深海棲艦のゆるい日常   作:とある組織の生体兵器

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春。それは、学生にとっては新学期や卒業、入学などを控えて新たな生活にドキドキするであろう。社会人は、新入社員を迎えたり一年先輩になるとして少しワクワクもあり、不安もある。何かを変えようと思っていても、結局は変えることができなかったりする、そんな季節。もちろん、そんな様々な思いの交差する季節に振り回されるのは人間だけではなく『深海棲艦 五島支部』も…。


弐拾陸話 新シイ子

「新入社員…。」

 

「ノン?」

 

港湾棲姫が、カタログのようなものを見てため息をつく。

 

「何シテンダ?」

 

レ級は港湾棲姫の隣に座って覗いた。

 

「新入社員ヲ見テイルノ。」

 

「新入社員?コノ支部ニ?」

 

「本部カラ、『イロハ級』ノ構成員ガ少ナイッテ。」

 

「マァ、イネエモンナ。」

 

「レ級ガイルノ。」

 

「レ級以外ヨ。」

 

北方棲姫も、いつの間にか港湾棲姫の膝に乗って一緒に見ている。

 

「ソウイヤ、異動モコノ季節ダヨナ。」

 

「ソウネ。」

 

「ソウナノ?」

 

「…何ニモ準備シテネエケド、異動スルカラナ?今日。」

 

「「…エ?」」

 

港湾棲姫と北方棲姫が豆鉄砲を食らった顔をする。

 

「ド、ドコニ!?」

 

「『アドリア海支社』。」

 

「ドコナノ?」

 

「スッゴイ遠イトコロ。」

 

「毎晩帰ッテコレルノ!」

 

「イヤ、来レナイゾ。」

 

北方棲姫の言葉にレ級がすぐに答える。

 

「支社…。大出世ジャナイ。オメデトウ。…寂シクナルケド…。」

 

「『エイプリルフール』ダ。」

 

「『エイプリルフール』?」

 

「冗談ッテ意味ダ。」

 

「レ級嘘ツキナノ!」

 

「イヤ、『エイプリルフール』ダカラ…。」

 

港湾棲姫は分かっていたようで、わざと騙されたふりをしていたようだが、北方棲姫は本気だと思っていたらしい。

 

「ソレヨリ、新入社員ドウスルンダヨ。」

 

「ウーン…。…言ウナラバ全員同ジ顔デ、同ジ武装ダカラナントモ…。」

 

「…サッキ『カタログ』見タケド、新入社員ノ写真3×5ノ15枚全テ同ジ写真デ気持チガ悪カッタゾ。『一言コメント』ハ、ソレゾレ違ウケドナ。」

 

「『ゲシュタルト崩壊』ヨネ…。」

 

「ソンナニ悩ンデナイデ、適当ニ決メロヨ。」

 

「ソレガ出来タラ、トックニ買イ物ニ行ッテル…。」

 

「ナンデ出来ナインダ?」

 

「採用シタ社員ノ、採用理由ヲ書イテ提出シナクチャイケナクテ…。」

 

「ナンダソレ…地獄カ…?顔モ性能モ全部同ジノ奴ヲドレカ選ンデ、理由モ何モナイダロ…。」

 

「『一言コメント』デ、判断スルシカナイ…。」

 

カタログを見るが、全て同じ顔。イ級やロ級も同じ顔なのだ。

 

「トイウヨリ、アイツラ派遣社員デモアルンダナ…。」

 

「ソレニ、今日新シイ子ガ来ルカラ、キチントシテオイテ。」

 

「新シイ子?」

 

いつの間にか、駆逐棲姫もいる。集積地棲姫は台所のテーブルで何か食べている。

 

「最近、コノ組織ニ入ッタ新人サン。」

 

「最近?集積地棲姫ト、レ級ガイル、コノイベントカ?」

 

「ウーン、ドウダロウ…。新シイ子ガ来ルシカ…。」

 

