め続けるしか無いのだろうか。固まった桜龍を見つめながら、真改は拳をキリキリと握りしめた。
そのとき、黶子族の少年が寝間へ駆け込んできた。
「真改様、大変です、猫族の奴らが攻撃してきましたっ……!」
「……またか」
真改は部屋を飛び出した。
慌てることではない。あの征山との戦いがあってから、たびたび猫族が攻撃してくるようになったのだ。攻撃と言ってもそれは少数なので、黶子族の偵察が目的だと思われる。ただ、猫族の攻撃は
真改は猫族の連中を見つけた。奴らが、逃げ惑う黶子族の人々に向かって波動を出している。早くしなければ。
真改は目にも留まらぬ速さで突進していき、猫族の一員を蹴り飛ばした。
うぐっ、と苦しそうな声が聞こえる。
猫族の奴らが、真改に気づいた。
「……かかってこいや」
真改は不敵な笑みを漏らした。
連中が一斉に襲いかかってくる。
真改はそれをひらりと
蹴りを入れる。
それは見事に的中し、一人が倒れる。
残りの連中がすかさず殴りかかってくる。
真改は息を整える。
──終焉ノ黶子!!
真改はそう念じ、手のひらを前に突き出す。
力を込める。
しかし何も起きない。
くそっ。
いつやっても駄目だ。
どうして出したい時に出せないんだ。
仕方ない。
直接攻撃だ。
真改は壁を蹴って、一撃をお見舞いする。
それは顔に命中し、血を流しながら倒れていく。
そのとき、真改は背後に何かを感じた。
波動だ。
気づいた時には建物の壁にのめり込んでいた。
壁がボロボロと崩れていく。
真改は血を拭った。
今回の連中はなかなか手強いぞ。
真改は素早く駆け出して、相手の懐へ飛び込んだ。
が、そこに相手の姿は無かった。
何だと。
敵は真改の背後にいた。
真改は蹴りを喰らう。
全身を針で刺されるような痛みが走った。
真改は動じない。
真改はその相手の足を掴んだ。
そのままブンブンと振り回す。
それをまだ残っている相手にぶつける。
鈍い音がして二人が倒れた。
ふう。
鉄の味がする。
残るは一人だ。
見ると、残る一人に凄まじい圧が集まっている。
周囲の空気が微動している。
真改の顔から血の気が引いた。
まずい。
間違いない。
──鼓膜破壊だ。
横たわる桜龍の姿が頭をよぎる。
これを喰らうと明日は無い。
真改は総毛立った。
何とか止めなければ。
相手が、鼓膜破壊の構えに入る。
どうする。
一瞬、相手が力を抜いたように見えた。
真改はその一瞬の隙を見逃さなかった。
真改は瞬間移動するかのように、相手の脇から駆け込んだ。
そして首を握り潰した。
「……! 何をする、離せ」
「よくも黶子族の仲間に手を出してくれたな」
「……っ、苦しい、離せ」
「離すものか」
真改は体中の力を使って、相手の首を強く握りしめた。
それで全てが終わる。
……はずだったが、真改はふと、相手が腰に小さな瓶を提げているのに気づいた。
瓶の中では、紫色の草が光っている。
真改はこんな草を見たことが無かった。
真改は首を握る力を少し弱めた。
「お前が腰に提げているものは何だ」
「……それは言えない」
「言えっ」
真改が首を強く握る。
そして、股に蹴りを入れる。
相手は声にならない悲鳴を上げた。
「……っ、それは……アッポンド……」
「アッポンド……?」
聞いたことのない草だった。
「何に使う草だ」
「……治癒に使う……」
「治癒?」
「……特に、鼓膜破壊で麻痺した体に……有効……」
真改は耳を疑った。
「今何と言った?」
「……鼓膜破壊で麻痺した体に……有効……」
「鼓膜破壊に有効……? これを使ったら鼓膜破壊の麻痺から回復すると言うのか?」
「……そうだ」
「本当か」
真改の脳裏に桜龍の姿が浮かんだ。これを使ったら桜龍が回復するかもしれない。真改に、この薬を使わないという選択肢は無かった。
「貰うぞ……」
真改は片方の手を瓶に伸ばす。
「……そんな
真改の手が止まった。
「じゃあ何処で手に入れる……?」
「……それは言えない」
「言えっ」
真改はさらに強く握った。
「……アーラキ……アーラキ沼の奥地……」
相手は、震える声でそう言って、意識を失った。
真改が手を離すと、相手は骨を失ったかのように、だらりと地面へ倒れた。
「アッポンド……鼓膜破壊……アーラキ沼の奥地……」
真改は長い間、その場に立ち尽くしていた。
何かが自分の中で渦巻いていた。
アーラキ沼の奥地と言えば、確か、猫族の領域テリトリーだったはずだ。
真改は深呼吸した。
「貴重な情報をありがとう……!」
真改は、新たな物語の始まりを予感していた。
担当 m
p.s. アッポンド → up pond
投稿者のモアイキャノンです
もう少し話を投稿したら設定集を投稿出来たらなと思っています
評価・感想をいただけたら幸いです(´・ω・`)