「ドンナ経歴ダ?」

 

「タシカ…産マレタノハ今年、東シナ海生マレ。ソノ後、色々アッテココニ来ルッテ聞イタワ。」

 

「へ〜。…悪イ奴ダッタラドウシヨウ…。」

 

「怖イ人ハ嫌ナノ…。」

 

そんなことを話していると…。

 

ピンポーン

 

「オ客サン?ハーイ。」

 

ガチャリと玄関を開ける。

 

「コ、コンニチハ。」

 

「アラ、コンニチハ。…ドチラ様?」

 

「コノ度ハ、新シク配属サレル、深海玉棲姫…。」

 

「アラ、アナタガ…。ドウゾ、上ガッテ。」

 

港湾棲姫が家の中を案内する。深海玉棲姫も緊張した様子だ。

 

ジーーーー

 

「アゥ…。」

 

それもそうだろう。北方棲姫やレ級、戦艦棲姫や防空棲姫、集積地棲姫らがじーっと見ていて目を離さないのだ。

 

「アノ…。」

 

「…気ニシナイデ。皆、初メテデ緊張シテルノ。」

 

「ハイ…。」

 

港湾棲姫が笑顔で言うが、何もないわけがない。この雰囲気に深海玉棲姫も戸惑っている。しかし、実際は深海玉棲姫しか緊張していない。なぜなら…。

 

「ホッポ、見ロ…。尻尾ガ二ツダ。」

 

「ソウナノ…。二ツナノ…。シカモ、片方トイレットペーパーガツイテルノ…。」

 

「オトイレ トカ、ドウヤッテシテイルノカシラ…。」

 

「新シイ子ハ、衣装ガ華ヤカネ。ウッフフフフ。」

 

「新タナル萌エヲ感ジル…。」

 

「新入リ…2人前…?」

 

北方棲姫たちは、尻尾が二つでどうやって、トイレを済ませているのか気になっているだけだ。ただそれだけである。特に悪意はない。

 

「ジャ、コレカラ仕事内容ヲ説明スルワネ。」

 

「ハイ……。ヨロシクオ願イシマス!」

 

深海玉棲姫がペコリとお辞儀をする。

 

「エーット…。マズ、トイレットペーパーハ、コノ棚。オ菓子棚ハアソコ。火ハガス焜炉ダカラ、火事ニナラナイヨウニ。」

 

「…ン?」

 

深海玉棲姫は、聞いていた内容と全く違うことに戸惑う。

 

「ゴ近所付キ合イハ、大切ニ。アナタノ部屋ハ、2階ダカラ。アトデ案内スル。コノ部屋ハトイレ、リビング、キッチン、オ風呂…。クライカシラ?」

 

「ア、アノ…!」

 

「?」

 

「艦娘ト…戦ウトカ…。」

 

「エッ!?何デ?」

 

「何デッテ……。深海棲艦ダシ…。」

 

「…イヤ、深海棲艦ニモ私情ヤ、生活ガアルシ…。イチイチ鎮守府ノ戯言ニ付キ合エナイ。」

 

「ア、アレ…?」

 

深海玉棲姫の言葉を聞いて、キョトンとしている。

 

「給料モ、僅カシカ発生シナイノニ、年中付キ合ッテイタラ、労基ニ引ッカカルシ、体力ノ無駄。アルバイトトカシテ、生活費ヲ稼グシカナイ。」

 

「エェ…。」

 

「デモ、ココニ住ムコトニナッタラ、安心シテ暮ラスハズ。コノ家ハ、家賃ガ安イカラ。」

 

「…?」

 

深海玉棲姫がポカンとする。聞いていた話と全く違う。本部の面接はそれはそれはひどいものだった。

 


 

「当社ノ志望動機ヲ、オ聞カセクダサイ。」

 

「ソレハ…。」

 

集団面接のようで、隣が一人一人言っていく。

 

(緊張スル…。)

 

しかし、最近のイベントで出場を果たしているため、どうやら期待も高まっていると確信している。

 

「アナタノ特技ハ何デスカ?」

 

「ハ、ハイ!艦娘ヲ沢山大破サセタコトデス!」

 

「アッソウ。」

 

「アッソウ!?」

 

「ドウカシタ?」

 

「ア、イエ…。」

 

「ナラ、次ハ…。アザラシニツイテドウ思ウ?」

 

「ア、アザラシ!?…エ、エーット…。」

 

深海玉棲姫は考える。

 

(コレハ…予期セヌ事態ニ陥ッタ時ノ対応ヲ求メラレテイル…!?…フフ…流石、深海棲艦ヲ雇ウ組織…格ガ違ウ…!)

※勘違い

(ソウ考エルト、予想外ノ質問ヤ返シニ納得ガイク…。)

※思い違い

(ナンダカ、面接官ガ格上ニ見エテ来タ…!)

※気のせい

(ナラバ…堂々ト返ス!)

 

「可愛イト思イマス。」

 

「ヤッパリ…ドコラ辺?」

 

「尻尾ノ所ガ特ニ。」

 

「分カルワァ〜。ジャ、次。コレハドウ思ウ?」

 

面接艦がイラストを出す。ある艦娘と掛け合わせたようなアザラシ。思わずバァーンと字幕が見えた気がした。深海玉棲姫も、どう反応すればいいのか硬直。他の受験者すら、思わず言葉を失った。しかし5秒後…。

 

「コ、コレハ…コレハ…。シ、尻尾ガ錨トナッテイテ、可愛イト思イマス!」

 

深海玉棲姫、ヤケクソになった。

 

「ナラ、コノ魚ハドウ思ウ?」

 

(((イ、イルカダー!)))

 

他の受験者が全く関係のないイラストを出した面接艦に心の中でツッコミを入れた。

 

「食ベタラ珍味デショウ!」

 

(((エェェェェ!)))

 

深海玉棲姫の目はグルグルと回り、自分自身何を言っているのか分からない。

 

「フザケルノハコレクライニシテ…。本題ヲ言ウワ。ココデ働クノハ一筋縄ジャイカナイ。キット、現実トノ差デ一喜一憂スルワ。デモ、ソノ覚悟デ入ルナラ大丈夫。採用サレテ、来ルノヲ心カラ待ツ。」

 

「「「ハイ!」」」

 


 

深海玉棲姫がその言葉を思い出して、港湾棲姫らを見た。

 

『現実トノ差(想像よりゆるい)…。』

 

深海玉棲姫は冷静になり、思い返せば、あの面接で既におかしかったことを思い出した。

 

(実ハ大シタコトナインジャ…?)

 

深海玉棲姫はそんなことを思い、ハァ…とため息がでる。港湾棲姫は何のことなのかさっぱりで首をかしげる。

 

「…気ニ入ラナカッタ?」

 

「イエ…。大丈夫…。」

 

深海玉棲姫は相手に失礼だと思って、無理にでも笑顔を作る。しかし、それが見抜けないんじゃ支部長は務まらない。

 

「ドウシタノ?」

 

けれど、深く聞こうとせず、優しく促すように聞いた。強く聞いても、初対面では話しずらいと言うもの。

 

「ヤッパリ、戦ウト思ッテイタ?」

 

まるで見透かされたように言われて、思わずドキンとしてしまう。そんな彼女を見て、ふと笑みをこぼす。けれども、新人をそんな無責任に戦場へ連れ歩いてはいけない。いくら相手や自分達が加減をしていたとしても、気を抜いてはいけない場所なのは変わりない。まぁ、それは新たな艦娘を入隊させた向こうも同じだが…。

 

「デモ、新人サンハ、マズハ仲間ニ認メラレルトコロカラ始マル。」

 

港湾棲姫は深海玉棲姫を、先輩であるレ級たちの場へ案内する。すると、レ級たちは待っていましたと言わんばかりに顔をほぐした。レ級達だって、新人にいい格好を見せたいし、仲良くしたい。それにはまず紹介からだった。

 

「私ハ港湾棲姫。ココノ支部長。…本部カラ聞イテイルデショウ?」

 

「マァ…大体ハ。」

 

港湾棲姫はニコリと笑顔になる。可愛かったが、生憎、深海玉棲姫は本部の記憶を思い出そうとして見ていなかった。

 

(何デダロウ…。アマリ記憶ニナイ…。)

 

深海玉棲姫は深く記憶の中を探っても、『港湾棲姫が支部長』としか記憶がない。それもそのはず。いくら本部がエリート集団だとしても、全員が全員、いつも勤勉なわけではない。中には気の抜けた者もいる。もちろん、緊張してしまって聞いていなかったと指摘されても、素直に否定はできないだろう。つまるところ、運が悪かった。だ。

 

「『レ級』ヨロシクナ。」

 

「ヨロシクオ願イシマス。」

 

深海玉棲姫はその手を握る。もちろん、全く抵抗がなかったわけではない。イロハ級に姫や鬼が下につくなど、いささか躊躇いがある。まあ、年功序列のため仕方はないが。

 

「コンニチハ!ホッポナノ!」

 

「コンニチハ。」

 

元気な声を発して挨拶したのは目の前の北方棲姫。自然と和んでしまうのは、全てが可愛いからであろうか?他三名、防空棲姫、戦艦棲姫、集積地棲姫はあくまでも事務的な挨拶を終えた。

 

「ジャア、一通リヤッタカラ、次ハ鎮守府…。」

 

「チ、鎮守府!?」

 

港湾棲姫は「ドウカシタ?」と首を傾げるが、深海玉棲姫は、何故いきなり敵の本拠地に殴り込みをするのかと驚愕した。しかし、これはチャンスと受け取った。

 

(ココデ、先輩方ニ格好イイ所ヲ見セテ、戦イトハドウ言ウモノカ思イ出サセル!)

 

と、別に忘れたわけでもない港湾棲姫達を見た。そして、意気込んで装備を引っ張り出していると…。

 

「何ヤッテンダ?」

 

レ級はなぜそんな面倒そうなことをしているのか?とでも言いたそうな顔だ。

 

「何ッテ…。」

 

戦イニ行クンデショ?と言おうとしたがやめた。よく見るとレ級らはなんの装備もしていない。それどころか、紙袋に煎餅などを入れていた。

 

「行クゾ。ソンナ重イ物背負ッテタラ、歩キヅライダロ。」

 

「エ…。」

 

レ級はそう言って、深海玉棲姫の装備を剥ぎ取るかのように脱がせて、有無を言わせずに手を引いて行った。

 


 

「コンニチハ。」

 

北方棲姫が鎮守府の目の前で言う。人里離れてはいないが、近すぎると言うものでもない。と言うものの、五島支部が人間の家と隣接しているからだ。

 

『あ、ほっぽちゃん。いらっしゃい。』

 

インターホンから声がしたのは男の人の声。ガチャリと扉が開いて現れたのは真っ白い服に真っ白な提督帽。その男は間違いなく提督だ。その後ろには慣れているであろう艦娘と、新米である半分睨んでいる艦娘だ。深海玉棲姫も、睨んでいる艦娘を睨み返す。

 

「あはは…。」

 

提督は苦笑いを浮かべるが知ったこっちゃない。

 

「丁度、こちらから挨拶をしに行こうかと…。」

 

提督はバツの悪そうに言うが、深海玉棲姫は驚きだ。まさか、友好関係を先に結んでいたとは!しかし、一言によってポカンとする。

 

「別ニ友人デモナンデモナイワ。」

 

港湾棲姫は見透かしたように言う。連れないなぁと、提督はどこ吹く風だ。

 

「そっちの子は新しい子?こんにちは、これからよろしくね。」

 

提督は言うが、深海玉棲姫は目を合わせることもしない。提督の真後ろの艦娘が「嫌われたね。」などと、意地悪く笑みを浮かべて言う。

 

「ソレジャ。」

 

「えっ!?」

 

港湾棲姫がすぐさま帰還しようとするが、提督が驚いた表情をした。

 

「それだけ!?」

 

「ソレダケ。」

 

「他には?」

 

「ナイ。」

 

「それだけのために!?」

 

「ソウ。」

 

港湾棲姫は淡々と答える。気がつけばすっかりペースにのまれていた。

 

「だったら、それだけのためにわざわざいらしたので、お礼をさせてください。」

 

「イヤ…。」

 

「紅茶が冷めます。ほっぽちゃん、ジュースあるよ?グレープジュース。炭酸入り。」

 

「ノ!?」

 

しかし、提督も負けていない。港湾棲姫を引き込む方法は大体考えてある。無駄にしてしまうような言い方をした後、極め付けは北方棲姫を引き入れる。なんとも、子供をダシに使ってるのだろうか。結局、ずるずるとひきづり込まれたが。

 


 

「デ、ナンデ招イタノ?」

 

新人教育デ忙シイデショウ?と言いたそうな顔をする港湾棲姫。

 

「実は思ったんですよ…。」

 

提督が深刻な表情をする。

 

「もしかして、自分、新しい子に嫌わらているのでは?と。」

 

「今気ガツイタノ?」

 

ナンダ。と、深海玉棲姫が呆れるが、よくよく考えると、まぁ確かに深刻であろう。艦娘を指揮する者として好感度は大切だ。しかし、港湾棲姫たちは深海玉棲姫より辛辣な言葉を浴びせる。

 

「ソモソモ、影ガ薄イノヨ。」

 

「特徴ガネーナ。」

 

「アリキタリナノ。」

 

「白服黒髪、ドコニデモイル提督。」

 

「『オーラ』モナイ。フフフ。」

 

「時代遅レダ。」

 

一部を書いたが、本当はもっと沢山の罵声を浴びせている。

 

「いや、ひどい。それはひどい。」

 

提督は信じられないような、驚愕したような顔をして、手を横に振るだけだ。

 

「こっちは真剣に悩んでいるのに…。」

 

「ダカラ、真剣ニ答エタノヨ。」

 

「俺ってそんなにひどい!?」

 

港湾棲姫の言葉を本気に受け取って、提督が嘆く。だが、本当に仲が悪ければそんなことは言うまい。

 

「冗談はさておいて…。」

 

「冗談ジャナクテ、真面目ニ…。」

 

「もう俺のHPは0です…。うちの新人の艦娘に気合いを入れてくれませんか?特に新しい子に…。」

 

提督が頼む。

 

「エ?嫌。」

 

しかし、即答した。

 

「新シイ子ヲ易々ト戦場ニ連レテ行ケナイ。」

 

港湾棲姫はガバッと、深海玉棲姫を抱き寄せる。ほのかに香る、港湾棲姫の優しい香り。僅かに甘い香りは安らぎを…おっとっと。…けれども…。

 

「ヤッテミタイ…。」

 

「エ!?」

 

港湾棲姫が驚いた。

 

「ダメ。連レテ行ケナイ。」

 

「デモ…。」

 

「ダメッ!」

 

港湾棲姫が頑なに断る。深海玉棲姫はシュンとしてしまった。

 

「オイ、港湾、チョットイイカ?」

 

レ級が立ち上がり、港湾棲姫を連れてドアを開けて出る。

 

「港湾、アノ言イ方ハナイダロウ?」

 

レ級はやれやれと、優しく言う。

 

「今日、ウキウキ気分デココニ来テ、ソンナ強ク言ッタラ可哀想ダロ。気分ガ沈ム。」

 

と、レ級が言う。

 

「ケレド…。戦場ハ生半可ナ者ヲ想イモヨラナイ所デ沈メル。ソウ簡単ニ行カセラレナイ。例エ演習デモ…。」

 

「アノ頃トハ、時代モ立場モ違ウダロ?ソレニ、本部カラ本当ニ何モ聞カサレテイナイナラ、驚キノ連続ダ。自分ノ感覚モ取リ戻シタインダロ。…ソレニ、ホッポモ戦ッテイル。背丈ダケデモ、面子ガアルンダロ。」

 

「ソンナ面子…。」

 

「経験シナケリャワカラナイコトモアル。…違ウカ?」

 

レ級は港湾棲姫に確かめるように聞いた。

 

「ソレハ…ソウダケド…。」

 

「新シイ後輩ヲ守ッテヤリタイ気持チハ分カルガ…。想イヲ潰シチャダメダロ。」

 

「…分カッタ…。」

 

港湾棲姫は不安半分、罪悪感半分とした顔で、ドアから入る。

 

「…。」

 

深海玉棲姫は港湾棲姫を見る。

 

「ドウスンダ。」

 

と、レ級は港湾棲姫の横を肘でつつく。

 

「…分カッタ…。」

 

港湾棲姫はぶっきらぼうに言った。その後、後輩の喜ぶ顔を見て、少し良かったと思えた。…演習の結果は散々としていたとしても…。

 


 

「…!」

 

深海玉棲姫は右も左も見る。敵の艦娘は見事の一言。数人、動きもあたふたとしていて、照準も合わせずに撃つものだから当たらない。新人たちであろう。しかし、その新人より、ずっと強い者が何人かいる。こちらが撃っても全て避け、逆にものすごく考えられた魚雷群を前にすれば、歴戦の差は見えると言うもの。

 

「本気、見せてあげます!」

 

と、艦娘が魚雷を放つ。どう考えても回避できず、ここで轟沈判定をくらうのか。敵、想像以上に強かったんだな。と思った瞬間…。

 

「ボケットスルナ。動ケ動ケ。」

 

「!」

 

レ級が横を抜けて、魚雷群に突っ込む。一瞬、馬鹿ナノカ?と思ったが、理由がわかった。

 

バババババ!

 

ドガァン!

 

レ級より速く、艦載機が突っ込んで魚雷を消滅させた。港湾棲姫と北方棲姫だ。二人が消滅させると知っていたから突っ込んだのだ。そして、レ級が熟練の軽巡相手に撃沈判定を出した。コンビネーションは一朝一夕でできるようなものじゃない。ずっと昔からの友人同士であることがよくわかる。元より、周りを見るとこちらがどう考えても優勢だ。艦娘の空母も、悔しい顔をする他ない。完全に制空権を取られている。理由は、こちらの編成が化け物だからだ。港湾棲姫は五島の空を埋め尽くす艦載機を保有しており、北方棲姫も港湾棲姫の半分といったところで、とてつもなく多い。空は雲の代わりとなって連隊で影を作る。それだけでも優勢は取れる。極め付けは防空棲姫。彼女がいるだけでも、並の空母連合艦隊は苦戦を強いられる。となれば空は完全に大丈夫であろう。海上の、港湾棲姫たちに向けられる砲弾は戦艦棲姫が盾となり、弾く。さらには高火力で攻撃、或いは仲間の盾となる攻守一体の動き。これだけならなんとか対処は立てられる。これだけなら。しかし、そうはさせないのがレ級だ。例え潜水艦を編成に入れても叩き潰す。手数も多く、どんな相手にも攻撃する。それだけでも十二分に脅威だ。そんな彼女たちが単体ならともかく、一個隊に、しかもコンビネーションも合っているのだ。そこらの艦娘など、空気中に舞っている埃同然、175艦娘など屁でもない。味方である深海玉棲姫も、そう思うのだから仕方はない。圧倒的の一言。程なくして夜戦の時間判定となり、判定を出したり出されたりして終わった。

 


 

「やっぱり、港湾さんたちは強いなー。」

 

机に手を置いて、分かっていたような口調の提督。満足している顔だった。

 

「当タリ前。五人姫デ、一隻レ級。構成モ最悪。逆ニ言エバ、勝テル方ガオカシイ。」

 

「でも、一人の艦娘にやられたことあるよね?」

 

「…嫌ナコト思イ出サセナイデ…。」

 

港湾棲姫はすっかりトラウマを抱えた顔になり、提督は苦笑い。

 

「いや〜、負けちゃいました!」

 

「レ級の一撃痛いからな。」

 

「…あんな艦載機の量をどうやって…。」

 

熟練の艦娘たちの反応は三者三様の顔で入ってきた。オレンジに近い金色の髪をした艦娘は笑顔で。長身の引き締まった身体をした艦娘はうんうんと頷いている。サイドテールの、あまり表情の変わらない艦娘はぶつぶつとうわ言のように呟いている。その後ろには、先ほどまでナメていた艦娘が、先輩たちの後ろでちょこんと顔を出していた。深海玉棲姫も、熟練艦娘たちが恐ろしかったが、新米艦娘と同じようにしては、深海棲艦の名が廃るというもの。堂々と…まではいかないが、隠れはしない。しかし、熟練艦娘も港湾棲姫も、少し震えている深海玉棲姫らがなんとも可愛らしい。

 

「し、新人。初めてにしては良く頑張っ…。」

 

「新人さん!さっきは魚雷を放って怖がらせてごめんなさい!」

 

長身の艦娘より素早く、金髪の艦娘が抱きつく。軽巡故の素早さだろうか…。などと思っていると、先を越されて、少し恥ずかしい思いをしている艦娘が少し顔を赤くしている。サイドテールの艦娘も、少し口角が緩んでいる。なんとなく、暖かくて居心地の良い空間だなと思った。少なくとも、抱きついて微笑んでいる艦娘を見れば、倒そうと思っていた自分はどこに行ったのやら…。そんな自分の新人の子と艦娘がわちゃわちゃしてるのに少し嫉妬したのか、港湾棲姫が隠れている艦娘を呼んで優しくアドバイスをして、いいところを褒めれば、簡単に壁は消える。新米艦娘は思わず「お姉様!」と言うが、北方棲姫がそれを許さない。はて、どうしたものかと笑いあう。長身の艦娘が「部下を取るな!」と言っても、「コッチノ方ガイイモンネー。」と、新米艦娘を抱き抱えれば、港湾棲姫へと寄るものだ。それを見て、ますます嫉妬する長身艦娘も深海玉棲姫に話しかけられれば思わずニヘラ顔。同じ戦艦として恥ずかしいと、苦笑いする戦艦棲姫。結局、何のために連れてこられたんだと、演習に出させてもらえなかった集積地棲姫が叫んでもどこ吹く風。もう聞いてもいまい。聞いて茶化して笑っているのは防空棲姫。サイドテールの艦娘は北方棲姫が楽しそうに話し、身体いっぱいに表現するのを見たり聞いたりして表情がほぐれる。そんな平和なひと時を楽しそうに見る提督。

 

「…あれ?だから、俺に好感度があがらないんじゃ…?」

 

『深海棲艦 五島支部』は今日も平和です。




遅くなりました。
シリアスなど、不要な存在なのだ!
次回は、2回目の梅雨に入りそうです。

誰を登場させたいか

  • 集積地棲姫
  • 戦艦棲姫
  • 駆逐棲姫
  • 南方棲姫
  • 空母棲姫
  • 軽巡棲姫
  • 重巡棲姫
  • 水母棲姫
  • 潜水棲姫
  • 離島棲姫
  • 船渠棲姫
  • 護衛棲姫
  • 防空棲姫
  • 泊地棲姫
  • 飛行場姫
  • その他
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